第4話:精鋭対精鋭2 ~激闘~

シェルの攻撃開始の一言、それによって要塞付近で要塞の入口を探していた敵の騎兵が

一網打尽にされた。

更に、貫通弾は騎兵の後ろにいる更なる騎兵を貫いた。

3段に5個に分けられて放たれる貫通弾は、一切の騎兵を寄せ付けようとはしない。

しかし、流石は精鋭騎兵師団、すぐに目を馴らして貫通弾の回避行動に移る。

そして、じわじわと要塞に距離を詰めてくる。

シェルたち第二小隊の多段式貫通魔法の効果が薄くなり始めると、シェルは次なる

使用魔法の命令を下す。


「各自、自由魔法行使を許可する」


自由魔法行使、各自の判断によって魔法を行使して制圧射撃を行えと言うことだ。

そう最後に命令を下したシェルは、急いでミラの元へと駆け寄った。

かれこれ戦闘が開始してから1時間近く経つ。

魔法の消費を抑えている第一小隊と第二小隊は問題ないだろう。

しかし、第一小隊と第二小隊を全力でバックアップしていた第三小隊各員の魔力は

殆ど底を尽きかけている。

特にミラは、30分以上もの間たった一人でこの要塞の防御魔法を強化し、維持し続けてきた。

とっくに限界を迎えているはずだ。

案の定、ミラは苦しそうな顔をしながら、魔法に集中していた。

しかし、シェルが自分の様子を見に来たのに気が付いたミラは、少しだけ表情を緩める。


「ミラ、もう貴女は限界よ・・・貴女の考える現状の最良の策を教えて」


今回の戦いの真の勝利条件は、この大帝国王獣魔導精鋭隊のその異常な強さを各国に知らしめる

ことだ。

その点においては既に勝利条件を満たしているだろう。

だからこそ・・・ここからは単純に勝利だけを考えなければならない。

その為、シェルはミラに作戦を聞きに来たのだ。

王獣たちの頭脳は現在動くことは出来ない。

そこで、王獣の頭脳から意見を聞き、自らが実行すればよい・・・それだけだ。

ミラは、要塞に掛けている防御魔法が弱まらないように気を張りながら

振り絞るような小声でシェルに作戦を伝える。


「わかったわ・・・ミラも無理をしないようにね」


ミラは自分のことを心の底から心配してくれるシェルのお陰で、少しだけ楽になった。

シェルはほんの少しだけ良くなったミラの顔を確認すると行動を開始した。

シェルの行動は早かった。

第三小隊に属している、ヴィヴィ中佐に1分で要塞各方面で制圧射撃を行っている隊員たちに

作戦行動を伝えるように命令。

続いて第三小隊、アメリ大佐に要塞の即席改良を命令、本来ないはずの入口の設置を2分で

行うようと。

最後に第二小隊、フィーナ少佐にティナたちの戦況確認を命令、敵騎兵師団にばれないように

要塞から脱出させた。

そして・・・ティナも、この作戦で最も重要な魔法の発動準備を行う。


「あの要塞は異常だ。こんな一瞬にして作り上げた簡易要塞がここまで持ちこたえた例はないぞ」


敵騎兵師団も、段々と疲弊し・・・暗い考えが頭の中を横切っていく。

しかし、皆分かっていた。

ここまで堅固な要塞を維持するには相当な魔力を消費すると。

要するに、長期戦に持ち込めば何時(いつ)かは自分たちに勝利の女神がほほ笑むと・・・。

そう、その時は近い・・・だから今は、耐えて耐えて耐えるのみ。

そして・・・・その時はやってきた。

幻術によって隠されていた要塞の門が・・・顕わになったのだ。

誰が命令するまでもない・・・騎兵師団が見事な隊列を成して、一気に要塞内に雪崩れ込む。

機動力を生かし、要塞内の敵精鋭魔法部隊を一気に叩くのだ。

見事だった。

異常な強さを誇る魔法部隊にここまで戦い抜いた彼らは・・・。

しかしだ、相手が悪すぎたのだ。


「大多数並列思考開始・・・」


シェルの頭に激痛が走る。

しかし、彼女は一切詠唱を止めない。

大多数並列思考開始・・・・・・標準、敵精鋭騎兵師団・・・標的ロック完了・・・・・・・

超多段式爆裂小規模殲滅魔法。

そう・・・彼らはティナたちの罠にかかったのだ。

否・・・気づけるはずもない。

通常の魔導師ならば、とっくに魔力を切らし、何の魔法も発動できないどころか、その場から

動くことすら出来ない状況に陥っているだろう。

彼らの判断は正常だった・・・何ら問題はなかったのだ。

ただ相手が・・・地上最強の軍事国家の最強の魔導師であった事に気が付けなかった以外は。

目の前があり得ない程の強い光で包まれる。

要塞内に雪崩れ込んだ、騎兵師団の約9割は・・・一瞬にして消滅した。

既に、5割近い消耗を出していた騎兵師団は・・・残り4割しか残っていない。

4千騎程度で、1万の大軍勢でも如何(どう)にもできなかったこの怪物ども何が出来ようか・・・・。

彼らは、逃げることしかできなかった。

それは決して、間違った判断ではないのだ。



一方、要塞を離れてからティナたちは少し苦戦を強いられていた。

敵大盾重装歩兵師団と敵精鋭魔導師団の連携力は予想の遥か上を行っている。

特に大盾重装歩兵師団は厄介だった。

身長が2m近くある者たちで構成されており、およそ常人が身に纏えるような鎧を

身に着けていない。

更には、80㎏はあるであろう重厚な盾を両手で持っている。

そんな大盾は、攻撃を防ぐだけの物の様にも思えるが、彼らのその巨体から繰り出される

体当たり{シールドバッシュ}は、鎧の上からであろうと容易に骨を砕くだろう。

魔力を殆ど持たぬ者たちながら、魔力を持つ者よりある意味手ごわい。

伊達に精鋭師団を名乗ってはいないと言うことだ。

実際、ティナたち第一小隊は数名ほど後退している。

直接(もろ)に攻撃を受けた者たちだ。

それだけではない。

敵精鋭魔導師団が全力で大盾重装歩兵師団にバフをかけているお陰で、敵はその重装に似合わない

素早さを得ている。

更には、第一小隊を分散させ、複数の大盾重装兵でティナたちを相手する。

練度が高く、相当な統率力を持っているようだ。

ただただ経験を積んだだけの兵士とは大違いだ。

だが・・・ティナたちが一方的にやられているだけではない。

第一小隊の副隊長、大赤熊のアアメル・ヴィクトス大佐。

身長は2m21㎝、体重は・・・・・・・企業秘密だ。

魔力で練った巨大な戦斧を振り回し、大盾重装歩兵5人を一気に薙ぎ払う。

力だけで言えば、ティナをも上回っている。

そう、ティナとアアメルのタッグは、着実に敵大将の元へと向かっている。


「アアメル、まだいけるか」


他の第一小隊の相手をしている数倍の数の大盾重装歩兵と戦いながら、ティナは問いかける。

「ああ」と端的な返事が次の瞬間返ってくる。

それもそうだ。

休む暇もなく彼女たちは剣と斧を振り続けている。

一振りごとに、ドゴと鉄板を叩き潰したかのような音が鳴り響く・・・否、鉄板を叩き潰す音が

響く。

大盾重装歩兵たちも、己が力全てを込めて体当たり{シールドバッシュ}を行うが・・・

馬鹿力の二人の攻撃で跳ね返されてしまう。

彼らの大きな欠点として、己が吹き飛ばされた場合、自らが纏っている鉄壁の鎧にて

押し潰されてしまう。

まあ、他の戦場では吹き飛ばされること自体ないのだろうが・・・。

それはともかく、長期戦になれば不利なのはティナたちだ・・・ティナは覚悟を決めて

アアメルに命令を行う。


「アアメル・・・この場を頼む」


現状でも一人で何十人も相手している状況だ。

この場を任せると言うことは、下手をすると・・・何百人の相手をしてもらうことになる。

しかし・・・ティナが考えなしに行動を起こすはずがない。

そんなこと、アアメルは百も承知だ。

アアメルはティナのことを、戦士として尊敬している。

アアメルはそんなティナに、白兵戦を任せて貰ったことを嬉しく思い

ティナの命令に深く頷いた。

ティナは魔導武装を解除し、自らの周りに結界を張って即座に飛行魔法を発動した。


「うぉぉぉぉぉぉ、かかってこいやぁぁぁぁぁぁぁ」


大赤熊の雄たけびを後にしながら・・・彼女は地上の王獣から、天空の覇者と姿を変えた。

無論、敵の魔導師団が空中に浮いているいい的を狙わないはずもなく、ティナは集中砲火を

浴びることとなった。

しかし、ティナが自ら張った結界が破られることはない。

敵も攻撃をやめる様子はない。

ティナは、無理やり魔法の展開を行う。


「超特大魔法・・・・万撃魔法弾・・・・・・・・・はぁああああああ」


超特大魔法万撃魔法弾、万単位の魔法弾が生成され・・・敵魔導師団とその中心にいる

敵大将に向けて放たれる。

無論、敵の魔導師団は全力で結界を張っている。

しかし、万の魔法弾を防ぎきれるほど、彼らの結界は強力ではなかった。

次の瞬間には、多くの魔法弾が彼らを打ち抜いた。

だが、大将の周辺にいたのは選りすぐりの魔導師・・・それに全魔導師を倒せたわけでは

なかった。

ティナの攻撃は、失敗とも成功とも言えぬまま終わったかの様に思われた・・・。

シュッシュッシュッ、素早い剣撃。

敵大将とその周辺にいた魔導師は・・・ティナの素早い剣撃にて、自らが何者に殺されたか

理解することも出来ぬまま・・・地に伏し、二度と起き上がることはなかった。

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