第11話 僕らが出来る事……

 僕らが畑の箱庭に入った後も続々運び込まれる村人達。


 「あんた、歳なんだから!」

 「いや、そうも言ってられないだろう?マーサ。というか、旦那が傷だらけでも戻ってきた事を喜んでくれよ」


 父さんの相談役のブラムさんも戦いに出ていたんだって。マーサさん口では強がっていたけど、目に涙溜めて手当てしていたみたい。


 その横では、ポーションの効果で少しは動けるようになったゼンさん。伝令役として最前線まで動いてくれていたんだって。ゼンさん足早いからね。でもその時にヘマをして囲まれてしまったらしいよ。


 「もう!心配させて!」

 「イテって!まだ完全に治ってねえんだから!でも俺もやれば出来るだろ?」

 「そうね……もう……生きていてくれて良かった……」

 「ロア」


 こっちはもう夫婦の世界に入っちゃって、僕の幼なじみのジェフは「あーあ……また始まった」って背を向けていたらしいよ。でもそのジェフも涙目だったんだって。強がりだもんなぁ、アイツ。


 怪我人だけじゃなくて補給にも降りてきたりしていたのが、僕のもう一人の幼なじみのお父さんディランさん。


 「悪い!ポーションあるだけ持って行かせてくれ!」

 「今アルノハ、コノ5本ダケデス!」

 「アル!悪いがファストから聞いている。クレイにもう少し作ってくれ、と伝えてくれ!」

 「ワカリマシタ!」


 どうやら、上では激戦状態みたい。ずっと戦っているお父さん達大丈夫かなぁ。


 で、今アルが僕のところに来て、様子を伝えてくれていたんだけどね。アルったら声変えてまで細かく伝えてくれるから、なんかこんな事態なのに笑っちゃったんだよね。


 でも順調に作っているよ。お母さん、クエラさん、ルアラさんの3人で種を出して蒔いては僕が成長促進、ポーション作成の連携をしているんだ。でもみんな僕みたいにMPが多いわけじゃないから、途中からやり方を変えてみたんだ。


 「ねえ、ヒール草とヒール草を合成してみるとどうなるのかしら?」


 最初はお母さんの単純な疑問からだったけどね。やってみると、合成して行く度に品質が上がっていくんだ!


 だから作れたハイポーション(高品質)!


 成長促進で1段階はどうしても落ちるからね。でも最高品質のヒール草を、ゲートキーパービューで確認しながら育てると最高品質のハイポーションが出来るって事だよ!やったね!でもね、そのかわり……


 「5本だと足りないわよね……?」


 なんせお母さん達はそんなにMPがあるわけじゃないし、僕もパニックルームの箱庭の扉開いたからね……


 その分、ハイポーションの効能は凄いよ!


 [ハイポーション(高品質)]

 切り傷、骨折、内臓損傷さえも即時に治る。通常の状態で飲むと、体力が100%の状態で12時間動く事が可能。但し副作用で効能が切れると爆睡する。


 コレをゼンさんの代わりに伝令役をしているファストさんに伝えたら……


 「これは……グレイグ、バース、ムーグ、ベルグに飲ませるか。後は怪我をした時用だな」


 即座に飲ませるべき人を特定した上で、急いで上に持って行ったよ。


 だけど、僕らには後やれる事がなくなっちゃった。シュンとする僕に、お母さんが頭を撫でて慰めてくれたんだ。


 「クレイ、あなたのおかげでみんなが無事に居られるのよ。お父さん達も私達が安全だとわかっているから、思いっきり戦えるの。もっと自分の力を誇りなさい」


 にっこりしながら僕に語りかけるお母さん。そのお母さんの言葉にマーサさんが乗ってきたんだ。


 「そうさね!それに守られる側ってのは受け身じゃないさ!守られる側にだって、戦っている旦那達の為にやれる事はいっぱいあるのさ!さあ、みんな!開拓村の女として良いところみせるよ!子供達も手伝いな!」


 マーサさんの前向きな言葉に女性達は奮起、子供達も積極的に手伝いを始めたんだ。


 そうだよね!ただ祈っているだけじゃなくて、信じて帰りを待つ事、帰って来たお父さん達の為にやれる事があるんだ!


 マーサさんのおかげで、僕も考えを切り替えることが出来たんだよ。みんなもやる気が出たみたい。


 それにしてもマーサさん凄いんだよ。色々指示を出してくれるの。入り口の近くには、いつでも怪我人がきても良いように布やお水やシーツを準備させたんだ。女性達にはあったかいスープを作っておく事、祝勝会の料理を作っておく事を指示。


 更に自警団見習いのフレック兄さん達には、扉の監視兼外との連絡役を指示してたよ。子供達には、僕やナーシャが畑や海の箱庭から調達した物を運搬する係や、ゼンさんとブラムさん達負傷者を世話する係を指示したり。


 いつの間にかパニックルームの箱庭の中は、いつもの開拓村のように活気に満ちていたんだ。みんな不安を隠すかのように、明るく振る舞っているのがわかったけどね。


 僕らが忙しく動いている中、休憩や補給に姿を何回か現したダウロさんやペギーさん。この2人は建築特化で戦いは不慣れだからね。でも状況を教えてくれたよ。


 「クレイ!よくやった!あのハイポーションのおかげで、4人が凄い事になってる。疲れ知らずのあの4人のおかげで既に半分以上は討伐出来ているんだ!グレイグが特に凄い!キングを倒したんだ!後は雑魚達を掃除するだけさ!」


 これをみんなに伝令して回ったのがアル。勿論声真似付きでね。マーサさんたら、アルにまで指示していたんだよ。まあ、アルもノリノリで伝えていたけどね。でもお父さん凄いや!


 そんな報告に更に活気が戻る箱庭内。子供達は準備が終わったら、僕の先導で大浴場へ。お父さん達が帰ってきたら良さを伝えて貰いたいからね!


 アルには女の子側に行ってもらって、僕は男の子達の世話係。お兄さん達はまだ動いているから年少組だけだけど。


 脱衣場に入って走り回るみんなを集めて、服を脱いで脱衣カゴに入れる事とか、小さな子供だけだからちょっと苦労したよ。だって、大人のみんな僕が一緒なら大丈夫だろうって、僕に押し付けるんだもん。確かに前世の記憶あるから大丈夫だけどさ……


 「すっげー!ひろーい!」

 「うわぁ!おみずいっぱい!」


 って大浴場に入ってすぐにお湯に入ろうとする子達を止めたり、


 「やったなぁ!」

 「こっちだって!」


 ブシューと蛇口からお湯が出るのが珍しくって、蛇口を使って水のかけ合いを始めたジェフとケインを止めたり……


 「クレイ、こっちは見てるからジェフ達を止めてくれ!」

 「りょーかい!」


 本当にトッド(11)がいて良かったよ。他にもシャンプーや石鹸の使い方を教えると、泡だってきたら今度は泡で遊ぶんだもん。子供って遊びの天才だからね。って今は僕も子供だっけ……はぁ。


 みんな身体を洗ってお湯に浸かる頃には、疲れ切った表情のトッドと僕。小さい子も交えてジェフ達がお湯のかけ合い始めたけど、もうどうでも良いや……


 「……父さん達大丈夫かなぁ」

 

 気が緩んだらつい僕の口から出ちゃった言葉。そしたらお湯のかけ合いっこをしていたみんなもピタッって止まったんだ。


 あ、やばい!みんな頑張って言わないようにしていたのに……!


 僕の一言で焦り出すみんなを、そこはこの場の最年長のトッドが抑えてくれたんだ。


 「落ち着けって!マーサおばさん言ってただろう!守られる立場は守ってくれる父さん達を信じなきゃいけないんだ!そもそも僕らが父さん達の強さを信じなくてどうするのさ!大丈夫だよ!俺の父さんのムーグが、みんなの父さんを守ってくれるさ!」


 トッドも不安だろうに、無理矢理明るく僕らに向けて言ってくれたんだ。すると今度は始まる父さん自慢。みんなが「僕の父さんだって強いさ!」と言い合う中、僕もみんなに呼びかける。


 「だったら僕らは父さん達を信じて待とうよ!父さん達だって帰ってきた時、元気に迎えられたいだろうしさ!」


 僕とトッドの言葉に納得したみんな。その後は順調にお風呂から出て、身体を拭くのを手伝いあったりしていたんだ。


 着替え終わって、みんなでお母さん達がいる食堂に行ったら、凄い量の食事が用意されていたんだよ。


 「ウチの人、帰ってきたらいっぱい食べるもの!」


 そう言っていたのは、村1番の体格のムーグさんの妻のルアラさん。自信満々に言い切っていたよ。不安を感じさせないお母さん達の様子に、僕らも安心していっぱい食べたんだ。


 キッチンが綺麗で使いやすいし、料理上手なお母さんとルアラさんの指導のもと、女性陣が腕を奮ったからね。どれも美味しかったぁ。


 食事が終わった後、僕らもお父さん達を待っていたけど……


 「あらあら……みんな固まって寝ちゃって」


 お母さんがそう言ったのを、うっすら聞きながら僕達幼年組はお昼寝に入っちゃったんだ。


 今日は部屋じゃなくて、みんなでエントランスで寝ることになった僕ら。お母さん達が布団を運んで来て寝かせてくれたんだ。お父さん達が帰ってきたらすぐにお迎えできるようにね。


 そしてお昼寝から起きた僕らを待っていたのは、ボロボロになりながらも戻って来たファストさん。


 「クレイ!お前のおかげで全員無事だ!」


 その言葉に歓声を上げる子供達。お母さん達は嬉し涙を流しながら、お互いを慰めあっていたよ。


 ただお父さん達が戻ってきた時には、別の悲鳴が上がったけどね。


 「脱ぐ物脱いで、さっさと湯を被ってきな!」


 問答無用でお父さん達の服や装備を外すマーサさん。お父さん達がそのままパンツ一丁で大浴場に向かうのは、もう少し後の話。

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