第10話 非常事態発生!

 昨日はすっごく楽しかったなぁ……

 しかも今日は朝からフルーツたっぷりの朝食だったし。朝にフルーツは最高だね!


 僕がそう思いながらナーシャとお茶を飲んでいる時、バタバタバタッと外から走って来る声が聞こえたんだ。


 「シュナさん!クレイ!ナーシャ!開けてくれ!」


 ドンドンドン!ッとドアを叩くゼンさんの声がしたんだ。


 ゼンさん普段冷静なのにどうしたんだろ?


 お母さんが慌ててドアを開けたら、雪崩れ込むように入ってくる村の人達。子供達も全員いるみたい。あ、ジェフにケインも居る。


 あっという間に食堂が村の人達で溢れかえっちゃった。大人数入る僕の家とはいえ、やっぱり村人みんなが入るにはきついんだ。というか何があったの?


 僕らだけじゃなく、連れてこられた村の人達もわかってない人が多かったんだ。みんなゼンさんに詰め寄って、話しを聞こうとしていたんだよ。そんなみんなに、真剣な表情で話し出すゼンさん。


 「みんな、まずは落ち着いて聞いて欲しい。この村から30分程の川を超えたところに大量のゴブリンが移動してきていたんだ。その数およそ500。どうやら集落の方にゴブリンクイーンが誕生していたらしい」


 ゴブリンクイーンだって⁉︎

 確か前にお父さん、通常でも一回の出産が2、3匹のゴブリンが、クイーンだと一回の出産が15〜20匹になるって言ってなかった⁉︎


 更にゼンさんの話によると、警戒はしていたものの、箱庭の件もあって発見が遅かったのも原因の一つだって。


 ウッ、それを言われると……

 

 「クレイが悪いわけじゃないわ」


 僕の表情を読んで、お母さんが僕をぎゅっと抱きしめてくれたんだ。僕も嬉しくて、不安そうに見上げるナーシャをぎゅっと抱きしめる。


 それはゼンさんも話に含めてくれたんだ。今回の1番の原因はクイーンがいた事。どうやら、自警団のみんなも読みが外れたみたいなんだ。


 とにかくまだ村の防護柵も弱いものだし、領主の家に村人全員避難して、自警団がその周りを守る事になったみたい。


 「……そこでだ、クレイ。箱庭にみんなが入る方法はないか?」


 ゼンさんが申し訳なさそうに僕に振って来るけど……


 チーム作成もやっと16人になったばかりだし……村人全員入る予定のレベル6まではいつになるかわからないし……!


 僕も考えていたんだけど、今は無理。首を横に振る僕の様子にゼンさんも「やはりそうか……」と頭を抱えちゃったんだ。そしたらフレック兄さんも始め自警団見習いのお兄さん、お姉さんが立ち上がったんだ。


 「ゼンさん!ここは俺たちが守る!最悪クレイだけでも守り通すさ!」


 フレック兄さんの言葉に同意する他のお兄さんお姉さん。


 「女を見くびらないで欲しいねえ。女だってやる時はやるもんさ。子供達を守らないでどうする!」


 マーサさんも、フレック兄さんを守るように前に出て行く。女性達が子供達の前に立ち上がると、ジェフとケインが僕の前に立ったんだ。


 「クレイの力は父さんから聞いているし、僕らも最近は美味しい物を貰いっぱなしだ!恩は返すもんだって父さんが言ってた!」

 「そうだよ!クレイの力は村の希望だって父さん言ってたもん!だからなんとしてもクレイを守るよ!」


 みんなが僕の周りに陣を作って、僕を守る体制をとってくれるんだ。お母さんも優しく僕とサーシャを包み込んでくれる。


 ……チーム作成に入っているメンバーまで、箱庭に保護を求めず戦う姿勢をとったんだ。


 ……僕だけ、僕だけ箱庭に逃げるわけにはいかないよ!

 だって、みんながいないと僕の力は意味がないんだから!


 僕もみんなと一緒に戦う決意をした時、それまで静かだったアルがいきなり騒ぎ出したんだ。


 「キタキタキター!ゴ主人サスガ!コノタイミングデコノ箱庭ヲ呼ベルノハ凄イデスヨ!」


 興奮した様子で、バサバサと僕の頭の上を飛び回るアル。


 え?何?箱庭ゲートキーパーを出せばいいの?


 ハイテンションのアルに促されて、ステータスボードで開いてみたら……

 

  【箱庭ゲートキーパー】レベル4.5

 [箱庭]

 ・海の箱庭の扉 開放済み

 ・布の箱庭の扉 開放済み

 ・畑の箱庭の扉 開放済み

 ・コモンルームの箱庭の扉 SP400

 ・パニックルームの箱庭の扉 SP200←NEW

 [ゲートキーパー]扉管理者の能力

 ・箱庭錬金 取得済み

 ・チーム作成(登録上限16名) 取得済み

 ・チームゲートホン SP250

 ・箱庭化 SP10,000


 んん?レベルが4.5?でも新しい箱庭が出てるよ?


 「アル、これってどういう事?」

 「ソレハデスネ!パニックルームノ役割ガ半分ダカラデスヨ!デモ安心シテ下サイ!コノ箱庭ニハ、全員入レマスヨ!」


 驚きのアルの言葉に、部屋中にどよめきが起こったんだけどね。アルによると、このパニックルームの箱庭は、いわば非常事態に備えたシェルターなんだって。だから他の扉みたいにチーム作成登録が必要じゃなくて、僕が認識している人ならだれでも入れるらしいんだ。


 「でもさ、アル。入れたとしても、扉の強度はどうなの?」

 「ソレモゴ安心下サイ!防火、防水、魔法耐性付キ、耐久性モバッチリデス!内側カラロックモ掛ケラレマスシ!」


 「ダカラ早ク出シテ下サイ!」とアルに急かせられて、出した扉は上に非常灯が付いた扉。みんなが見える扉だから、出した途端どよめきが凄かったけどね。


 アルが「コレハ強力ナ避難扉デス!」って説明に飛び回り、みんながそれを理解すると今度は歓声が上がったんだ。やっぱり心の底ではみんな、全員で生き残りたいって思ってたんだよね。


 僕が先導して扉を開けると、人が二人くらい同時に歩ける階段が下に続いていたんだ。30段くらい降りると、また扉があってそこを開くと……


 「……は?なにここ……」


 そこはホテルのエントランスの様に広く、高い天井には豪華なシャンデリアがある空間だったんだ。


 唖然としながら入る僕の後に続いて、みんなが続々入ってきたんだけどみんなも「は?」「え?」って感じで驚いて二の句が告げない感じだったよ。


 「ホラホラ皆サン!早ク中ニ入ッテクダサイヨ!説明シマスカラ!」


 アルに急かされて、全員ようやく動き出したんだけど、キョロキョロ辺りを見回して口が開いてる状態なんだよね。


 そりゃそうだよね……だってこれ地球の高級ホテルそのままじゃん!僕だって前世の知識なけりゃ、どこの王族の住まいだよって思うよ……


 そんな僕らの様子も気にせず、アルが説明してくれたこのパニックルームの箱庭。内部は二人用の寝室が30部屋。各部屋には、ベッドにクローゼット、トイレ付き。そして大きな食堂に広い調理場もあって、勿論魔導具完備。


 そしてそして!男女別大浴場付きだったんだよ!


 「うわぁー!お風呂だー!」


 って叫んじゃうくらい嬉しかったんだ!みんなもう驚きすぎて「ここもか……」って呆れていたけど。驚きすぎると、感覚が一周回ってこうなるんだね。


 「コレデゴ主人ガ、他ノ箱庭ノ扉ヲココニ呼ビ寄セルト完璧デス!」


 アルが僕の肩に止まって、自慢気に胸を張っているけどね。


 「いや、此処に慣れたら村に帰れないでしょう……」


 っていうマーサさんの言葉が皆んなの気持ちを代弁していたよね……。


 うん、僕もそう思う。


 でもまぁ、そこは柔軟な子供達が先に馴染んで走りまわっていたよ。結局いい物は良いからね。大人達もようやく平常モードに戻って、あちこち自分達の感覚で探索し始めたんだ。


 すると、ようやく聞こえてきた歓声の数々。人って受け入れないと喜べないんだねぇ。


 そんな感じでうっかり外の様子を忘れかけてきた頃、バタン!ッと勢い良く開いた扉から、傷だらけのファストさんが血まみれのゼンさんを担いで現れたんだ!


 「貴方!」

 「お父さん!」

 

 意識が朦朧としているゼンさんに、駆け寄る奥さんのロアさんと息子のジェフ。そんな二人を制するように、ファストさんが指示を出したんだ。


 「クエラ!クレイ!ポーションを増産してくれ!他の皆んなは止血用の布を沢山と、怪我人を横にならせる場所を作ってくれ!急げ!グレイグが奮闘しているが、数が数だ!」


 ファストさんの真剣な叫びに、浮かれた雰囲気が一変。すぐ様フレック兄さんや自警団見習いのお兄さん達は、怪我人の搬送を請け負い、ファストさんと共に扉の外に戻って行ったんだ。


 「寝室からシーツを集めとくれ!」


 マーサさんが自らのエプロンで、ゼンさんの血を拭きながら女性達に指示を叫ぶ中、僕は畑の箱庭の扉を召喚。母さん、クエラさん、ルアラさんと僕とで急いで扉の中に入って行ったんだ。


 あれ?アルが居ない?


 そう思って振り返ると、アルはアルで指示を出していたんだ。


 「備蓄部屋ガ有リマス!ポーションモ少シ在庫有リマスカラ、コチラニ付イテ来テクダサイ!」


 アルが先導する後を追いかける女性達。子供達も出来る事をしようと追いかけて行ったよ。


 誰一人オロオロして動けない人は居ない。


 この開拓村の村人は、こういう事も予測して移動してきている。


 だからこそ、僕も僕が出来る事をやろう!


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