第28話 株分けにて、ひぃやーー

 各所に配ったビラの効果があり、すぐに人は集まりました。

 しかも全員が鑑定持ちですよ。


 といってもスキルの等級は、EもしくはFと低い方ばかりです。

 どうやら盗品かどうかの鑑定は、初期段階からできるそうなのです。


 それならと、等級の低い人から積極的にとりましたよ。


 これにはチャーチルさんも大賛成をしてくれます。


「等級がたかいと賃金もかさむからな……えっ、人助け?」


 すこしズレはありますが、管理が得意なチャーチルさんに新人さんを任せます。

 シフトや教育をお願いすると、気前よく引き受けてくれました。


 これで受付など問題は失くなりひと安心となりました。


 ですがね、わたくし失念しておりましたよ。


 いくら人を増やしても、私自身の仕事量はいっこうに減らないって事に!


 だってスキルなんですものーー!


 今朝からもずーーーーーっと小鎚を振りっぱなし。

 もしや、このまま人生が終わるかもと怖くなります。


 いっそ倒れてしまえば楽なのですが、高いステータスがそれすら許してはくれないのです。


 つらい、辛いのですがまだ戦います。

 だってあと少しで打出の小槌が成長するんですよ。


 なにが来るか楽しみです。


 次の成長はできましたら、日本食を出せるようにしてもらいたいですね。

 美味しい食べ物は、心を潤してくれます。次の日からも頑張れますから。


 何度も何度も、心の中でお願いしています。

 そうでないと心が壊れます。どうか神様、たのみますね。


 そう願いつづけ、貯まる経験値に意識を集中させています。


 あとすこし、あと少しと念じていると、埋まっている緑色のバーがすっと暗転しましたよ!


〈ピロリロリーン。貯まって第四位階だよ、よくやった。がんばったご褒美に【株分け】を与えちゃおう〉


 キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 良しですよ、良し。待ちに待ったこの瞬間、誰もが喜ぶハッピータイムですな。


 でもね。


 ……株分けとはなんぞや?


 株分けといえば農耕っぽいですが、打出の小槌にそれも変なものですよ。


 詳しい説明文を読み上げます。


【株分け】: 打ち出の小槌(コピー品)を作成可能。それを指定した人にのみ使用許可をあたえる。コピー品の各種能力と使用許可は自在に変更可能である。


 す、すごくないですか?


 いやいや、これはあり得ないでしょ。

 だって自分のスキルが、他人に使ってもらえるって事ですよ。スキル効果の革命です。

 しかも悪用や持ち逃げの心配ないのが良いですね。


 これは 私が今一番困っていることにジャストフィットな成長です。


 嬉しくてすぐさまカーラたち3人を、自室に招きます。

 忙しいとボヤくのを、笑いをこらえてなだめますぞ。


「み、みなさん、やりました。ついさき程スキルの成長が起こりましたぞーーー!」


「もう、師匠。嬉しいのは分かりますが後にしてくださいよ」


 ふふふふ、忙しくて頭がまわっていませんね。

 わざわざ呼び出したのに、重大なことが起こったとは考えていませんよ。

 これは驚かし甲斐がありまする。


 ぶつくさ言う3人の目の前に、2つの打出の小槌を取り出します。


 大げさに動きをし、無言での披露をすると、3人はしばし沈黙で固まりました。


「これは他の人でも使える小鎚です。まさに夢が膨らむスキルの成長なのです」


「ええええええええ!」

「マジか、マロ!」

「ふわあぁ、大変だぁぁあ」


 やっと反応がありました。

 うん、楽しいですね。


「誰でもって私にもですか?」


「ええ、もちろんですよ」


 カーラは答えを聞くと、やってみたいと喜んでくれました。

 さっきまで文句を言ってたのにね。まるで新しいおもちゃをみつけた子供みたいですよ。


「師匠、その役は私にやらせてください!」


「ちょっとカーラちゃん、抜けがけはズルいよ。計算よりも簡単そうだし、僕の方があってるよ」


「ダーメ、わたしが先輩なんだから、タッパくんはガマンよ」


 互いを押しのける子供らしさに笑ってしまいます。

 でもゴメンなさい、渡す相手は決まっているのです。


「いいえ、カーラは入学費用をためる目標があるでしょ。それとタッパくんはもっとレベルを上げなくては、ついてこれなくなりますよ。だから二人には小鎚にかける時間などありません」


「えーーー、じゃあどうするんですか?」

「そうだよ、僕にも納得のいく説明をしてよ」


「これはチャーチルさんにお願いします」


「お、おれ?」


「はいな、これは管理が大事な物です。信頼できて任せられる人は他にいませんよ」


「お、おう……なんかテレるな」


「いえいえ、本当のことですよ。どうですか、受け取ってもらえますか?」


「まかせろ。マロと俺との仲だ。絶対に裏切ったりはしねえぜ」


 チャーチルさんはこの世界で一番のお友だちです。

 こうも素直に受けられると、逆に恥ずかしいものですね。


 おじさんが互いに照れ笑い。

 絵面的には見れたものではないですが、こういうのもたまにはいいですよね。


 ですがずっとはキツイので、さっさと渡してしまいましょう。


 小鎚を渡すとチャーチルさんの手のなかで、淡くひかり馴染んでいきます。


 これで登録完了、まるで授与式みたいですよ。

 チャーチルさんはこの演出に感動しているようですし、しばらく黙っておきましょう。


 そして納得したのか、私をまじまじと見てきます。


「ところでマロよ。俺に謝らなくちゃいけねえ事があるだろ?」


「えっ、 藪から棒に何ですか?」


 ここはてっきり硬い握手をし、新しいスタートになると思っていましたよ。

 なのに攻撃されています。


「はじめにこの小鎚はマジックアイテムって言ったよな。遠くの商人から預かったってよ」


「あっ!」


 すっかり忘れていましたが、そういう設定でしたね。

 やってしまいましたよ、ここは素直に謝ります。


「信頼していると言っておきながらすみません。小鎚は私固有のスキルなんです。黙っていてごめんなさい」


「それは知っていたさ」


「えっ!」


「前から小鎚のことで相談に来てただろ。目の前に出された時点でピンときたさ。さしづめ効果がスゴすぎて言えなかったってところだろ?」


「あっ……そうでしたね。それも忘れていました」


「だよな、マロらしいよ。あはははははははっ」


「チャーチルさん、このことは内密に」


「分かっているって。それに俺まで使い始めたら、スキルって誰も思わないさ。だから心配するな」


 今度こそ出された右手を握りかえし、仕切りなおしとなりました。

 カーラやタッパくんも嬉しそうで良かったです。


 さあ、戦力は2倍、やる気も充分。残りをパパッと片付けちゃいますか。

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