第29話 個人クエストを受けちゃいます

 新しく得た能力により、格段に換金作業がはかどりまする。

 昨日までの苦しみが嘘のようですな。


 新人さんの教育もバッチリですし、どこにも死角はありません。


「ぬはははは、もはや私に敵はいません。いくらでもかかってこいや、ですよ!」


「マロ、それはフラグになるからやめておけ」


「そうですよね、はい」


 ですが叫ばすにはいられません。

 やっと皆さんと同じで、仕事に余裕がもてました。仕事量が半分だなんてまさに天国、楽チンですな。


 こうなると人間というものは、欲を出すようになるのです。

 以前のように、3人で狩りに出かける事を考えてしまいます。


 カーラは入学金を、タッパくんはレベル上げの目標があります。きちんと達成させてあげたいですね。


 それと私は、より強い武器の入手と、打出の小槌の育成ですな。

 なにせ第四位階からの必要経験値が、トンでもない程増えたので、生半可ではいきません。


 といっても打出の小槌はいまや2つ。これが問題を解決してくれました。


 それは経験値が両方から入ってくるのです。

 信じられますか、経験値が2倍ですよ2倍。


 しかもチャーチルさんのスピードは私より早いのです。さすが元官僚、頼りになりますよ。


 だからね、ひそかに思うのですよ。そろそろ次の段階に行きたいなぁって。


「マスター、お客さまが面会をご希望されていますが、如何いかがいたしましょう?」


 夢想むそう中に新人さんにそう伝えられましたが、最近は裏方に回っているのでびっくりです。


 とりあえず会うとお返事をしておきました。


 ちなみに新人さんからは一律〝マスター〞と呼ばれています。

 気恥ずかしいですが、チャーチルさんに合わせたようですね。


「お待たせしました、ご用件はなんでしょう?」


 応接室はありませんので、立ったままカウンターでのご挨拶になりますよ。


「自分はこの町の錬金術師です。いま非常に困っておりまして、トクマロ様にアイテムの運搬を依頼したいのです」


「それってクエストって事で?」


「はい、難しい案件ではないのですが、薬を切らせば患者は死んでしまいます」


 聞けば取引先の町で荷止めがされていて、調合する材料が足らないのだそうなのです。


 せっぱ詰まった様子ですが、気安くは受けられません。


「冒険者ギルドは使われないのですか?」


「はい、いまの冒険者ギルドは、アテにならないのですよ。日数がかかると誰も受けてくれないのです」


 報酬ははずんでいるのだが、片道4日がネックだと見向きもされないそうで。

 それで私を頼ってきたのですね。


「師匠、それってもしかして?」


「はい、ウチのせいですね」


 カーラの言う通りです。


《ギルドで一日一件はクエストをこなさないと、買い取りをしない》


 この一日一件ってのが原因ですよ。複数日かかるクエストを嫌がったのです。


 それにいくら報酬がよくても、人は流行はやりに乗りたがりますからね。

 最近の冒険者のトレンドは、買い取りで稼ぐのが主流。クエストはオマケだね、ってところです。


 人の心理は不思議です。

 こんな弊害が出るとは思いもしませんでしたよ。


 ですがこれは私の責任です。


「分かりました。そのクエストをお受けします。私が必ずやり遂げます」


「おおおお、噂にたがわない方だ。ではこれが証文になります。代金は払ってありますので、受けとるだけになります」


 錬金術師さんは何度も頭をさげて帰っていきました。

 よい人ですし、こちらも身が引き締まる想いです。


「さっそく準備に取りかかりますね」


 善は急げ、患者さんを救うのは私しかいないのです。久しぶりに燃えてきましたよ。


「ちょっと待て、マロ。おまえ換金を放って行くつもりか?」


「はいな、人の命がかかっています。これで動かないのは罪ですよ、はい」


「というか、逃げる気だろ。遊びたいとか連呼してたもんな?」


 ギクッ。


「師匠、ダメですよ。チャーチルさん一人だと可哀想です」


「お兄ちゃん、考えなおして」


 お三方は結束していますな。ですが、ここは断固引くわけにはいきません。


 私の冒険への渇望、自由への追及を抑えられません。人助けなんて最高ですよ。これこそ私の望んだいたクエストなのです。


 単に地味でおもしろみのない作業がイヤなのではないのです。

 はい、本当に本当。絶対に逃げるのではありません、むふっ。


「といいますか、カーラとタッパくんは行きたくないのですか?」


「えっ?」


「私が行くなら2人も一緒ですよ。私たちはパーティですからね。ですが、仕事が忙しいですし、そこまで反対するならこの件は断るしかないですなぁ」


「し、師匠? ……そ、そうですよね。一度受けたクエストは断ったらダメですよ。うんうん、それにあの町は一度行ってみたいと思っていたんです」


「あっ、カーラちゃんたらズルい。だったら僕も賛成だよ。チャーチルさん頑張ってねぇ」


「テメエら、裏切りやがったな」


「おほほほほ、人聞きの悪い。私は師匠の崇高な想いに賛同しただけです」


「そうそう、スーコーだよ」


 2人とも偉いですぞ。

 何が大切か分かっていますね。


 自由を愛する冒険者は、何事にも縛られたらいけないのです。

 だからチャーチルさんには、その犠牲になってもらいましょう。


 さあ、新たな冒険が始まります。



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