7 いつもと違う日常③

 昨日もそうだったけど、やっぱり……人が作ってくれた料理が一番旨い。

 インスタントばっかりだった俺の人生に、佐藤と佐藤さんの料理は言葉にできないほどすごかった。ご飯を食べるだけで幸せを感じるなんて……、嬉しい。それに、ドラマで見たことあるおかずがお弁当の中にたくさん入っていた。不思議。


 それはタコの形をしたウインナと、黄色に仕上げた卵焼き。

 他人には定番のおかずって言われるかもしれないけど……、俺は食べたことないから……おふくろの味とか知らなかった。記憶の中にあるお母さんは、いつも忙しいってお弁当を作ってくれなかったし、息子の俺より自分のことを優先してきたから。だから、佐藤さんのお弁当がすごく旨かったと思う。


 一口を食べただけなのに、涙が出そうな味だった。

 やばすぎる、旨い…………。


「…………えっ? あの……、どうしてこっちを見てるんですか?」


 なぜか、こっちを見てくすくすと笑う二人。

 なんか……、変なことでもしたのかな……。


「先輩〜。まつりちゃんのお弁当がそんなに美味しいですかぁ〜?」

「うっ……! ど、どうして……分かります?」

「顔に出てますよ〜? あはははっ」


 そうだったのか。


「あの、高柳先輩……」

「は、はい……」

「頬にご飯粒がついてます……。ふふっ」


 マジかよ……。後輩たちの前で、恥ずかしいな。

 それより佐藤さんのお弁当がめっちゃ旨かったから……、全然気づかなかった。恥ずかしくて、どっかに隠れたい。


「今取ってあげますから、じっとしてください」

「い、いいです! 自分で……」

「じっとしてください」

「…………」


 なんでぇ……?


 佐藤の顔、めっちゃ近いし…………。それに、ご飯粒を取ってくれる妹か。

 うわぁ……。俺は自分の妹に何をさせたんだろう……。てか……、これもれんのめちゃ好きなアニメのワンシーンじゃね? どうして、俺にこんなことが起こるんだろう。いくら妹だとしても、こういうのは苦手だった。


 しかも、佐藤……こっちを見て笑ってるし……。

 それは普通の男ならすぐ惚れそうな状況だった。


「……えっ? な、なんでそれを食べるんですか?」

「えっ? もったいないから……」

「え…………」

「うわぁ……、二人とも付き合ってんの? ムカつくぅ〜」

「え……、どうかな? 高柳先輩はどう思いますか?」

「えっ?」


 微笑む佐藤が、こっちを見ていた。

 なんとかしないと……、北川が誤解しないようになんとか言わないと……。でも、なんでこんな時に言葉が上手く出てこないんだろう。後輩たちの前で緊張して、どうすんだよ……。


「…………っ」


 頭の中が真っ白だった。


「あはははっ、冗談。冗談〜。先輩、めっちゃやばい顔してますね〜」

「は、はい……? そうですか?」

「ゆきちゃん、意地悪いね……」

「まつりちゃんもどう思いますか?って言ったくせに〜。でも、さっきから可愛い顔をしてたからね……。あははっ」

「可愛いは禁止だよ! 高柳先輩、そういうの苦手だから」

「あれ……? 先輩って……。もしかして、彼女いないんですか!? へえ……、全然知らなかったぁ……」

「はい。恋愛経験ないんですけど…………」

「本当に……? ふーん」

「えっ、ダメェー!」


 ニヤニヤしている北川を見て、すぐ俺に抱きつく佐藤。


「ええ……、取らないから心配しないで。あはははっ、先輩! 先輩! さっきの顔見ました……? まつりちゃん、可愛いすぎるぅ———!」

「…………ゆきちゃん!!!」

「あはははっ、真剣な顔をしてダメェ!って〜」

「ゆきちゃん!!」

「すぐ先輩にくっついて、私を警戒するところが超可愛い!!!」

「やめてぇ…………」


 これが……、れんの好きな可愛い後輩なのか……。

 女の子とあまり話したことないから、最近の女の子がどんな風に話すのか全然分からない。それに、北川のペースに巻き込まれたような気がする。れんが言ってた人と全然違うイメージだけど、俺の聞き間違いかな……? そのまま昼休みが終わる時まで、ずっと北川にからかわれる俺と佐藤だった。


「あっ、そろそろ戻らないと」

「そうですね! あっ、そうだ……! まつりちゃん、私生徒会のことで先に行くから……」

「うん。分かった」

「先輩と変なことしちゃダメだよ? ふふふっ」

「しないからー!! 早く行って!」

「あははっ」


 ……


 そして、二人きりになってしまった。


「ご、ごめんね……。私、友達ゆきちゃんしかいなくて……」

「は、はい。えっと……、テンションが高い人ですね。北川さんは」

「うん……。あの! お兄ちゃん……!」

「はい……?」


 先輩からお兄ちゃんになるのは、やっぱり恥ずかしいな……。

 でも、佐藤は妹だから早く慣れるしかない。


「本当に恋愛経験……ゼロなの?」

「へえ……、さりげなく人の痛いところを……」

「あっ! いや、そ、そんなことじゃなくて! す、すみません……!!」

「冗談です。ふふっ」

「お兄ちゃん……。ゆきちゃんに変なことを学んだ……」

「ええ……。そうですか?」

「ねえ! 今日……、お兄ちゃんと一緒に帰りたいから……下駄箱の前で待ってくれない?」

「あっ。北川さんと帰らなくてもいいんですか?」

「私はお兄ちゃんと帰りたい! ゆきちゃんとうちに行くわけないでしょ? 生徒会のことで忙しいから…………」

「は、はい。じゃあ、下駄箱の前で待ちます」

「は〜い!」


 一緒に帰るだけなのに、そんなに嬉しいのかな……?

 多分……お弁当を食べて幸せを感じることと同じことだと思う。佐藤も誰かと一緒に帰りたかったかもしれない。そうやってお互いの足りないところを満たしていく。それが家族だから……、本物の家族。


「じゃあ、お兄ちゃん! 授業頑張ってね!」

「はい。ありがとうございます。佐藤さんも頑張ってください」

「うん!!」


 その後、れんとクラスの男たちにめっちゃ質問された。

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