第24話 バラされた秘密

 数日後、タッパくんとのパーティー登録をすませ、森の浅い場所に来ています。


 当面の目標は、タッパくんとの連携を固めたいですな。


 彼の得意技は気配を消すことです。

 後ろからの不意打ちや、いやがらせに専念してもらいましょう。


「敵を崩す大事な役割ですよ。どう、出来そうですか?」


「うん、お兄ちゃん。ぼくがんばるよ」


 あの日以来、お気に入りになったキャンディーをしまい戦闘準備に入ります。


 初めて狩りに興奮していますが、ゴブリン相手にでも慎重に構えていますね。


 そして、みごと不意打ちが決まりました。

 ダメージは少ないですが、タイミングはサイコーですな。


 それに振り返ったゴブリンですが、タッパくんを見つけられていません。

 ここまで隠密スキルがすごいとはアッパレです。


 右往左往しているゴブリンに、あとは私がトドメです。


 その後何度も練習をかさね、連携がいかに大事か知ってもらいました。


「ふう、狩りって難しいですね」


「十分ですよ。少し休憩をはさみしょう」


 こんをつめてはいけません。

 ほどほどの緊張が最良なので、いまは休憩といきましょう。


 シートを広げお茶の用意をしていきます。

 屋台で買ったバタークッキーやフルーツなら、お茶うけにぴったりですよ。


「ぎゃーーーーー、助けてーー!」


「はぐっ、な、何事ですか!」


 ひとくち食べたそのときに、奥から悲鳴が聞こえてきました。


 急いで声のした方に向かうと、二人の子供たちがジャイアントビーに襲われています。


「カーラ、子供たちを!」


 念のためカーラに任せますが、一太刀で討ち取ります。

 所詮はEランクのモンスター。私の敵じゃありません。


「ケガはありませんか?」


「うわーん、ありがとーーー」


 助かったと泣き、自分から色々と話をし始めました。

 聞けば6才と9才で、スライムを狩りにきたそうです。


「君たちだけで? 親はどうしたのです」


「あのー、トクマロさんですよね? 僕たちチャーチルさんから、モンスターを買い取ってもらえるって聞きました」


「えっ、マジですか。あの人やってくれましたね」


 口止めをしませんでしたが、こんな小さな子供に話すだなんて。

 後できっちりガッチリ説教ですよ。


 これ位の子供でもスライムになら勝てますとも。

 でも今みたいに他のモンスターもいるのです。

 決して安全じゃありません。


 カーラもため息混じりです。


「あのおじさんってお調子者ですよね。カッコつけて自慢をしたにちがいありません」


「うむ、得意気になっている所が目に浮かびますよ」


 チャーチルさんはさておきこの子たちですよ。


 痩せ細り、薄汚れた服装というよりボロボロです。

 いわゆる貧民街の子供ですな。

 街でよく見かけますが、いつもお腹をすかせています。


 うーん……チャーチルさんも言わずにはいられなかった、って所ですかね。


 すると二人はもぞもぞと、スライムを2匹出してきました。


「こ、これいくらになりますか?」


 よだれをツーッとらしています。

 この後のごはんを想像しているのでしょう。


 仕方ありません……ここはきっちりとしなくては。


「残念ですが、これは買い取りできませんよ」


「し、師匠!」


「そ、そんな……あんな危険な目にあったのに」


 この子たちに話しているので、カーラの方は見ずに手だけで制します。


「ええ、買い取るなら街のすぐ外にいるレベル1のスライムに限ります。君のは森で強くなったレベル2のスライムです。お客は弱いのしか望んでません」


「えっ、それじゃあ?」


「ええ、困ったらいつでも持ってきなさい。ただし街の近くにいるのだけですよ。それ以外はダメ、わかりましたね?」


「はい!」


 身の安全が最優先ですよ。

 下手な欲で、ケガをされたくありませんからね。


 今回は駄賃として銅貨100枚を渡しました。

 細かいルールを説明すると、絶対に守るとうなずいています。


「いいですねー、一人につき三匹までですよー。それとチャーチルさん(説教確定)には会いたいと言っておいてくださいねー」


「はーい」


 街まで送り届けたあと、子供たちとは別れました。


「もう師匠、びっくりさせないで下さいよ。断るなんておかしいと思ったんですよ。たまのフェイントは読めないです」


「ぼくは分かっていたけどねー。だってお兄ちゃんは優しいもん」


「あー、生意気。タッパも涙目になっていたじゃない」


 ひとしきり騒いだあと、カーラはうれしそうに呟きました。


「それと、手数料は取らないんですね?」


「当たり前です。一匹でたった銅貨50枚ですよ。もらったらあの子達は、お腹一杯に食べれないじゃないですか」


「ですよねー、うふふふふ」


 カーラはご機嫌ですし、タッパくんは尊敬のまなざしで見てきます。


 タッパくんには、打出の小槌と手数料のことは話してあります。

 ちゃんと理解をしてくれて、安心しましたよ。


 ◆◆◆


 次の日の朝、カーラとタッパくんが大変だと騒ぎながら部屋に入ってきました。


「二人とも落ち着いて。一体何があったのですか?」


「師匠、外に人集ひとだかりが出来ているんです。みんなスライムを持っているんですよ」


「何ですとおおおおおおおおお!」


 ドアを開けると人がなだれ込んできました。

 子供だけでなく大人もいて、30人ほどの集団です。


「トクマロだよな。買い取りするなら早く言えよ。他の奴を出し抜くのに苦労したんだぜ」


「俺なんか45匹もやったぜ。いひひひひ、会計が楽しみだぜ」


「そうそう、みんなスライムを狩るから枯れちまったよ。ありゃ2~3日はダメだな。がはははは」


 大人たちは大いばり。

 スライムごときの武勇伝をほこっています。


 端には昨日のふたりがいて、申し訳なさそうにちぢこまっています。


 聞き出すまでもなく、自分から話し出しました。


「ごめんなさい。あのお金どこで手に入れたんだって怒られて。怖くて、つい」


「おいおい、トクマロ。そんなガキはどうでもいい。早くスライムを受けとれよ。明日はその倍を持ってきてやるからよ」


「そうだよ、枯れたから森に行かないとな。それでも、こんな楽な稼ぎは他にねえぜ」


 矢継ぎ早にくる情報をまとめます。


 換金するのがバレました。

 子供のためにと考えた、街の近くにいるスライムは皆殺し。

 というか大人たちがルールを無視し、子供の稼ぎを奪ったのです。


「おい、いつまで待たせるんだよ。商売の基本がなってねえぞ!」


 あまつさえマウントを取ろうとしてきています。


 ……限界ですね。

 血がのぼり視界が狭くなってきました。


「うるせえぞ、お前ら調子に乗ってんじゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 私の過去最高の大絶叫に、みなさんの時間が止まっています。

 それでも喋ろうとする者は、目で射殺しますよ。


「スライムは危険がないよう子供だけの買い取りです。大人は論外、他で稼ぎやがれですよ!」


「そ、それじゃあこのスライムをどうするんだよ?」


「知りませんよ。それにあなたDランクの冒険者でしょ。だったらせめてモンスターのレベルを合わせなさい」


「はああああ、なんでそんな手間をかけなくちゃいけねえんだよ?」


 この質問へ静かに答えます。

 いつまでも大きな声では疲れますよ。


「それは私が買い取る側だからです。私がルール。子供を追いやる輩には手加減しませんよ」


「な、なんだと。そんなの横暴だぞ」


「そうですか。……それでしたら、どうぞ他へ行ってください。他があるならですがね」


「えっ」


「もう一度いいます。これは弱者のための買い取りです。稼げる者は相手にしません。私を怒らせないで下さいよ、いいですね!」


「は、はいーーーーーーー!」


 勝負ありました。

 この際ですからトコトンやります。


 子供からピンはねをするのもご法度です。

 もし見つけたら永久追放。しかも私からのお仕置きつきです。


 先日にCランク貴族をノシましたし、みなさん私の実力を知っています。

 あえて破ろうとする人はいないでしょう。


 これで安心、安心。




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