第12話 強豪相手に
初球。
ストレート。
中学生としては速い球だろう。
しかし僕は、葛西の球を見慣れている。
ジャストミートした打球は、ライトスタンドに飛び込んだ。
相手チームのベンチは静まりかえった。
これで7対2であり、点差はまだ5点ある。
そして1番打者のところで新田が代打に出た。
そして今度はレフトオーバーのツーベースヒットを放った。
こうなると相手チームも本気になり、マウンドにエースを送った。
こうなると残念ながら僕ら3人以外は、歯が立たない。
簡単にチェンジになり、流れは相手チームに戻るかと思われた。
だがそうはさせない。
4回表も僕がマウンドに登り、三者三振に抑えた。
結局、試合は7対4で敗れた。
3回に僕が登板してからは、たった一人のランナーも出さず、僕らの打順の時はほとんど敬遠だった。
僕のホームラン以外の2点は僕と葛西がフォアボールで出塁して、ダブルスチール後、新田のタイムリーヒットによるものだ。
と言っても新田も勝負されたわけではなく、敬遠気味の球を無理やり打ち返したものだ。
この試合、僕らの学校は敗れたものの、強豪校相手に中盤からは圧倒した。
恐らく相手チームにとっても、勝った気がしない勝利であっただろう。
その相手チームは、結局、京都府大会で準決勝まで勝ち上がったので、僕らにとっても自信になったのは言うまでもない。
そして僕らが2年生になった時には、小学生時代と同様に、僕と葛西がダブルエースになっていた。
もちろん3年生のピッチャーもいたが、実力では僕と葛西のは足元にも及ばなかった。
良く中学校の部活では、上下関係が厳しいと言われるが、小学校時代の僕らの武勇伝を知っている先輩もおり、表立って先輩風を吹かせられることも無かった。
葛西も新田も(僕も)喧嘩は強いが、分はわきまえており、表面上は円滑な人間関係を維持していた。
表面上はとしたのは、当時はあまり感じなかったが、先輩方としては、面白くなかったかもしれない。
そうだとしたら、ごめんなさい。
この場を借りてお詫びする。
もっとも3年生の中にも人間性に優れた人はおり、特にキャプテンの津崎さんは人格者だった。
恐らく僕は下級生の中でも、一番生意気で、扱いづらかったと思うが、いつも気にしてくれた。
使わなくなった野球道具や、新品のアンダーウェアやソックスをくれたのも、当時の僕には有り難かった。
彼は中学卒業後、野球の強豪校に進学した。
そこではレギュラーを取れなかったが、キャプテンに選ばれた。
部活を引退後も僕らの事を気にかけてくれ、高校に入ってからもちょくちょく顔を出してくれた。
大学では野球を続けず、今は大手商社に入って活躍しているようだ。
一度、大リーグの試合に招待したら奥さんと一緒に来てくれた。
そして三年生が夏の大会で引退すると、名実ともに僕らの天下となった。
キャプテンは葛西、副キャプテンは新田が指名され、僕は副キャプテン補佐代理心得の役割が与えられた。
今思うと、何か役職を与えておかないと、何をしでかすかわからないという、顧問の先生の深謀遠慮を感じるが、その時は役職を与えられて素直に嬉しかった…。
僕も若かったな…。
2年生の秋の大会、僕らの中学校は公立の無名校ということで、シードもなく1回戦から登場した。
1回戦は葛西が先発し、何と7回をノーヒットノーランに抑えた。
なぜパーフェクトを達成できなかったかというと、キャッチャーの僕がパスボールしてランナーを二人出したからである。
だけど葛西のカーブはエグいくらい曲がるし、球速も速いので、僕でなければ捕ることすらできなかったと思う。
だから仕方が無かった。
うん、そうに違いない。
そして2回戦はいきなりシード校の私立の伏見城南中学校と当たった。
エースで4番の柳谷という、地域で有名な選手がいるとの触れ込みだった。
この試合は僕が先発となり、葛西がキャッチャーについた。
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