第35話 忘れられたダンジョンにて

 牛鬼の襲撃で中断されていた、バオバブの実の試食会が始まりました。


「うんまーーーーー、叔母さんの宿でも味わえないレベルだわ!」


「キャンディより美味しい……いや、キャンディの方が美味しい。ううん、やっぱどっちも美味しいよ!」


 そうでしょう、そうでしょう。

 味や効果もさることながら、美容にも良さそうです。

 特に私の肌のつやがみるみる内に、テッカテカのぷるんこです。もちろん油でなく健康的なテカりですよ。


「お二人とも、こんなにもっていますし、お土産として貰っちゃいましょう」


「わぁ、バオバブ狩りですね」


「大さーんせーい、やったー!」


 採り尽くせないほどあるバオバブの実です。

 食べながら、夢中で採りつづけます。


 と、ここでヤラカしている事に気づいてしまいました。

 すでに手遅れな状況に、ただただ自分を責めるしかありません。


 その失敗した事とは、バオバブの実を食べた事なのです。

 何を言っているのって思うでしょうが、これは事実なのです。


 アイテムの効果として疲労回復とありますが、これが曲者でしてね。

 どんなに動いても、食べればすっきり回復、疲れがリセットされるのです。


 楽しい気分で相乗効果もあり、今の私たちは三才児より無敵、どんな事でも出来るのです。


「お兄ちゃん見てー。ほらぁ2個一緒に食べちゃうよー」


「あっ、だったら私は3個同時よ。師匠、ちゃんと見ていてくださいよ」


「カーラちゃん、ズルい。3個なんて僕の手じゃあ持てないよ」


 ……ほらね。

 2人のテンションは最高潮に達しています。


 二人は騒ぎたいお年頃なのです。

 それを冷めた目で見ていては可哀想ですもの。


 ここは大人の私が、率先してハジケてあげるべきですな。

 それで二人は、心置きなく楽しめるはずですよ。


 うおっほん、決して己の欲だけはないですよ。……いや、本当に本当、保護者なのですから。


 だから主役の座を奪うつもりでハッチャケますよ。


「同時食いなんて生ぬるいですぞ。やるなら、こう。回転食いをご覧あれ!」


「何ですかそれ、あはははははは!」


 楽しむと決めた異世界です。

 それと置いてきぼりは悲しいですからね。

 目一杯バオバブ狩りを楽しんじゃいますよ。あっ、基本はふたりの為ですからね。


 とはいえ巨大な木ですから、全ての実を採るとは難しいです。


 それとモンスターが邪魔してきますので、行楽こうらく気分はつづきません。


 何度か襲撃にあい、この度に中断をされました。


「うわ、今度は団体で来たよ。お兄ちゃんどうしよう?」


 うーむ、何度見てもゾゾゾッと悪寒が走ります。

 多足の蜘蛛がワラワラと来るのですよ。

 蜘蛛の子を散らすの反対ですな。


「タッパくんは姿を消して見つからない様に。合間は回復などのサポートに徹してくださいな」


「う、うん」


「それとカーラは火事に気をつけて下さいね」


「はい、焼けたらこの実が台無しですものね」


「おおお、焼きバオバブですか。あとで試してみますかね」


 そこはさらっと流され戦闘が始まりました。


 私は二人に手が届く範囲で戦います。

 この三人での戦闘は久しぶりですが、前より格段に良くなっていますぞ。

 息の合い方がピッタリなのです。


 もしかしたら、あの買い取り業務で鍛えられたのかもしれませんな。


 なにせ過酷でしたからねえ。


 最小限の動作に、確実なアイコンタクト、そしてひきつりながらも笑顔を忘れない根性。


 どれか一つでも無かったら、崩壊する現場でしたもの。


 それがここに来て生きるとは、なんて愉快な人生でしょう。


 はっきり言って我ら三人は無敵ですぞ。

 ワラワラと寄ってくる牛鬼たちを、次々と蹴散らしていきます。


「その歩みを止めよ、バインド。……ごめんなさい、1体だけです」


「充分ですよ。あとはお任せあれ、うりゃーーー!」


「お兄ちゃん、左から新手がきたよ!」


「それでしたらカーラ、目眩めくらましで時間稼ぎを!」


「はい!」


 強い、強いですぞ。

 声かけが出来ない場面でも、互いに察知しフォローしています。

 それに不利と避けていた枝の上でも、難なく撃退しています。


「師匠、かっこいいですーー!」


「いえいえ、2人もグッジョブですよ。ぬほほほほほほほっ」


 でも流石は蜘蛛のモンスターです。

 その数は尋常じゃあないですよ。


 山盛りどころか、津波のように押し寄せてきます。……有り難いですがね。


 このあとの勘定が楽しみですな。

 ドロップしたアイテムは、すでに10個を越えています。

 このまま無限ループがつづくなら、レアモンスター、そしてレアアイテムが期待できますぞ。


「師匠、良からぬ事を考えていますね?」


 背後からでも分かる、ジト目での低い声が響きます。

 戦闘中なのに、カーラは余裕がありますね。


「脱出が優先ですからね。検証やアイテム収集は諦めてくださいよ?」


「あはっ、バレてます?」


 トボケようとしていたのに、念を押されてしまいました。


 でも襲ってきた分までを捨てるのは勿体ないですからね。

 カーラもしょうがないなぁと笑っていますし、あとで換金はしておきますよ。


「お兄ちゃん、そろそろ後続隊は終わりそうだよ」


 楽しい妄想のおかげで、時間が早くたちました。

 最後の牛鬼をたおしたので、手分けして換金をしていきます。


 スキルの成長による小鎚の株分け。

 二人にも手伝ってもらえるので、非常に助かります。

 それと戦闘ではあまり出番のなかったタッパくんにとって、これが唯一の見せ場です。


 すごい勢いで頑張っています。


 結果、数えきれない銀貨と、32個の鬼の涙を手にいれましたぞ。

 何時いつものように三等分にしても、かなりの収穫です。


 バオバブの実で疲れませんし、牛鬼からの現金収入も良すぎます。

 クエストさえ無ければずーっとここにいたいですよ。


 でもまあ、そろそろ出口を探さないといけません。やる事がてんこ盛りですからね。

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