第34話 ここがダンジョン?
「な、なんでこんな事に?」
ショックで仕方ありません。
頼み方が悪かったのでしょうか。
ひょっとしたら私の知らない力が働いて、坊っちゃんの精神状態に影響を与えたのかもしれません。
これは
「師匠は
「あ、煽る?」
「だって、鼻を粉砕された相手から土下座だなんて、貴族のプライドはズタズタですよ」
「しかもヘッポコだなんて、見下し方がハンパないよね。すっごくスカッとしたよぅ」
えええええ~、そんなつもりはなかったですよ。
平和的に納得してもらおうとしていたのに、何処でどう間違ったのやら。
このままでは絶対にハンコなど貰えませんよ。
訂正しようにも坊っちゃんは、いつまで経っても帰ってきませんし参りました。
気はすすみませんが、これはこちらから会いに行くしかないですな。
「ところでお兄ちゃん。この場所なんだけど、なんかダンジョンの中みたいだよ」
「へっ?」
「タッパくん、ここはお城よ。それにこの辺りでダンジョンだなんて聞いたことないもの。何かの間違いじゃないの?」
「ウソなんか言ってないよ」
「まあまあ、タッパくんスキルは正確ですぞ。そこは信じて良いかと」
妙にうれしそうなタッパくん。
それにさっきのやり取りの間に調べていたとは、気のきく少年ですよ。
「ほら、あそこの穴が下の階層へとつながっているんだ」
穴を
床はツルツルしていますし、降りたら最後。片道切符の滑り台ですよ。
「こりゃ楽しそうですな」
「お、お兄ちゃん? 感知できないほど下に伸びていて、危険かもしれないよ?」
「うんうん、未知なる領域ってやつですな」
「未知すぎるよ。それに戻る手だてはないんだよ。それでも行く気なの?」
「大丈夫ですよ、入口があるからこそダンジョンです。あるなら必ず地上にたどり着けますよ」
「タッパくん、諦めなさい。こうなったら師匠を止められないわ。探求の鬼ですもの」
「し、知ってるよー。ただ聞いただけだよぅ」
「ははは、二人ともよく分かっていますね。では早速いきますよ、それーーーー!」
「ちょ、ちょっと。きゃーーーーーーー!」
「あわわわっ!」
2人の手をつかみ飛び込みます。
もちろん先頭はゆずりません。
だって楽しむと決めた異世界ですから、その欲には勝てませんよ。
子供じみていて良いんです。それが原動力なのですから。
右へ左へと振られる絶叫コースとは、これまた心憎いです。
休憩できそうな所もありましたが、そんなの無視して行っちゃいます。
ごめんなさいね2人とも、熱い想いは止まらないのです。
徐々にスピードはゆるまり、長い坂はようやく終わりとなりました。
「ふう、広い場所ですねえ。タッパくん、マップはどうなっていますか?」
「うえっぷ……ちょっと待って。視界とマップが回っているのぉ」
あらら、可哀相に酔ったのですね。
少し横にさせてあげましょう。
カーラも水を飲み、ひと心地をついています。
「師匠はタフですよね」
「ええ、へっちゃらですよ。でもここは不思議な場所ですな」
単に広いだけでなく、モンスターの姿がありません。
しかも天井からは、全てを覆いつくすような大きな木が、なんと逆さに生えているのです。
至るところで果実がなっていて、生命力の強さがうかがえますな。
「神秘的で素敵だけど、初めて見る種類だわ」
物知りのカーラが知らないのは意外です。
ですがかなり大きくて、自分が虫になった気分になりますよ。
樹齢でいえば千年どころか万年の大木です。
四方にのびた枝は複雑にからみあっていて、まるでネットワークのよう。その果てが見えませぬ。
その正体が知りたくて鑑定をかけてみます。
「【バオバブの木】と出ましたね。それで実の方はと……おおお、これはいいですね」
【バオバブの実:疲労回復、キズ、心のキズに効果あり。錬金術の素材】
ポーションよりも効果の高い回復アイテムです。
こんなの初めて見ましたし、その効果を試してみたいですぞ。
2人を待たせて一番のてっぺん?からよじ登り、バオバブの実を食べてみます
片手ではもて余す大きさで、外はハリがあり皮は桃のように薄いですな。
では遠慮なく、そのままガブリ。
「ぬおおおお、これは旨い!」
舌にからみつく甘味。飲み込んでも味と香りが残っていますぞ。
いま無いのは食感だけですが、その食感もまた素晴らしかったのです。
むっちりとくる弾力にとろける柔らかさ。この
食べたい、もっと楽しみたい。その欲望だけに支配され、あっという間に丸ごと一個いただきました。
「師匠、ズルいですよ。私たちにもくださいよ」
あまりの美味しさに呆けていると、しびれを切らしたカーラから催促がきましたよ。
謝りながら実をとっていると、何か気配を感じます。
ゾワリと背筋にきましたね。
「タッパくん、近くに何か来ていませんか?」
「えっ、ちょっと待って。……あっ、上から敵が近づいて来たよ!」
足場のわるい木の上をさけ、急いで地上に戻ります。
すばやい動きを感じますが、間一髪わたくしの方が早かったですな。
『ブロロロロロロロロロ!』
空気が震える雄叫びです。
それよりも、その姿に驚きました。
「な、なんですか、このモンスターは?」
「つ、強そうだよ。カーラちゃん知っている?」
「分からないわ。でも雑魚でないのは確かよ」
牛ほどの大きな蜘蛛の体に鬼のような顔。日本でいう牛鬼に似ています。
大樹と同様、このモンスターもまた私たちに馴染みがありません。
だから困るのは、どこまで強いのかが分からないのです。
あっ、負ける気はしませんよ。
ただ相手の正確な力量を知りたいだけなのです。
怖いのではなく、ちょっと不安なだけですよ。そう、ちょっとだけ。
二人には一旦さがってもらい、私ひとりでやってみる事にしました。
スピードはさっき見た限り心配いりません。
吐き出される粘着性の糸だってかわせます。
ダメージを負わないなら、次は攻撃面です。
予備の武器はないですから、無理なことは出来ません。あまり力を入れずにアタックします。
「おおっ、刃は通りますな」
防御力は外骨格が少し硬いですね。でも刃こぼれはないですし、間接部分ならより
最後は頭を割って討ち取りました。
すぐさま打出の小槌で換金といきますね。
「ありゃ、結構強かったのに銀貨63枚ですか。これならCランク相当ですよ」
ちょっと腑に落ちないですな。
それでも黒鉄製の武器が通じたのですから、結果と合っています。
つまり私の見込みが甘ったのです。
モンスターのランクは、冒険者ギルドが設けた目安ですからね。
だから鑑定をしても、それが分かるモノではありません。
今回みたいにその目安が分からないと、緊張するんですよね。
天使族と戦ったときみたいに、武器をスクラップにしたくないですからね。それで萎縮しちゃったのです。
反省ですが、なかなか面白い検証が出来ましたし、満足、満足。
それとうれしい事にドロップアイテムがありました。
物はこれまた聞いたこのない【鬼の涙】。
鑑定には錬金術の素材と書かれています。
いくらになるのか楽しみですな。
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