第9話:提督の提案 ~危険な作戦~

「私が・・・全ての特殊専門工作部隊を倒してやる」


一同が驚いた。

そして、会議に参加していた全ての将校がガルベル提督の作戦を即刻止めようとした。

しかし、ティナ達がガルベル提督の話を最後まで聞くように将校らに伝えると、将校らは一旦

ガルベル提督の話に耳を傾けることにする。

ガルベル提督は、作戦の全容を事細かく彼ら将校に説明した。

ガルベル提督の作戦を要約するとこうだ


一度に全ての敵を叩くことはない。

敵の本体は要塞で食い止めればよい、士気の高くなった大帝国軍だ、簡単に敗れることはない

だろう。

それに、要塞防衛指揮は私の信頼できる副官と、シェル、ミラ両提督だしな。

そして、数的有利を生かし質的不利をなくす戦略として、ティナ中将に働いてもらう。

戦略の基本構想は各個撃破だ、そして、それを成すために王獣魔導隊に働いてもらわなければ

ならない。

最初に狙うは、厄介な部隊 超機動弓兵隊 である。

敵の遊撃部隊は先に潰しておいた方がよい。

そして、ガルベル提督ら超重装粉砕突撃騎兵師団が敵超機動弓兵隊を相手している間に、王獣魔導隊に

他の特殊専門工作部隊を牽制してもらう。

王獣魔導隊の本分は遊撃だ。

空中からの高機動支援魔導攻撃である。

正面戦闘向きの超重装粉砕突撃騎兵師団が敵を各個撃破している間に、他の敵部隊を遊撃部隊である

王獣魔導隊が足止めする。

最も効果的で、適材適所な戦略だが・・・要塞防衛指揮官自ら陣頭指揮を執るのは如何(いかが)なものか

それが、将校らの意見だ。


「戦況は刻一刻と変化する・・・我々は不利である。この状況が悪化することはあっても好転

 することはない。だからこそ私が陣頭指揮を執り、短期決戦で勝利しなければならないのだ」


ガルベル提督の真剣な眼差しに、将校らはしばらく話し合った後、ガルベル提督の考えを全面的に支持する

ことにした。

ガルベル提督が皆に礼を言うと、続いて戦略レベルから戦術レベルの作戦行動の立案に会議が移った。

問題は伏兵であった。

先の暗夜鋭刃暗殺隊の件もある、まだ大帝国が情報を得ていない部隊がいるかもしれない。

大総統が諜報部隊を強化したというのに、何という様だ。

まあ、敵も優秀な指揮官を揃えている。

彼らも、頭で理解していなくとも、肌で情報戦の大切さを感じ取っているのかもしれない。

しかし、まだ敵は情報戦の重要性に気が付いているわけではない・・・。

そこで、ミラがとある提案をガルベル提督ら鉄壁要塞防衛に当たっている将校らにした。

要塞内の諜報員に、敵陣に欺瞞情報を流させる。

内容は・・・大帝国軍が、敵前線指揮官である ビルスク・オリヴァ大将 に対して

超優秀な暗殺部隊を差し向け、暗殺成功後に大攻勢を仕掛ける・・・と。

それにより、敵は一部軍隊をオリヴァ大将の護衛に付けなければならなくなる上

オリヴァ大将は、日夜暗殺部隊に怯えることになる。

例え、怯えなくとも警戒をしなければならない。

司令官が精神をすり減らし、的確な判断をするのが難しくなると、圧倒的にこちらが有利になる。

それに、この作戦は味方に損害を出すことなく実行することが出来る。

情報戦は、数の差を少なくする又はなくすことも可能なのだ。

我々は正面切っての短期決戦のことばかり考えていたが、こちらの強みも十分に生かさなければ

勝てたとしても、その被害は馬鹿にならないだろう。

その意見に、ガルベル提督含め皆が賛同した。

皆逸(はや)っているのだ、何度も言っているが大帝国は軍事国家だ、基本的に優秀な者が相応の

立場に立っている。

無論、それだけではない。

適材適所・・・それが何に置いても重要なことだ。

なので、大帝国軍人の給料は階級関係なく一律だ。

しかし、武勲を上げた者には、その武勲の大きさに応じて恩賞金が与えられる。

まあ他にも、年功序列や大功績者永続恩賞金などの複雑な給料があるため・・・一律とは

言ったものの、完璧な一律とは言えない。

しかしそれは、一兵卒であろうが、総司令官であろうが同じことである。

平等、そして信頼し自らを預けられる指揮官の下に配属される上、各自が

自らの実力を生かし、大いに戦線に影響を与えられる。

功績は認められる。

階級は一つの役職でしかないのだ。

だからこそ、大帝国軍は逸(はや)るのだ・・・勝つ、勝つ、勝つ、それだけを考え

自らの力の全てを発揮し、敵にぶつける。

君主政治であり、君主制の申し子である軍部であるのにも関わらず、最も民主制らしい

これが、世界の軍の中でも唯一の形態であり・・・最強の形態である所以である。

ミラにやる気がないわけではない、参謀として正しい行いをしているだけだ。

無論、ガルベル提督含め将校らは皆それを理解している。

・・・いよいよ、本格的に大帝国の底力を見せつける時が来たのだ。

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