第23話 仲間になりませんか?

 あの後も長い時間、もてなしをうけました。

 豪華な食事に音楽会と、普段は味わえない事ばかりでした。


 カーラは割りきって楽しんでいましたが、私達ふたりはムリでしたよ。

 特にタッパくんはショックを受けていますね。


 ほぼ逃げるようにしておいとまをし、夕方には家に着けました。


 通り道なので、お茶でもとタッパくんを家にお招きします。


「ふわー、ぼくもうお城はムリー」


「そうですね、あそこは肩がこりますよ。さあ庶民のソファーに座ってくださいな」


 この子は小さな体でよく耐えました、偉いですよ。

 お茶をだすと、正座でひと息ついておりますな。うむ、ふにふに動くネコミミがかわいいです。


「トクマロさん、カーラさん。本当にありがとうございました。ぼく一人では姫様を救出できなかったと思います」


「なんの、姫様の無事は三人でかち取ったもの。誰一人欠けても、うまくはいきませんでしたよ」


「そう言ってもらえるとうれしいです。でも……姫様とは住む世界がちがいますね、あは、ははは」


 格差に絶望というよりは、ありすぎて笑っています。


 そりゃあれだけの物を見せつけられたらそうなりますよ。


 両者にある身分や財力のひらき、そして未来の差。埋めるにはあまりにも大きすぎますもの。


 それにこの子は、姫様をもうお姉ちゃんとは呼んでいません。吹っ切れたのでしょう。


 くうぅぅぅ、青春の1ページですねえ。うらやましくもありますが、でもちょっと可哀想ですかね。


「ねえ、タッパくん。君さえ良ければ私のパーティーに入りませんか?」


「し、師匠、本気ですか?」


 タッパくんよりも先にカーラが驚いています。

 きちんと二人には説明をしますとも。


「いえね、今すぐって事じゃあないんです。タッパくんが成人してからの話です。それまでに夢が見つかればそれで良し。もし無かったら私と一緒にどうかなあってね……ダメですかね?」


 ネコミミだからって事じゃないですよ。


 数時間とはいえ一緒に苦難を乗り越えたのです。

 縁がつながった仲なのです。


 純粋にこの子を心配してです、本当です。


「やりたい、やりたい。ボク二人と一緒に冒険者をやりたいです!」


 思ったよりも良い反応です。

 今回の救出で、人との連携が楽しかったそうです。


「まあ本人がいいなら私は反対しませんよ。実際に優秀でしたしね」


「ありがとうカーラさん」


 カーラもまんざらではないようですね。

 かわいい弟ができた感覚でしょう。

 私もうれしくてつい甘やかしてしまいそうです。


「では手付けとしてコレをあげましょう」


 手渡したのは棒つきペロペロキャンディーです。

 この年頃の子には格別なお菓子です。


 ほら、タッパくん喜んで舐めています。


「お、美味しい。おいしいよ、コレ。……トクマロさん、ひとつお願いしてもいいですか?」


「ええ、なんなりと」


 もうタッパくんは仲間です。

 打出の小槌の秘密も話そうと考えていましたし、彼が望むことなら叶えてあげたいです。


 タッパくんは言いにくいのか、きりだすのを躊躇ためらいがち。

 と、覚悟をきめ唇を軽くかんでいます。


「トクマロさんの事を……お、お兄ちゃんって呼んでいいですか?」


「「ブブブブッ、お兄ちゃん?」」


 はあ?

 このオッサンをお兄ちゃんですと?

 どこをどう切りとったら、そんな発想になるのやら。


 いかに仲間といえど、10才の子にそう呼ばせては、世間から白い目でみられますよ。


「ダ、ダメですか?」


 うっ、本気の目です。

 潤んだ瞳で見つめられると、姫様の気持ちが少しだけわかります。

 これは手強い相手ですぞ。


 しかし、やはり無理です。私は真っ当な趣味の持ち主です。

 変な方々とはちがうのですぞ。


「やっぱりダメなんですね、ごめ……」


「いえ、いいですよ。呼んでください、お兄ちゃんと。さあ、思う存分呼ぶのです!」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 負けました。

 ネコミミ少年の可愛さに、あがなえるはずがありません。


 決断したご褒美として、ネコミミを撫でさせてもらいますよ。

 流れとは恐ろしい。自然と撫でて、耳にも触ります。


「よろしくタッパくん」


 ぐぐぐっと押しつけてくるのも可愛らしいですよ。

 ああ、幸せです。こんな事ならもっと早く言うべきでした。


 これを手放すくらいなら、白い目でみられても構いません。

 ネコミミ独占の非難上等、かかってこいや、ですよ。


「じゃあお兄ちゃん、明日からお願いします」


 んんん、この子は先走りをしていますね。

 こんな小さな子を連れて、狩りなどには行けません。ちゃんと成人になってからですよ。


 それに孤児院の人にも、説明しなくてはならないですしね。

 全ては整ってからとさとします。


「うん、ボクね、今月で成人したんだ。だからお兄ちゃんたちと行けるんだよ」


「えっ、そうなの?」


「うん、だからよろしくお願いします」


「はは、よ、よろしくね」


 えええええええっと絶叫をしたいのが本音です。カーラも目玉をひんむいていますもの。


 でもですよ、これはデリケートな事案ですよ。


 10才にしか見えない低身長に、華奢きゃしゃな体とあいらしい笑顔。


 そしてくい込む短パンを恥ずかしがりもしていません。


 捨てられたと言っていましたし、育った家庭環境からきているのかもしれません。

 だから敢えてツッコミませんよ。


 タッパくんが安心できると思ってくれているのですから、このまま受け入れるだけですよ。

 そう、ずーっと撫でてあげましょう。ずーっと、ずーっとネコミミを。


 うをっほん、念のために言いますが、あくまでもタッパくんの為ですので誤解の無いように。


 決して己の欲望を全開させているのではありません。……本当です。

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