第17話:突破 ~ティナ中将、敵本陣へ~

ミラの作戦は、個々の能力を最大限に活用した、撹乱及び錯乱した敵の中を、ティナとシェルが突破する

という、最大戦力を生かす 舞台作戦 とでも言うべきか・・・そういった戦術を行おうとしている。

主役と脇役・・・しかし、脇役がいなければ主役は主役足り得ず、主役がいなければ舞台が成り立たない。

片方でも欠ければ、成り立たない戦術である。

それはさて置き、敵の戦力は凡そ1100である。

諜報部隊の収集した情報によると、超人兵隊の戦力は1200。

切り込み隊、遊撃隊、魔導弾支援隊、そして・・・隊長直属精鋭隊の4隊によって構成されている。

それぞれ、500、380、220、100の戦力である。

ガルベル提督率いる超重装粉砕突撃騎兵師団が相手するのは、敵の本体とも言うべき強力な戦力。

簡単に負けるとは思えないが、それでも足止めできるのは精々1時間程度だろう。

短時間で勝利を治めなければならない。

それに・・・敵左翼に布陣しているはずの特殊専門工作部隊の姿が見えなかった。

我々が予想した通り、敵もこの機会を利用し、鉄壁要塞に攻撃を仕掛けるようだ。

まあ、要塞には手練れであるシーシャと一統魔導師、万能土竜のエミリエ・アウドッグ大佐を

残してある。

あの二人が協力すれば、敵の精鋭特殊専門工作部隊でも返り討ちにして見せるだろう。

まあ、あの女狐(メリナ)に一泡吹かせることが出来るかもしれない。

なんせ、情報戦ではこちらが勝利している。

確かに、女狐(メリナ)も情報戦を得意としているようだが・・・・彼女は重要な情報だけに

注目している。

まあ、ある程度王獣魔導隊の構成員の情報を頭に入れているようだが・・・主に主要戦力に成り得る者の

情報のみを参考にしている。

個々の能力が高いことは理解しているが・・・まだまだ警戒度が低かったようだ。

それはさて置き、主にこの作戦で個々の能力を最大限に発揮するのは第一小隊の者だ。

まず、アアメル率いる悪役隊が敵の注意を引き付ける。

各小隊や敵部隊隊長の暗殺を、影暗剣士、夜彪のメイリーン・ハイドリッヒ少佐率いる裏方隊が行う。

そして・・・ティナとシェルの二人が、混乱に乗じて敵本陣に乗り込む。

その間、第二・第三小隊の指揮はミラが執る。

戦力分散という愚行を行うことにもなるが、我々はただの軍隊ではない。

個々が何百何千という兵士の力がある。

危険な行為でもあるが・・・ガルベル提督が請け負ってくれた危険な作戦行動に比べれば、容易いことだ。


「ティナちゃん・・・敵にも優秀な人材がいるし、メリナ少将が優秀な護衛をビルスク大将に付けている

 可能性もあるから・・・十分気を付けて戦ってね」


ミラの警告だ、ティナは頷きその言葉を重く受け止めた。

そして、ミラは第二・第三小隊に作戦を伝えに、ティナは第一小隊に作戦を伝えに戻った。

アアメル、メイリーンに作戦を伝えた後、ティナ達は作戦行動を開始した。

アアメル率いる悪役隊が、強引に敵中に割り込んだ。

優秀な王獣魔導隊がそんな無謀なことをするとは思っていなかった超人兵隊は、一時的に混乱する

しかし、優秀な指揮官らによって体制を徐々に・・・戻すことは出来なかった。

メイリーン率いる裏方隊が、敵指揮官らを隠密魔法を用いて暗殺、指揮官と統率を失った防毒面(ガスマスク)隊は

アアメル達にいいようにかき乱されてしまった。


「チッ、抜かった」


超人兵隊切り込み隊隊長ガディック中佐は己のミスを素直に受け入れ、大声で全体に撤退を命令する。

まあ、これは防衛戦だ。

無暗に兵力を失わずとも良いだろうと考えたのだ。

そもそも、メリナ少将が警戒視する者達が弱いわけがない。

それを彼らは理解しており、故に・・・切り込み隊が瓦解した際の作戦も考えている。


「遊撃隊、敵切り込み隊を撃滅せよ」


多くの部隊指揮官を失った切り込み隊の後退と同時に、遊撃隊が突撃を開始する。

無論、魔導弾支援隊の援護の下だ。

ところで、切り込み隊の各部隊の指揮官・・・隊長が殺された如きで、後退する意味が分からない者が

いるかもしれないから、ここで捕捉を入れておこう。

防毒面(ガスマスク)隊が幾つもの部門に分かれ、一軍隊並みの機能を保有していると説明したことは

覚えているだろうか・・・。

そう、防毒面(ガスマスク)隊は精密な指揮系統を構築し、あり得ない程精密な作戦行動を得意としている。

驚くことに、分隊規模でそれぞれ固有の役割を担っている。

だからこそ、在り得ない程精密な作戦行動を取ることが出来るのだ。

本来、分隊規模で固有の役割を持たせるのは不可能に近い。

それに、部隊規模に固有に役割を持たせたところで・・・成功させるのは困難だ・・・通常ならば。

しかし、超人兵隊の個々の力は異常。

だからこそ、分隊規模で役割を持たせ実行させる・・・たとえ、分隊で一個中隊を壊滅させろと言われても

超人兵隊なら実行・・・成功させてみせるだろう。

だが、今回は相手が悪かった。

個々では対応できない程の強敵・・・その精密性が仇となってしまったのだ。

しかし、これで分かった。

王獣魔導隊には、人海戦術が有効であることが。

そう、遊撃隊は全ての指揮をベルナード中佐が執っている。

精密性は失われるが、そっちの方が好都合だ。

一人の人間がやられて統率が失われるわけではなく、ベルナード中佐が殺(や)られれば副隊長が

副隊長が殺(や)られれば、ガディック中佐がガディック中佐が殺(や)られれば・・・といった

感じで、強力な兵士による人海戦術が完成する。

強力な兵士が一斉に押し寄せてくる。

こちらの方が、数的不利を背負っている王獣魔導隊には厳しいのだ。

時に、味方の小細工は大の味方を壊滅させ、小の敵を勝たせてしまう。

1万体1万の場合は戦略・戦術が必要だ。

しかし、10万体1万の時は、単純に人海戦術で無理やりに攻撃をした方が、敵に反撃のチャンスを与えずに

済むことだってある。

王獣魔導隊に関しては、人海戦術が有効だったという訳だ。

これは大きな収穫になる。

まあ、超広範囲殲滅魔法の使い手であるティナ中将がいる限り、数だけではどうにもならない状況もある

だろうが・・・そういう時は、戦略・戦術に頼る、適材適所・・・臨機応変と言った方がいいかもな。

だが・・・ベルナード中佐達は、あることを見落としていた。

そのティナ中将、第二小隊隊長であるシェル少将の姿がないことを。


「広範囲貫通弾」


気が付いた時には既に手遅れだった。

空から現れたシェルは、後退し後方で陣形を再編していたガディック中佐の目の前に下り、即座に魔法を

使用した。

広範囲貫通弾、その名の通り貫通する魔導弾を広範囲に放つ魔法だ。

シェルはそれは、更に中央に集中させていた。

そして・・・魔導弾はガディック中佐ごと超人兵隊中央部に布陣していた者を消し飛ばし

一本の道を作る。

多くの指揮官と兵を失った切り込み隊だが、一般兵も優秀である。

味方本陣まで一直線になっている部隊の穴を、埋めようと即座に行動を開始するが・・・。

シェルの援護の下、騎馬で強引突破するティナを止められる者など居らず、見事にシェルとティナは

超人兵隊の守りを突破した。

案の定、本陣は結界によって守られており、空中からの侵入や魔法攻撃を無効化していた。

それを確認したシェルは、追いかけて来る超人兵隊切り込み隊を足止めするためにその場に留まり

後のことをティナに任せる。

シェルの援護にティナは感謝しながら、全力でビルスク大将がいるであろう敵前線司令本部に向かう。


「フィース閣下、私はティナ中将の相手をいたします・・・その間に、ビルスク提督を安全な場所へ」


流石はボンドーク、判断が早かった。

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