第4話:3つ目の魔法

「はぁっ、はぁっ、はぁ……」



俺の周りにはガルドマッチョ達が倒れている。

襲いかかって来た野郎どもは見た目通りにしぶとく、何度殴ろうが蹴ろうがすぐ復活して、俺を殺しにかかってきた。


だが、3時間ほどかけてようやく全員…、とっちめてやったぜ!

ビバ! てれぽーと!



「よくやったな零人。

さすがに私もクタクタだ。

同調シンクロ』を解くぞ」


シュゥゥン…


俺の身体を覆っていた蒼いエネルギーが霧散し、すぐ目の前に集合する。

エネルギーはみるみる綺麗な蒼い石へと変化していった。

おお、すごいな!



「ありがとうルカ。おかげで命拾いしたぜ」


「君は私のパートナーだからな。

君の身が危険にさらされるならば、助けるのは宝石スフィアとして当然だ」


「そっか…。

ところで、なんでコイツらあんなにキレてたんだと思う?」



俺はルカに気になってたことを訊いてみた。

だって、おかしいじゃんよ!

昨日あんなに爽やかに接してくれたのにさ!



「ふむ…ある程度は予想はつくが、その答えは当事者に訊いてみるとしようか」


ザッ、ザッ、ザッ…


後ろから足音が聞こえてきた。

振り返るとデカいエルフが二人…。

どうやらウィルム村長とフレイが戻ってきたようだ。

あんのオヤジ!!



「村長ぉ!! なんてことするんですか!

おかげであやうく死にかけましたよ!?」



俺は二人の元まで駆け寄って…ブチ切れた。

しかし村長はそれに大して動じず、まあまあと両手で怒りを鎮めるよう促す。



「悪かったな、レイト君。

お主の力をどうしても確認する必要があったのだ」


「それなら別にあんなやり方じゃなくても…。

そもそもなんでこの人達こんなに怒ってるんです?

俺が何かやらかしました?」



村長へ質問したのだが、なぜかフレイが答えた。



「あー、レイト。

ゴメンね、半分は私のせいみたい」


「フレイの?どういうこと?」



俺が尋ねると彼女は指でポリポリと頬を掻き始める。

なんだか説明するのも面倒くさそうって顔だ。



「えっとね、ドラゴンと戦った時にあなた私の腰に差してあったナイフを使ったでしょ?」


「うん、それが?」


「あれって実はね…私が結婚する時に相手へ送る『婚儀の刃ウェディングダガー』っていうナイフなのよ」


「は?」



ウ、ウェディング??

まさか…!

俺の予想の答えを合わせるように、村長が補足してきた。



「エルフ族は代々婚約者と一生を添い遂げる誓いを立てる時に、互いに用意した婚約用のナイフを送り合う習慣があるのだ」



やっぱりそうか!

こっちの世界でいう婚約指輪じゃねぇか!

あれ、でもたしかあの時…?



「ちょっと待て!!

俺、そのこと謝ったときお前『解体用のナイフ』って言ってたじゃん!

あれ嘘だったの!?」


「嘘じゃないわよ!

ただその…私あまり結婚するとか興味なかったから、使ってるうちに錆びてナイフがボロボロになれば、結婚しなくて済むかなって考えてただけよ!」


「は、はぁ!?」



な、なんだよそれ…。

いや、それにしたってそれがなんでコイツらを怒らす原因になるんだ?



「実はだな、お主にも見せたあのガルド式戦闘訓練だが、フレデリカがあまりにも強過ぎてな…。

戦士たちがどんどん自信を失っていったのだ。

そこでわしは、冗談半分で『フレデリカから1本取った者に娘のダガーをやる』と言ってしまったのである」



あ、もう理解した。

それでこのマッチョ共は、フレイとの婚約を勝ち取るために頑張ってあの勝ち抜き戦に挑んでいたのか。


そこへ昨日突然やってきた何処の馬の骨とも知らない男に『ダガーをあげた』なんて聞かされたら…そりゃキレるわな。


いや待て…!

その理屈だとナイフをプレゼントされたのは俺じゃなくて…!



「おいフレイ!

今すぐこのマッチョ共に訂正しろ!

あげたのは俺じゃなくて黒いドラゴンですってよ!」


「はあぁぁぁ!? 何でそうなるのよ!」


「だってそうだろ!

最終的にナイフを持って行ったのはあの黒いドラゴンじゃねぇか!」


「あんたバカ!?

黒竜ブラック・ドラゴンと結婚できるわけないでしょ!

ていうか勝手に私のナイフを持っていったのはあんたじゃない!」


「ゔっ…そ、それは…! し、仕方ねぇだろ!

弓なんて俺に使えるわけねぇし、あの場を凌ぐにはそれしかなかったんだよ!」


「なによ!

男のくせにあーだこーだ言い訳ばっかしてみっともないわね!」


「はーそういうこと言うんだ?

俺の世界では『男だったら』『女だったら』なんて言葉は時代遅れでダサいんだぜ!」


「はぁ!?

昨日私に言葉遣いがどうのこうの言ってたのはそっちじゃない!」



ゴン!と、俺とフレイは頭をぶつけてメンチを切る。

な、なんて憎ったらしい女なんだ…!

ここまで他人に腹が立ったのは久しぶりだ!



「なぁ…君たち2人は本当に昨日会ったばかりなのか?

何故そこまで完璧な痴話喧嘩ができるのだ?」



ルカがとんでもないことを口走った!



「「痴話じゃない!!」」



ちくしょう、またもやハモった…。



「レイト君。今回は全てわしの責任だ。

お詫びにとっておきのランチをご馳走するので勘弁してほしい」



さすがに不憫に思ったのか、村長がそんな示談を提示してきた。

だが、既に全身の血が沸騰した状態の俺には、村長の気遣いはかえって逆効果だった。



「ていうか村長も村長っすよ!!

いくら野郎どもの士気を上げるためとはいえ『娘をやる』なんて言いますか普通!?」



再び牙を向けた俺に、村長はなぜかとぼけた顔をして答える。



「おいおい、わしは『をやる』とは言ってはいないぞ?

『娘のをやる』と言ったのである。

仮に勝った者がいたとして、そのあとはフレデリカに適当に持たせたナイフをやる予定だったのだ」


「………!」



さ、詐欺だ!

詐欺師がここにいる!



「フン! 私、絶対負ける気ないけどね!」



『勝った』という単語に反応したフレイが鼻を鳴らしそっぽを向いた。

あのなぁ…!



「だいたいお前がいつまで経っても負けねぇから、親父さんが策を打ったんじゃねぇか!」



俺の指摘に、フレイは胸倉を掴み上げて再び吠えた!



「はぁ!?

この私にわざと負けろとでも言うの!?

こいつらが弱っちいのが悪いんじゃない!」


「少しは手加減しろって言ってんだこのフィジカルゴリラ!」


「ゴ、ゴリ?!何よそれ!

あんたの世界の動物!?

いま私を何に例えたのよ!」


「知りたきゃあとで写真見せてや…わっ!?」



再びメンチを切り合うと、見かねたルカが俺たちの間に入ってきた!



「2人とも、そこまでだ。

私は先程の戦いで空腹なのでな。

早くシュバルツァー村長の昼ごはんをいただくとしよう」



ルカに言われ少し冷静さを取り戻す。

そういえばさっきはルカのおかげで乗り切れたんだった…。



「わ、分かったよ…。

その、ちょっと言い過ぎた…、悪いフレイ」


「ふ、ふん…私は全然悪くないけど…。

まぁ私も少し大人げなかったわ、ゴメンね…」



そんな俺たちがたがいに頭を下げる様子を見ていた村長が突然豪快に笑った。



「フハハハハハハ!!

こんなフレデリカを見たのは久しぶりだ!

実に愉快である! さぁ、3人とも帰ろうか。

とっておきのウィルムスペシャルを作ってやるぞ」



俺とフレイは顔を見合わせ、お互いに苦笑いした。



☆☆☆



シュバルツァー宅に戻り、『ウィルムスペシャル』なる料亭でも開けそうな素晴らしい逸品を堪能させてもらった後、俺とルカは村長に呼び出された。


その場所は、彼が普段事務仕事をしているという書斎室だ。

俺は軽く深呼吸して、ドアをノックする。


コンコン


「来たか、入ってきなさい」


「失礼します」



扉を開き中へ入ると村長はソファーに腰をかけていて、テーブルを挟んであるもう片方のソファーへ座るよう促した。

俺は着席したが、ルカは宙に浮いたまま。



「その…さっきはえらい剣幕で噛みついてしまって、すみませんでした…。

あと、料理…めっちゃ美味かったです」



俺が謝罪と賛辞を送るとルカもそれに続いた。



「ああ、シュバルツァー村長は料理人としても食べていけそうだ。

おかげで私もエネルギーを回復することができた。

礼を言うぞ」



そんな俺たち2人の言葉を、村長は笑って答える。



「フフ、別にあれぐらいなんとも思わんさ。

それにウィルムスペシャルを気に入ったなら今度レシピを教えよう。

フレデリカは作れなかったが、お主なら大丈夫だろう」


「本当ですか! ありがとうございます!」



レシピをもらえるのか! やったぜ!

日本に帰れた時になんとか再現して作れないかな?



「さて、本題に入ろうか」



場の空気が変わったのを肌で感じた。

俺も気持ちを入れ替え、姿勢を正し直す。



「ええ。

なんでも『同調シンクロ』を使う奴が他にもいるとか?」


「ああ。

そしてわしはその者と戦ったことがある」


「マジですか…どんな奴だったんですか?」



村長は何かを堪え、ルカの方へ視線を移した。



「その質問に答える前に…わしはルカ君に聞きたいことがある」


「私に? なんだ?」



村長はふぅ、とひとつ息を吐き、質問した。



「お主はもし仲間を…いや、家族を討たないといけないとしたら…どう考える?」


「…質問の意味が不明だ。どういうことだ?」


「言い方を変えよう。

お主は自分の身内が世界の敵だったとしたら、そやつを守るか?

それとも敵対し戦うか?」


「………」



身内が世界の敵…? なんのこっちゃ。

ルカは僅かに思案し、すぐに答えた。



「…『世界』の定義にもよるが、この『星』と仮定するならば、私は契約者のために戦う」


「ルカ…」



思えばなぜ彼女はそこまで俺を大事にしてくれるのだろう?

行きずりとはいえ、出会ってまだ二日と経ってないというのに。



「それがたとえ兄弟を殺すことになってもか?」


「正直私はまだ記憶を失っている状態なので、兄弟の記憶を取り戻さないかぎり何とも言えん…が」



ルカは俺の頭の上にピョンッと乗っかった。



「私は決して零人パートナーを裏切らない。

それだけは約束しよう」



な、なんだ?

ルカがイケメンに見える…!

村長は先程までのピリついた空気を弾き飛ばすような笑顔を見せた。



「フハハハハ! そうかそうか! ならば結構!

スマンな、興が冷めてしまっただろう。

詫びにわしの知っている情報を全て教えよう」



ポカンと豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。

だってさっきまであんなにヒリヒリした感じだったのに、今はこれから世間話でもするかのような雰囲気だ。



☆☆☆



「『あかの魔王』!?

そんなやつがこの世界に居るんですか?」



『魔王』

俺の世界では大抵のファンタジーRPGや漫画に登場するラスボス的存在だ。

まさか、それも実在するなんてね…。



「ああ。

そしてその者は、この世界で最も力のある支配者なのである」


「『あか』…? 『あかの宝石』…」



ルカが何か気づき、ボソッと呟いた。

あ、そうだ!

似たような名前のやつがスター・スフィアに登場していたな!



「村長、その魔王って奴はもしかして紅色の石を持ってたんですか?」


「そうだ。わしが魔王と戦った時はまだ『ガルドの牙』で現役を務めている時代。

今からおよそ30年ほど前になる」



そ、そんなに前からいるのか…。



「ここ、ガルド・ヴィレッジよりはるか北の大地に魔族だけが住むひとつの大国があるのだ。

その国の名前は『アルケイン』。

大昔から我々人類と魔族は度々戦争をしていた。

戦争は互いに疲弊させるだけで、得るものは仲間の遺体と憎しみだけだった…」



俺の世界でも昔は世界大戦が起こっていたけど、やはり異世界でもこういう事はあるんだな…。



「戦争の愚かさに気づいた双方は、半世紀前に当時の魔王と人類側代表の王との間でようやく停戦条約を結び、仮初とはいえ互いに平和を得ることができたのだ」



「しかし、停戦してまもなく、魔族の国アルケインでは反乱クーデターが起こった。

反旗を翻したのは当時の幹部…いや、魔王の息子だ。

そして魔王は殺され、新たな魔王が生まれたのである」


「それが『あかの魔王』か。

ふん…随分と血なまぐさい話だ」


「ああ、その通りだ。

自らの身内を手にかけるなど正気ではない」



親を殺すなんて……。

なぜ紅の魔王はそうまでして、国の舵取りを行いたかったのだろうか?



「さらに数年後、新たな魔王は突如、人類側代表だった王の国、『武の国スマッシュ』を一夜にして壊滅させたのである。

それも単身の身でな」


「ひ、一晩で!? 単身!?

たった1人でそんなことできるものなんですか!?」


「もちろん普通は不可能だ。

その国は『魔族の国アルケイン』と距離がいちばん近いとはいえ、軍事力は人類連合の中では特に抜きん出ていた」


「……」


「なるほど、その魔王は『あかの宝石』の力を使ったのだな?」



ルカの問いに村長は頷いた。



「事態を重く見た人類側は、再び諸国の戦士を集い連合軍を編成、そして彼の者へ挑んだ。

……結果から言うと全滅した」



ぜ、全滅!?

全員死んだってこと!?



「それから紅の魔王はなぜか魔族の国アルケインへ戻っていった。

理由は単純だった。

残った全ての人類の国を兵力をもって侵略し、支配するためだ」



………壮絶だ。

なんて世界へ来ちまったんだ俺は。



「だが、わしら『ガルドの牙』も含む傭兵や義勇兵はまだまだ諦めていなくてな。

レジスタンス活動をしながらなんとか魔族と戦うことができたのである。

そして少数精鋭を集め、魔族の国アルケインへ奇襲し、秘密裏に紅の魔王を討つ作戦が立案された」


「もしかしてその作戦に村長は…?」



俺が問うと村長は肯定した。



「ああ。

わしも『ガルドの牙』代表として参加した。

作戦は敵の本丸へ無事潜入に成功し、直参を片付けてあとは魔王を討つだけだった…

しかし、やつの力は凄まじく、誰も敵うことができなかったのである」



そこでルカは村長へある質問を投げた。



「シュバルツァー村長。

その魔王はどんな戦い方だったのだ?

覚えてる範囲で構わない、教えてくれ」


「ふむ、そうだな…。

まず、奴は武器を何も持たずにわしらを迎え撃ったのだ」



はあ!?

ステゴロで相手したのかよ。

余裕ありすぎんだろ…。



「近接攻撃のみということか?」


「ああそうだ。正直屈辱だった…。

だが、わしは渾身の力を込め、死に物狂いで奴に一撃を与えることに成功したのだ。

すると魔王はうすら笑いを浮かべ、こう呟いた」


「『シンクロ』と…」


「「!」」



その言葉は…!



「ルカ、これってやっぱり…」


「ああ。

察するに魔王は紅の宝石と『契約』したのだろう…。

私の兄弟と…」


「その言葉を呟いた直後、やつの身体は紅い光を纏い、髪や瞳も同じ色になった」



か、完全に俺たちと同じじゃないか…。

てか髪の色が変化するのは知ってたけど、瞳の色まで変わってたのか。

もし次『同調シンクロ』する時あったら、自撮りしてみようかな。



「そいつの能力は何だったのだ?

『契約』したのなら特異な能力が現れてるはずだ」



そうか、ルカとの『契約』が完了したあと、『転移テレポート』を見せてくれたっけな。

というと、紅の宝石はそれとはまた別の能力があるのか?



「単純だ。奴の身体そのものである。

力、速さ、反射神経など、身体能力の次元が違っていたのだ」



何だって!?

あ、だから武器を何も持たなかったのか…。

いや、そいつ自身の身体が武器になったのか?



「………」



ルカはクルクルまわり始めた。

あ、考えて込んでる時のアレだ。



「それで、そのあとはどう戦ったんですか?」



黙ってるルカに代わり俺が訊いてみる。



「『戦い』などと、とても呼べたものではなかった…。

ただの一方的な蹂躙だった」


「そんな…」



つい先程、俺もルカの力を借りて戦ったから分かる。

宝石スフィア』の力は凄まじい。

俺より数倍身体のでかいマッチョ達と渡り合えたんだからな。

しかもリンチに近い形にも関わらずに。



「だが、わしらもただやられた訳ではない。

魔王を討つことが不可能と判断した場合の『切り札』を使ったのだ」


「切り札?」


「レイト君。

昨日、我が家へ来訪した際に魔法の説明をしたと思うが、そのことは憶えているか?」



いきなり話題が変わった。

それって歓迎会の前に村長と話したことだよな?

あれは…



「たしか、魔法には大きく分けて3つあるんでしたっけ?

戦闘魔法と生活魔法と…あれ?

もう1個って聞いてませんね」


「『究極魔法』。それが3つ目の種類だ」



『究極魔法』…なんだかすごい響きだな。

どんな魔法なのだろう?



「『究極魔法』は原則使用禁止の魔法なのだ。

魔力マナが足りない者が使うと寿命を縮めるか、最悪使用者が死んでしまうからである。

例としては『召喚サモン』、『結界エリア』、『精霊スピリット』などだ」



お、おっかない魔法だな…。

そういえばフレイも『召喚』魔法のこと何か言ってたっけ。



「そして、切り札というのがこの『究極魔法』のことでな。

使用した魔法は『封印ジーゲル』。

その効果は敵を次元の狭間へと封じ込めるという凄まじい魔法だ」



魔王を封印…。

完全にフィクションの世界だな。



「もしかしてその魔法をウィルムさんが?」



村長は首を横に振った。

あれ、違うのか。



「その魔法を使ったのはわしの妻、レティ・シュバルツァーだ」


「ええ!? フレイの母ちゃんがですか!?」



村長は重々しく頷いて肯定した。

驚きだ…まさかお母さんまで闘ってたなんて。



「彼女は身体こそ弱かったが、魔力マナの圧倒的な潜在能力と機転、なにより気高さは、レジスタンスの誰よりも優っていたのだ。

そして彼女は捨て身で『封印ジーゲル』を発動し、見事魔王の封印に成功したのである」



なんて戦いなんだろう…。

日々を争いとは無縁の世界で生きてきた俺には、とても想像なんてできない。



「だが、その代償は確実に彼女の寿命を縮め、身体を蝕んでいった。

それでも彼女は絶対に死ぬわけにはいかなかったのだ。

『封印』の効果は使用者が死ぬと少しずつ弱まっていき、最終的に破られてしまうからだ」


「………」



だが、死んでしまった…。

そうなると…。



「分かるか? レイト君。

妻は10年前に亡くなってしまった。

それによって魔王の封印は解け始め、もうすぐ復活しようとしてるのだ。

そしてその時が来た瞬間、世界は今度こそ終わる」



ゴクリと唾を飲んだのは俺だ。



「だが、そんなタイミングで突然、この世界へお主たちが現れた。

しかも、魔王と似ている力を宿してな」



え?

待て…なんか嫌な予感がする…。



「あの、村長?」



俺が言う前に村長が拳を握り…叫んだ。



「わしにはこれが運命としか考えられん!

レイト君、どうかルカ君と共に魔王を討ってもらえまいか?

もはや、お主たちに賭けるほかないのである!」


「…………」



聞きたくない言葉だった。

だって俺、ただの学生だよ?

そんなペーペーが魔王なんてとても…。



「零人」



それまで黙っていたルカがようやく口を開いた。



「ルカ?」


「私からも、頼む」


「ええ!?」



よ、予想外だ!

なんだかんだ言って俺の身を案じていると思っていたんだけど…。



「私はあいつを…兄を救いたい」


「ルカ? まさか記憶が…?」



そうか、ずっと考え込んでいたのは必死に思い出そうとしたためか!



「ああ。

私は大切な兄弟の一人、『撃の宝石パワー・スフィア』を魔王から助け出したい」












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