第9話 『畑の箱庭の扉』で興奮!

 「やあ!クレイ、お待たせ!」

 

 畑の箱庭を出した日の朝、ファストさんとクエラさん夫婦が急いで僕の部屋に入って来たんだ。今、僕の部屋には他に、料理上手なお母さんとルアラさん、ついでに妹のナーシャもいるよ。


 「ファストさん達早かったね。さっきお父さんに伝言頼んだばかりだったと思うんだけど……」

 「だって、遂に畑の箱庭の扉を開けてくれたんだろう⁉︎クエラと多分今日辺りじゃないかって話していたんだ!」


 ワクワクしているのを隠さず話すファストさん。クエラさんも力強く横で同意しているよ。あ、ルアラさんはたまたま用事があって先に来ていたんだよ。


 「食材が増えればまた料理の幅が増えるわね」

 「ええ、新しい料理も試してみたいわ」


 興奮気味のファストさん夫婦の横で、こちらも嬉しそうなお母さんとルアラさん。料理人として食材の鮮度が気になるっていつも言ってるぐらいだもん。採れたての新鮮野菜が手に入るなら嬉しいよね。


 「おにいちゃん。みんなうれしそうだね!」

 「そうだねぇ」


 そんな様子を見てホクホクの僕とナーシャ。まぁ、一度様子を見ているが故の余裕なんだけどね。扉を出した後、ナーシャが珍しく早く起きて僕の部屋に突撃してきたんだ。どうやら僕とアルの声が聞こえたみたい。薄いからね、うちの壁。


 そうこうしていると、すでに畑の箱庭の扉の前にいるファストさん夫婦。


 「クレイ。早速開けていいかい?」

 

 もう半分開けてるようなものなのに、律儀に聞いてくるんだもん。うん、やっぱりファストさんたちに決めた!


 「うん!ファストさん、クエラさん。扉の中に入ったら「はい」って言ってね」

 「……?よくわからないけど、わかったよ」

 「え、ええ」


 僕の言葉に疑問を持ちながらも、扉を開けるファストさん達。扉を開くと目の前に広がる黄金畑。遠くには風車も見えていたんだ。


 「うわぁ……なんて見事な麦畑……」

 「凄いわ。どの麦もぎっしり実がついているわ!」


 畑経験者だからわかるこの箱庭の麦の品質。僕のゲートキーパービューでも品質は高品質だって言っていたからね。


 感嘆の声を上げながら、一歩扉の中に踏み出したファストさん達。すると二人から「ええ⁉︎」って声が聞こえて来たんだ。


 多分、頭の中に直接こう問いかけられていたんだよ。


 『畑の箱庭の代理管理者になりますか?残り代理管理者枠4名です』


 初めて入った時、ナーシャにもこう問いかけがあったんだ。僕は元々ゲートキーパーだから聞こえたんだけどね。ナーシャの時は、悪いけど断わらさせたんだ。ナーシャにはまだ難しいからね。


 あれ?ファストさんたちも困惑の表情で振り返って、助けを目で訴えているなぁ。やっぱりすぐには「はい」っていえないかぁ。


 そんなファストさんたちやお母さん達の為にもアルが説明してくれたんだけどね。


 「登録スルト、刈入レヤ水ヤリ、収穫ニ便利デスヨ!」


 ってアル簡単に説明しすぎだよ!仕方ないから僕が説明を追加したんだけどね。


 代理管理者は、僕が持っているゲートキーパーの力をこの箱庭限定で付与されるんだって。能力は僕より落ちるけど、こんな感じらしいよ。


 【代理管理者権限】ステータスボードに能力付与

 ・ゲートキーパービュー : 品質や銘柄、作物の栽培方法がわかる。

 ・種蒔き : 各種様々な種を植える事が可能

 ・収穫 : スクリーン内に映る作物を一括収穫。一時亜空間収納庫に収容される。

 ・簡易錬成 : 乾燥、脱穀、粉砕、選別等可能。

 ・天候操作 : 箱庭内に雨を降らせる(基本晴天)

 ・合成 : 簡易錬成により作物の品種改良可能


 こんな感じ、と説明し終わった時のファストさんの喜びようったら!クエラさんと嬉しそうに「はい!」って答えていたよ。因みに後ろでお母さんとルアラさんも「はい」って答えていたんだ。


 いいの?って振り返る僕に、


 「あら、料理の合間に手伝えるもの」

 「私達も出来るなら手伝いたかったのよ」


 結構ノリノリで答えていた二人。僕としてはこれから増え続ける扉の管理があるから大助かりだけどね。因みに、僕は全部出来る上に畑の畝作りも出来るよ。

 

 早速ステータスボードを出して勉強をする四人。ゲートキーパービューを箱庭全体に使ったファストさんが騒ぐ騒ぐ。


 「ちょ、ちょっとクレイ!すでにこんなにあるのかい?」


 うん、ファストさんが驚くのも無理ないよ。畑の箱庭に植えられているのはこんな感じなんだ。

    

      芋類         陸稲   未開地

           豆類    

                     

 入り口  穀類              未開地

           葉野菜

                 果樹   

      根菜類             未開地

      

 季節関係無しに育つこの箱庭。各区画が植えられている植物に適切な環境になるっていうんだもん。やっぱり箱庭って不思議だよね。で、最初から植えられているのは取り放題。取ったらすぐ生えて来るんだ。


 じゃあ、どこに代理管理者の能力を使うのか?って思うよね。


 勿論、未開地になっているところだよ。そこはあと畝を作って種を蒔くだけだけど。何を植えるかによるだろうし。ファストさん達次第だね。


 それに……


 「クレイ!まさか果樹まであるの?」

 「きゃー!シュナさん!アポルやオレ!レープにウイ、ピーモにベリーまであるわー!」


 お母さんが驚きの声をあげる中、何があるか調べていたルアラさんが興奮しているね。だってこの二人パイを焼くのも上手いんだもんね。あ、ジャムも作ってもらえるかな。


 大人四人と僕がワイワイしている中、ナーシャは待ちきれなくてアルを連れて走って行っちゃった。まぁ、箱庭の中は安全だからいいけどさ。


 それより見てくれた⁉︎僕が欲しかったものがあったの!最初に入って見つけた時は僕叫んじゃったもん。


 「えええええ‼︎畑の箱庭なんだよね?ここ?」


 驚く僕にアルがその時説明してくれたんだけど。


 「アア、陸稲デスネ。畑デ作ル稲モアルンデスヨ。ゴ主人ノ記憶カラ必要ダト思ッテ初期作物ノ中ニ入レテオキマシタ」


 その時はアル良くやった!って抱きしめちゃったよ。アル苦しくてすぐ飛んで逃げたけど。


 でも、お米だよ!お米が手に入ったんだよ!僕、その時すぐ収穫して精米までしてあるんだ!あとはお母さんに作ってもらうだけなんだけど……


 「きゃー!嬉しいわぁ!久しぶりにパンが焼けるわね!」

 「ええ⁉︎レープを乾燥させてパンに入れる事ができるの⁉︎」


 お母さんもルアラさんもパン優先なんだもん。……仕方ないか。お米の美味しさは後で布教すれば良いよね。だって焼きたてパンってやっぱり美味しいもん。


 そういえば、ファストさんたちは……?


 振り返ってみると、ステータスボードを操作しながら夫婦で話しあってたんだ。


 「クエラ、小麦もこんなに種類があるんだ。例えば、小麦のこの種類と稲のこの種類を混ぜて種を作ってみないかい?」

 「いいえ、いきなり多種類を入れるよりも、それぞれの最高品質を目指してやるのが先じゃない?」


 あれ?ファストさん稲の事知ってたんだ。流石、畑の専門家!しかもクエラさんも負けてないな。そう、この箱庭全体は高品質ではあるけど、最高品質のものがまだないんだよ。


 なんかこの箱庭作った人って、研究気質だったんだろうなぁ。あえて最高品質にしてないっぽい。管理者によって変化する箱庭ってのも新鮮だね!


 「おにーちゃーん!」


 あ、あっちからナーシャが走って来た。……ってナーシャ!


 「いったぁーい!」


 あーあ……ナーシャはしゃぎすぎて転けちゃった。膝が擦りむいて血が出てるや。お母さ〜ん!


 ステータス画面で色々操作していたお母さんが、ナーシャの様子に駆けて来たんだ。


 「あらあら。ナーシャったら仕方ないわね。……ねえ、クレイ?この種を未開地に植えて来てくれない?」

 「え?ナーシャの手当てが先なんじゃないの?」

 「ふふっ。植えればクレイもわかるわ」


 お母さんが泣いているナーシャをあやしながら、僕に種を渡したんだ。


 植えればわかる?


 とにかく僕は未開地に歩いて行って、未開地の畝を作ったんだ。畝を作るくらいなら1MPだったよ。そこに種を蒔いて、ステータスボードを開くと……


 『ヒール草を成長させますか?

  YES→成長促進 5MP NO→キャンセル』


 って出て来たんだよ!お母さん薬草も見つけていたんだ!


 そう思った僕は、迷わずヒール草を成長をさせて、品質をゲートキーパービューで確認したんだ。


 『ヒール草 : 普通品質

  管理者が錬成するとポーションが作成出来る』


 そっかぁ!お母さんはこれを作って欲しかったのか!


 どうやら、成長促進とポーション作成は僕しか出来ないみたいなんだ。しかも、成長促進させるとちょっと品質が落ちるみたい。未開地は、自然の成長ペースがいいんだね。


 あ、早く作ってナーシャに届けなきゃ!


 色々確認したくなったけど、まずは採取して箱庭錬金!水は生活魔法で出せるからね!容器は海の箱庭で作った木の箱に入れて、ポーションをお母さん達が待つ場所に持って行ったんだ。


 グズるナーシャをあやしながら、簡易手当てをしていたお母さん。


 ナーシャったら、この機会に甘えちゃってるな。まぁ、お母さんに撫でられるのは、なんか嬉しいからわかるけどさ。


 「クレイ、やっぱりあなたは凄いわ」


 僕の手の中にあるのがポーションだとわかると、お母さんが僕を抱きしめて褒めてくれたんだ。そして僕から箱を受け取って、ゲートキーパービューを使って確認した後、ナーシャの傷口にポーションを垂らしたらね……


 「うわあ!もういたくないよ!」


 ナーシャったらご機嫌になってお母さんの周りをぴょんぴょん跳ねているの。これにはお母さんも僕も笑顔になったよ!


 だってこれからはポーションも村で作れるんだ!


 今も村の外で魔物狩りをしている自警団のみんな。実は傷だらけなんだよね。ポーションも高いし、数に限りがあるからってなかなか使おうとしないの。


 ルアラさんも「うちのムーグに使わせてもらえるかしら」って残りのポーション貰っていったし。ムーグさん体格も村1番だけど傷をつくるのも村1番なんだよね。


 それを見ていたファストさん夫婦も食だけじゃなく、薬も作れる事を知って大張り切り!


 代理管理者の四人が集まって、更に未開地の打ち合わせを始めちゃったんだよ。話し合いが白熱して、その日の僕らの夕食が遅くなったんだ。


 まぁ、僕とナーシャは果物を採って食べていたから大丈夫だったけどね。


 でもまさか、早速ポーション使う機会が来るとは思わなかったなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る