第12話:強敵現る ~緊急作戦会議~

ティナが会議室に着いた時、将校らは青ざめた顔で事態に怯えていた。

混惑しているティナに、ガルベル提督が一言・・・端的にとある名詞を言い放った。


「防毒面(ガスマスク)隊」


防毒面(ガスマスク)隊、その一言にティナは驚きを隠せなかった。

共和国超精鋭特殊部隊 防毒面(ガスマスク)殺戮隊 特殊な形状の兜(ヘルメット)と

特殊な形状の面、防毒面(ガスマスク)が特徴の部隊だ。

別名 黒色死天使(こくしょくしてんし) 黒の死神だ。

特殊な筒状の魔結晶を媒体とし、異常な速度で魔導弾(中級初歩魔法)を連射してくる

武具を装備している。

遠距離型の敵かと思えば、魔導武装も行っていない生身で・・・魔導武装を行った

魔導白兵戦部隊に匹敵する戦闘力を持っている。

指揮官も優秀な人物のみが就けるものであって、生半可な指揮官では隊長の座を

夢見ることすら不可能だ。

では、一部 黒の死神 の戦果をお教えしよう。

創設当時から強力だった防毒面(ガスマスク)隊の初陣は・・・たった1個大隊で

敵3個師団を足止めし、味方を勝利に導いた。

その他にも、第一次大帝国侵攻戦争では防毒面(ガスマスク)隊によって、6万人が

犠牲になった。

幾人もの将校の首が血祭りにあげられ・・・一番の功名は・・・大帝国第21代目大総統

ケルス・フォンティーク氏が、防毒面(ガスマスク)隊の暗殺部隊に暗殺されたことだ。

しかも、ケルス氏を暗殺したのが防毒面(ガスマスク)隊だったという事実を知るのは

ケルス氏暗殺事件より・・・9年後のことだ。

防毒面(ガスマスク)隊は現在、防毒面(ガスマスク)旅団となっており、規模は約6600人にもなる。

更に、少数精鋭を得意とする共和国軍らしく、防毒面(ガスマスク)隊は幾つかの部門に

分かれ、さながら一軍隊並みの機能を保有している。

そう、問題は防毒面(ガスマスク)隊のどの部隊が来たのか、それとも旅団全軍が

総出撃したのかだ・・・。

ティナは訴えるような目をガルベル提督に向けた・・・それに気が付いたガルベル提督は

またしても端的に言い放つ。


「黒の白・・・白髪乙女将軍率いる 超人兵隊 だ」


白髪乙女将軍、防毒面(ガスマスク)隊発足以来初の女隊長、メリナ・ハウフォード少将だ。

26という若さで少将、文武両道で魔剣両道・・・完璧な人間と言ってもよい。

そんな彼女の率いる超人兵隊・・・将校らが青ざめるのも理解できる。

対大帝国殺戮隊、と言っても過言ではない部隊だ。

正面戦闘に置いて、最強の名を冠する超人兵隊は戦闘を得意とする大帝国軍の大敵である。

実際、どんな最強の名を冠する大帝国の部隊と戦闘しても・・・超人兵隊は勝ち続けてきた。

ティナも・・・今回ばかりは、犠牲なしに勝つことは出来ないと思った。

共和国最強の軍と、大帝国最強の軍・・・これが衝突すれば、お互いに被害なしという訳には

行かないだろう。

だが、問題は別の所にあった。

共和国最強の軍を相手に出来るのは、大帝国最強の軍・・・王獣魔導隊だけだろう。

・・・当初の各個撃破作戦は、この時点で瓦解している。

要塞防衛軍の目立った戦力は、ガルベル提督率いる超重装粉砕突撃騎兵師団だけだ・・・。

要塞の防備を薄くすることも出来ないし、かと言ってこのまま持久戦になれば

大帝国側が圧倒的に不利である。

そう・・・どうしようもないのだ。

だが、それを如何(いか)に解決するかを考えるのが軍人の仕事であり、如何(いか)にするかを話し合うために今、この場に将校らが集められたのである。

ガルベル提督が皆集まったことを確認すると、作戦会議が始まった。

しかし、意見を言える者は誰一人としておらず・・・会議室は静寂に包まれていた。

ガルベル提督やティナ、ミラでさえ中々いい案を出せずにいるのである。

否・・・彼らの意見は既にまとまっていた。

だが・・・その意見は諸刃の剣、成功率は高くないのに死亡率は高い作戦。

無謀というしかない作戦・・・。

しかし、不可能を可能にするには、無謀なことをするしかないのは皆分かっていた。

問題は、誰がこの異常な作戦を立案した責任を取るかだ。

無論皆、責任を取ることを恐れているのではない。

軍隊である以上、失敗は誰かが責任を取らなければならない。

だが、失敗して多くの兵を失った上、優秀な指揮官までもを失うこととなれば、それは

大帝国軍にとって、大いに不利益なことになる。

ティナもガルベル提督も、シェルもミラも、その他将校も・・・自身の仕事の意味を重々理解し、完璧に

こなしている自信がある。

その自信が、大帝国軍を支える柱の一つでもあり、大帝国軍人が大帝国軍人たる所以の一つ

でもあるのだ。

後任に優秀な者がいるならば、誰も責任を負うことを恐れはしない。

だが、現在大帝国軍は人員不足状態だ。

暫くは、悪化することはあっても良くなることはない。

皆が頭を抱え、悩んでいるのはそれが原因である。

だが・・・一人だけ違った。


「提督・・・私に良き案があります」


その声の発信源に皆が顔を向けた。

声の主は、大帝国軍王獣魔導隊第三小隊副隊長及び副参謀・・・シーシャ・メメント大佐で

あった。

彼女は自分の立場を良く理解していた。

ティナ中将、シェル少将、ミラ少将という、稀代の名将が揃っている王獣魔導隊で

自分が副参謀の地位に就いた理由は、事務的な意味や補佐的な意味が強い。

そう、シーシャ大佐は考えたのだ。

彼女の経歴は、他の王獣魔導隊の隊員達と比べるとやや劣る。

事務仕事、部隊運用、提督の副官、作戦参謀、後方参謀、各作戦責任者、何でも完璧にこなし

ミス一つない。

目立った戦果や功績はないが、ミスなく物事を完璧にこなす。

経歴では目立てない人物だが、大帝国の軍本部にいる上級将校らはそういった人材が真に優秀で

あることを知っているのである。

シーシャ大佐は、自分を快く受け入れてくれた王獣魔導隊にも、自分のことを高く評価してくれた

軍の上層にも、感謝の念を持っている。

だからこそ、この中でいなくなっても一番困らない自分が・・・

迷うことなく一歩前に出て、意見具申したのである。

しかし、それ以上に彼女には確信があった。

自分は責任を取らずに済むと・・・。

それは、勘や予感といったあいまいな物ではなく、ティナ達の勇士をその眼で見て

確信を持ったからである・・・彼女たちが、大帝国を勝利に導く伝説の撃滅の天使であると。

作戦内容は簡単だ。

敵本陣を中央突破し、敵大将の首を見事に討ち取る・・・それだけだ。

至ってシンプルだが、全ての部隊に大きな負担が掛かる作戦でもある。

要塞防衛部隊は、敵要塞攻撃部隊を防ぎ、王獣魔導隊は防毒面(ガスマスク)隊を足止めし

超重装粉砕突撃騎兵師団が約32万もの兵士が駐屯する敵本陣を中央突破・・・。

成功すれば、少数で大多数の敵を返り討ちに出来るが・・・失敗すれば、全軍崩壊し

敵に大帝国首都侵攻の足掛かりを与えることになるだろう。

だが・・・結局残された道はこれしかないのだ、精々辛勝(しんしょう)して見せようではないか。

もう、誰も無謀な作戦を止める者はいなかった。

将校らは立ち上がり、無言で準備を始めた。

だが・・・その眼には、蒼く燃え上がる炎が宿っていた。

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