第6話 新しい仲間

 僕は意気揚々とマウンドに向かった。

 そしてキャッチャーには葛西がついた。


 僕はちょっとウキウキしていた。

 こういう生意気な奴を力で抑え込む。

 何て快感なんだろう。

 その高慢ちきの顔が、悔しそうに歪むのが楽しみだ。

 僕はそうほくそ笑んだ。


 初球。

 ど真ん中へのストレート。

 打てるもんなら、打ってみやがれ。

 

「カキーン」

 快音を残した打球は、センター前に弾んでいる。

 え?

 

「これで合格か?」

「バカヤロウ。

 今のはセンターライナーだ」

 僕は負け惜しみを言った。


 2球目。

 渾身のストレートを、葛西のミットをめがけて投げ込んだ。

 

「カキーン」

 今度はライナーでレフト線上に落ちた。

「今度こそヒットだろう」

「いや、今のはファールだ」

 僕は再び負け惜しみを言った。

 

「どうしても俺を入れたくないみたいだな。

 わかったよ。

 ほれ、投げてこい。

 嘘つきのヘボピッチャー」


 僕は屈辱と怒りで震えていた。

 自分でもわかっていた。

 さっきの2球は完璧なヒットだ。

 

 僕は大きく振りかぶり、全力で投げた。

 指にうまくかかった感触があった。


 ブン。

 新田は空振りした。

 

「よつしゃー。どうだ、俺の勝ちだ」

 僕はガッツポーズして、胸を張った。

 

 新田は大きくため息をついた。

 「ああ、俺の負けだ。

 最後の球は想像以上だった。

 仕方が無い。

 違うチームを探すよ」

 そう言い残すと、傍らに置いていたスポーツバッグを肩にかけて、校門に向かって歩き出した。

 

「おい、お前それで良いのか?」

 葛西が僕のところに来て言った。

「いや、でも俺が勝ったし…」

「お前、本当にそう思っているのか?」

「ああ…」

「正直に言えよ」

「…」


 僕と葛西は新田が角を曲がって見えなくなるまで見送っていた。

「じゃあ、練習に戻るか」

 葛西が言った。

 僕はそのまま立ち尽くしていた。

「ほら山崎、練習するぞ」

 葛西が再び言った。

 

「くそぅ」

 僕は駆け出していた。

 新田は校門を出るところだったが、僕の足音を聞いて振り返った。

 

「何だよ」

「お前、うちのチームに入れよ」

「あーん、嫌だよ。負けは負けだ。

 最後の球が三球来ていれば、俺は打てなかった」

「いや、初球と2球目は完璧なヒットだ。俺の負けだ」

「いやいや、負けは負けだ。

 どっちみち、ホームランを打てなかったのは確かだ」


 そんな事を言い合っていると、葛西がやってきて、新田に言った。

 

「で、どうするんだ。

 お前、うちのチームに入るのか、入らないのか」

「入る」

 入るんかーい。


 その後、監督や主務の方(チームメートのお母さん)も来て、新田は正式に入部することになった。


 ということで、我がチームに新田という強力なバッターが加入した。

 新田は東京のチームでは、サードを守っていたが、外野の経験もあるとのことだ。

 洛南ビクトリーズとしてはセンターラインを強化したいと考えていたので、新田をセンターにした。

 新田は小柄であったが、パワフルな打撃をしており、足も速く、肩も強かった。


 僕、葛西、新田と並ぶ上位打線は強力であり、破竹の勢いで春の大会では地区予選、京都府大会を勝ち抜き、決勝まで進んだ。

 決勝まで進むと、その結果に関わらず、近畿地方大会に進める。

 そこでベストフォーに入ると、全国大会に出場できるのだ。


 だが1回戦で僕らは、自分たちが井の中の蛙だったことを思い知ることになる。


 

 

 

 

 

 

 

 


  

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