第11話 中学入学
小学生時代の最後の大会は、僕は一球も投げなかった。
ベンチにも入らず、スタンドで応援していた。
ベンチに入ると、気が急いてしまうだろうという、北沢監督の配慮だったが、僕としては代打でも良いから、試合に出たかった。
だが今思うと、あの時期に無理をしなかったことが、後から幸いしたと思う。
そういう点でも、北沢監督の慧眼には恐れ入る。
小学生最後の大会は、葛西がよく投げたが、京都大会の準決勝で敗退し、近畿大会に駒を進めることができなかった。
この近畿大会でも平井選手は投打で大活躍し、枚方ファイターズが優勝した。
もはや、野球好きの間では小学生に大物ありということで、平井選手は有名人となっていた。
小学校を卒業しても、僕は野球を続けることにしていた。
そうなると部活としての軟式か、クラブチームに入っての硬式を選ぶことになる。
と言ってもクラブチームはお金がかかるので、僕には部活しか選択肢は無かった。
そして嬉しい事に葛西と新田も僕と同じ地元の公立洛南第二中学に進み、同じ部活に入ることになった。
隣町には硬式のクラブチームがあり、葛西にしても新田にしても硬式チームに入れたはずだ。
「何だ、中学でもお前らと一緒かよ」
僕は憎まれ口を叩いたが、本当はとても嬉しかった。
というのも前述の通り、僕は人付き合いが苦手なので、中学に入って友達ができる気が全くしなかった。
そして部活に入ると、先輩というものができるので、それも不安だった。
もっとも僕の小学校時代を知っている先輩も何人かいたので、その点ではやりやすかったが。
部活に入ってすぐにボールを握らせてくれるほど、当時の部活は甘くなかった。
入学以来、来る日も来る日もランニングと球拾い。
それでも僕は練習後、葛西や新田達と自主練習をした。
この時期にあまり無理しなかったのも、後から振り返ると良かったと思う。
もしこれが結果を求められる私立中学校だったら、1年生から投げされられていたかもしれない。
3年生が引退し、代替わりしてから、僕と葛西、新田は試合に出るメンバーに入った。
僕のデビューは、秋の大会の2回戦だった。
2年生のエースが3回で7失点し、マウンドに僕が上がった。
そしてキャッチャーには葛西が入った。
相手は全国大会常連の私立中学であり、そんな相手に2回戦で対戦したのは不運としか言いようが無かった。
3回表、ノーアウト二、三塁。
点差は7対0。
それが僕の初登板の舞台だった。
マウンドに登ると、相手バッターは本当に中学生か?と思うような体格をしていた。
高校生に混ざっても、遜色のないくらいの身長で、威圧感も強かった。
これでも7番バッターか。
相手バッターは、マウンドに立ったのが2年生で、しかも小柄の僕ということで笑みを浮かべている。
僕はマウンド上で大きく息を吸った。
初球。
ど真ん中へのストレート。
バットは大きく空を切った。
2球目。
引き続き、ど真ん中へのストレート。
またしてもバットは空を切った。
相手バッターからは完全に笑みが消えていた。
そして3球目。
またもやど真ん中へのストレート。
相手バッターのバットは、ボールのはるか上の空を切った。
恐らく、球の伸びで浮き上がって見えたのだろう。
そして8番バッター、9番バッターも連続で三球三振に切って取った。
休日ということもあって、スタンドには相手チームの応援団が多く陣取っていたが、ざわざわしていた。
僕はかるい足取りでベンチに戻った。
3回裏の洛南第二中学校の攻撃は、8番のキャッチャーからの打順であった。
つまり葛西からの打順である。
相手ピッチャーは、エースではなく、二番手投手であるが、ここまでデッドボールのランナー1人に抑えられていた。
だが葛西はいきなり初球をジャストミートした。
見事なセンターオーバースリーベース。
そして次は僕の打順だ。
相変わらずをやかましい相手の応援団を見ながら、僕は静かに打席に入った。
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