6 いつもと違う日常②

 俺のお昼は、いつも売店のパンと自販機のジュースだったのに……。

 今日は佐藤がお弁当を持ってきてくれて……一緒にお昼を食べることになった。それにこのお弁当は佐藤さんが俺のために作ってくれたから、すごく嬉しい。今までお弁当とか食べたことないから……。てか、一緒に食べるのは問題ないけど、女の子と何を話せばいいのか分からなかった。


 俺は女の子と話すのが苦手で、すぐ緊張してしまう。

 それにしても後輩の前で緊張する先輩か、情けないと思うけど……。今の俺はこんな人だから、昼休みになる前まで良い方法を思い出すしかなかった。そして、あの北川ゆきって女の子も来るんだろう……? れんが可愛いって言ってた女の子……。


 あっ、そうだ。お昼なら、れんを誘ってもいいんじゃね?

 そうするとちょうど四人になるからいいと思うけど……、どうかな。


 いつき「佐藤さん、お昼のことですけど……」

 佐藤まつり「はい! 屋上で待ちます!」

 いつき「あの……、友達と一緒に行っていいですか?」

 佐藤まつり「それはちょっと……」


 うん、やっぱりダメだったんだ……。

 それって……、つまり女の子二人とお昼を食べることになるってことだよな。


「…………そんな目で見るな。れん」

「俺も一緒に行きたいー! いつき! 頼むっ!」

「ごめん。断れた……」

「マジかぁー! なんでぇ…………」

「俺に聞いても……、分からない」

「てか、お前……! あの可愛い後輩たちと連絡先交換したのかよ! いつの間に! 俺にも教えてくれぇ……」

「いや、他人の連絡先を勝手に教えるなんて、できるわけねぇだろ」

「だよな……」

「だから、今日はごめん! 行ってくる!」

「ああああああああ……!!! 裏切り者…………」


 よく分からないけど、ダメって言われたから……! れん、ごめん。

 

 ……


 結局、屋上に行くのは俺だけ……れんにめっちゃ睨まれた。


「あー! 先輩! 遅いです!」

「す、すみません……。友達と話があって」

「そうですか。とにかく! まつりちゃんが待ってますよ?」

「はい……」


 屋上の扉を開けると、向こうにいる佐藤が俺に手を振る。

 本当に可愛い妹だな……。

 日差しが強くなくてちょうどいい天気、屋上には涼しい風が吹いてきた。そしてお弁当を持っている佐藤の髪の毛が、さらさらと揺れる。それは……まるで青春ドラマのワンシーンみたいに綺麗な景色だった。


「…………」


 黒髪ストレート。クラスの男たちは佐藤の長い髪の毛とその小さくて可愛い顔が好きって、ずっとざわざわしていた。そして佐藤は身長が低いから……、男の人と話す時に顔を上げるしかない。そういうところが好きな男もけっこういるんだろう。要するに、佐藤は男の保護本能をくすぐる女の子ってこと。


 てか、佐藤の大きな瞳を見ると、俺も緊張してしまう。

 こんな可愛い女の子が俺の妹だなんて、不思議だった。


「高柳先輩!!」

「はい。佐藤さん……」

「へへっ、一緒にお昼食べましょう〜!」

「はい」


 たまにはこういうのも悪くないな……。

 しかし、あの俺が女の子たちとお昼を食べるなんて……こんな日が来るとは思わなかった。


「じゃあ、ここに座ってください……!」

「えっ? いいです。ベンチ一つしかないから、北川さんと座ってください」

「ちょっと、先輩! そうなると……、まつりちゃんと私のパンツが見えるんですけどー? 変態……!」

「えっ? 高柳先輩はそんなことしないから……! ゆきちゃん……」

「あっ、すみません。確かに……そうですね。この角度じゃ……。でも……」

「仕方ありませんね! 床で食べましょう! それより、なんでベンチが一つしかいないのか本当に理解できません……!」


 なぜか、ベンチを見て怒る北川だった。

 そういえば、この狭いベンチ……。屋上に来るのはれんとジュースを飲む時だけだからあまり気にしてなかった。まさか、女の子とベンチに座ることになるとは……。これ、れんがめっちゃ憧れてるラノベのあれだよな。ベンチで女の子とお弁当を食べるイベント。


 しかも、あの北川と一緒だから……罪悪感を感じる。


「へえ……。まつりちゃんはそっちなんだ〜?」

「な、なんで笑うの?! べ、別にいいじゃん……。そうですよね? 高柳先輩」


 さりげなく俺のそばに座る佐藤、それを見て北川がニヤニヤする。


「は、はい……。そばに座っても、構わないんですけど……?」

「やっぱりお兄ちゃんっていいよね〜」

「えっ? 北川さん、今なんって…………」

「お兄ちゃん! ですよね! まつりちゃんの!」


 あれ……、なんで北川がそれを知ってるんだろう。


「…………佐藤さん……?」

「え、え、え……。す、すみません。あの……、昼休みになる前に……高柳先輩とラ〇ンしてたのをゆきちゃんにバレちゃって」

「そうですよ? ラ〇ンの名前『お兄ちゃん♡』だったし。そしてそのお弁当を渡すために二年生の階に行ってきたから……、気づかない方がおかしいと思います」

「確かに……」

「あっ、先輩! まつりちゃんは私以外の人とラ〇ンしてませんよ? 知ってましたか? まつりちゃんのラ〇ンに男の人は先輩だけ!」

「へえ……」


 そっか。だから、すぐ気づいたんだ。

 てか……、そのお兄ちゃんハートはなんだよ……。佐藤。


「ダメー! な、なんでそんなことを言うの? ゆきちゃん!」

「ええ……、嫌われちゃった。これ、先輩のせいですよ?」

「はい……? 俺のせいですか……?」

「それはゆきちゃんのせいだよ!」


 そう言いながら俺の腕を掴む佐藤、なぜか体が固まってしまう。

 なんで、くっつく……?


「ええ……。一言言われただけなのに……、すぐお兄ちゃんにくっつくの? まつりちゃん〜」

「ゆきちゃんは意地悪いから……、ダメだよ」

「ええ……、先輩! 私嫌われましたぁ……」

「…………」


 ああ、この状況はなんだろう。


「はい、そこまで。一応、お弁当を食べましょう……」

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