第16話 鉱山の箱庭の扉を開けたよ

 僕の前には、ワクワクした表情のダウロさんとペギーさん。更に新しい扉が開く瞬間を見れる機会ともあって、子供達も集まってきたんだ。


 今、全ての扉はパニックルームの箱庭のエントランスホールにあるんだ。


 他の箱庭の代理管理者のみんなや、自警団の今日の担当は持ち場についているけど、村の人達がほぼここに集まっている感じだね。


 「じゃあ、新しい扉開くよー」


 みんなに呼びかける僕の声に、子供達が元気な返事を返してくれたんだ。


 ふふっ、子供番組の司会になったみたい。


 そう思いながら出した扉は、今までとは違う金属の扉。これにはダウロさんとペギーさんが「「おお‼︎」」って喜びの声を上げたよ。


 二人に急かされて開けた扉の中は……


 「ん?これって……」

 

 待ちきれないダウロさんやペギーさんも入ってきたけど、やっぱり不思議そう。だって、中はまるで地球の駅構内みたいだったんだもん。


 そんな内部の奥にはトロッコ列車とホーム。左側には作業場。右側には男女別トイレやシャワーブースがあったよ。しかも壁にはスコップやツルハシがかかっていて、安全第一って書いたヘルメットまであったんだ。


 ……鉱山現場ってこんな感じなのかな?


 「凄え!この作業場、全て道具が揃ってるぞ!しかも新品か!」

 「おお!溶鉱炉までついているじゃないか!」


 そんな事を考えていた僕より先に、作業場に入ってあちこち確認していたダウロさんとペギーさん。その姿は、まるで遊び道具を与えられた子供みたいだったよ。見ていて僕らもこんな感じに見えるのかなぁって思っちゃった。


 それじゃ、更に喜ぶ事を教えよっかな。


 「コホン!ええと、この鉱山の箱庭の代理管理者は誰にしようかなぁー?」


 ほぼ棒読みの僕の声に反応したのは、驚く事にダウロさん達二人以外にもいたんだ。


 「ねえ、クレイ?何人がなれる?」

 「俺達もやれないか?」


 なんとダウロさんの息子ロン兄さん(13)と、ペギーさんの息子ゾラ兄さん(12)が反応したんだ。この二人、開拓村でよくダウロさん達を手伝っていたもんね。兄さん達も手先が器用なんだ。


 「勿論大丈夫だよ!ここは何と代理管理者が10人なんだ!」


 補足する僕の声に、更に反応したのは意外にも女性達。


 「げ!スージーお前も?」

 「え?プラムもか?」


 そう、反応したのはダウロさん達の奥さん。理由はね……


 「誰が貴方達を止めるの?」

 「そうね。熱中すると止まらないのは親子揃って同じなんだから」


 奥様達の正論に、グッと言葉を詰まらせるダウロさん達やロン兄さん達。うん、お目付け役って必要だろうなぁ。


 因みに鉱山の箱庭の代理管理者の権限はこれ。


 [鉱山の箱庭 代理管理者権限]

 ・箱庭内魔導具の使用権限

 ・トロッコ列車の運転

 ・簡易箱庭錬金(金属・木工加工技術)

 ・身体強化

 ・簡易治癒術


 物作りはほぼここでやる感じかな。ここは保管庫の代わりにアイテムボックスが十個備えられているし。


 それに鉱山は怪我も多いだろうから、簡易治癒術は安心だね!あ、ポーションも念の為持ってきておこう。


 そう考える僕の横でダウロさん達が喜んでいたのは、勿論簡易箱庭錬金が使える事。


 でも何で魔導具あるのかって?魔力が切れても作れるように各種魔導具が備えられているらしいよ。箱庭って用意がいいよね。

 

 「なあ、クレイ?そろそろあの乗り物を見に行ってもいいんじゃないか?」


 僕が6人の登録を済ませると、待ちきれない様子のトッド(11)が声をかけて来たんだ。ん?トッドももしかして興味ある?


 「そうだね!早速鉱山を見に行こう!」


 僕の声に、待っていた子供達や、今日自警団お休みのベルグさんも大喜び。うん、なんかわかるなぁ。トロッコ列車ってワクワクするよね!


 みんなで移動して、トロッコ列車の運転席に僕が乗ろうとすると、後ろからコホン!と咳が聞こえたんだ。ん?いつの間に?


 「ここはやっぱり代理管理者がやるべきだろう」


 真面目な顔をして僕に言うダウロさん。口角が上がっているからやりたいんだろうなぁ。ダウロさんの家族がニヤニヤしてるし。


 ふふっ、仕方ないなぁ。


 ワクワク顔のダウロさんに運転役を代わって、僕も列車の客車両に乗り込んだんだ。代理管理者なら誰でも運転出来るからね。


 トロッコ列車は五両編成。運転席が前と後ろに二両、次に客車一両、荷台車両が二両なんだ。


 客車部分は、屋根だけついていて50人は乗れるかなぁ。みんな物珍しそうに、キョロキョロしながら座っていくよ。


 あ、椅子ふかふかだ。


 「さて、みんな乗り込んだな!では出発するぞ!」


 みんな席に着いたのをみて、運転手帽を被ったダウロさんが出発の声をあげたんだ。同時になるブー!という出発音。


 ゴトン……と列車が動き出すと、客車からは歓声が上がったよ。トロッコ列車のライトが先を照らしているけど、通路には照明も一定の間隔で点いているから薄明るい感じ。


 なんか冒険に行く見たいでワクワクするね!


 出発後、ザワザワする車内にゆっくり移動するトロッコ列車。しばらくすると、チャラランと音楽が列車内に流れたんだ。


 『えー、まず見えて来ますは銅鉱山です』


 ノリノリのダウロさんがアナウンスを始めたんだよ。みんなこれには大笑い。ダウロさん即興でも上手いなぁ。


 ゆっくり進むトロッコ列車が進む先に見えて来た銅鉱山は、灰色部分に所々緑と黄色が混じった不思議な色合いの岩だったんだ。


 へえ、鉱石にも特徴ってあるんだ。


 なんて考えていたら、ちゃんとホームがあって降りれるようになっているのが見えたよ。その先に穴があったからそこで掘るんだろうね。


 『えー、次は銀鉱山〜銀鉱山でございま〜す』


 ダウロさんのゆるいアナウンスにも慣れ、もはや観光列車となったトロッコ列車。笑いと共に見えて来たのはなんと青い石の一帯だったんだ。どうやらここに金と銀の自然原石があるみたい。


 「うわぁー!キレーイ!」


 ナーシャもアルを抱えながら感動してる。だって青い原石が淡い光に照らされて幻想的な空間を作り出していたんだもん。


 うわぁ、これから銀や金が取れるんだね。


 僕と同じように、みんなからも感嘆のため息や声が聞こえて来ていたなぁ。


 そんな僕らを乗せて、綺麗な構内をゆっくりゆっくり通りすぎるトロッコ列車。


 『え〜次は……何⁉︎魔鉱石だと!』


 あ、案内役のダウロさんが驚いてる。


 あの後、トロッコ列車は縞々模様の鉄鉱山を通りすぎて、石灰石、大理石ゾーンを過ぎたんだけどね。まさか魔鉱石鉱山もあるとは思って無かったダウロさん。ペギーさんまで驚いてるね。


 「ねえ、アルちゃん。まこうせきって何?」


 そんな中、ナーシャがいいタイミングでアルに聞いてくれたんだ。僕もわかんなかったから丁度いいや。


 「魔鉱石ハ、魔石の原石トモイワレテイル石デス。魔導具ニハ、カカセナイモノデスシ、他ノ鉱石トモ親和性ガ高クヨリ強力ナモノガ作レマスヨ。ソレニ魔石代ワリにナリマスシ」


 流石に魔石代わりになる発言でみんなが声を上げたんだ。だって、魔導具実は村にも結構あるし。照明の魔導具がいい例なんだ。毎日使うから地味に消費が早くて、結構節約して使っているんだよ。


 それに何より……


 「魔鉱石がこんなに綺麗に光るとは思わなかったわ……!」


 女性陣から綺麗って声がさっきから上がっているんだ。淡い照明に照らされた魔鉱石の色は虹色。角度によって様々な色合いに変化するんだ。


 万華鏡の中にいるみたいだなぁ。


 そう感動してたら、ダウロさんがトロッコ列車を止めちゃったんだ。


 「みんな、悪い!ちょっと掘らせてくれ!」


 運転席にツルハシがあったんだね。ツルハシを片手に飛び降りるダウロさん。身体強化されているから、ジャンプが思いの他飛べたみたいで着地がちょっと危なかったけど。


 みんなから「気をつけろー」と声をかけられながらも、ダウロさんは穴の入り口でツルハシを振り落としたんだ。


 ガツン!と大きな音がしたと思ったら、ボロっと僕達位の大きな塊の魔鉱石が取れたんだよ!これにはダウロさんも唖然。


 「俺、力そんなに込めてねえぞ……」


 自分の手の平を見つめながら呟くダウロさん。身体強化がどうやら思ったより働いているみたい。だってそう言ったダウロさん本人が片手で岩を抱えて、荷台車両に積み込めたんだよ!


 それを見たダウロさん達の奥様達は「あらあ……」って自分の手を見ていたんだ。……奥様達も強くなったんだろうね。うん、ダウロさん達頑張って。


 「悪い、みんな!今日はこの辺で終わりだ!ペギー!戻ったら早速色々作るぞ!」


 僕が密かに応援していると、ダウロさんが今度は反対の運転席に乗り込んでトロッコ列車を発車させたんだ。勿論ペギーさんは「当然!」って返事を返していたよ。


 ロン兄さんやゾラ兄さんもすっごいやる気になってたなぁ。それに当てられたのか、トッド(11)もこの箱庭の代理管理者になったんだ。トッドは採掘の方にやる気が出たみたい。ムーグさん譲りのいい体格しているもんね。


 その後、出発地点に戻ったダウロさん達は、すぐに作業場に篭っちゃったんだ。他のみんなは、それぞれ持ち場や他の箱庭見学に行こうとしていたから僕も、と思っていたんだけど……


 「クレイ待ったぁ!」


 うん、やっぱりダウロさんに止められた。

 資材が足りないって手伝わされたんだよね……


 ゲートキーパーの僕は、箱庭にいるだけで掘らなくても資材を取り寄せられるんだ。


 「おかげで色々作れそうだ!」


 広々とした作業場の中は、嬉しそうに動く男四人に、てきぱきと動き回る女性二人の姿。


 更に嬉しそうにトロッコ列車に乗って採掘に向かった男二人の姿もあったよ。


 ん?一人多いって?

 実はトロッコ列車で採掘に行ったのはトッドとベルグさん。ベルグさんも自警団で動く以外はここの採掘手伝うみたいだよ。代理管理者に登録したもん。


 「ウッヒョウ!身体が軽いぜ!」


 ……理由は身体強化かもね。後日、ベルグさんの自慢話を聞いて自警団のゼンさんとディランさんも、ここの手伝いをするからって登録しに来たし。


 自警団のみんなはいい運動だって、採掘の手伝いによくくるようになったんだ。


 おかげで、物作りに没頭出来るダウロさん達。明日出発するお父さんの馬車を完成させるって、今頑張っているよ。


 因みに領主のお父さんと護衛としてバースさんムーグさんが、今回一緒に王都に行くんだって。


 うーん、王都の用事に往復一カ月かかるのかぁ……よし!お父さん達が帰って来て驚くように、開拓村を綺麗にしていよう!


 頑張るぞー!

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