第26話 隣の開拓村の決意

 ジニー兄さんがフレック兄さんに連れ戻された朝。念の為キドさんも一緒にドボルグさんの村に行ったんだ。


 でもその日は戻ってこなかったキドさんと兄さん達。


 チームゲートホンで確認するとね……『今ドボルグ達と話し合いをしています。終わり次第連絡します』だって。


 色々救援物資に入れちゃったからかなぁ。

 ……普通の開拓村で出来る事じゃないもんね。


 僕がつい呟くと、丁度一緒にいたブラムさんが僕の頭を撫でながら「クレイが気にする事じゃない。大人に任せておけ」って言ってくれたんだ。


 やっぱり大人がいると心強いよね!


 それはフレック兄さん達も一緒だったみたい。でも、それから数日間定期連絡のみで、キドさん達は未だ帰って来てはいないんだけどね。


 どうしたのかなぁって思っていると、大人達の方には動きがあってね。相談役のブラムさんが呼ばれたり、畑の箱庭のファストさんや鉱山の箱庭のダウロさんも呼ばれていたみたい。


 なんか大事になっているけど、どうなったんだろう?


 そんな事を考えながらも、こっちはこっちで商業区の開発に勤しんでいたんだ。


 まずはメインの建物として、キドさんの雑貨商店とマーサさん達の服屋兼寝具店。これは村の顔になるだろうって二階建の大きな商店にしたんだ。


 因みにキドさんの商店の中に、キダル兄さんの燻製屋とエイミ姉さんの乳製品と卵を扱うお店が入ったよ。


 そして、マーサさん達のお店も、エナさん達のバッグや靴屋が入ったんだ。大きさで言えばマーサさん達のお店が1番だね!


 そして、お母さん達の八百屋、ロン兄さん達の武器・防具屋も結構な広さになったなぁ。特にお母さん達は、畑の箱庭の小麦やお米お茶も扱うからね。武器・防具は場所が必要だから当然だけどね。


 意外にも、小さくて良いと言ったのが、薬局のファストさんと魔導具屋のダウロさん達。その理由はこれ。


 「見ろ!クレイ!お前の箱庭バーチャルキーからヒントを貰った映像魔導具!しかも見たい物がすぐに見れるようにしたんだ!これでマジックボックスさえ有れば、店なんぞ小さくても構わないぞ!」


 ドボルグさんの村に行く前に、自慢気に見せてくれた映像魔導具。これタブレット端末みたいだから、僕が思わず言った言葉を参考に名前が魔導パッドになったよ。


 まあ、それもドボルグさんに見せるんだって持って行ったみたいだけど、どうなっているのやら?なんて事を考えていたらね……

 

 『クレイ。温泉の箱庭のバーチャル錠を解除してくれないか?』


 翌日の朝、僕が顔を洗っているとブラムさんからの許可申請が来たんだ。


 そろそろ帰ってくるのかな?


 そう思いながら許可を出すと、しばらくしたら僕の家にブラムさんが訪ねて来たんだ。


 「お帰りなさい、ブラムさん!」


 僕がお母さんに呼ばれて玄関に出て行くと、ブラムさんは苦笑いしながら頼み込んで来たんだ。


 「クレイ、一緒にドボルグの村に行ってくれないか?」


 僕が理由を聞くとブラムさんから出た言葉は……


 「ドボルグ達がこの開拓村に合流する事になったんだ」


 僕、思わず玄関先で叫んじゃったよ。そしたらナーシャまでアルを連れて起きて来ちゃった。


 「詳しい事は歩きながら話そう」


 何やら急ぎの様子のブラムさん。既に着替えていた僕は、ブラムさんに連れられて家を出たんだ。今回はアルも一緒に来たんだよ。


 ナーシャも一緒に行きたがったけど、お母さんが止めていたみたい。お母さんには、チームゲートホンで夕べのうちに連絡済みなんだって。


 ブラムさんの説明によるとね。やっぱり色々あり得ない物を持って来たフレック兄さん達に、ドボルグさんの村人達が疑問を持ったんだって。親交のある村同士だったからね。


 誤魔化すのも限界と思ったフレック兄さん達は、キドさんを連れて戻ったんだけどね。そのキドさんも村の事が出て来たから、箱庭バーチャル錠を使ってブラムさんを召喚。そこから、ブラムさんとドボルグさん達で話し合いが始まったんだって。


 その中で、瘴気痘ポーションの事や魔導具の事も聞かれて、ファストさんダウロさんも呼ばれたみたい。その時原材料や作った魔導具を持って現れた2人。


 ドボルグさんの村の人達は、流石にブラムさん達の話が本当だと理解した後、二日程ドボルグさんの村の人達だけで話合いをしていたみたい。


 牧場の箱庭の兄さん達はブラムさんの護衛として残ったけど、ファストさんダウロさんはこの時点で村に帰還。


 残ったブラムさん達は、ドボルグ村長さんのお宅でお世話になっていたんだって。そして昨日ようやく村としての結論が出たみたいなんだ。


 結論は、さっきブラムさんが言った僕の村と合流する事。でもね、合併じゃなくて合流だよ!驚きの決断だよね。一から作った村を離れるのって苦痛だろうし……


 そう話しながら温泉の箱庭の扉をくぐると、そこはドボルグさんの家のリビングの中。


 「クレイ!久しぶり!」


 会うなり僕に抱きついて来たのは、ドボルグさんの息子のレイン(7)。人懐っこくて、僕も来るたびに遊んで貰っていたんだよ。


 そこにはドボルグ村長さん(39)、奥さんのキラさん(38)。娘のミヤさん(15)も待っていたんだ。


 ん?フレック兄さん達が居ない……?


 「よく来てくれたクレイ!さあ、みんなが広場で待っているぞ」


 キョロキョロする僕をドボルグ村長さんが抱っこしてくれたけど……


 ん?広場?みんなが待ってるってどういう事?


 混乱する僕を抱っこしたまま歩き出すドボルグ村長。村長の後を歩くブラムさんに説明を目で訴えてみたけど「行けばわかるさ」とニッコリされるだけ。


 うーん、なるようにしかならないか。


 諦めて連れて行かれるままにまかせたら、なんと広場の真ん中に連れてこられちゃった!村人達はみんな地面に座って待っていてくれたみたい。


 え?何?何が始まるの?


 僕が困惑していると、1番後ろにいたフレック兄さんとジニー兄さんカレン姉さんの姿が見えたんだ。3人とも頑張れってポーズをしているけど……?


 「みんな、待たせたな。この子がクレイ、俺達の村を救ってくれた力の持ち主だ。みんな、昨日の説明を既に聞いているな?」


 ドボルグさんの問いかけに、全員が慎重な表情で頷き返していたんだ。その様子を満足気に眺めたドボルグ村長が、また村人達に語りかけたんだ。


 「俺達は、ここの領主から開拓を請け負ってこの村を作った。だが、見てみろ。領主は未だに様子見にも来やしない。伝令を伝えたにも関わらず……だ」


 これには村人達も悔しそうな表情をしていたよ。その思いを汲み取ったドボルグ村長。語る声が更に大きく力強くなったんだ。


 「だからこそみんなに問おう!このままこの領地にいたいか⁉︎」

 

 ドボルグ村長の問いに、首を横に振りながら声を上げ騒ぎ出した村人達。その状況に頷きながら、更に強く問いかけるドボルグ村長。


 「……ならば!この奇跡の子クレイが作る開拓村に移動する意思のある奴は、立ち上がってくれ!」


 村長の言葉が終わるとすぐ、空気が振動するほどの大声で同意を叫ぶ村人達。その場には、誰一人座っている人はいなかったんだよ!


 これには僕もビックリ!実のところ反対派もいると思っていたからね。そんな僕の様子に笑いながら、ドボルグ村長がこう言ったんだ。

 

 「それだけ、クレイが助けてくれた命に代わるものはないってことさ。開拓に携わった事のある村人達は、恩は絶対に忘れない。安心してお前達の仲間に入れてくれ」


 笑顔のドボルグ村長の言葉に、思わずブラムさんに目を向ける僕。ブラムさんはニッコリ笑って頷いてくれたんだ。


 うん!みんなの気持ちはわかったよ!


 「ゴ主人、早速チーム作成登録をシチャイマショウ!」


 そして、僕の気持ちを汲み取ったアル。早速登録する事を持ち出したんだ。なんかアルによると、登録可能人数が100を超えたから、ゲートキーパーマスターキーに魔力登録するだけでいいんだって。


 その事をドボルグ村長さんに伝えたら、僕を降ろしてくれて村人達を一列に並ばせてくれたんだ。


 僕は早速、チーム作成(登録上限256名) SP80を取得して、マスターキーを取り出したよ。


 僕が持っているカード型マスターキーに、村人達が触れるだけでチーム作成登録の情報が更新されて行くんだ。思わず箱庭バーチャルキーを出して確認しちゃった。

 

 そしてね……ドボルグさんの村人全員が登録し終わると、箱庭バーチャルキーの左側の画面で異変が起こったんだ。


 「ねえ、アル?コモンルームの箱庭の扉とパニックルームの箱庭の扉が点滅しているんだけど……?」

 「キタ!チーム作成登録人数ガ『箱庭ゲートコネクト』ノ基準値ニ届マシタヨ!サァ両方ヲ同時タップシテミテ下サイ!」


 『箱庭ゲートコネクト』? 

 それって一体どうなるの?

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