第17話 『コモンルームの箱庭の扉』って‼︎
お父さん達が王都に出発する朝。
開拓村の入り口は村人達で賑やかだったんだ。勿論みんなお父さん達の見送りに起きて来たって言いたいけどね……
「ウチの領主が乗る馬車さ!これぐらいは当然だろ!」
目の下に真っ黒な隈を作ったダウロさんが、自信たっぷりにお披露目したのはお父さんが乗る魔導馬車。本職が作る馬車は、外装の装飾も凝っていて見事な出来栄えなんだ。それに何より……
「うわぁ!これって馬車なの?すっごい広いよー!」
ナーシャが一足先に馬車の内覧していたんだけどね。一見普通の馬車の大きさなのに、中がとんでもなく広くなっていたんだ!
なんとダウロさん達、簡易箱庭錬金でマジックボックスと馬車を合成出来ないか試したら、それが大成功!
箱庭から出す時、ゲートキーパービューで確認したらね……
[魔導寝台馬車]
外観は普通の馬車だが、内部は亜空間によって拡張された魔導寝台馬車。馬車内は空気循環、消臭魔導具付きで、長期滞在型に改造されている。振動や音も遮断でき、重量はどれだけ内部に収納しても変わらない。寝室3部屋、リビング、魔導個室トイレ、魔導簡易シャワー付き。
凄いでしょう!思いつくままに作れる楽しさの余り、熱中してしまったダウロさんとペギーさん。同じく作る楽しさに目覚めた兄さん達も加わり、四人徹夜してこの馬車が出来たんだって。
まあ、そのおかげで、ダウロさん他3人は撃沈。今ぐっすりパニックルームの箱庭の寝室で眠っているんだよ。
お目付け役の奥さん達は?って思うでしょ。
「どうせ3人共キッチン作っても料理しないでしょ?アイテムボックスに、食料と料理たっぷり詰めたからね」
「ムーグ!肉ばっかり食べちゃダメよ」
ムーグさんにしっかり念を押す、プラムさんとスージーさん。旅の為の料理を他の奥様達と作っていたんだって。
余裕を見つけて様子を見に来た時には、もはや止められない状況になっていた作業場内。そうなるとお目付け役でもどうしようもないから、自分達も楽しんじゃったんだって。だから馬車内のインテリアが充実していたんだね。
そうそう、楽しんだといえばこの二人も。
「良いかい!王都に行くんだ!これくらいの服は着て居ないと恥ずかしいだろ?」
「国王様に謁見する時はこの服ね!」
そう言って、貴族のようなしっかりした服をバースさんに見せるマーサさんとミーナさん。二人も目の下に隈を作りながらも、3人分用意したんだって。
「いや、待て。これ着たら逆に不味いだろ」
バースさんがそう言うくらい、二人が作った服の出来が良すぎるんだ。それを着たら、どこぞの伯爵かって思うくらいの服なんだよ。でも、バースさん達格好良いから似合いそうだなぁ。
で、お父さんはというと、ファストさんに背中をバンバン叩かれながら報告を受けているよ。
「グレイグ、ポーションとハイポーションも積んだからな!あ、でも傷くらいなら軟膏でなんとかなるぞ。他にも薬箱の中に色々詰め込んだから、しっかり使い方読めよ」
そう、ファストさん達は薬の開発にも携わっていたんだ。おかげでポーション飲まなくても、切り傷くらいは完治出来る軟膏を作りあげたんだよ!お母さん達はハンドクリームみたいに使っているけどね。
そんなお父さん達の後ろでは、アバルテケのバルが旅に同行するフォレストホースに声を掛けていたんだ。
《主のお父様達だ。何があっても無事に帰らせるんだ。だが、敵には容赦するなよ》
《勿論です》
《了解》
《わかってるよ〜》
うん、ムーグさんの相棒のキイロは、相変わらずマイペースだね。お父さんの相棒のシロは真面目だし、バースさんの相棒のアカは軽い感じだなぁ。でもフォレストホースが3頭も一緒なら頼もしいよね。
これなら安心だね!と思ってお父さんを見たら、頭を抱えていたんだけど……どうしたの?
「……いや、みんなの気持ちは嬉しい。嬉しいが……明らかにやりすぎだろう……」
ため息をつきながら呟いていたけど、しばらくして顔を上げたお父さんは何か決意した表情だったなぁ。
そのままムーグさんやバースさんを呼んで3人で何か話していたよ。しばらくして話がまとまったのか、お父さんがみんなに話始めたんだ。
「みんな、こんなに準備してくれてありがとう。有り難く使わせて貰うよ。道中何かあったらすぐにクレイに連絡するから安心してくれ。
……そしてここからは俺達からのお願いだ。これだけの品が生み出せる村だと近隣に知れたら、この開拓村の防御でも危うい。俺達も気をつけて動くが、全員その事を意識して動いてくれ」
そう言った後、僕の頭にポンと手を乗せてお父さんが言ったんだ。
「クレイ。俺が居ない間みんなを頼むぞ」
お父さんの次に、バースさんもムーグさんも僕の頭に手を乗せて「頼むぞ」って言ったんだ。
「うん!任せて!」
3人からお願いされた僕は、頼られた事が嬉しくってね!それはもう大きな声で返事をしたんだ。
そんな僕の返事を聞いて、笑顔で出発した3人。その姿が見えなくなるまで見送った後、僕は考えていた事をみんなに伝えたんだ。
「みんな!今からまた新しい扉を出そうと思うんだけど、良いかな?」
僕の言葉に、ほとんどの人がキョトンとしたんだ。だって鉱山の箱庭の扉出したばかりだったからね。でもお父さんの相談役のブラムさんは、僕が何をしたいかわかったみたい。
「クレイ。さっきのグレイグの言葉を早速実行するんだな?」
ブラムさんの言葉で、お母さんやファストさんもわかったんだね。
「ふふっ、勿論よ」
「コモンルームの箱庭の扉だろ?」
畑の箱庭で、昨日この3人に話したばっかりだったからね。僕が念の為に他の人から見えない箱庭の扉に変えたいって打ち明けていたんだ。だって、今は誰からも見えるパニックルームの扉をメインにしているから心配だったんだ。
この話をみんなに説明すると、みんなも同意してくれたよ。あれだけやって送り出せば、近隣で目立つのもみんながわかってやっていた事だからね。
それでも王都まで行く3人の事を思えば、手を抜こうなんて思わないのが、この村の人達のあったかさなんだ。僕はこのあったかい雰囲気を守りたい!
だから今みんなが集まっている時に伝えたんだ。
あ、念の為今パニックルームの箱庭で寝ているペギーさん達がいても大丈夫かアルに聞いてるからね。コモンルームの箱庭の扉を出すと、この箱庭が今度メインになって他の扉は中に移動するって聞いてたからさ。
アルから大丈夫と確認をとれた僕は、早速コモンルームの箱庭の扉を出したんだ。するとね……今まで扉だけが出て来ていたのが、なんと半透明の建物が出てきたんだ!
『設置場所を指定して下さい』
ええ!設置場所って考えてなかったよ!だって辺りはまだ壊れているとはいえみんなの家があるからね。
僕が困惑しながら説明すると、お母さんが誰より早く僕に申し出てくれたんだ。
「クレイ。我が家は村の中心よ。これからもみんなが使うなら、我が家の位置がいいんじゃない?」
「でも良いの?僕らが住んでいた家、どうなるかわからないよ?」
「あら、家ってね。家族が住んでこそ家よ。それに、家はこれから作っていくんでしょ?」
にっこり僕に微笑みながら言うお母さん。
実は唯一住める形で残されていた家が僕の家なんだ。それを家ごと場所を提供して良いってお母さんは言っているんだから凄いよね!ナーシャはちょっぴり残念そうだったけど。
「うん、そうだね!じゃ、設置するよ!」
僕も決意して、半透明の建物を僕の家に重ねて決定したらね……
「えええ⁉︎これって……門⁉︎」
現れた建物に思わず僕叫んじゃった。でもみんなも驚いた声をあげていたよ。だって半透明の時と建物が変わったんだ。ううん、見えていた塔が増えたんだ!
左右が塔になっていて、真ん中がアーチ型にくり抜かれているって言うのかな?
「ア、アル?これってどう言う事?」
「ン?見タママノゲートデスヨ?」
あ、そうそう。コモンルームって共用って意味があるって覚えてる?アルによると、両隣の塔は、本当に誰でも利用出来る建物になっているんだって。
えっと、左の塔は宿舎塔。魔導エレベーター付きで5階まであって、最上階と4階が貴族用宿舎で、1〜3階が一般用宿舎なんだって。
で、右側の塔が村の集会所兼役所。勿論コッチにも魔導エレベーターがあるよ。一階が集会所で二階は応接、会議室、三階が領主室だって。なんと4階は図書室、5階が展望室なんだ。
じゃあ、ゲートってどこにあるのって思うよね?
「ゲートハモウ皆サン見テイルジャナイデスカ」
そう、この建物自体がコモンルームの箱庭の扉なんだよ。
チーム作成登録者がアーチ状の通路を通り抜ける事によって、コモンルームの箱庭の内部に行けるんだ。登録されてない人はただ建物を通り抜けるだけなんだって。あ、でも意識すれば、登録者もただ通り抜ける事も可能なんだよ。
……凄いよね。
なんか余計に目立つ扉が出て来たけど……安全面はアル曰く問題ないって。
「ムシロコノ扉自体壊セマセンシ。ココハ村を訪レタ人達ノ避難所ニモナリマスカラネ」
……うん。もう僕の心配なんて小さい事がわかったよ。
かえって村のシンボルになって良いかもね。
あ、もうみんな続々中に入って行ってる!
僕も早く見に行かなくちゃ!
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