第13話:ゼクスの王
「は……?いえ?」
聞き間違いじゃないよね…?
「ああ、『家』だ。もちろん、金もだぞ」
「………」
……どゆこと?
そんなに盗賊団に盗まれてた宝があったのか…?
「ふぅ…順を追って説明するニャ。
まず、あたしが昨日提案した盗品の依頼の件は、無事だった品はあまり無かったのニャ」
あの
仕方ないことだと思う。
けど…
「それならなんでそんなスゲェ報酬が貰えたんだ?」
俺が再度訊くと今度はルカが答えた。
「昨日零人が受注した依頼は『盗賊団に盗まれた品』ではなく、『盗賊団関連のクエスト』とギルドに言ったのだろう?
おそらくそれが今回の原因だ」
あれ?
俺受付の人にそう言ったんだっけ?
あの後皆で飲んだからよく覚えてない。
「本来ならば高ランクのベテラン冒険者に任せるような案件を私たち…いや、零人とシュバルツァー、君達はこなしてしまったのだ」
「高ランク?何それ?」
「…レイト、冒険者カードを作る時に説明されたでしょ。
聞いてなかったの?」
「書くことに集中してたから…。
全然聞いてなかったわ」
書くどころか読むのも怪しかったんだよ…。
解読するのに精一杯でお姉さんの話は右から左へ状態だった。
「はぁ…しょうがないわね。
いい?ランクは下から
『
『
『
『
…そして世界に数人しか居ない
『
おお!全部で5つのランクがあるのか!
『
「説明に感謝する…まず、シュバルツァー。
君のこなしたクエストだが、それは『盗賊団ベンターの懐刀、
懐刀?
さすがにドラゴンだけあって、ただのペットじゃ無かったってことか。
フレイの方を見ると思案顔になっていた。
「んん?たしかその依頼って、昨日冗談でレイトに勧めたやつだったかしら?」
「あ!あれか!
え、お前達成しちゃったの!?」
「あの時はとにかくキレてたから、何でも良いからぶっ飛ばしたいだけだったんだけどね…」
マジかよ…。
つーかなにお前俺に高ランク向けのクエスト持ってきてんだよ!
「このクエストの推奨ランクは『
それも10人以上だ」
「「…………」」
こいつ1人で
まさかそんなにキツいクエストだったなんて…。
「シュバルツァーのクエストの報酬が50万
大体、この国の貴族の収入に匹敵する額だ」
「「ウソでしょ!?」」
あ…またハモった。
ホントによくコイツとは同じ反応をしてしまうな。
ん?ということは…?
「まさかルカ、家が報酬ってのは…」
恐る恐る訊くとルカは肯定した。
「ああ。零人、君の達成したクエストは『盗賊団ベンターの
「!!」
ええ!?あいつ捕まったの!?
てっきり
「で、でも俺、別にあいつ倒してないよ?
ドラゴンを怒らせて逃げただけだし…」
そう、戦いはしたが決着はつけてない。
なんで俺の手柄になってんだ?
「ギルドの調査隊がアジトを調べた際、奴はボロボロになって気絶していたようだ。
そして捕縛して目が覚めた時、一貫してこう言ったそうだ。
『マミヤ・レイトはどこだ』と」
…なるほど。
そういうカラクリか。
要はアイツが自分のペットにやられた事を俺のせいにしてるおかげで、俺に手柄が立ったというわけか。
「…ちなみにそのクエストの推奨ランクは?」
「『
こちらも10人以上が推奨されていた。
なにせ、国際的な指名手配犯だったようだからな」
あの〇ンコ、そんなヤベーおっさんだったのか!
たしかに不意打ち食らった時はビックリしたけど、ルカ無しでも渡り合えるくらいだから、そこまででもないような気がする…。
…多分ガルド村での戦闘訓練が活きているんだろう。
村長とフレイ、それに団員のマッチョ達に感謝しなきゃな。
「でもなんでレイトの報酬はお金じゃなくて家なの?」
たしかにそうだ。
昨日のブローチのクエストも金だったしな。
「実はこのクエストの依頼主は『
ベンター盗賊団は悪名高い暴力集団としても有名で、莫大な懸賞金も掛けられてたニャ。
けど、彼らに少しでも手を出すと目を付けられて、一族郎党、家の物や女子供まで全て盗まれてしまったのニャ」
セリーヌが詳しく解説してくれた。
よく知ってるな。
さすが俺らより長く生きてるだけある。
「……レイト君が失礼なことを考えてる気がするニャ」
半眼でこちらを睨めつけてきた!
フレイもだけど、なんでそういうこと分かるんだよ!
「そ、それで何で報酬が家なんだ?」
強引にでも話題を変えなければ!
「…まぁいいニャ。
その被害もあって、懸賞金はあっても誰もベンターに挑まなくなってしまったのニャ」
セリーヌはバックから1枚の紙を出して見せてきた。
クエスト依頼書か。
「そこでこれニャ!
王都の治安を守る王国警備隊が直々に冒険者ギルドへ依頼として、盗賊団の捕縛を要請したのニャ。
懸賞金ではなかなかみんな動かないことが分かっていたからこそ、報酬を家に変えたのニャ。
『
なるほどなぁ!
そんな理由だったのか!
お尋ね者だからこその報酬ね。
「そっかー。
まぁ、貰えるものは有難く貰っとこうぜ。
でも家なんてどこで受け取れば良いんだ?
不動産屋さん?」
軽い感じで訊いたつもりだったが、ルカとセリーヌは重い雰囲気だ。
…嫌な予感がする。
「先程、モービルは依頼主は『王国警備隊』と言っていただろう?
よって、これから私達はこの国の『城』へと出向き、国王と直接謁見し、彼から報酬を賜らなければいけないのだ」
え。
「「えええええ!!!!!」」
☆☆☆
ルカとセリーヌから驚愕の報酬を聞かされてから、俺たちは王族が済む地区へ向かっている。
王様と謁見なんて考えただけで吐きそうだけど、それはとりあえず置いておいて、これだけは聞いとかないと。
「そういえば俺たちは武器屋でちゃんと用事済ませてきたけど、肝心のそっちはどうだったんだ?
モネさん…だっけ、会えたか?」
俺が訊くと、セリーヌは困った顔で首を横に振った。
「残念ながら居なかったのニャ」
「居ない?
アルタイルの学生じゃなかったの?」
事情をルカが説明してくれた。
「ああ。最初私達は大学の入り口にある事務受付で、モネ・ラミレスに取り次いでもらったのだが、彼女はどうやら休学しているのだ」
「ええ!?なんでまた?」
「彼女の
その
今回、彼女は『
「あら、ということは私達と入れ違いになってしまったのね…」
それは残念だ。
『
俺も会ってみたい。
「それならこれからどうするの?
今回の謁見が終わったらすぐ『
げっ!?
えーあまり行きたくない。
何かまたドラゴンと関わり合いそうで…。
「いや、それで現地に着いてまた入れ違いになっても面倒だ。
それにその依頼の期間は今日で終わりと聞いている。
ならば、彼女が大学に戻ってくるまで、王都を中心に他の候補者を探している方が効率的だ」
よ、良かったー!
ナイス提案だぜルカ!
「うーん…候補者探しが大事なのは分かるけど、その過ごし方だと腕が鈍りそうね。
お金はもう当分足りるけど、せっかく冒険者になったんだし、私はギルドのクエストもこなしたいわ」
フレイらしいと言えばフレイらしい意見だった。
コイツが大人しく待っているイメージなんて湧かない。
「フレイちゃんに賛成ニャ!
あたしが冒険者になったのはお兄ちゃんを殺した魔族を探し出すためでもあるニャ。
見つけ出して絶対
「セリーヌ…お前…」
この子が冒険者やってるのは生計を立てるだけじゃなかったんだな。
……『仇討ち』ね。
「はぁ…ふたりがそう言うなら何も文句はあるまい。
私はあくまで零人の傍にいるだけだ。
だが、魔王の復活は迫っている。
それを忘れるなよ?」
「ふん、それくらい私も分かってるわよ」
「ガッテンニャ!」
「そうだな、ルカから『お願い』されたからな。
俺も候補者を探しながら、できるだけこいつらの手伝いもするさ」
☆☆☆
冒険者ギルドや酒場、武器屋のある『6区』を抜けて、王族や貴族、その親衛隊達が暮らすエリア、『1区』の中心にある目的地の城、『ゼクス・キャッスル』へと到着した。
さすが『城』と言うだけあり、この建物だけ高さが段違いだ。
城壁はまさに堅牢といった感じで、その上にある回廊には「警備隊」の人達が見廻りをしているのが見える。
俺たちの正面にはデカい門が設置されており、屈強そうな門番が立っていた。
はぁ…これから謁見か…。
どんな感じで話せば良いんだ?
バイト先にたまに視察に来ていた社長と話す感じで良いのだろうか。
「うう…レイトぉ、どうしよ…。
私、王族と会話するなんて初めてなのよ…。
もし何か失礼があったらパパにも
「俺だってモノホンの王様と話すなんて今まで経験ないよ。
まぁ、そんな気張らずにいこうぜ。
嘘さえ付かなければ何とかなるもんだ」
「……君が言っても説得力に欠けるな」
何を言ってるんだこの宝石は。
俺がいつ嘘を付きましたか?
「ギルドで貰ったこの召還状を門番に見せると、通してくれるはずニャ。
はやく家を貰いに行くニャ!」
セリーヌは俺とフレイの腕を引っ張り急かせた。
こいつ魔物だからそういう緊張とかないのか?
セリーヌが門番の1人に紙を見せると、無言で門を開門するレバーを倒した。
挨拶くらいした方が良かったか?
「城まではまだちょっと距離があるけど、ここを一本道ニャ!」
再びセリーヌに掴まれて俺たちはとうとう、王族の中の王族が住む、お城のエリアへ足を踏み入れた。
☆☆☆
城の入り口に立っていた別の門番に召喚状を見せると、既に話は通っていたようで、警備隊の1人が謁見の間まで案内してくれている。
『警備隊』って名前から何となく日本の『機動隊』みたいなイメージをしてたけど、前を歩く彼の格好はまんま『騎士』だ。
フルフェイスの兜とプレートアーマーを装着して、背には大きな盾と両手剣が背負われていた。
よくあんな重そうな格好で動けるな。
「さぁ、こちらが謁見の間です。
くれぐれも我が王に失礼の無きよう…」
「はい、ここまでありがとうございました」
そう言うと彼は会釈をして踵を返した。
ガッチャガッチャと金属が音を奏でる。
あの装備やっぱ重そうで大変そうだ。
「うう、レイト…」
フレイは今にも泣きそうなツラで片手でちょこんと俺の服の裾を摘んでいる。
もーここまで来たんだからいい加減覚悟を決めろよな。
仕方ないなぁ。
「どうしても不安ならお前は喋らなくてもいい。
俺とルカで話すからさ、ここは任せろよ」
「ど、どうしよう…。
珍しくあんたが頼もしく見えるわ…」
「けど、
その時はちゃんと答えるんだぞ?」
「わ、分かったわ…!」
そして謁見の間にある扉をノックすると、向こう側から「入れ」の言葉と共に開いた。
中へ入るとその部屋…いや『区画』はかなりの広さを誇っていた。
大体学校の体育館と同じくらいか?
先程の声の主が近くにやってきた。
ロングヘアーの赤い髪…女の人だったのか。
あれ、この人も警備隊か?
兜は取ってあるけど、同じ形の鎧を装備している。
けど、色だけは違う。
さっき案内してくれた人は銀色だったけど、彼女の鎧は黄金の色だ。
すっげぇ高価そう。
「ここまで良く来てくれたな。
私は王国警備隊の総隊長を務めている『ナディア・ウォルト』だ。
お見知り願おう」
早速彼女に挨拶された。
よし…。
「はじめまして。俺たちは…」
こちらも自己紹介をしようとしたらウォルトさんが手で制した。
あ、あれ?
「私に挨拶は不要だ。
これから我が王と謁見するわけだが…。
失礼ながらこれから貴公らの身体調査をさせてもらう。
不届き者がいれば事だからな、理解してくれるか?」
「は、はい、分かりました」
いきなり出鼻をくじかれた気分だけど、仕方ない。
空港の入国チェックと思おう。
セリーヌ、フレイ、俺の順でやってもらったが(ルカは除外)、彼女は俺のあるものに目を付けられてしまった。
「マミヤ殿。これは一体なんだ?」
彼女は俺のズボンのポケットからスマホを取り出した。
あちゃー、置いてくれば良かったな。
「それは俺の世界の…あ、いや『
それで写真を撮ったり、地図を見たりできます」
「ふむ…?
このような
まぁいい。暗器ではないことは確認した。
貴公に返そう」
「はい、ありがとうございます」
ふぅ…良かった無事に取り戻せて。
何かとスマホは使うからな。
☆☆☆
そして全員の身体チェックが終わり、いよいよ奥にいる王様と対面した。
王様は立派な装飾がされた大きな椅子に腰掛けており、見た目は普通の初老のおじさんだが、 さすが国のトップだけあって貫禄は凄まじい。
頭には王の証たる冠を掛けていた。
少し感動してしまった。
実際に本物の王様に会うことができるなんて。
俺たちは跪いて頭を垂れた。
ガルドの授業でこの辺の所作を習わなかったら大変な事になってたな。
「面を上げよ。
汝らが今回手柄を上げてくれた冒険者達だな。
我は『
この度は大儀であったな」
堅めな口調とは裏腹に、王様は優しげな表情で俺達を労ってくれた。
王様って聞いた時は高圧的な態度をイメージしてたけど、偏見だったな。
反省しないと。
「恐れ入ります国王陛下。
私は間宮零人と申します。
こちらは…」
「わ、私はフレデリカ・シュバルツァーですっ!
よろしくお願いしまひゅっ!」
あっ噛みやがった。
「あたしはセリーヌ・モービルですニャ!」
「私はルカだ。
正式名称は
それぞれの自己紹介が終わると王様はニコリと微笑み、今回の召還の件について語った。
「フフ、実に個性的な面々であるな。
さて、今回汝らを呼んだのは報酬の話だけではない。
『紅の魔王』について話がある」
「「「!!!」」」
なんだって!
王様も魔王が復活することを知っていた…?
いや、考えてみれば当然か。
人類を脅かす存在を国のトップが知らないわけない。
「かの魔王とは我も刃を交えたことがあってな、奴には煮え湯を散々飲まされたものだ」
「へ、陛下も魔王と戦ったのですか!?」
王様が戦う!?
この人全然武闘派には見えないけど…。
「ああ。
我は今でこそ王などと謳ってはいるが、昔は『
シュバルツァー嬢、汝の両親とも盟友だったのだ」
「へ、ふえぇぇぇ!?」
フレイがラムジーみたいな反応になってる。
てかあの村長、こんなとんでもないコネを持ってたのかよ!
なんで娘のフレイがそれを知らないんだ…?
「ウィルムの
彼らとは共に切磋琢磨し互いに成長したものだ」
王様はしみじみと懐かしむように語った。
ということは…。
「もしや、陛下も魔王との最終決戦に挑まれたのですか?」
俺が訊くと王様は首を縦に振り肯定した。
「うむ。各国からの有志で構成された部隊だけで挑んだ、誇り高き闘いであった。
…レティの事は誠に残念に思う。
ここに哀悼の意を送ろう」
「…はい。ありがとうございます。
母もきっと喜んでいると思います…」
最終決戦にいたということは、喫茶店ブルー・ベルのマスターもご存知なのかな?
王様は視線をルカの方へ移した。
「そして、汝はルカ…といったな蒼き宝石よ。
ウィルムからの書簡で話は聞いている。
かの魔王から汝の兄弟たる「紅の宝石」を救い出すよう、この国の総力を挙げて協力する事を約束する。
共に世界を救おうではないか」
「…心から感謝するゼクス王。
私も必ず魔王を打ち倒すことを約束する」
『
これってすごい事じゃ…?
「ルカ…良かったな!
兄貴を救える可能性がグンと上がったじゃないか」
「ああ。私は良い…人脈を得たものだ。
君たち全員に、感謝する」
ルカの声が若干震えている。
なんだか俺も少し涙が出てきた。
「ニャニャっ!レイト君、泣いちゃダメニャ」
セリーヌが後ろからポンポンと背中を叩いた。
俺って昔からよくもらい泣きしちゃうんだよ。
「さて、これで魔王に関する話は終いだが、もう1つマミヤ殿に話があるのだ」
「俺に…ですか?」
なんだろう?
俺の世界のことかな?
「ウォルト総隊長」
「はっ」
王様がさっきの警備隊の赤いお姉さんを近くへ呼んだ。
「単刀直入に言おう。
あの悪名高き盗賊団の首領と渡り合ったその力を、この目に見せてほしい」
「ええ!?まさか…」
王様は頷いた。
「ここにいるナディアとひとつ、手合わせをしてもらおう」
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