第2話 day2 上
9月30日(土) 12:00
占い師にもらった住所を確認しました。
ナビに表示されたその住所は
「○○教会」
新興宗教の建物でした。
いろいろと合点がいきました。
つまりあの占い師は信者を増やすために占いをしているわけですね。
この時点で行くのをやめようかと思いました。
でも、行くことにしました。
なぜなら、このまま行かなかったら昨日払った3000円が明確に損ですから。
車で30分かけて、占い師の家に向かいました。
そこには普通の一軒家がありました。
もっと大規模な宗教施設を想像していましたが、見た目は普通の家でした。
しかし看板には「○○教△△支部」と書かれていました。
占い師が家の前に出てきてくれました。
占「よく来たな」
僕「どうも」
占い師に連れられ家に入ります。
占「そこを見てくれ」
玄関の柱に妙な線がありました。
僕の背の高さくらいのところ。
僕「なんですか?」
占「洪水が来たときそこまで水が来たんだ」
その話好きですね。
昨日も3回その話を聞いたんですが。
家に入ると、まず神棚がありました。
神棚なのか仏壇なのか正式名称は分からないけれど、とりあえず祈る場所。
占「はい、座って」
僕「はい」
神棚の前に座るよう言われます。
占「一緒に手を叩いて」
占い師と合わせて手を叩きました。
神棚に向かってお辞儀します。
これが何の神様だとか、どういうご利益があるとか一切聞いていないんですが。
信心はどうでもよくて形から入れば良いらしいですね。
良いのかそんなんで?
占「こういう教会が世界中に1万あるからね」
数じゃなくてどういう教会か説明してくれませんかね。
占「共産圏はないけどね。ロシアとか北朝鮮とか」
そんなことはどうでも良いのですが。
どういう宗教かを教えてくれませんかね。
参拝が終わったら奥の和室に案内されました。
クーラーの効いた6畳の和室。
テーブルを挟んで占い師と向かい合いました。
占「あんた年は?」
昨日も言ったんですが。
僕「30台です(実際にはちゃんとした年齢を言った)」
占「若く見られるだろ?」
僕「ええ、まぁ」
占「大学生でも通るな」
僕「そうですね」
占「気持ちが若いんだろうな」
それらしい人間観察だった。
僕のイメージしている占い師はこういうことをたくさん言ってくるイメージ。
ただ何の参考にもならないけど。
占「ここに住所と名前と生年月日を書いて」
占い師はメモ用紙を渡してきました。
昨日も書いたでしょうに。
今日、僕がくることは分かっていたんだから、用意しているものだと思ったけど。
あっ、でも今日は住所も書くのか。
昨日、本名と正しい生年月日を言ったことを後悔したので、住所は嘘を書いておきました。
占「こんな地名があるのか?」
僕「そうですよ」
占「そこらへんは詳しくないから知らんな」
疑われたがなんとか押し通しました。
危な!
もっと、それらしい嘘住所を書くべきでした。
占「昨日の話覚えてる?」
飲み会から帰って、文字起こししたから覚えているんですよね。
僕「砂糖みたいって話ですか?」
占「大事なことを覚えているじゃないか。砂糖に蟻が集まるように、あんたには人が集まってくる」
僕はその喩えに納得言ってないんですけどね。
蟻より蝶に集まってきてほしい。
あれ?
そう考えてくると、砂糖より蜜って言った方が良くないかな?
占い師は冊子を手にして僕の生年月日を引きました。
占「運勢はこれに全部書いてある。普段から持ち歩いているから洪水でも流されずに済んだ」
ここまで10分経過。
文章では省略しているけど洪水の話は本日3回目。
占「あとの資料は全部流されてしまった。本当はノーベル賞を取るつもりだったのに」
僕「何の研究をしていたんですか?」
占「かがく」
僕「ばけですか?」
占「化けだ。あの青色発光ダイオードでノーベル賞をとった赤崎先生。あの先生と私は高校大学のOBなんだ」
昨日、聞いたよその話。
研究内容を教えてくれ。
占「だから手紙を書いたんだよ。次は私がノーベル賞を取るって。返信はこなかったが」
そんなんで返信が来ると思っていたのでしょうか?
占「ボブ・ディランがノーベル賞を取れるんだから私が取れないはずがない」
僕は笑いを堪えるのに必死でした。
自分をボブ・ディランと同列に考えている!?
むしろボブ・ディランを下に見ている?
世界的な成果をなんら出したことのない占い師のおっさんが!?
あとボブ・ディランが取ったノーベル賞は平和賞です。
化学ではありません。
なんで自分と比べようと思ったんでしょうね?
占「さぁ、あんたの正体を暴いてやろうか」
占い師はメモ帳に何やら数字を書き出しました。
画数でどうこうする占いのようです。
占「今日はきめ細かく見てやるからな」
僕「ありがとうございます」
そうだよ。
3000円分は喋ってもらわないと。
今日、ここまで昨日の復習でしかないのです。
ちなみに今日は1銭も払う気はありません。
占「誕生日が12月8日ね。何の日か知っとるか?」
僕「パールハーバーですか?」
占「そうだ。あれがあったから広島長崎で罪のない人が大勢死んだ」
それは昨日聞きました。
占「もし、今核戦争が起こったら大変だ。北朝鮮が核ミサイルでも打って来たら逃げ場がない。シェルターに逃げ込んだって無駄だ。子供のアレが駄目になる」
子供のアレって何?
この人、科学のこと何も分かってないでしょ?
これテレビで聞きかじった知識でしょ?
専門外のことに口を開いてはいけない。
化学でノーベル賞を取ろうとしたなら、それくらい理解してそうなものでしょうに。
ていうか、世界情勢はいいんですよ。
僕の運命を占ってほしいのですが。
占「令和のヒトラーが核ボタンを押したら逃げ場がない」
誰だよ、令和のヒトラーって。
占「血液型は何?」
僕「Aです」
占「お父さん生きている?」
僕「生きてますよ?」
占「何歳? 生年月日は?」
僕はもう、この人を占い師として信用していませんでした。
だから父親の生年月日は嘘をつきました。
占「兄弟は?」
僕「弟が一人です」
言ってから僕は後悔しました。
嘘をついて一人っ子って言えば良かったです。
そろそろ嘘の設定を覚えるのが大変になってきます。
弟の生年月日も偽って答えたが、しんどくなってきました。
嘘をつくなら、有るものを無いと偽った方が楽。
学びになりました。
ありがとうございます。
占「あんた弟は大変だよ。弟は地球人じゃないからね」
僕「はぁ」
出てきました。
いい加減な占い特有の○○星人。
コンビニでよく見かける本のタイトル。
よその星由来の人間って一体なんなんでしょうね?
どういう世界観なのか、全く分からないし知りたくもない。
とか思っていたら、違うことを言い出しました。
占「あんたの弟は天上人よ」
偉い人でした。
占「あんたの弟は上から人を偉そうに眺める男よ。いわば神様気取りよ」
僕が適当に作り出した弟の名前と生年月日から作り出された人物像は天上人でした。
それから弟(偽)の運命をいろいろ語ってくれます。
全部的外れだなぁって思いながら聞いていました。
占「あんた、前髪あげてでこ出した方が良いぞ」
僕の話に戻ってきました。
占「オールバックにしてでも、でこは出した方が良い。なんでか分かるか?」
僕「いえ」
占「あの、奈良で安倍を殺したやつがおったろ。あの男が前髪で額を隠しておった」
おっと?
僕に特有の話じゃなくて一般論の話?
しかも特殊サンプルN=1の話?
前髪隠している男なんて、そこらを見回しても4分の1はいると思いますが。
その人たち全員を犯罪者予備軍とでも言うつもりなのでしょうか?
あんたがハゲかかっていて髪が羨ましいだけじゃないのでしょうか?
占「あんたはしたたかだ。普段は弱そうに見えるけど、いざというときにはがっとやる。皆の救いになる人だ」
おお。
それっぽいことを言ってくれる。
そういう話が聞きたいんですよ。
洪水の話はもういいんですよ。
占「手相は寂しがりやだがな」
別にしたたかさと寂しがりやが共存していたって良いでしょうに。
人間の性格をどうやって分類しているんですかね。
そもそもその分析が当たっているかどうかから見直した方が良いと思います。
占「高校は共学?」
僕「共学です」
占「それなのに彼女いたことないの?」
僕「はい」
占「全然いなかった?」
僕「そうですね」
その共学だったら彼女がいて当然だと思う認識はどこからきているんですかね。
というか、この話は昨日もしたんですよ。
いい加減腹立ってきたんですが。
占「高校の名前は?」
僕「○○高校です」
占「ちょっと待っとれ」
そう言って占い師は本棚から奇妙なファイルを取り出しました。
その中には、日本中の高校の有名大学進学数が書かれていました。
なんでこんなものを持っているんですかね?
別に持っていてもいいけど、出身高校の進学率で人を見ているのでしょうか?
占い師以前に人として嫌なやつだと思いました。
占「東大にも何人か受かっているな。県内ではトップだろ」
僕「まぁ、そうですね」
占「私はラサールに7点足らずに落ちて地元の高校に行ったんだ」
そんなことは訊いてないんですよ。
だいたい頭良い高校を卒業していたって、目の前の人間が頭良いかどうかは別の判断が必要でしょうに。
因果関係と相関関係をご存じない?
あっ、知らないからそんないい加減な占いを何年もやっているんですね。
占「それじゃあ、あんたの相性を占ってやろう」
え?
僕の高校の話はどこいった?
自分の自慢をしたかっただけ?
しかもラサールに落ちたってだけでしたが。
マウントにもなりゃしない。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます