第4話 姫騎士の死亡フラグをへし折る
奇襲をしてから有利な状態から戦を始めることはできたが、王国の鎧の性能差からあっという間に形勢を覆され、皇国軍は撤退を決断せざるを得ない状況に追い込まれていた。
「姫様、お下がりください。我々が」
「黙って下がれ凡骨どもが! 私以外に敵を抑えられるものは居らん。貴様らでは足止めにもならず、それこそ全滅だ! 私を生かしたいと思うのなら貴様らが早く逃げろ。そうでなければ私が逃げることができん」
自分の麾下にある近衛騎士団に撤退命令を出すと、姫騎士ーーダリアは幾つもの魔法を並列で展開して、迫り来る王国軍の鎧を牽制する。
口では殊勝なことを言ったが、圧倒的な鎧の性能差から自身が犠牲になったとしても、追撃を受けて、1割も逃げきれないだろうことを察していた。
「だから早く行け! 見事逃げ切ってこのダリアがここで戦ったことを後世に語り継ぐのだ!」
「姫様……! 撤退! 撤退だ、者ども!」
ダリア麾下の近衛騎士団含め皇国軍全軍が撤退を始める。
それと同時に迫り来ていた王国軍が道を開け、凄まじい勢いで迫る一団が現れた。
「チッ! 嗅ぎつけたか! アヴァロン王国第五王子アーサー・アヴァロン!」
「お初にお目にかかるダリア姫。 君たちのような弱者と戦うのは私の人生における最大の汚点だ。 この戦場にいる皇国兵の命を以って償って貰おう」
白銀の鎧の一団の中から大槍を持った純白の鎧が出てきて、淡々とした口調で皇国軍の皆殺しを宣言すると、ダリアではなく後方にある皇国兵に向けていくつもの魔法を繰り出す。
「貴様!」
ダリアが魔法を展開して迎撃するが完全に抑えきれず、一部のスピアが足に被弾して、その場から身動き取れなくなる。
「お前のせいで1人も死ななかったではないか、ダリア姫。それほど嬲り殺しにされたいなら、望み通り嬲り殺しにしてやろう」
アーサーと王国の精鋭の騎士団がダリアに向けて殺到する。
最高戦力である王族クラスに次点の伯爵クラスが五騎。
抵抗のできぬ間に殺されるとされると思うと、赤い閃光が走った。
何が起きたのかわからずにいると、迫りきっていた近衛騎士たち二騎から火花が飛び散り、そこでやっと魔法で横合いから落とされたことを理解した。
魔法が来ただろう方角を見ると赤いスピアが赤熱した短槍で王国兵を蹂躙しつつ、人外じみた機動で近づいてくるのが見えた。
「赤い蜂……」
強大な敵に怯むことなく立ち向かい、舞うように刺し、敵を撃滅する姿からダリアには、最弱の鎧である赤いスピアがそう見えた。
「邪魔をしやがって雑魚の中でもとびっきりの雑魚が調子に乗るな!」
横槍を入れられたことで気色ばんだ声を上げたアーサーが赤いスピアに残りの近衛騎士を従えて殺到すると、続け様に三騎が赤い短槍で刺され、火花を散らし、その場に崩れ落ちた。
『ノンネームド。雑魚はお前だ』
赤いスピアから少年が声が聞こえると、周りの皇国兵から歓声が上がった。
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