4 妹④

 だけど、何も話さない二人の間には静寂だけが流れていた。

 俺の方から「話をしましょう」って言っておいたけど、女の子と何を話せばいいんだろう? そこから分からない俺だった。それに佐藤って……人見知りが激しいっていうか、俺と話す時にずっと緊張してるように見える。もちろん、俺も緊張してるけど、声が震えるほどじゃないから……少し心配していた。


「…………」


 ベッドで俺の枕を抱きしめる佐藤……、空気が重い。


「あ、あの……!」

「はい?」

「高柳さんって……! 普段は……、何をするんですか?」

「ああ……。ううん……、普段はですね。勉強とか、ゲームくらいで……青春っぽいこと何もやってないです」

「わ、私……普段は部屋に引きこもってます! へへっ……」

「へえ、一緒ですね」

「へへっ……。そうですね……」


 足を伸ばして、後ろの壁に寄りかかる佐藤。

 まあ、今日から家族になったから別に構わないけど……。それでも、俺と話す時はちゃんと目を見て欲しかった……。なんで、枕で顔を隠すんだろう。俺のこと、そんなに嫌なのか……? ずっと顔を隠していたから、壁と話してるような気がする。


「佐藤さん……?」

「は、はい!」

「えっと……。もしかして、緊張してますか?」

「は、はい……! わ、私……男の人とあまり話したことないから……。なんか、今すごく恥ずかしいです!」

「ええ……、緊張しなくてもいいですよ。俺、そんなに怖い人じゃないから……。とはいえ、正直……俺も緊張してます」

「えっ? なぜですか?」

「女の子と話したことないっていうか、学校にいる時もあまり話さないんで……。理由はよく分かりません」

「一緒だったんだ……」

「はい」

「…………」


 そして目が合った時、佐藤の耳が真っ赤になる。

 なぜそうなるのかは分からないけど……、きっと佐藤なりに頑張ってるってことだよな。


「佐藤さんって、高校はどこですか?」

「私は……〇〇高等学校です」

「えっ? 嘘、同じ高校ですか?」

「は、はい…………。そうです」


 同じ高校だったのか……? でも、俺……佐藤のこと見たことないし、いくら一年生だとしても佐藤くらいの女の子ならすぐ目立つはずなのに。特にあのれんなら……すぐ俺に声をかけたかもしれない。「めっちゃ可愛い女の子がいる!」って……、一人で暴走するやつだからな。


「…………へえ」


 てか、全然気づかなかったけど、猫耳がついてるパジャマだなんて……可愛すぎるだろ。

 本当に妹って感じだな。


 でも、本当に学校で見たことない。

 なぜだろう。


「へへっ……」

「あの……。もしかして、転校生ですか?」

「い、いいえ……!」

「そうですか……。でも、同じ高校で安心しました。何かあったらすぐラ〇ンとか、電話してください」

「は、はい!! で、でも! まだ……連絡先……」

「ああ、すみません。これ……俺の電話番号です」

「はい!!」


 急にテンションが上がる佐藤、女の子はやぱり難しい。


「あ、あの……、高柳さん!」

「はい?」

「私……、高柳さんのこと……。お兄ちゃんって呼んでもいいですか? そして敬語も堅苦しいっていうか……。私、高柳さんと仲良くなりたいから…………」

「えっ?」

「や、やっぱりダメですよね? い、いきなり……、お兄ちゃんだなんて……。私たち家族になったばかりだから、そんな風に呼ばれるのは……嫌ですよね?」


 ため口なら構わないけど、佐藤にお兄ちゃんだなんて……ちょっと恥ずかしいな。

 でも、早く答えないと……佐藤が俺を見ている。


「あ、あの……」

「はい……」


 ええ……、さっきと反応が全然違う。

 な、なんで落ち込んでるんだろう……?

 そんなに……俺のこと、お兄ちゃんって呼びたかったのかな? 家族になった時点で呼び方はどうでもいいと思ってたけど、わざわざそんなことを聞くなんて……律儀だな。佐藤は……。


「…………うう」


 お兄ちゃんって呼ばれるのはちょっと恥ずかしいけど、断る理由はないから。


「いいですよ」

「本当に? ため口で話してもいいの? お兄ちゃんって呼んでもいいの?」

「は、はい」

「お兄ちゃん……♡」


 俺を見て笑みを浮かべる佐藤。


「はい」

「お兄ちゃん…………」

「はい」

「へへっ、私のお兄ちゃんだぁ……♡ 好きぃ……」

「はい……」


 ええ、呼び方が変わっただけなのに……、めっちゃ幸せな顔してるじゃん。

 まあ、佐藤が喜ぶなら俺もそれでいいと思う。


 ……


「ただいま〜。いつき〜」


 玄関から聞こえるラブコメオタクの声、編集の仕事がやっと終わったみたいだ。


「相変わらず、遅い」

「あはははっ、そうか? でも、今日は十分くらい早かったと思うけど〜」

「何が……。遅いのは同じだろ」

「あら〜。いつきくん〜?」

「は、はい!」

「佐藤ゆいなです。よろしくお願いします〜」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 正直、佐藤さんを見た時、俺は信じられなかった。

 佐藤を見て適当に想像してたけど、想像したイメージと全然違ったから……。佐藤さんは若いし……、美人だし……。どうやってこんな人を見つけたのか、お父さんに聞きたいくらいだった。


「ゆいなさん、入りましょう」

「はい。達也たつやさん」


 笑みを浮かべる二人、なんか幸せそうに見える。

 そして、お父さんがいい人と出会って俺もすごく嬉しかった。


「お母さん、お帰り!」

「まつりちゃん〜。ただいま、いつきくんと話してみた?」

「うん! お兄ちゃん、めっちゃ優しい人だよ!! 荷物を運ぶのも手伝ってくれたし、一緒に買い物をして、私の好きな甘いものもたくさん買ってくれたから! すっごく楽しかった! へへっ」

「へえ……、優しいお兄ちゃんができてよかったね〜」

「うん!」


 佐藤の話を聞いていた俺はすぐ目を逸らしてしまった。恥ずかしかったから……。

 すると、そんな俺を見てお父さんがニヤニヤする。


「…………っ」


 仕事のせいで挨拶をするのが遅くなったけど、これが俺の家族。

 新しい家族だった。


「お兄ちゃん! 今日からよろしくね!」

「はい。よろしくお願いします」

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