第14話:炎獣《イフリート》

「手合わせって…?

 ウォルト総隊長と戦うってことですか?」


「その通り。

 彼女は弱冠25歳にして警備隊の総隊長を務め、類まれなるトップクラスの腕を誇る。

 相手としては不足あるまい」



 またこのパターンか…。

 でもガルドの時と違って、俺をハメたりするエルフクソ親父はいないからまだマシかも。



「マミヤ殿。こちらに来てくれ」



 ウォルトさんが後ろに空いているスペースを指定した。

 おい待て…まさか、謁見の間でやるの!?



「あの、こんな所で戦っても大丈夫なんですか?」


「ああ、問題ない。

 武器も訓練用を使用する。

 好きな得物を選んでくれ」



 パチン、とウォルトさんが指を鳴らすと、銀色の鎧を着た警備隊の一人が訓練用と思われる摸製武器を載せた台車を押してきた。



「零人、エネルギーを補充する。

 こちらに手を出せ」


「ああ、サンキュー」



 ルカから蒼のエネルギーを貰い、台車からショートソードを取り出す。

 なんだかガルドの訓練を思い出すなぁ。

 少し感慨にふけっていると、ルカがコソリと耳打ちしてきた。



「…あの赤毛は強いぞ。

 尋常ではないエネルギーの構成だ。

 油断するなよ、零人」


「分かってるよ。

 一目見たときからヤバそうな雰囲気だし」



 ウォルトさんも武器を選んだようだ。

 大型の両手剣…、ええとたしかツヴァイなんたらって言うんだっけ?

 木製とはいえあんなの食らったらタダじゃ済まないぞ。



「さて、双方とも準備は済ませたようだな。

 これより『結界エリア』を展開する。

 存分に力を振るうがいい!」



 椅子に腰掛けていた王様がこちらにやって来て俺たちを一瞥する。

 おもむろに片手を横に突き出すと、警備隊の人が素早く魔導杖を手渡した。


結界エリア』? どこかで聞いた単語のような…。

 あっ! それってたしか究極魔法の!



「『結界エリア』!!」



 迫力のある声音で王様が叫ぶ。

 杖の先からエネルギーが放出し、みるみるうちにバリアのような膜が空中に形成されていく。

 やがてそれは、俺とウォルトさんの周囲を包み込んだ。


 す、すげぇ…初めて究極魔法を見れた…。


 てか王様は大丈夫なのか?

 村長からは寿命が縮むから滅多に使ってはいけない魔法って教わったけど…。

 ウォルトさんへ視線を戻すと、彼女は大剣を構え『口上』を叫んだ。



「『重騎士ヘビー・ナイト』、ナディア・ウォルト。

 いざ、推して参る!」



 …あー、俺もああいう風に言うべきなのかな?

 ちょっと恥ずかしいんだけど。



「『剣士ソード・ファイター』、間宮 零人。

 …えと、頑張ります!」


「なによ、その気の抜けるセリフは…

 負けんじゃないわよレイト!」


「レイトくーん!ファイトニャ!」



 ふたりが応援してくれた

 よし、いっちょやってやりますか!



「マミヤ殿。

 今回は親善試合ではあるが、本気で私と闘ってもらう。

 貴公の力、試させてもらうぞ!」



 ウォルトさんが大剣の切っ先をこちらへ向け、一気に間合いを詰めてきた!

 あの重そうな装備でこのスピードか!?



「おおおお!!」



 身体を空中回転させ、上から大剣を振り下ろしてきた!

 あぶねぇっ!


 ブン!


 ドゴオオン!!


 すかさず転移テレポートを発動させ彼女の背後へ移動。

 そしてガラ空きの背中へめがけ、右手の剣を一閃させる。

 よし、もらった!


 ガン!!


 しかし彼女は振り下ろした大剣を軸に自身の位置を反転させ、柄で俺の攻撃を受け止めた。

 ちいっ、なんてアクロバティックな動きしやがんだ!



「ふう…これが話に聞いた『転移』の力か。

 なるほど、決して侮れない能力だな」


「…俺も初見で転移テレポートの攻撃を防がれたのはあなたが初めてですよ。

 どんな反射神経してるんですか」



 彼女はブォンと大剣を振り、俺を間合いから遠ざけた。


 前にガルドの訓練でフレイと手合わせしたこともあったけど、あいつは何回見ても俺の動きに完全には対応できていなかった。

 それをたかが一度俺の能力の話を聞いた程度で合わせてくるなんて…。


 見た目以上にとんでもない人だ。



「少し、本気を出す必要がありそうだ。

 …どうか死んでくれるなよ?」



 何を…と訊こうとした瞬間、彼女の左手にエネルギーがキィィィンと集まり始める。

 何だ? 魔法を撃つつもりか?



「『火撃ファイア・インパクト』!」



 集めたエネルギーを俺に…ではなく彼女の足元…地面へ叩き込んだ!


 ボッ…ゴオオオオン!!


「なっ!?」



 撃ち込まれたエネルギーは地面を伝い、火柱と共にものすごいスピードで俺の方へ向かってきた!


 これは…まずい!


 座標を彼女の上へセット、すぐ発動させる。


 ブン!


 俺の脚を天井を向けたため、視界が180度逆転する。

 そして首を上げ、ウォルトさんの脳天を視界に捉えた。



「でぃやぁぁ!!!」



 剣を突き出し、彼女へ突進する。



「甘い!!」



 なに…気付かれてた!?

 左手に宿っていた火のエネルギーが、右手に持つ大剣へ移った。



「『火竜巻ファイア・サイクロン』!」


 ボウウウウッ!


 大剣を回転させて炎の渦を作り出しやがった!

 あちぃ! あっちィィィィ!!!



「ぐあぁぁぁ!!!」



 空中にいるため身動きが取れず、そのまま火の勢いに飲み込まれてしまった!


 ああっ! クソッ!


 ブン!


 たまらず転移テレポートを下に向けて発動させ、かろうじて渦から脱出する。



「やはりここに来たか」



 しかし転移テレポートした先で、彼女が待ち構えていた!


 俺の動きを読まれた!?


 大剣を両手に持ち、無慈悲に振り下ろす。

 やばい、やられる!!



「零人!!」


 ゴオォォン!


 あ、あれ? 食らったと思ったのに無傷だ??

 いや、ここはさっきまでいた位置じゃない。



「何のつもりだルカ殿?

 神聖な勝負に横槍を入れるつもりか?」


「…………」



 ルカ!?

 上を見上げると、蒼い宝石がフワフワと浮かんでいた。

 ルカが助けてくれたのか…。



「申し訳ないウォルト総隊長。

 しかし、零人の能力は私と交わって初めて真価を発揮できるのだ。

 貴様が本気の勝負を望むのなら、私も参戦させてもらおうか」


「……ふむ、良いだろう。

 紅の魔王と類似すると言われている宝石の力とやら…見せてもらう」



 勝負が決まるところで邪魔をされたウォルトさんは若干不服そうだが、ルカの参入も許可してくれた。

 よっしゃ、これなら…!



「零人、準備はいいな? 心を開くんだ」


「ああ、ルカ! こっからは反撃するぜ!」


「「『同調シンクロ』!」」



 トポン、とルカが俺の中へ入ってくる。

 俺達は溶け合い、ひとつの存在となった。


 ボン!!!


 俺の中心に爆発が発生し、全身に蒼のエネルギーが駆け巡る。

 ふう、やっぱり『同調シンクロ』は落ち着くな。

 幾分、冷静にものを考えられる。



「これが…?

 魔王が使った力という宝石との融合…!」


「おお…!

 まさかまたをこの目で見ることになるとは…」


「ニャニャ!?

 蒼いレイト君になったニャ!!」


「ったく、いつ見てもド派手なんだから」



 王様とウォルトさんは当然初見だけど、セリーヌにこの姿を見せるのは初めてだな。



「ふぅ、零人。私の声は聴こえるな?

 王国警備隊、ナディア・ウォルト総隊長を撃破する」


「ああ! さっきは助かったよ。

 ありがとなルカ」


「礼には及ばない。

 流石にあの無様な負け方は見るに耐えられなかったらな」



 ゔっ…遠回しに弱いって言われてる気がする…。

 ガルドの訓練で多少自信を付けていたけど、まだまだ甘かったんだな…。



「おもしろい! 見せてみろ!

 貴公らの真髄を!!」



 ウォルトさんが再び火のエネルギーを武器に纏わせ、こちらに向け剣を振りかぶった。

 だが、まだ互いの位置は離れている。



「注意しろ。彼女は魔法を撃つつもりだ。

 ダミーを転移テレポートさせ、奴を惑わせるぞ」



 …なるほど、『地竜グランド・ドラゴン』戦のアレか。



「分かった! 行くぜっ!」


 ブン! ブン!


 右手に持った剣を彼女の後ろへ転移テレポートさせ、ほぼ同時に俺も転移テレポートする。



「そこか! 『火斬撃ファイア・スラッシュ』!」



 狙い通りに彼女は後ろを向いた。

 火を纏わせた大剣を振り払い、エネルギーの波動が斬撃と共に発射される。

 やはりその魔法は遠距離にも対応できるやつだったか。


 ブン!


 俺は背後に出現し、開いた右手を突き出す。



「かかりましたね! はぁっ!!」



 ドンッ!!


 お得意の転移掌底拳だ。

 無防備な彼女の背中へぶち込んだ!

 手応えは…ある!



「がはぁっ!!」



 ウォルトさんは前方へ吹き飛び、数メートル地面を転がる。

 ふう、勝負ついたかな?



「魅せてくれる…!

 まさか得物を囮に使うとは…」



 あ、あれ!? すぐに立ち上がった!?



「ルカ! さっき結構良いの入ったと思ったんだけど、あの人あまり効いてないみたいだ!」


「フン、さすがは王国警備隊のトップと言ったところか。

 零人、エネルギーを眼に回せ。

 あの女の脆弱性を突くぞ」



 ええ!? そんなことして大丈夫かな…?



「次は本気でいかせてもらうぞ、マミヤ殿!」



 だけど、目の前の彼女は今の攻撃でだいぶスイッチが入っちまったようだ。

 薄ら笑いを浮かべて目の瞳孔が開いてる…。

 普通に怖い!



「我が王よ!

 あの力を使うことをお許しください!」


「…っ!? ならん!

 ダメだウォルト! 場を弁えろ!!」



 突然ウォルトさんが王様に何かを申請した。

『あの力』?



「申し訳ありません、ゼクス王!

 私は彼に惚れてしまいました!

 今まで私に土をつけた者は居なかった!

 彼ならば私の『全力』を与えるに相応しい男なのです!」


 ゴゴゴゴ……!


 そのセリフと同時に、彼女のエネルギーが全身を覆われ、黄金の鎧が赤く輝く鎧のように見えるようになった。

 いったいどんな魔法なんだこれ?



「はぁ…まさかウォルト総隊長の本気を出させるほどとはな…。

 マミヤ殿! 勝手で申し訳ないが、今すぐこの場から離れるのだ!

 さもなければ死んでしまうぞ!」



 は? 死ぬ…?

 あれってそんなすごい力なのか!?



「なぁ、ルカどうする?

 逃げた方がいいと思うか?」


「ここまできてそれはないのではないか?

 私は意地でも奴を倒したくなってきたぞ」



 …やっぱりルカ、ガルドの訓練の影響からなのか、元々の性格なのか分からないけど、明らかに戦闘狂になりつつあるな。

 もしかすると、昨日『怒れる竜ニーズヘッグ』と闘えなかった悔しさもあるのかもしれない。



「はぁ…やるしかないか」


「安心しろ零人。

 本当に危ない時は私が転移テレポートさせる。

 君はあくまで戦闘に集中するんだ」


「ははっ、頼むよ相棒」



 右眼にエネルギーを回し、蒼の力で彼女の身体を分析する。

 脆弱性は…後ろの腰か!

 なんだ、さっきの攻撃を少し下にずらせば当たっていたのか。


 俺は右手に先程囮で使った得物を転移テレポートさせた。

 …チッ、ちょっと焦げてるな…仕方ない。


 彼女へ対峙し、武器を構える。



「マミヤ殿!? まさか闘うつもりか!?

 いかん! 今すぐに逃げるのだ!」


「ちょっとレイト!?

 あの魔力マナはまずいわ!

 早く転移テレポートして逃げなさい!」


「フレイちゃんの言うとおりニャ!

 あの子何かヘンニャ!」


「ああなった総隊長は危険だぞ…。

 我々もどこかへ避難すべきか…?」


「貴様、御前の場で何を言う!

 王を残して去ると申すのか!?」



 王様とフレイ達の他に、警備隊や王様の家臣と思われる方々にもどよめきが走った。


 たしかに…目の前の彼女からはかなりヤバそうな力をビンビン感じる。

 けど俺は…相棒ルカを信じて戦い切ってみせる!



「勝負を買ってくれて感謝するぞマミヤ殿!

 この恩は私の本気を以て返させてもらおう!

 いざ尋常に…勝負!」


 ボウッ!!


 ウォルトさんの眼に赤い灯火が宿り、大剣に先程とは比べ物にならない質量のエネルギーを纏わせた。


 すっげ…!


 訓練用の木製の大剣が、ゲームに出てくる伝説の宝剣に見えるよ。



「脆弱性のポイントは確認したな?

 先の攻撃で背中に一撃を与えたので、おそらく二度も同じ手は食らわないだろう。

 まずはあの力の本質を見極めるぞ。

 奴の攻撃を避けつつ、観察するんだ」


「了解だ!」



 ☆ナディア・ウォルトsides☆



 まさか今日この日、好敵手とも呼ぶに相応しい人物が城に現れるとは思いもよらなかった。


 王都近郊を治める由緒正しき名家の家に生まれながら、私は家督を継ぐことにまるで興味がなかった。

 なぜなら私には生まれつき、ある特別な『力』が備わっているから。

 身に宿したは幼き日より私に語りかけ、物心がつく頃にはすでに『力』の虜に仕上がっていた。


 しかし、領地の経営と金以外に興味がない両親の元に生まれたばかりに、戦闘魔法を使うことを禁じられてしまう。

 私はただ、思い切り『力』を振るいたいだけなのに…。


 15の時、私は荷物と僅かな小銭を手に、家を飛び出した。

『冒険者』になるためだ。

 まだ見ぬ強敵と闘い、そして満足して死ぬ。


 それだけで、私の人生は充分だった。


 だが、『貴族』としての地位は完全に捨て去ることはできなかった。

 たった一年で私は実家の兵士に見つかり、無理矢理領地へ連れ戻されたのである。



「貴様は少々頭に血の気があり過ぎるようだ。

 王国警備隊に入隊希望の書類を出しておいた。

 どうせ暴れるのならせめて貴族らしく、弁えた立場で力を振るえ」



 父上はそう吐き捨て、再び私を強制的に送還した。


 王国警備隊に配属され、与えられた任務をこなしているうちに、いつの間にか私は警備隊を纏める『総隊長』などというポストになっていた。


 私は本気で闘える相手を探していただけだ…。

 上の命のもと、公務をこなす毎日…。

 訓練や遠征ができない日はまるで地獄だ。


 …だが、ようやく…。

 初めて私の本気をぶつけられる…!

 全身の血がマグマのように沸騰している。

 こんな体験は二度と無いかもしれない。


 ありがとう、マミヤ・レイト殿。


 どうか、私の『力』の全てを受け止めてくれ!



 ☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆



 蒼のエネルギーを纏ったレイトと火の魔力マナを纏った総隊長が激突した。



「受けてみろ!! 『炎射フレイム・アロー』」



 魔力マナを纏わせた大剣をレイトにめがけて…投げた!?

 あの魔法は普通は弓矢に使うはず…!

 剣に纏わせて使うなんて、とんでもない戦法ね!

 さりげなく上位属性の『フレイム』まで使っちゃってるし…。


 てか、レイトの真似してんじゃないわよ!



「お返ししますよ!」



 しかしレイトは焦った様子もなく、左手を前に突き出して転移テレポートを発動させた。



「なんと!? くっ!」


 ガァン!!


 レイトに投げたはずの大剣は彼女の頭上へ出現し、脳天にめがけて落下した!

 上手いわ! すぐ躱されちゃったけど…。



「フ…アハハハ!! マミヤ殿!

 ここまで気分が昂ったのは生まれて初めてだ!

 貴公に出会えた今までの人生に感謝しても良いくらいになっ!」


「大げさですね…。

 ウォルトさんはそんなに闘いが好きなんですか?」


「ああ! 私の生涯の生き甲斐と言ってもいい!

 いや、私はこの日のために生まれてきたに違いない!」


「王国警備隊というのは、随分と破天荒な人物なのだな」


「ルカ、言っとくけどフレイとルカも最近あれぐらい血の気多いよ?」



 今度は舌戦を繰り広げてる。

 …って、誰が血の気が多いよ!?

 私はもう大人なんだからそんなに闘いを求めては……求めてるわね。



「さぁ、続きを始めようではないか!

 マミヤ殿!」



 ダン!と大剣を地面に突き刺した

 な…何をする気なの?



「我が『炎獣イフリート』の力、存分に味わうがいい!

 ハァァァァァァァ!!!!」



 さらに濃い火の魔力マナが身体から噴き出し、総隊長の両腕へぐるりと巻き付いた。



「『炎爪フレイム・クロー』!」



 そして手の甲から爪の形状の魔力マナを顕現させる。

 今…とんでもないこと言っていたような?



「まったく…!

 マミヤ殿と戦わせる隊員を間違えてしまったな…」



 私の後ろでゼクス陛下は片手でこめかみを押さえていた。

 あの力の素性を確認しないと!



「あの、陛下!

 恐れながら、ウォルト総隊長の力を教えて頂きたく存じます!

 さっき…彼女は『炎獣イフリート』と…」



 私が最悪の予想を頭に浮かべながら質問すると、陛下は重々しく頷いた。



「ああ、レティから聞いたことはないか?

 究極魔法のひとつ、『召喚サモン』を」



 ああ…やっぱりそうなんだ…。



「…はい、あります」


「ニャ?『さもん』?」



 私はもう既に答えを得たけど、隣にいる猫は分からないようだ。



「そうだ。究極魔法『召喚サモン』。

 それはこの世界にかつて存在したと言われる『伝説の魔物』をその身に『召喚』し、敵を撃滅させる恐ろしい魔法なのだ」


「ニャニャ!? じゃあナディアちゃんは今…」



 畏れ多くも陛下が丁寧にセリーヌへ説明してくださった。

 私はセリーヌの頭に手を置いた。



「ええ。あのウォルト総隊長は今『炎獣イフリート』を従えて…いえ、『炎獣イフリート』そのものとなろうとしてるわ」


「ニャアア!?」



 ☆間宮 零人sides☆



「ふむ、先程シュバルツァーの話に耳を傾けていたが、あの力はそういうカラクリだったのだな…」


「あ、あん?

 あいつら何か言ってたのか?…っとぉ!」


 ブオッ!!


 ウォルトさんが大剣を捨て、両手に生やした赤いエネルギーの爪の斬撃を繰り出してくる。

 避けるだけで精一杯のため、そこまで気が回らなかった。



「ああ。どうやらあの赤いエネルギーの正体は魔物のようだ」


「はぁ!? この人もセリーヌと同じ!?」


「そうではない。あれはな…」



 ルカから説明を受けた。


 これも究極魔法だったのか…。

 いやいや!?

 さっきからポンポン究極魔法見ちゃってるけど、みんな命が惜しくないのかよ!?



「クソっ! このままじゃ防戦一方だ!

 その『炎獣イフリート』って何か弱点ないのか?」


「ないな。というより、書斎にあった魔物リストの記述に当該魔物のデータがあまり詳しく書かれていなかった。

 なにせアレは、魔物らしいからな」



 なるほど…!

 そもそも存在すら怪しい魔法だったらしいしな。

 実際の使い手がいなければ記録を取ろうにもできなかったのだろう。



「だが、手は無いこともない。

 今こそ新しい力を習得する時だ」


「新しい力?「おおおお!」…っだぁっ!?

 なんだっ、早く言え!」



 あぶねぇっ!! 勿体ぶるなって!

 こっちはウォルトさんで忙しいんだから!



「私が数キロ離れた目に見えない場所への転移テレポートを何度か行なったのを覚えてるな?

 あれの応用だ」


「ああ、フレイがおしっこ漏らしそうになった時みたいにか?」


「…その話はいい加減忘れてやれ。

 彼女が気の毒だ。いいか?

 転移テレポートさせるのは私達ではなくだ」



 あちら? なんのことだそれ!



「奴の属性は明らかに火だろう。

 だが、私達は相対する属性の水の魔法など撃つことはできない。そこで…」


「あ! もしかして、転移テレポートで水を持ってくるのか!?」


「…人が順序よく説明しようとした矢先に急に閃くな。

 まあ、正解だ」


「どうしたマミヤ殿!

 反撃をしなければ私に引き裂かれるぞ!」


 ゴウッ!!


 赤い爪が鼻先を掠った!



「ぐっ…!? …んん!?」


 カラン…!


 ああっ! 俺の剣が真っ二つになっちまった!

 ほらぁ!

 だからそんな悠長な説明受けてる暇はないんだって!



「ル、ルカ!

 水を引き寄せるにはどうすれば良いんだ!?

 早く教えてくれ!」


「全く仕方の無いヤツめ。

 おとといシュバルツァーと休憩した場所の近くにあった川を思い出せ。

 そこに私が設置しておいた座標がある。

 それを感じ取るのだ」



 休憩…川、川、川!


 すると頭の中に、いつも転移テレポートする時に使用する蒼い輪っかの座標が冷たい水で覆われている感触を感じとった。

 その場所からは遠く離れてるのに辺りの景色まで脳内に浮かんでくる…妙な感覚だ。



「ルカ! 感じた!」


「よし。いつもならロープを掛けて引っ張りこちらが移動するわけだが、今回は逆だ。

 川を奴の頭上へ呼ぶつもりで引っ張れ!

 君の力を信じろ! 必ずできる!」



 ロープを掛けるイメージを行なう。

 すると、俺の身体と遠く離れた川の座標が一瞬で結び付いた!

 よーし!

 あとは呼び寄せる、呼び寄せる、呼び寄せ…



「マミヤァァァ!!!!」


「っ!? …邪魔をするなぁぁ!!!」



 右腕を振りかぶったウォルトさんの腕を左手で掴み、右の掌底を彼女の顔面に食らわせる。


 バゴッ!!


「ぶっっ!?」



 ルカのエネルギーを纏った掌底は、インパクト抜群だ!

 蒼い残滓を散らしながら、彼女は後方へ吹っ飛んだ。



「今だ! 水を呼び寄せろ! 零人!」


「フッ…!! うおおおおお!!!!!」



 俺は両手にエネルギーを回し、ありったけの思いを込めてロープを引っ張った!


 ドドドドドドドド!!!!


 次の瞬間、ウォルトさんの頭上から大量の水が現れ、滝のように下へ溢れ出した!



「み、水だと!? まさか、そんなことが!?」



 まんべんなく水が降り注ぎ、彼女の身体を覆う赤いエネルギーが弱まったことを確認する。

 よし…彼女は水を防ぐのに手一杯だ!

 今なら…狙える!


 ブン!


「これで終わりだァァァ!!!」


「ハッ!? しまっ…!」


 ドゴン!!


 蒼の力を纏わせた拳をウォルトさんの脆弱性である腰部へ叩き込む。



「が…はっ! …あぐ…!」



 ウォルトさんは水を浴びながら両膝をつき…そのまま前へ倒れ込んだ。












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