第36話 脱出ルートの先に

 まずはこの部屋の出口を探します。

 といっても枝葉が茂って見通しが悪いので、タッパくんのスキル頼みとなりますね。


「2人は休んでいてね」


 これまた見せ場だと張り切っていますよ。

 なんでも一生懸命なところが可愛いですな。


 お言葉に甘えて、よっこらしょと。


「あー、風が気持ちいいですねえ」


 上からの吹き下ろしは、火照った体に心地いいですね。


 敵の襲撃をあしらいながら、ゆったりと待ちまする。


「ない……出口がないよ。絶対にあるはずなのに。コレっておかしいよね」


 焦るタッパくんは必死に説明をしてくれました。

 壁や床をくまなく探しましたが、隠し扉のたぐいはないみたいです。

 壁のむこうも岩だらけで、別の空間はないと断言しています。


「タッパくん、上に意識をむけてみましたか?」


「うえ?」


「ほら、牛鬼が降って来ていましたし、風も吹いています。どこかに通じているはずですよ」


「風……あ、そっかぁ」


 ハッとしたと思ったら、枝を駆け上がっていきました。

 しばらくすると、満面の笑みで戻ってきましたね。


「道があったよ。岩の裂け目が上につながっていたんだ」


 案内された天井には、バオバブの根っこが突き刺さっています。

 きっと成長過程で作られた裂け目が、通路として役割をはたしているのですな。


 ただ、そんな裂け目はいくつもあります。

 ルートを選ぶのも、タッパくんのスキルなしでは無理ですよ。


「お手柄ですよ、道案内もお願いしますね」


「うん!」


 ですが中は想像以上に複雑でした。

 根っこの通路は四方にのびて、巨大な迷路を作っています。

 それに道幅や高さは大小様々でして、自分が何処どこにいるのか把握できません。


 それが楽々と行けるのですから、タッパくん様様さまさまですな。

 それと出てくるモンスターは牛鬼のみで、本当に危なげなく進めますよ。


「ちょっと止まってえ。……大きすぎる反応があるから、ルート変更するね」


「タッパくん、それってレアモンスターかも知れませんぞ。このまま進んで倒しましょう」


 久しぶりのレアですから、是非とも装備品を手にいれたいですね。

 だってこの前に出たのなんて、平凡な剣ですぞ。


 レアドロップなのに、平凡なってあり得ませんよ。

 せめて聖剣、百歩譲って伝説の剣じゃなきゃ納得いきませんよ。

 アイニードレアブレイドです。


「師匠、また忘れていますね。クエストが優先って何度も言わせないでくださいよ」


「あっ、そういうつもりじゃあないんだけどねえ……ダメ?」


「もう、はやく行きますよ」


 腕をつかまれ強制連行されました。

 頼りになるカーラです。レアは残念ですが、しっかり屋さんには逆らえません。


 ただね、長い道中で何度か牛鬼を撃退しました。

 はあー、こんな時に限ってドロップ率がいいですよねぇ。

 これでレアモンスターを討ち取っていたらと、つい考えてしまいます。


 その途中でまだ道はつづいているのですが、タッパくんが立ち止まります。


「ここの壁がうすいなぁ。あれ、もしかしたら外かも」


「ここが?」


 すこし叩くと、岩のすきまから新鮮な風が吹いてきました。あとは一気に崩します。


「お、おりょ。これは井戸ですかね?」


 組まれた石垣が上までつづき、光が見えていますよ。


 壁をよじ登り井戸から顔を出すと、そこは見覚えのある場所でした。


「ガッデム城の中庭?」


「そうですね、でもやけに静かですよ」


 驚く私の脇から二人は顔をだし、辺りを探り始めました。


「ちょっと待っていてね。サーチをかけてみるよ」


 アップダウンの激しかった道ですが、まさかこんなにも狭い範囲とは思いませんでした。


 それにしてもお城の中にダンジョンの出口とは、おかしな話ですよ。


 あの大樹の成長具合からして、近年できたダンジョンではないです。

 考えられるのは、太古からある原初のダンジョン。


 そうなると城に住む一族は、その存在を知っていないとおかしいですよ。


 でも坊っちゃんからは、そんな感じは受けませんでしたね。

 ただ敵をこらしめる穴としてしか使っていませんでしたもの。


 知っていたらバオバブの事は隠すはずです。


「いや、見栄っぱりでぬけている坊っちゃんなら、やりそうな失敗かもしれませんね……むむむむむ」


 判断がつきかねますが、それはさておき辺りは静かです。


 奥に見える坊っちゃんの執務室なんて、ドアが開いているではないですか。

 人の気配がなさそうですし、ちょっと覗いてみます。


「おじゃましますよー」


 誰もいません。部屋の中は前にみたままです。


 書類の山はいっこうに減っていませんね。キチンと仕事をしていないですな。


 だったら時間は十分にあるはず。

 イジワルをせずに、ハンコを押してくればいいのに。あの人は本当にケチですよ。


 でも、そのひと動作をしてもらうのが難しいんですよねえ、はあ。


「んんん、このハンコの形、どこかで見た覚えが。どこでしたっけ?」


 手にとった書類に目をやると、なんだか引っ掛かります。


 承認欄に押してあるハンコなのですが、見覚えがあるのです。

 でも何処どこでなのかが思い出せません。

 お店だったか、それとも自室だったのか。とにかく身近にあったはずですよ、うーん。


「師匠、こんな所に。もう、探しましたよ」


「カーラ、この承認された書類を見てくださいな」


 カーラは渡した書類をもち、ワナワナと震えています。

 いまにも破りそうな勢いですぞ、はて?


「なによコレ。増税案に、長屋アパートの立ち退き命令。それに孤児院をつぶして風俗店の開業許可ですってー! ふざけんじゃないわよ」


 あらら、そちらに目がいきましたか。たしかに市民を無視したひどい政策ですな。町のうわさもうなずけますよ。


「いえね、そこでなくて、ハンコの形に見覚えはないですか?」


「ハンコ?」


 カーラも同じく、ここまで出ているが思い出せないと悔しがっていますよ。


 こういった時に打出の小槌で叩いたら、ポンッと思い出したりしたら便利なんですがねえ。なかなか思うようにはいきません。


 …………んん、打出の小槌?


「わ、分かりました。コレですよ、コレ!」


「あああああああ、コレですよおおおおおお!」


 小鎚をとりだし、カーラが見えるように突きだします。

 なんとこの小鎚についている模様が、このハンコと瓜二つなのですよ。


 大きさ形は寸分違わず完ぺきです。

 そしてインクもここにありますよ、フフフフフフフフッ。


「師匠、すっごく悪い顔になっていますよ?」


 あら、本当ですね。

 鏡に映るこの笑顔、なんて素敵なのでしょう。


 半目になったカーラとバランスがとれて、このあと起こる事が楽しみですぞ。


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