第5話 初めての箱庭錬金と新たなチーム作成のメンバー会議
「もう困ったわ〜。マーサさんもミーナさんもかなり追求してくるんですもの」
お母さんが僕達を探しに海の箱庭の扉の中に入って来たのは、あれから結構時間が過ぎた後。僕とお父さんで石の簡易釜戸を作って、焚き火で魚を焼いていた時だったんだ。燻製の魚もいい具合に焼けたしね。
「おかあしゃん!はい!」
「あら、ナーシャありがとう」
ナーシャはもう焼けた魚2本持ってたんだ。一本お母さんに渡すんだってずっと持っているんだもん。焼きたてもあるのに。でもそこはお母さんだよね。笑顔でちょっと冷めた魚を食べてくれたんだ。
「あら?塩こんなにつかちゃったの?」
あ、やっぱり。お母さん、一口食べただけで塩加減がわかるんだもんなぁ。
「ごめんなさい、お母さん。台所から塩を持ってきたのは僕なんだ。でもね一応理由あるんだよ。ね、アル」
「ハイ、ゴ主人。皆様ニ実践デオミセシタホウガ早イト思イマス」
「だね。やっとできるね」
僕はステータス画面を出して、箱庭錬金 SP150をタップする。ステータス画面でSPの消費に許可を出すと、ステータス画面に変化があったんだ。
クレイ・リーガン 5 男
HP 450
MP 500
SP 310
スキル 箱庭ゲートキーパー〈レベル3〉
生活魔法 箱庭錬金
称号 異世界転生者 時空神の祝福
「うん!アル、使える様になったみたいだよ」
「デハ早速使ッテミマショ」
僕は箱庭錬金をタップすると、ステータス画面がカメラ機能に変わったんだ。画面の周りには魔法陣みたいなのが描かれていてカッコ良い!あれ?画面の下には指示があるね。
『収納素材を画面上でタップして下さい』
うーん、海水が欲しいけどある程度でいいんだよなぁ……
「ねえアル?海をタップしたら無くなるって事ないよね?」
「勿論デス」
僕の肩に止まっているアルによると、タップしたまま画面から指を離さなければ、画面下に収納した容量が出てくるんだって。自分が欲しい量になったら指を離せばいいらしいから、やってみよう!
「うわぁ!凄い勢いで増えていってる!」
指を画面につけたまま、収納した素材はどこに行くの?ってアルに聞いてみたら、魔法陣を通して錬成空間に瞬間移動するそうなんだ。凄いよね!あ、そろそろいいかな?
そう思って僕が指を離すと、画面下の指示が変わってたんだよ。
『錬成する物をタップで選択して下さい。
1・塩 2・真水 3・金 』
「えええ?海水から金も取れるの⁉︎」
思わず叫んじゃったから、お父さん達も覗き込んできたんだ。するとね、お父さん達がびっくりしているの!チーム作成したメンバーにはステータス画面が見える様になるんだって。アルによると、触る事は出来ないけど。
おかげで、お母さんにも何をやりたいのかバレちゃった。
驚く家族を落ち着かせて、作業に戻る僕。でも今度は、みんな後ろから覗き込んできてるけどね。気にせず1の塩をタップすると、『塩を錬成しますか? 実行 キャンセル』って出てきたから迷わず実行したよ。するとステータス画面に『錬金ボックス』って言う項目が出てきてんだ。そこの中に『塩×1』って表示が出たよ。
「ねえ、アル?取り出すにはどうしたら良いのかな?」
「マズハ器ヲ作ル必要ガアリマスヨ。今度ハ木ヲ収納シテミテ下サイ」
アルの指示通り箱庭の中にあるコナッツの木を収納して、さっきの手順で木の錬成してみたんだ。するとね。
『錬成先を選んで下さい。
1・樽、木箱 2・机 3・椅子 4・ベッド…… 』
色々作成出来る種類が出てきたんだ。いっぱい試したかったけど、今回は1の樽と木箱を選択。サイズも指定出来たよ。それで錬成して出来たのが『木箱(20cm×20cm)×10』って表示されたんだ。ここからどうするんだろう?
「デハ『塩×1』を『木箱(20cm×20cm)×10』二指デ移動サセテクダサイ」
ん?パソコンでファイルをドラッグさせる感じで良いのかな?
言われた通りに作業をすると、画面表示が『木(20cm×20cm)×7木箱(塩入り)×3』に変わってた。画面の右下に『取り出し』コマンドが増えていたから、とりあえず一つ出してみたんだ。すると、目の前に木箱が出てきて、家族みんなで「おお!」って驚いちゃった。
お母さんがやっぱりすぐ動いて、木箱の蓋を開けて塩の確認をしたんだけどね。
「……凄いわ。真っ白で砂が入っていない塩なんて……しかも味がまろやかだわ!」
お母さんたらすっごい驚いたのか、木箱を抱えて僕らにも確認してみてって言うんだよ。でもみんな興味深々で確かめたら、ナーシャったら「おーいしー!」って飛び跳ねて感激してた。
でも本当に美味しかったし、商人さんから仕入れるより上質で量も取れるんだもん。お父さんは「村のみんなに分けてやりたい……」ってどこまでも村人に優しい感想だった。そして僕をまっすぐ見て、真剣な表情で話し出すお父さん。
「クレイ。改めて確認させて欲しい。クレイのこの力を本当
に村のみんなに知らせても良いか?……これはクレイの力だ。決定権はお前にある」
お母さんもナーシャでさえ僕をジッと見つめていたんだ。この力の影響力と有用性を考えると、リスクもあるけどメリットは大きいって言うお父さん。お母さんも「貴方次第よ」だって。
……もう、5歳の僕に命令だって出来るのに。
「大丈夫!僕はお父さんとお母さんを信じているし、そんなお父さんについて来てくれた村のみんなも大好きなんだ!だからこそこの力、村の為に使いたい!」
はっきり言い切った僕にお父さんは「流石!俺の自慢の息子だ!」って言って抱き上げてくれた。お母さんはその横で微笑んでいるし、ナーシャは「みんなとここであそべる」って喜んでいたなぁ。ふふっ、うちの家族はやっぱり良いなぁ。
それでね、早速家族でチーム作成のメンバーを話しあったんだ。でも結局決まらなくてね。やっぱり各家庭の代表に集まってもらって、情報を公開した上で話しあった方が良いって事にまとまったんだよ。
この村では、夜に時々集まってみんなの意見を交換しているから、次の集まりの時の議題にするみたい。当然僕とアルも参加するんだって。
うーん、みんなどんな反応するだろうなぁ。
次の集まりは明日。僕の家で食事も提供しながら話しあった方がわかるだろうって事で、当日は朝から張り切って貝や魚をとったよ。お母さんも朝から張り切って料理してくれたんだ。ナーシャは相変わらず遊んでいたけどね。
そしてその日の夜……いつも通りに集まってきた9人の家族の頭達を迎えたのはテーブルいっぱいの海鮮料理。
「おいおい、どうしたんだこれ⁉︎」
「は?魚?」
口々に驚きの声が上がり、入り口で止まったまま動かなくなっちゃった。お父さんがみんなを誘導してやっと席に着いてくれたんだけどね。
「おい、グレイグ。説明してくれ」
困惑する雰囲気の中、最初にお父さんに聞いてきたのは副リーダー役のバースさん。お父さんの親友で村の自警団リーダーなんだ。逞しくてかっこいいんだよ。
「ああ、勿論だ。……これから話す事は信じられないだろうが、事実である事を証明する為にシュナに作って貰った。そして今回の話の主役は息子のクレイだ」
お父さんが席を立って僕を呼びにきたんだ。僕は呼ばれるまで台所で待ってたんだけどね。アルと一緒に登場する事によって更に注目を浴びた僕を、お父さんは安心させるように抱き上げてくれたんだ。おかげで緊張して震えていたのがおさまったんだ。
そんな僕の様子に頭を撫でながら話し出すお父さん。一人一人の顔を見ながらしっかり言葉が届くように話した内容は、僕にスキルが発現した事。そのスキルは箱庭ゲートキーパーというもので、アルがその案内役であること。スキルによって海のある場所とつながる事。この料理の素材はそこで手に入った事。そのスキルで塩を作る事もできれば、かなりの有用性がある事。
勿論、説明の合間にいろんな意見が出てきたよ。その度にみんなをまとめてくれたのが、お父さんの相談役で最年長のブラムさん。40代だけど、力はこの村でも上位に入るくらいで、色々な場面に対応出来るマルチな人。性格も穏やかで頼りになるんだって。
「……やはり信じがたいが、目の前に証拠があるからなぁ……」
ひと通り話を聞いて呟くブラムさん。でもその表情は納得した顔だったんだ。どうやら、お母さんの差し入れのスープの中に貝がある事を気づいていたみたい。それはもう一人気づいていたよ。
「やっぱり貝だったか!美味いと思ったんだ!」
村1番の体格の良さと豪快に笑うのが特徴のムーグさん。みんながお父さんの話しに夢中になる中、一人美味い美味いと食べていた人なんだ。この人の凄いところは、動じない事なんだってお父さん言ってた。
「海の扉か……見てみたいな」
同じように食べ始めたのが、穏やかな性格で畑仕事が得意のファストさん。うちの菜園も手伝ってくれたんだよ。村のみんなに野菜や山で採ったキノコや山菜を良くわけてくれたりもするんだ。
「クレイ!凄いじゃないか!」
我が子の事のように喜んでくれるのは、自警団メンバーの一人ベルグさん。良く僕らと遊んでくれたり、狩りに行って肉を仕入れてくれる、明るくて元気な人。身体はムーグさんの次に大きいかな。
何より僕が驚いたのが、しばらくするとみんながお父さんの話を受け入れた事。思わず僕がみんなに確認したら、「グレイグが俺らに嘘をつくわけがない」だって。全員笑って言うんだよ。
……なんか本当の仲間ってこうなんだって、お父さんに教えられた気がしたよ。いつか僕も対等な仲間として入れてもらえるようにならなきゃねって思った。
でもね、そんな仲間でも好奇心はみんな強かったみたい。チーム作成に入れる5人の話し合いは白熱してみんな譲らなかったんだ。最終的に公平なジャンケンで5人が決まったんだよ。で、結果こうなったんだ。
『 チーム名:ファミリア ゲートキーパー:クレイ・リーガン
名前 性別
1・グレイグ・リーガン 男 登録済み
2・シュナ・リーガン 女 登録済み
3・ナーシャ・リーガン 女 登録済み
→ 4・ブラム 男 未登録
5・バース 男 未登録
6・ファスト 男 未登録
7・ゼン 男 未登録
8・ディラン 男 未登録 』
順序はジャンケンで勝った順なんだ。相談役ブラムさんと自警団リーダーのバースさんは流石って感じだった。スルッと畑が得意なファストさんが入っているあたりも面白いよね。
でも白熱したのは7番目を決める辺りから。僕の友達のジェフのお父さんのゼンさんなんか、勝って雄叫びあげたもん。あ、ゼンさんも自警団メンバーだよ。
8番目が決まった時なんか、負けた4人全員が叫んだよね。勝者はこれまた僕の友達のケインのお父さんのディランさん。冷静で穏やかな人がガッツポーズしてたのには笑ったなぁ。そうそう、ディランさんも自警団メンバーなんだ。
ジャンケンに負けた4人はアルから慰められてたなぁ。「大丈夫デス。イズレ皆サン入レルヨウニナリマスカラ」って言葉に、出来るだけ早く頼むって4人から僕頼まれちゃったし。
勿論扉に入るのは明日って事になったよ。食べて話終わったら夜遅くなったからね。それで、一旦話を持ち帰って村全員に情報を共有する事になったんだ。勿論村人だけの秘密にしてね。
明日は村中の人が押し寄せてきそうだなぁ……
なんとなくそう思っていた僕。でもまさかその日のうちに村中が知る事になるとは流石に思わなかったよ。
理由は後日マーサさんがこう言ってたよ。
「全く!ウチの男どもは夜中に大声で騒ぐなんて……!寝てた子供や妻が起きるのも当たり前だってんだ!」
ちょっとお怒り気味だったのを、相談役で夫のブラムさんが宥めるのに苦労したんだって。僕、お父さんにぼやいていたの聞いたんだ。
うん、これは仕方ないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。