第15話:最強と最強 ~共和国最強の部隊~

メリナ中将も、朝早くからティナ達の経歴について詳しく確認し、対策を練っていた。

特に・・・ティナ・ベルフォス中将の経歴は、彼女を最も警戒すべき存在だと示唆している。

士官学校には特例で15歳から入学。

そして、最優良士官候補生として卒業した。

それだけなら優秀な魔導師で終わっていただろう。

だが、彼女が卒業した年は・・・皆の成績が異常なほど良かった。

ティナ達卒業の年は、帝国軍成長の年と言われており・・・優秀な軍人たちが大勢生まれた年である。

エリナ・ゲイディック・スプライト中佐、メイリーン・ハイドリッヒ少佐、エミリエ・アウドッグ大佐

アアメル・ヴィクトス大佐、彼女ら四名は、王獣魔導隊の構成員であり

ティナ・ベルフォス中将の同期でもある。

彼女らは、ティナ・ベルフォス中将、シェル・メーメルズ少将、ミラ・エルヴァン少将、の化け物

三名程ではないが・・・警戒すに十分足る強敵である。

王獣魔導隊の構成員だけでもこれだけいる。

王獣魔導隊以外にも、民主平等国方面最前線魔導要塞防衛魔導師司令官カルナ・フィヨース中将

大帝国最強の魔導武装白兵戦部隊隊長アルフィナ・カルヴァートン少将

二大支援魔導師団の片方、第六支援魔導師団団長シェリカ・ララートン少将

その他にも、有名な魔導学研究科の者や戦略・戦術研究科の者がいる。

そんな彼女らの中でも突出して異常だったのが・・・ティナ・ベルフォス中将であった。

これは、ティナが21歳の時発生した連合国との戦争での出来事である。

当時前線指揮を執っていたガガール・ハールケン大将が、一個魔法師団と一個騎兵師団で

敵一大補給拠点を叩けとの命を下した。

その作戦に、ティナも参加したのだ。

前線に兵力を集中させている連合国の補給拠点は、大した警備兵もおらずこれ以上に補給拠点を叩くのに

適した時期はない。

そのはずだった・・・。

しかし、それは敵の流した欺瞞情報であり、大帝国軍は連合国軍の罠に掛かってしまったのである。

7万という大軍に、2万の軍隊が包囲されてしまった。

絶望的な状況に陥り、全滅の憂き目にあった大帝国軍だったが・・・ティナ率いる、第六魔導中隊に

よって、九死に一生を得ることとなる。

まず、大帝国方面の退路を断っていた連合国軍3万を・・・魔法一撃で、壊滅状態へ

その後、第六魔導中隊とティナが殿(しんがり)を務めたことによって、生き残っていた大帝国軍1万2千名は

無事に生還することが出来た。

地形を大きく変える大魔法を使った上に、殿を務め切ったティナのことを大帝国国民は

『大帝国最強の魔導師』『底なし魔力のティナ将軍』と呼ぶようになった。

そして、大総統より大帝国8色8役聖騎士の 赤(破壊・強大) の称号を与えられた。 

これが・・・大帝国切り札。

シェル・メーメルズ少将やミラ・エルヴァン少将は、敵軍を揺るがす強力な存在だ。

しかし、ティナ・ベルフォス中将は・・・敵軍を滅す、強大な存在だ。

この差は大きく、あまりに非現実的すぎる。

・・・だが、最も最悪なのは、強力な存在と強大な存在が強者(つわもの)共を率いて、我々に敵対

していることだ。

ティナ・ベルフォス中将・・・確かに、味方の士気を大いに上げて敵を威圧するのも最も適した存在だ。

どうやら、敵の軍部首脳は中々のやり手のようだな。

と、ティナ達の経歴を確認しているメリナ少将の下に、報告が入った。


「閣下、敵が動き出しました」


予想はしていた。

現状、相手が取るであろう行動は、短期決戦による敵大将の殺害だ。

無論、全軍を持って敵陣の突撃し中央突破を行うのが理想ではあるが・・・共和国方面の最も重要な

要塞を空にすることは出来ない・・・・。

この場合、鉄壁要塞駐屯軍の中で最強の戦力である王獣魔導隊と、その次に強力な

超重装粉砕突撃騎兵師団の二部隊を運用しての奇襲攻撃となるだろう。

問題は・・・私たちの相手がどちらかだ。

定石で考えるならば、最強には最強をぶつけるが・・・敵がそんなことをするとは思えない。

最強に最強をぶつける考えは否定しない。

しかし、それは見方が敵と同数もしくはそれ以上の時に行うべきだ。

長期戦に適した方法である。

条件の差というやつだ。

長期戦やどちらでもないとき・・・つまり、兵や物資の数が十分な時に、最強という不確定要素を

取り除きたいときに、最強に最強を抑えて、指揮官の力量だけの戦いに持ち込む

これが、最強に最強をぶつけるときの条件である。

短期決戦の場合、勝利条件は確定している。

敵大将を討つ、目的の部隊を叩く、援軍が到着するまで耐える等・・・その条件さえ満たせばよいのだ。

だからこそ、最強は条件に向けて一直線に歩を進めなければならない。

こういった場合は、最強に最強をぶつけない。

そして現在敵は・・・短期決戦で勝利を掴もうとしている。

我々の超人兵隊の敵は、ガルベル・フォン・ローディッヒ大将率いる超重装粉砕突撃騎兵師団と

なるだろう。

しかし、敵の作戦にわざわざ付き合ってやる必要もなかろう。


「そうか・・・カディック、ベルナード、エリミーナらを此処へ呼べ」


ボンドーク大佐はメリナ少将の命を受けて、早速彼ら三人を呼びに行った。

ガディック・バルボン中佐、ベルナード・マルセス中佐、エリミーナ・シェイドン中佐は

それぞれ、超人兵隊切り込み隊隊長、超人兵隊遊撃隊隊長、超人兵隊魔導弾支援隊隊長である。

超人兵隊は防毒面(ガスマスク)旅団6600名の内、1200名で構成されている。

その内、500名は切り込み隊、380人は遊撃隊、220が魔導弾支援隊だ。

更に細かく部隊を分けているが、それは後程説明しよう。

何故、彼らの超人兵隊各部隊の隊長を集めたかのか・・・それは・・・・・・・


「諸君には自らの部隊を率いて、ティナ中将、シェル少将、ミラ少将の邪魔をしてもらいたい」


皆、驚きを隠せなかった。

敵の猛将ガルベル大将率いる超重装粉砕突撃騎兵師団が超人兵隊の相手をする気、それはメリナ少将

自ら考えたことだ・・・。

ならば、超人兵隊全軍を持って敵超重装粉砕突撃騎兵師団を即座に撃滅、その後本隊と超人兵隊で

王獣魔導隊を包囲殲滅すればよいのでは。

という疑問も、当然のことだ。

兵力分散は最も愚策とされることの一つでもある。

しかし、王獣魔導隊を32万程度の兵士で止められるとは思えない。

特に、第二小隊が張った結界に第三小隊の支援(バフ)がかかれば、そこら辺の魔導士団では

太刀打ちできない。

だからこそ、魔力に優れた魔導弾支援隊を今回は主軸に戦ってもらう。

斥候の情報によると、王獣魔導隊第一小隊は地上からの中央突破を図る気だそうだ。

そこで、猛将であるティナ中将率いる第一小隊を、切り込み隊が抑える。

遊撃隊は、両部隊の状況を随時確認しつつ、押されている方に加勢しろ。

王獣魔導隊の第一、第二、第三のどれかでも中央突破に成功すれば、我々の敗北となるだろう。

私直属の精鋭部隊が超重装粉砕突撃騎兵師団を撃破し、本体と挟み撃ちにするまで、君たちが

ビルスク提督をお守りしろ。

メリナ中将の考えを聞いた隊長らは納得し、各自持ち場に急いで向かった。


「ボンドーク・・・本陣に赴きフィース、ビルスク提督をお守りしろ」


ボンドーク大佐は軽く頭を下げ、急ぎ本陣に向かった。

本隊はまだ敵の奇襲に気が付いていないらしい。

援軍が来ることは警戒していたと言うのに・・・奇襲のことは警戒できないのか・・否、警戒したとて

彼ら常人が王獣魔導隊の作戦行動について行けるとは思えない。

そこは私の間違いだったな。

だが・・・これは戦争だ、何と言おうと負ければそこですべて終わりだ。

さて、ボンドークは本陣に向かった、奇襲のことをフィースに伝え共に対策を講じるだろう。

カディック、ベルナード、エリミーナは優秀な戦士であり、指揮官ティナ中将、シェル少将、ミラ少将

には敵わないだろうが、足止め程度なら出来るだろう。

私は・・・如何に早く超重装粉砕突撃騎兵師団を撃滅するかを考えなければならない。

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