第3話:宝石と転移(後編)


☆間宮 零人sides☆



ピピピっとアラームの音が聴こえる。

どうやら朝になったみたいだ。

でももう少しだけ…。

携帯のアラームをスムースにして、再び眠る。


うーん…。


寝返りを打った瞬間、目の前に綺麗な寝顔のエルフが現れた。



………………………………………………………



「……は?」



え、この人昨日話してたフレイだよな…?

眠気でぽやぽやしてたが一瞬で吹き飛んだ。


ま、まさか俺…お世話になる初日から早々その家の娘に手を出しちまった!?

ガバッと上体を起こし記憶を遡る。


えーと…絵本を読んでもらって、フレイに美味しかった料理を質問されてて、それからルカは携帯を置いた横にちょこんと寝て、俺もそのままベッドに入った…。


うん、間違いない!

間違いなくあの時点では俺とルカ、2人だけだったはずだ!


じゃあなぜこいつがここにいる!?



「うーん、ママぁ…」



フレイはまだ夢の中のようで、あどけなくスヤスヤ眠っていた。

むぅ、どうしたもんか…。

このまま起こすのは少し可哀想な気が…。


俺が悩んでいるとガチャっと扉が開いた!

ぬうっと、ウィルム村長が入って来た!


や、やべぇ!



「おはよう、レイト君。

昨晩はよく眠れた…か…?」



親父さんの目線が俺の隣にいる愛しの娘さんへ向けられてしまった…。

あかん、ぶち殺される!



「あ、あのこれは違うんです!

誓って俺は娘さんに何もしていません!」


「あー、オホン。

早速お盛んなのは結構だが、避妊はしっかりな?」


「ちがうんですぅぅぅ!!!」



すると村長はニヤッと笑った。



「冗談だ。朝ごはんができているぞ。

顔を洗って食堂へ降りて来なさい」


「え、えぇ!?」



いや、普通自分の娘とよく分からん馬の骨と同衾なんてしてたらブチ切れない!?

村長おおらか過ぎる…。



☆☆☆



「夢遊病、ですか?」


「ああそうだ。

フレデリカは子供の時からあの癖があってな。

たまに廊下で寝ていたり、わしの部屋に入ってくることがある」



村長が作ってくれた朝ごはんをいただきつつ、フレイの訳を聞いた。

メニューは卵焼きとブレッドと昨日も出てきたスープだ。

とても美味しいです。



「あの癖が出てくるようになったのはわしの妻、つまりあの子の母親が亡くなってからだ」


「…!」



そうだったのか…。

そういえば寝言で母親の夢を見ていたようだったな。



「昨日フレイから聞きました。

なんでもご病気で…」


「ああ。妻は昔から身体が弱くてな。

フレデリカは小さい頃から甘えん坊だった。

彼女がこの世から旅立った日はそれはもう、泣きに泣いていた」


「……」



当時の彼女の心情を想うと、きゅうっと胸が締めつけられる。

もう少しあいつに優しく接しよう…。



「だからだろうな。

あの子がお主に懐いてるのは」


「えっ?」



『懐いてる』?

あまりそんな感じはしないけど。



「お主はなレイト。

フレデリカの母に似ているのだ」


「は、はぁ? でも俺、男ですよ?」



流石に異性で似てるというのは無理があるのではないだろうか?



「そういう意味では無い。

似てると言ったのは容姿ではなく、雰囲気や言葉遣い、そして他者を思いやることができるその〝心〟だ」


「そ、そんな…、恐れ多いです」



フレイの母ちゃんは俺みたいな性格だったのだろうか?

だとしたらあいつと相性悪そうな感じするけど…。



「昨日の料理でお主のテーブルにサンドイッチが置かれていただろう?

あれはな、料理が苦手なフレデリカが唯一、母に褒めてもらったものなのだ」


「あ!」



そうか!

だから昨日俺に感想を聞いてきたのか!



「あの子は自分ではもう大人のつもりだが、実のところまだまだ甘えん坊のおてんば娘だ。

お主に母を重ねて接しているかもしれない。

だがそれでも、お主にはあの子と友達になってあげてほしい」



そう言ってウィルム村長は頭を下げた。

フレイのこと、本当に大切に想ってるんだな…。



「ウィルムさん…俺とフレイは初めて会った日に固い握手を交わしました。

もう既に友達…いや、戦友ですよ!」



すると村長は少し驚いた様子のあと、穏やかに笑った。



☆☆☆



食べ終わったあと、ルカとフレイが2階から降りてきて少し遅めの朝食を取り始めた。

俺は流し台の所で食器を洗っている。


生活魔法はもちろん使えないが、魔道具アーティファクトなる物を利用して洗浄している。

なんでも、不慮の事故や病気で生活魔法が使えなくなった時の非常用のアイテムらしい。


これがあれば俺でも家事を手伝えるのだが、魔道具アーティファクトは高価らしく、一家に一台…あ、いや1個しか買えないようだ。


なので現状俺ができる家事は皿洗いくらいだ。


俺と村長の分を洗い終わったあたりで、声が掛けられた。



「レイト君。お主に頼みたい仕事があるのだが、お願いできるか?」


「はい! もちろんですよ村長!

『働かざる者食うべからず』なんて言葉が俺の国にあります。

俺にできることならなんでもしますよ!」



元気よく答えたつもりだが、なぜか村長の眉間にシワがより目が細められた。

えっ、なんかマズった?



「『なんでも』。今そう言ったな?」


「は、はい…あ、でもあんまり無茶なのはちょっと…」


「ついて来なさい」



そう言うと村長は俺を連れて外へ繰り出した。

やべぇ、調子乗ってなんでもなんて言うんじゃなかった…。



☆☆☆



すごすごと村長に連れられて村の中央まで歩いてきた。

するとそこには、先日歓迎会の時にお話したマッチョの兄さん達が列を組んで走っている姿が見えた。


ここは…?



「ここはガルドの訓練所である。

村の戦士たちはここで日々切磋琢磨し、己の武を向上させる」


「そ、そうなんですね。

その、ここで訓練した人達は狩りとかするんですか?」


「もちろん訓練の一環や食料の調達で狩りもするが、わしらの本業は『傭兵』である」



傭兵?

それってお金をもらって戦うあの…?



「『ガルドの牙』。

それがわしらの異名コードネームだ」



おおお!

なんかめっちゃかっこいい!


ん、待てよ?

そんな凄い傭兵達の訓練所に連れられたってことは…!



「あ、あのもしかして…」


「む? 娘たちもようやく来たようだ」



俺が最悪の予想を確認する前にルカとフレイが合流してきた。



「パパ〜。

自分だけ勝手にレイトを連れて行かないでよ。

少しくらい待っててくれてもいいじゃない」


「零人、朝ご飯もすばらしい献立だったな!

今から昼ご飯が楽しみになってきたぞ!」



宝石とエルフ女子がわーわー言ってる。


いや、それどころじゃないんだってば!

俺の焦りの感情など露知らず、フレイが村長の前に出る。



「パパ、ここに来たってことは…やるのね?」


「ああ、そうだ。

レイト君に失望されないようしっかりな」


「任せて!」



なんだ? 何が始まるんだ?

俺がオロオロしていると、ルカがふわふわと隣にやってきた。



「ここは訓練施設のようだな。

どうやらシュバルツァーが戦うようだぞ」


「そうだな…あの村長?

もしかして今から訓練をするんですか?」


「そう、これより執り行うはガルド式戦闘訓練である。

代表者1人が力尽きるまで戦士たちと戦っていき、勝ったものは新たに代表者となる。

そして最初に戻り、これを繰り返すのだ。

全員力尽きるまでな」



なるほど、要は勝ち抜き戦の訓練ってことだな。

ていうかとんでもないやり方の訓練だな…。

すんげぇ脳筋過ぎる…。



「さーて、やるわよ〜」



あれ、フレイが初っ端から代表者になった!?

だ、大丈夫なのか?



「あ、あのウィルムさん?

いきなり娘さんが代表者やるみたいですけど、大丈夫なんですか?」



俺の頭の中にはどうもドラゴンの一撃でやられたイメージが残っていた。

しかし、俺の心配を村長は笑い飛ばした。



「フレデリカはな、この訓練法でいまだかつて力尽きたことがないのだ。

毎回、フレデリカから始めるとものの数分で全員と決着が着いてしまう」



えええ!?

あいつそんなすげぇ女だったの!?


たしかにスタミナはありそうだけど…。


それにしたって全員相手するとなると30回戦以上じゃねぇか?

とんだフィジカルモンスターや…。


俺ががく然としていると、カーンと試合の開始を知らせるゴングが鳴り響いた!

は、始まった!


フレイは刃の付いていない模擬の槍を持ち、相手に向けて構えた。



「さあ、いつでもかかって来なさい」


「っしゃーーーすっ!

フレイ先輩! 胸を借ります!」



相手の男が地面を蹴り、フレイへ肉迫する!



「おおおお!」



男が棒をグッと握り、フレイの上体へ向けて勢いよく振り抜いた。



「ふん、甘いわね」


ヒュッ!


フレイは海老反りに身体をくねらせ、男の一撃をかわした!



「はぁっ!」


ドム!


そのまま反転する形で脚を使って相手の武器を蹴り飛ばし、フレイの鋭い突きが相手の鳩尾へクリーンヒットする…。



「ぐあああぁ!!

うう…あ、ありがとうございました…」



男はドサリと地面へ倒れた!

な、なんだそりゃあ!?



「さぁ、次よ! どんどん来なさい!」


「「「うーーす!!!」」」



その後もフレイは次々と屈強なマッチョ達を華麗な動きで翻弄し、そして容赦なくブチのめしていった。


………今後あいつに喧嘩売るのは控えた方がいいかもしれない。



「ふぅ、ま、こんなものね」



大して息が上がってないフレイに対し、周りの連中は潰れているか、下を向いて過呼吸のような状態になっている者がほとんどだ。



「ね、どうだったレイト? 私の闘いは?」



フレイがこちらへ駆け寄ってきて、期待を込めた眼差しで訊いてきた

やべぇな、下手な感想言ったら俺もあれになるぞ。



「あ、ああ。素晴らしき闘いでございましたよ、フレデリカ様」


「は? なによそのキモい言葉遣いは?」



いかん、あがって変な口調になった。



「さて、レイト君。

お主をなぜここに連れて、そして今の訓練を見せたか分かるか?」



最初に村長に確認しようとしたことを、このタイミングで訊いてくるってことはもう1つしかないじゃん…。



「俺もこのに参加しろってことですね…」


「いや違う」



あれ? 今の流れ的に訓練じゃないの?



ではない。だ」



村長はニヤリと笑い、わざとらしく大きな声でフレイに話しかけた。



「おおっ!? フレデリカよ!

婚儀の刃ウェディングダガー』はいったいどこへしまったのだ!?」



な、なんだ!?

フレイはポカンとして答える。



「レイトにあげたけど…」



その瞬間、倒れていたマッチョ達が一斉に起き上がった!



「「「マミヤレイトぉぉぉぉ!!!!」」」


「はぁ!? なんだ!?」



さっきまでくたばっていた男達が一気に復活し、そして俺に殺気を向けてきた!



「許しておけねぇ…!」


「よくも俺たちの姉御を!」


「貴様の命日は今日で決まりだ…!」



え、え、なんで!?

昨日皆であんなに仲良く飲んで食べて笑ってたじゃん!



「ふむ、零人。

彼らのエネルギーがとてつもなく躍動しているのを感じるぞ。

そしてその矛先は全て君のようだ」



ルカが俺の隣へやってきて忠告してきた。

いや、そんなのひと目で分かるわ!

急いで村長に詰め寄る



「ウィルムさん! どういう事ですか!

あの人達から全員殺意を感じるんですけど!?」



村長この事態の元凶は申し訳なさそうに答えた。



「うむ、実はわしも含めてガルドの戦士たちは黒竜ブラック・ドラゴンと渡り合った力をこの目で見てみたくウズウズしていてな。

だが、お主はここへ来てまだ日が浅い。

徐々に暮らしに慣れてもらってから訓練に参加してもらう予定だったが、あいにくわしは、人は逆境の環境へ身を置いてこそ輝くことをポリシーとしていてな。

急遽、フレデリカの件を利用させてもらったのである」


「は、はぁぁぁ!?」



なんだそりゃあ!?


人は逆境で輝くってんなら、ここに来るまでに充分輝いたよ!!

ていうかフレデリカの件ってなんだよ!?



村長は親指を立ててニカッと笑った。



「殺らなければ、殺られるぞっ☆」


「村長ぉぉぉぉ!!!」



そう言うとあのクソ親父はフレイを担ぎ上げ、その場を去ろうとした。



「ちょ、ちょっとパパ!?

いきなり何すんのよ! レイトが危ないわ!」



フレイポコポコと背中を叩くが、村長は問答無用で居なくなってしまった…。

ああああ、フレイにまで置いてかれた!

俺にもう味方は…。



「よし、零人。

ここは力を合わせようではないか」



いた。

そうだ俺には頼れるルカ姉さんがいるんだ!



「ああ、そうだな!

さっさとこんな暑苦しいマッチョ村おさらばしようぜ!」



しかしルカの返答は俺の求めるものではなかった。



「違う。

先程のシュバルツァーのように奴らをすべて叩きのめす」


「は、はぁ!? んなことできるか!」



いきなり何を言い出すんだこの石ころは!



「おや、零人?

昨日私に『ドラゴンに勝ったのは2人の力だぜ!』とカッコつけて言っていたではないか。

ドラゴンに勝てて、エルフに勝てん道理はない」



なっ! 確かに言ったけども!

今考えるとものすごく恥ずかしいセリフだったんじゃあ…



「それに今は力が有り余っていてな。

食後の運動といこうじゃないか」



確かに昨日からルカさんは食べてまくってましたねぇ!

食べた物はエネルギーに変換してるのか…?



「むっ! 零人、正面だ! 避けろ」


「くたばれァァァ!!!」



青筋をビキビキにしてるマッチョの1人が、ゴウッ!と棒を振りかざして来た!



「っぶねぇぇ!!!」



身をよじり、間一髪で攻撃を避ける!

そして全速力で奴らから距離をとった!



「さて、零人。ここからは反撃の時間だ。

まずは私と合体する。

ドラゴンの時のように心を合わせろ」



合体って…ああ、同調シンクロの事か。

てか言い方よ! 変にいやらしいな!



「分かったよ…!」


「行くぞ…!」


「「『同調シンクロ』!」」



トポン…と身体の中にルカが入ってくるのを感じる。

そして俺たちは溶け合い、ひとつになった。


ボン!


「「「うあああ!?」」」



その瞬間、俺を中心にルカの蒼いエネルギーが爆発した。

俺を潰そうと接近してきた男たちは、その爆風で吹っ飛ばされる。



「零人、私の声が聴こえるか?

今から転移テレポート能力の使い方を覚えていくぞ」



ルカの声が身体から響いてきた!

すげ、溶け込んでるとこうなるのか!


そうか、本来はこんな感じで『同調シンクロ』するんだ。

さっきまであんなに焦っていたのに、今は随分と冷静な気持ちだ…。



「ああ! 何をすればいい?」



ルカに指示を仰ぐ。



「まずは君に座標の作り方を教えよう。

目の前に吹っ飛ばされて立ち上がろうとしているエルフが見えるな?

最初はこいつがターゲットだ」


「わ、分かった!

どうやって座標を作ればいいんだ?」


「イメージしろ。

私のエネルギーが奴の顔へくさびを打つ、そんな感じだ」



クサビ、クサビ…。

言われた通りにイメージする。


ポウ…


すると、男の顔の真ん前に蒼色の輪っかが出現した!

これが…座標…?



「…できた! あとは?」


「次はいよいよ『転移テレポート』だ。

腰を落とし左脚を引いて、右手のてのひらを相手に向けろ。

そして先程の楔にロープを繋げるイメージを完成させ、勢いよく引く!

さあ、やってみるんだ」



指示通り身体を動かし、輪っかにロープを繋げるイメージをする…。

すると今度は突き出した右手から、蒼のエネルギーが伸びて輪っかと結び付いた!


よし、あとは勢いよくぅ…引くっ!!


ブン!


その瞬間、独特の音が鳴り響き、視界が蒼く歪み始めた。

刹那、色は元に戻っていき、気付けば目の前にマッチョが現れていた。


ドン!


右手の掌が相手の顎にぶつかった!



「ぶべら!?」


「「「!?」」」



男はきりもみ状態で後ろへ吹っ飛んだ!

格ゲーで言う掌底突きのように決まったようだ!

す、すげぇ! こんな感覚初めてだ…!



「「「なんだと!?」」」



周りのマッチョ達がどよめく。

先程の転移掌底拳(今考えた)を警戒してか、全員踏み込みを戸惑った。


再びルカの声が身体から発せられた。



「どうだ、理解したか?

今の力が私の『転移テレポート』だ」


「ああ! なんというかすごいな!

生まれて初めて人を殴っちゃったけど…」


「気にするな。これは『正当防衛』なのだ。

思う存分、力を振え」



一瞬過剰防衛なんじゃ?って思ったけど、向こうはムキムキのエルフゴリラ数十人に対して、こっちはか弱い日本男子1人と光る石1個だけだ。


うん、これならどれだけぶち回しても問題ないな!



「よっしゃあ! おいてめぇら!

全員まとめてかかってこいやぁ!」


「新入りの分際で舐めてんじゃねぇぞ!!!」


「フレイさんのためにも必ず殺す!!!」


「おんどれのケツ穴に槍ぃ刺しこんじゃるけぇのぉ!」



煽ると全員分かりやすく挑発に乗ってくれた。

なんかいま若干1名広島弁みたいな奴いたけど…。


いちばん遠い位置にいる男の頭の上に楔を打ち、身体からロープを飛ばす。

そして上に跳び上がり、膝を前に突き出したタイミングでロープを引っ張った!


ブン! ドゴッ!!


「ぐはぁ!?」



俺の膝蹴りが男の顔面へ命中し、思い描いた通りの飛び膝蹴りが完成した。

ああ…なんだろう、すっげぇ気持ちいい。



「フフ、上手じゃないか零人。その調子だ。

引っ張るイメージを逆転させれば、敵を任意の場所に飛ばすことも可能だぞ。

いろいろと試してみてくれ」


「おーけー! やってやるよ!!」



そしてガルドマッチョ達との死闘が始まる。



☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆



パパにいきなり抱えられて訓練所から離れて行ってしまった。

ああ! 皆レイトに怒ってる! 助けないと!


だけどパパに何度抗議しても降ろしてくれない。

いったいどこへ行く気なのよ!?



「さぁ、特等席からレイト君の戦いぶりを一緒に観ようじゃないか」



ようやく降ろしてくれたと思ったら、そこは村のやぐらの上だった。



「レイトの戦い? ダメよ! 助けなきゃ!」



急いで下に向かおうとするとパパに腕を掴まれて制止された。



「フレデリカ。

わしがここに連れてきたのには理由がある。

まずは様子を見るんだ」


「で、でも…!」



そんなモタモタしてたら…。

と、レイトの方へ視線を移すと今まさに殴りかかられていた!



「あ、危ない!!」



レイトは変なポーズをとってギリギリ攻撃をかわした。


ほっ…。

胸を撫で下ろすと、パパの視線が鋭くなった。



「フレデリカ、そろそろのようだぞ。

しかと見るのだ」


「え? 何のこと…って何あれ!?」


ボン!


爆発音が聴こえたその瞬間、レイトの身体は蒼い光で包まれていた。

髪の色も黒から蒼い髪へと変化して、目を凝らしてよく見ると瞳の色も蒼に変わってる…?


けど、変化したのはそれだけではなかった。


なんとレイトは転移テレポートを使って戦士の1人を吹き飛ばした!


ええ!?

あいつヒョロいのによくウチの野郎をぶっとばせたわね!?


あ…す、すごい…!


それからもレイトはただ転移して殴るだけではなく、殴りかかってきた相手を転移させ、別の相手にぶつけるなんてトリッキーな戦法も見せていた。


そんなこれまで見たことがない闘いに思わず魅入っていると、パパが険しい表情で呟いた。



「やはり、あの力は…似ている」


「似てる?

パパ、転移能力を見たことあるの?」


「いや、そっちじゃない」



え、どういうこと?

レイトは転移テレポートしか使っていないじゃない。



「フレデリカは気づかなかったか?

あの蒼い石…ルカと言ったか。

彼女はレイト君と融合して戦っているのだ」


「融合!?

あ、だからあんな身体とか髪の色が変化したの?」



そういえば昨日、ルカの能力を聞いた時に『同調シンクロ』とかなんとか言っていたわね…。



「おそらくな。

わしが似ていると言ったのはその力の事だ」


「パパ、他に使える人に会ったことあるの?」


「ああ。それどころか一戦交えたことがある」


「ええ!? 誰よそれ!」



パパは一呼吸を置き、その人物の名を口にする。



「我ら全人類の天敵、『あかの魔王』だ」







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