第33話 仕切り直しの土下座

 デコピンを坊っちゃんにお見舞いすると、壁へぶっ飛んでいきました。


 手加減してコレとは、やはり成長していませんね。

 でもこれで終わらせはしません。


「保身のため仲間を売れと言いましたね。貴方みたいな立場の人間が言えば、どんなにひどくて、人の心を傷つけるのかを考えなさい!」


「な、な、何をする。たかが獣人の一匹や二匹の事で!」


「まだ言いますか。あなたは反省をすべきなのですよ」


「ヤメ、イタッ、ぐふっ、ぎ、ぎゃーーーーーーーーーーーーー!」


 懲りない坊っちゃんの鼻に、デコピンを右から左からとおみまいします。

 当たる度に、鼻は右へ左へと折れ曲がります。


 これで泣こうが、そんなの知りませんよ。

 キチンと反省するまでは、この往復デコピンをやめる気はないですからね。


「やめろ……め、命令する。これ以上は、イダダダダーーッ」


「命令ですと? 私は反省しなさいと言っているのです」


 暴力はダメですよ、教育上よくありませんしね。

 いざとなったら、お星さまのエフェクトやモザイクが入り、2人の目には映らないでしょう。


「何をーーーー、寝言は……あぶっ」


「ちゃんと2人に謝りなさーーーい!」


「だ、だれが……」


「あ、や、ま、り、なさい!」


「イダイ、イギギギッ、痛いーーー。ご、ご……ごめん、なざいーーーーー!」


「本当に反省していますか?」


「本当に、本当にだ。だからもうやめでぐれ……くだざい」


 絞り出すようでしたが、やっとその言葉が出ましたか。


 傲慢なのは仕方ないですよ。だって貴族なんですから。


 でもですよ、それを反省し人生をやり直せばいいのです。

 大丈夫、だって人間は相手を認めることの出来る生き物なのです。

 坊っちゃんにも、そのチャンスが巡ってきたのですよ。


 傲慢貴族から、天使ちゃん貴族へジョブチェンジです。響きも良いし皆に愛されそう。


 きっかけがデコピンってのは、格好悪いですけどね。それでも坊っちゃんはツイていますよ。


 それに立ち会えた私もまた幸運ですな。

 これで一件落着となりました。


「ということで」


「ヒィッ!!!!」


「そんなに怖がらないで下さいな」


 坊っちゃんは腰がぬけていて、私にとっては好都合です。

 これなら逃げられる心配はないですな。


「ご、ごれ以上なにを?」


「何をって、先ほどの続きですよ」


「ひいいいいいーーーーー!」


 まずはひざをつき足をそろえ、ひじは外にむけて手をつきます。次に額を床につければ準備完了です。


 嘆願を再開いたします。


「どうかお代官さま、荷止めをなにとぞ解除してくださいませーーーーーーー」


「「「へっ?」」」


 キ、キマリました。完ぺきな土下座です。


 声の大きさ、それにタイミング。聞き取りやすさも心掛けました。

 しっかりと坊っちゃんに伝わったでしょう。


 さっきは不覚にも話題をすり替えられてしまいました。

 話のうまい人がよく使う手ですな。


 都合の悪いことを避けるため、別の話題を持ち出す、あの常套手段ですよ。


 私も若い頃はよく引っ掛かりましたよ。

 気づけば大事な事がウヤムヤなんてザラでした。


 でも私もいい大人ですし、そう易々とは流されませんよ。

 ちゃっかりと本題へと戻しますとも。


 ほら、坊っちゃんの顔。


 この手が通じないと分かって呆けていますよ。プププッ、してやったりです。


「オ、オオイズミ、今の今でそれが通るとでも思っているのか?」


 おっと、また別の話をするつもりですね。でも残念ですな、そんなのお見通しですよ。


 主導権をとられないよう、ちょっと強気でいきますか。


「お代官さまには荷止めで悪評がたっています。でもいまが挽回のチャンスです。代官さまの名で解除をすれば、皆にバカウケ間違いナシです」


 具体的な提案は基本です。

 目標がみえれば人は進むものです。


 坊っちゃんだって例外じゃないですよ。荷止めの解除だって楽勝ですな。


「そうそう、元々がめっちゃ嫌われているから、反動が大きいんじゃない」


「カーラちゃんの言う通りだよねぇ。ゴミ虫どころかバイ菌扱いだもんねぇ。至るところで撲滅キャンペーンしてたもん」


 カーラとタッパくんが、笑って一緒に土下座をしてくれています。

 あんなに嫌がっていたのに、なんて健気なのでしょう。


 この子たちの為にも、何としてでも聞き届けてもらいます。


「お代官さま、皆にバイ菌などでない。自分はヘッポコ貴族なのだと知らしめてやりましょう。そうすれば皆がお代官さまを見直しますよ」


「ぷっ、ヘッポコ貴族ばんざーい」

「バイ菌なんてバイバイだねぇ」


「おおお、2人ともナイスですよ」


 これ以上のない心のこもった応援です。心に染み入りまする。


 坊っちゃんも感銘をうけていて、プルプルと震えているではないですか。


「舐めんじゃねええええええええええええええええええ、このど底辺の庶民どもめーーーーーーーー!」


「へっ?」


「絶対にゆるさん、地獄を見せてやる。これでもくらえ、ポチっとな!」


「えっ、うわーーーーーーーっ!」


 突然床がぬけて、真っ逆さまに落とされました。


 なんの脈絡もないこの仕打ち。

『なんで?』の文字しか頭に浮かびません。

 やはり貴族は気難しいですな。


 おっと、それよりも今は落ちている最中でしたな。

 穴はかなり深く、激突したら大ケガをしますな。


「ホイの、ホイの、よいしょー!」


 2人を両脇にキャッチして、無事に保護できました。着地の衝撃もなく、ケガなどありません。


「ふえぇぇ、ボク怖かったよぉ」


「師匠に抱かれて助けられるのも、これで2度目ですね、ポッ」


「えっ、そんなのカーラちゃんだけズルい。僕にももう一回やってよ」


「ははは、そんな機会ないほうがいいですよ」


 ショックはあるものの、立ち直りが早い2人で良かったです。


 それにしても、参りましたな。

 天井まで30mはありますよ。

 この高さじゃあ、抱えてジャンプは届きそうにないですな。


 壁はツルツルしていますし、こちらもまた登るのは無理ですよ。


「はーはっはっはー、そこは侵入者用の落とし穴だ。そこからではデコピンも届かんぞ。さあ、どうするオオイズミ」


「ぼ、坊っちゃん、どうしたのです。まだ話の途中なのに」


「散々バカにしておいて、何をほざいていやがる!」


「ご、誤解です。互いのより良き未来のためのお話なのです。どうか聞いてくださいな」


「なーにがより良き未来だ、荷止めをやめてくれだ。貴様はバカな市民と一緒だな。やれ、減税してくれだの、文化を大切にしてくれだのと、まあ腹立つことばかりを言いやがる!」


 また別の話題にいこうとしています。

 坊っちゃんにとって、都合のわるい話なのでしょう。


「バーカめ、ぜんぶお前の思惑おもわくの逆をやってやるよ。それをそこで悔しがれ!」


 坊っちゃんは言うだけ言うと、天井を閉めどこかへ行ってしまいました。


 時間がないというのに、これはトンだ足止めです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る