第7話 『布の箱庭の扉』をあけたよ
「うおおお!これがクレイの力か!」
「なんて雄大な景色なんだ!」
うん、この間入れなかった自警団のムーグさんとベルグさんが「布の箱庭の扉」の中に入って叫んでいるんだ。
そう、僕が欲しかったのは布団!
だから「布の箱庭の扉」を開けたんだ!
すると箱庭レベルが上がってチーム作成が16人までにあがったの!それを伝えたら「うおおお!」と歓喜の叫びをあげた残り四人の大人達。
それで、今回はチームに入ったのは、村1番の体格のムーグさん、子供好きのベルグさん、建築系が得意なダウロさん、細かい作業が得意のぺギーさんの男性は四人。
「まああ!なんて素晴らしいの!こんなに綿花が咲いているなんて!」
「白い絨毯に奥に聳え立つ山の配色がいいわねぇ」
女性からは、自警団リーダーバースさんの奥さんミーナさん。ミーナさんは服や小物を仕立てるのが得意なんだ。そして、勿論村の相談役ブラムさんの奥さんマーサさん。マーサさん実は、服を仕立てるなら村1番の作り手なんだ。
「ねえ、クレイ?奥の山にももしかして生き物いるのかしら?」
「え〜とね、ちょっと待って……」
畑が得意なファストさんの奥さんのクエラさんが聞いてきたから、ゲートキーパービューで僕が検索かけると……居た!
[マパヤ]
標高3000メートルに生息する山羊。上質な毛が取れることで有名。カシュミールの原材料となる。
[イコ(虫)]
手触りの良い上質の繭を形成する虫。シュルクの布の原材料となる。
「山には山羊と、その手前にはイコって虫がいるみたいだよ」
「生物もいるのね……不思議」
クエラさんはファストさんと一緒で、畑が得意な人なんだ。畑の箱庭の扉について話したら、夫婦揃って「是非次に!」って僕に頭を下げるくらいなんだもん。当然、僕はファストさん達にお願いしようと思っていたしね。
「あら?奥の丘はまた色が違うわ。あれは何?」
「えーとね……リーネって言う植物だって。あの植物からも繊維が取れて布が作れるらしいよ?」
奥の小さな青紫と白い花が咲く丘を指差しているのは、今一緒に入っているムーグさんの奥さんのルアラさん。ルアラさんは、お母さんと一緒で料理が得意なんだよ。ムーグさんよく食べるからね。
「なあ、クレイ!是非箱庭錬金ってヤツ見せてくれないか?」
建築系が得意のダウロさんが、凄く期待した顔で僕に近づいてきた。物作りする人はやっぱり作る事に興味があるんだね。
「うん!わかった!僕が作りたいものでも良い?」
どこまで出来るかわからないけど、試してみたかったし。
僕は早速ステータスボードを出して、綿花を錬金ボックスに収納してみたんだ。
『綿花を選別・カーディング(繊維の流れを整える事)します』
原料が錬金ボックスの中に入ると、まずは綺麗に整えるんだ。
『糸紡ぎ工程に入ります……待機時間5分』
あ、糸まで自動工程なんだね。これって楽だなぁ。
……というか、みんな後ろから覗き込んでいるもんだから後ろを見るのが怖いなぁ。
「反物まで出来るのかい?」
「大きさも指定出来るの?」
中でも興味深々のマーサさんとミーナさん。
待って待って!
それで調べてみたらね。どうやら製品作るところまで出来るみたいだけど、マーサさんとミーナさんの強い願いによって反物までにしたんだ。村の人達の着る服は二人が作りたいんだって。
うん、それはもうお願いします。だって上手いしセンスいいんだもん。……僕はセンスないしなぁ……
それから糸ができてからも、マーサさん達は興奮。だって……
『染色しますか?
青 紫 赤 黄色 混合 』
って出てくるんだもん。しかも混合になったらこうなるんだよ。
淡 濃 グレー
赤 *******・・・・・・・ 青
↑
紫
こうなったら止まらない女性陣。いつの時代も女性は綺麗でいたいものなんだね。
「クレイ、頑張れ」
「俺達もう一つの扉に行ってくるわ」
そしていつの時代も男性陣は女性の買い物?には最後まで付き合いたくないらしい。僕一人を置いて海の扉に行ったんだよ!最初に頼み込んで来たダウロさんまで、ごめんって片手をあげて。
僕を置いて行かないで〜!
……結局カラフルな糸を大量に作り出して、一反の布にするにもかなり時間がかかったんだ。あ、色合いを決める事に時間が取られたんだよ。
だって布を作る工程は、糸から一反(横37×長さ12.5メートル)の布までなんと約10分で出来るんだから!
それにしても、女性って柔軟だよね……。驚くより「やった!」って喜ぶんだよ?おかげで、僕しばらく布製造機になっていたんだ。……まぁ、僕にも当然服作ってくれるっていうし、嬉しいけどさ。
そうそう、これも凄いんだよ!
錬金ボックスに綿花を収納するでしょう?5分程するとまたニョキニョキ伸びてきて、綿花の花を咲かせるんだ。ここも原料取り放題だった。
因みにアルに山羊やイコの事も聞いたけど、山羊もすぐに毛がモサモサ生えてくるんだって。イコ繭も同じ。しかも近くまで行かなくても、僕はその方向をステータスボードに映せば採取出来るらしいよ?便利すぎる!
「それで、クレイ?服が欲しくてこの扉を開けたの?」
一通り反物を出して満足した女性陣の中で、1番に気がついてくれたのはクアラさん。あ、やっぱり布に関心が少ない人が気づいてくれた。作るもの途中で変わっちゃったもん。
「あのね。布団が欲しかったんだ」
「布団?貴族が寝ているあれ?あれも作れるの⁉︎」
おっと、今度は布団にみんなが注目しちゃった。うん、これは見本作ってみないとね。
ステータスボードから綿花を収納。そして選別とカーディングの作業までは一緒。今度は綿花を板状にして何枚も作っていくんだって。
布団のカバーは麻を収納。これも自動で糸まで作ってくれるんだ。そして袋状に折り上げて、板状にした綿花を何枚も重ねたものを合成。
そして敷布団として完成させたんだけど……
「まあ!これ柔らかくて良いわ!」
「こんな柔らかい布団に寝てみたいわ!」
女性陣が今度は布団のチェックに入って、それぞれ好感触の反応をしていたんだ。当然これも僕のものだけにするつもりなかったから、ゆっくり村の人全員に作るよ!って言ったら歓声が凄かった。
みんなからハグ攻めされたなぁ。しかも、当分僕の家にお肉や山菜が山程届けられる事になったんだ。お母さんは大喜び。あ、服は優先的に僕達家族の服から作ってくれるんだって。
うん、みんなが喜んで協力し合うのってやっぱり良いね!
そんな感じで盛り上がる僕の家。
一方、村の入り口では……
「こんにちは!今回納品遅くなってすみませんでした!皆さん塩足りなかったでしょう!今回多めに仕入れてこれましたよ!」
うん、当然と言えば当然だけど、村にブレア商会が来てくれていたんだ。いつもならみんなで押し掛けるのに、今日集まったのは半分以下の村人たち。
「……おや?皆さんどうしました?子供達しかまだ出てきていないですが……?」
まあ、不思議に思うよねぇ……
なんて言ったってブレア商会のキドさんも、お父さんの知人。以前スタンピードの時にお父さんに命を助けられたから、移動だけで1ヶ月かかるこの村にも来てくれるんだ。
貴重な時間をかけて来てくれる唯一の商会。
……だからね。村の変化は誰よりも感じやすいんだよね。
キドさんの様子に、子供達が僕の家に居る大人達を呼びにきたんだ。
「母さん!キドさんが来た!」
真っ先に駆け込んできたのは、マーサさんの息子のフレック兄さん(15)。剣が得意な自警団見習い。
「おや!もう来てくれたのかい⁉︎」
マーサさんもいつもだったら真っ先に出て行く一人だから、あちゃーって言ってる。
「そうなんだ!だからみんな出て来た方がいいんじゃないかって……」
「おや?皆さんここに集まっていたんですか?」
フレック兄さんの後に、ヒョイと顔を出すキドさん。駆け出して来たフレック兄さんを不思議に思ったのか、荷物を子供達に見張らせてキドさんもその後をついてきたみたい。
いきなりの訪問に、打ち合わせをしていなかった僕達はピタッて動きを止めちゃったんだ。
「え?皆さんどうしました?」
疑問に思うフレックさんの目の前には、さっき作ったばかりの反物を持ったミーナさん。勿論目線はすぐそちらに移り、驚くキドさん。
「な、なんです?その綺麗に色付いている反物は?こんなの王都でも見ませんよ!」
うわぁ……こういう時ってどうすれば良いんだろう?
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