第31話 代官のろくでもない噂
ガッデムフレイムの街を一言で表すと、隙のない城塞都市です。
分厚く高い城壁には、巨大武器がズラリと並んでおり、全てにおいて威圧的です。
そして門には、四角面な衛兵さんが機械的に動いています。
「そこ、入街税を出すのが遅い。並び直せ!」
怖っ! 少しもたついただけで、また一時間だなんて厳しいですねえ。
規律を外れるのを許してくれないのです。
いつもは騒がしいウチの子たちも、空気を読んで静かですよ。
「書類よし、入街を許可する」
衛兵さんと目線を合わせません。
他の人も同じですし、違和感のない挙動不審で中に入ります。
角を曲がった所で、ようやくひと息つけました。
「ぷはーーー、なんですかアレ。女子でも容赦ないなんて、わたし肩がこっちゃったわ」
「僕もガクブルだったよぅ。2人とも助けてくれてありがとう」
「いいのよ、逆にあれがピンチになるのがおかしいのよ」
すぐテンパるタッパくん。
支払いの際、
半泣きになるのを2人でフォローをし、事なきを得たのは幸いでしたよ。
緊張した時間でしたが、過ぎればカーラの不満が吹き出しています。
「それに入街税が、銀貨10枚だなんて高すぎですよ。どれだけ儲けようとしてるんですかね」
「はは、ヴァルハラの10倍ですからね。さすがにビビりましたよね」
「それにワイロも要求してきましたよ。スムーズに進めたいとは違うのかいってツッコミそうでしたよ」
ええ、規則に厳しい堅物って訳じゃあないですな。
権威をふりかざし、マウントをとるのが自然なのでしょう。
自由なヴァルハラとは
とはいえ、ガッデムフレイムはここらの中心地です。
物資が集まり賑わいはありますね。
通りには露店が所せましと並んでいて、見ているだけで楽しいですな。
ですが売り手は
代官の政策が響いているのでしょうな。
「はいよー、ガッデム産のオレンジが安いよーーー。今ならたったの銅貨8枚だよ!」
「だったらこっちは7枚だ。10個まとめてなら、更にお得な6枚ですぜー!」
「コラ、下げすぎるな。商売になんねえだろが!」
「へん、早い者勝ちだよ」
荷止めで物が余っているのですね。
我先にと叩き売りが始まっています。
これは庶民にはうれしい出来事ですな。
狙い目は
私たち観光客には恩恵は少ないですが、育ち盛りの2人には魅力的に見えるようです。
「ぼくオレンジ食べたいよー」
「ええ、美味しそうね」
「お父さんどうですか。お子さんも欲しがっていますし、いまならサービスしますぜ」
「では100個くださいな。で、ちょっとお話を聞かせてください」
「まいどーーー」
オレンジ100個が効いたのか、代官のことなどをペラペラと話してくれました。
領主が留守の間、嫡男が代役として取り仕切っているそうです。
それ自体は問題ないのですが、やっている事がマズイみたいですね。
「ってかよ、アレはダメだ。領主の器じゃねえぜ。荷止めや増税やらはまだ許せるよ。でもよぅ、それもこれも全部アレのギャンブルのせいだ。全くやってられねえぜ!」
話半分にしても酷い評判ですな。
でも逆をいえば
お金に困っていてワイロ好き。
なんか楽勝な気がしてきましたよ。
他にも商工ギルドで仕入れた情報をもとに、手土産をもって城へと向かっています。
「師匠、そんなお菓子が役に立つのですか?」
「もちろんですとも。露骨なワイロよりよっぽど効果的ですよ」
手土産の風習はこっちの世界では
それに噂によると、代官さまは大の甘いもの好き。
食べ慣れていると思いますが、好きなものをプレゼントされて怒る人はいませんよ。
特にこの町で有名なお店のお菓子です。
中身も奮発しましたからね、私が食べたいくらいですよ。
これで気を良くしてもらい、あとは流れでいきます。
なぁに、一度でムリなら二度三度いけばいいのです。いずれ心の扉は開きますよ、フォッ、フォッ、フォー。
城に着き、申請書を出して待合ロビーで待機です。
私の他に、同じような目的の方が沢山の人がいますね。
かなり時間はかかりそうですな。
「こんな事ならゲームでも持ってくればよかったよねー」
「もうタッパくんたらお子ちゃまね。私みたいな大人は、こんなのちっとも苦じゃないわ」
「じょ、冗談だよぅカーラちゃん。そんなのはもうとっくに卒業しましたーーーー」
「本当かなーーーーーーーーー?」
あ、危なかったです。
私も同じ事を考えていました。
それと来る途中でみた、アイスを買いに戻ろうかとも考えていましたよ。
何でも口にだしてしまうタッパくんに救われましたね。
焦るタッパくんは、誤魔化そうと必死になってカワイイですな。
「138番のオオイズミはいるかーー?」
「は、はい!」
「代官さまがお会いになるそうだ。私についてきなさい」
「えっ、もう?」
まだ手土産を渡していないのに、この展開には驚きました。他の人を大幅に抜かしています。
もしかしたら、この手元にある品を嗅ぎ付けたのかもしれません。
そうなると、想像以上にワイロが好きな方かも知れませんぞ。
こ、これは気を抜けませぬ。
生半可な気持ちで会っては、足元をすくわれるでしょう。
でも私とて会社で揉まれた大人です。
酸いも甘いも、ぶっかけられた人生でしたよ。
なぁに、相手がどんな手で来ようとも、のらりくらりと詰めよりますよ。
「お、お兄ちゃん、危ないよ!」
考えこんでいたせいか、中庭を通りかかった所でコケちゃいました。
知らない間に体がかたくなっていたようです。
「師匠、大丈夫ですか?」
「はは、こんなきれいな中庭にも気づかないなんて、気負いすぎていましたね。……でも緊張がとれましたよ」
2人に心配をかけるとは反省ですな。
さあ、いよいよ代官が待つ部屋だそうです。
ひとつ良いところを見せますかね。
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