第31話 サッドさんの開拓村の反応

 いきなりサッドさんの村人達に注目されて、思わずそっと扉を閉めようとする僕。


 「わあ!クレイ、待て待て!お前も来てくれって!」


 ベルグさんの力でズズズズッとあっち側に引っ張られた僕は、結局サッドさんの村人達の前に来ちゃったんだ。


 うわぁ……何でこんな事に?


 すると後ろから現れた頼れるブラムさんが、僕を庇ってサッドさんに尋ねてくれたんだ。


 「サッド、久しぶりだな。この集会は何か説明してもらってもいいか?」


 気を取り直したサッドさん。ブラムさんの言葉で立ち上がって、事情を話してくれたんだけどね。


 どうやら、ベルグさんが到着した時、丁度サッドさんの村の集会中だったんだって。それも、僕らの村と同じように国から見放された事で、どう行動するかを決議中。


 サッドさん達も手を尽くしていてね。領主の街に避難民受け入れ要請を出したりしていたんだけど……


 「領主の街でも受け入れが出来る人数が少なくてな……」


 そう言って悔しそうに教えてくれるサッドさん。そこに到着したベルグさんに、お父さんの村はどうなったのか確認したんだって。


 そしたら、逃げないで立ち向かう姿勢をとる事を聞かされたサッドさん。僕達の村は死を覚悟したと思ったんだって。勘違いされたベルグさんは、何とかサッドさんにわかってもらおうと説明したんだけどこの状態。


 そして一人、サッドさんの村中から針のむしろ状態になったベルグさんがとった行動が……


 「……実際に見せるしかねえと思ったんだよ。俺だけじゃなくてウチの村が非難されるのは、流石に腹立ってな」


 ついやっちまった、と反省するベルグさん。でも、村の事を悪く言われたら僕も怒るだろうし、ベルグさんを責められないなぁ。それを聞いて更にスッと前に出たブラムさん。


 「うむ、状況はわかった。で、サッド。お前は今、この扉を潜る勇気はあるか?」

 「……正直ねえな。クレイに能力がある事はわかったが、そっちに行った所で未来は見えん」

 「そりゃそうだろうな」


 意外にもサッドさんの意見に同意したんだよ。そしてクルっと村人達の方に向かって叫んだんだ。


 「全員聞いてくれ!」


 すると、さっきまでざわざわしていた村人達が少し静かになったんだ。


 「何もない空間からクレイや俺が出てきて、いきなり扉が見えて驚いた事だろう。……だが、クレイの力はこんなものじゃない」


 一呼吸置いたブラムさんは、みんなの顔やサッドさんを見て更に大きな声で訴えたんだ。


 「いいか!俺達の村には希望がある!

  生き抜く手段がある!戦う力がある!

  信じたい奴らだけ、明日の朝ここに来い!

  集まった村人全員を受け入れる事をここに宣言する!」


 ブラムさんは希望の言葉の時、僕を抱き上げたんだ。

 サッドさんにも、村人全員に僕を見せる為に。


 でも、ブラムさんが語り終えた後、その場はまた大きなざわめきとヤジが飛び出したんだ。


 だから、すぐ様僕を守るように扉に戻してくれたんだよ。その後ベルグさんとフォレストホースを呼んですぐにブラムさんも帰ってきたんだ。サッドさんや村人達に目もくれずに。


 帰ってきたブラムさんは扉を閉めて、ふうっと息を吐いたんだよ。そして、ようやく普段の穏やかなブラムさんの表情に戻った時、僕思わず抱きついちゃった!


 「ブラムさん!かっこいい!」

 

 抱きつく僕を受け止めながらも、苦笑するブラムさん。ベルグさんも、ブラムさんの背中を叩きながら褒めてたよ!


 「こちらは善意で行ったつもりでも、あちらからすると厄介事が来たとしか受け取られない事はよくある事だ。だったら証拠を見せて、後は相手に考えさせるだけで良い。……いいか、クレイ。あとは、どうなろうと相手が決定した事だ。お前は重く考えるなよ」

  

 僕の頭を撫でながら気遣ってくれたブラムさん。その後ベルグさんには、「叩きすぎだ」って背中を叩き返していたけどね。 


 ブラムさん優しいなぁ。そして、多分ベルグさんの役割の分も代わりに背負ってくれたんだ。あの状態では村人やサッドさんに理解してもらうのって難しかっただろうし。

  

 こういうのって前世を覚えていても出来るものじゃない。ブラムさんの経験値の高さだろうなぁ。


 そんな事を、起きて来たお父さんに言ったらね……


 「くそっ。ブラムにいい所取られたか……!」


 そう言って悔しがってたなぁ。でも「だから頼りになるんだけどな」って笑顔で呟いてたけど。


 うん、お父さんも割り切っているんだね。ただ何もせずに見ているだけはしたくなかっただけなんだって。僕らには出来る事に限りがあるもの。


 だからその日は気にせずに箱庭の扉の中で、いつも通り過ごしたよ。出来る事からやっていかなきゃね!


 そして次の日の朝……


 「じゃ、呼ぶまでクレイは待機だ」


 そう言って、パニックルームの箱庭の扉を潜って行ったのは、お父さんとブラムさんとベルグさんの3人。


 僕もソッと扉を覗いて見たらね……


 ザワザワと賑やかな広場の前。お父さん達が集まった人達に説明していたんだ。その中にはサッドさん家族の姿もあったよ!


 うわぁ、来てくれたんだ!


 僕嬉しくってずっと様子を見てたら、いきなり目線が高くなったんだ。どうやら、お父さんにヒョイッと持ち上げられたみたい。


 「凄いぞ、クレイ!思った以上に集まった!……だが念の為、クレイは俺が抱いている状態で、集まった人達を登録していってくれ」


 そう言って片腕抱っこをするお父さん。でも、片方の手には用心の為剣を抜いたまま持っていたんだ。ブラムさんはお父さんの右側、ベルグさんは左側に待機していたんだよ。


 それで、サッドさんが村人達に呼びかけてくれて、登録が始まったんだけどね。なかなかみんなが来てくれなくてねぇ。


 そんな中で1番に並んでくれたのは、サッドさんの奥さんのミュゼさん。


 1番目って何でも勇気がいるよね。それに疑念があったら1番にはなりたくないもの。って事は、サッドさん家族はお父さんやブラムさんを通じて僕を信頼してくれたって事だよね!


 へへへっ、嬉しいなぁ。


 ミュゼさんは少し戸惑いながらもチーム作成登録をして、先陣を切って扉を潜ってくれたんだ。


 先に誰かが上手く行けば、後は並ぶのは早かったよ。

 それにチーム作成登録もね。


 終わってみれば、サッドさんの村から移動して来たのは全部で75人。うん、ちょっと登録出来る人数ギリギリだったなぁ。危なかったぁ。


 その後、扉を完全にサッドさんの村から切り離す前に、お父さんは残った村人達に言ったんだ。


 「後で考えが変わったなら、俺の村まで直接来い!」


 その言葉を聞いて、サッドさんの表情は少し柔らかくなったかな。やっぱり、村人を残して行くのはかなり勇気がいる事だったんだ。お父さんもその辺り、気にかけてたもんね。


 でもともかく、覚悟を持って来てくれた人達を歓迎しなきゃね!


 「皆さん!僕らの村にようこそ!」

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