第25話 自宅に人が押し寄せてきた

「なんでこうなるのですかね、とほほほほほ」


 次の日から、我が家を訪れる人が一気に増え、てんやわんやとなりました。


 みなさんの目的はただひとつ。

 モンスターを私に買い取ってもらうためです。


 あの時冒険者に、と言ったのが切っ掛けです。


 子供たちの稼ぎの場を奪うなと念をおしたつもりでした。

 決して買うからドンドン持ってきなさいという意味じゃあなかったのに、買い取り店のオープン予告と勘違いされてしまいました。


 噂とは恐ろしいですな、瞬く間に広がってしまいこの始末ですよ。

 口止めをしておけば良かったです。


 くる人が多すぎて、私一人ではさばききれません。

 カーラとタッパくんにも手伝ってもらっています。


「あわわ、40たす16たす16で、えっとー。指が足らないよーーー。お兄ちゃん助けてー!」


「ごめんよ、一人でがんばって下さいな」


「えーーーーーーーっ!」


 こちらも換金だけで手がいっぱいです。

 ひたすら小鎚を振りつづけても、いっこうに数が減りません。

 商売繁盛というよりも、地獄のような毎日が続いているのです。


 モンスターを狩るから換金が楽しいのであって、これではまるで両替機になった気分ですよ。


 いつ終わるのか受付を覗いてみると、カーラがお客ともめている最中でした。


「これは盗品でしたよ。ちゃんと自分で倒したのを持ってきて下さい」


「ち、ちがうよ、カーラちゃん。これは拾ったんだよ」


「それもダメ。何度言ったらわかるのよ。それとそこーー、1日につき三匹まででしょ。変装しても無駄ですからね!」


「えっ、何のことですかな?」


「うっさい。構っている時間がもったいないわ。聞き分けないなら出禁にするわよ!」


「チッ、でか耳乳子め」


「何ですってーーー!」


 おろ、はやくも出禁一号がでましたよ。


 ルールを色々と設けましたが、いまだ浸透していませんな。


 ただ、子供たちが優先なのと、冒険者は食べていけないDランクまでというのは守られています。


 コレすら守れなかったら、取り引きしないと脅したのが効きました。


 ですがこんな忙しくなったのも、あの人が口を滑らしたせいなのです。


 貧しい子達が救われるのは良いことです。しかしこれでは、私たちが倒れてしまいますよ。


「よっ、マロさん。俺も買い取りお願いするぜ」


「あっ、チャーチル、さん?」


「なんでえ、なんでえ、しけた面してるじゃねえか。シャキッとしろよ、シャキッと」


 元凶がやってきました。無駄に元気がよいですね。

 それに比べ、私たちはまるでゾンビのような顔色です。

 でもそれは、疲れているだけじゃあないですよ。


 恨みの標的に、どんな仕返しをするかを考えているからですよ。


 既にカーラとタッパくんは、チャーチルさんの両脇にスタンバイ。

 合図をすると、カウンターの中に引きずり込みました。


「この人集ひとだかり、どういうことか分かりますか?」


「お、おう? 人気がでて結構なことだな」


「ええ、誰かさんが言いふらしてくれたおかげですよ」


「いやははは、気にするな。マロさんの優しさが実を結んだんだよ。俺は手助けをしただけさ」


 豪快な笑い声にイラッときます。

 カーラも『このオヤジぶっ殺す』と呪いの言葉を吐いています。おっとナイフはしまいなさい。


「いえいえ、ご謙遜なさらずに。チャーチルさんの影響力は大きいですよ。だから、お礼にお客さんの熱を感じてくださいな。査定から受け取り支払い帳簿の記入。全部やらせてあげますね」


「えっ、この人数をか?」


 長蛇の列をみて青ざめています。

 ようやくここで、私たちが怒っているのに気づきましたね。


「嫌とは言わせませんよ。あなたが撒いた種ですし、きっちりガッツリ刈り取ってもらいますからね」


「お、鬼だ」


 料金表を渡したので、すぐにでも始めてもらいます。


 これで二人の負担も軽くなるはず。

 その分チャーチルさんには、地獄を味わっもらいましょう。


 ◆◆◆◆◆


「師匠、なんだかつまらないですね」


「ええ、これでは仕返しにならないです」


 様子を見ておりましたが、思った以上にチャーチルさんは優秀でした。


 流れるように人を誘導し、よどみのないお会計をすませ、優美に書類をさばいています。そしてさわやかさあふれる対応をしていて、完ぺきなのですよ。


 それに比べ私たちときたら。


 モタモタと慌てふためき、計算間違いどころか答えは出せず。書類は消したり書いたりでぐっちゃぐちゃ。挙げ句に忙しすぎて、理由わけもわからずキレてます。


 私たちが束になっても敵わないです。

 チャーチルさんは、どこをとっても満点です。


「ふう、やっと半分か。でも先が見えたぜ」


 思い出しました、このひと元々は財務局にいた官僚でした。

 ゴツい見た目に騙されてしまいますが、実は頭脳派なんですよ。


 なんでも上とりが合わず、やけで冒険者になったのでしたね。


 うーむ、道理で数字に強いはずですよ。生き生きしていて、本人もうれしそうですね。


「んんん、マロさん、自分で狩っていないのは買い取り不可だったよな?」


「ええ、もしかして分かるのですか?」


「ああ、鑑定スキルを持っているからお茶の子さいさいよぅ」


「おおおおお、ありがたやー」


 鑑定スキルで、様々な情報が読みとれます。むろん盗品かどうかも。


 カーラとタッパくんは持っていないので、私が小鎚をふってはじめて分かるのです。


 それが理由でみなさんに待たせていましたよ。でも、入り口でその問題も解決です。


 おかげでめっちゃテンポよく進みます。

 順調すぎて、お昼をまわった頃にはすべて終了しました。


 普段はちゃらんぽらんなチャーチルさんなのに、ちょっと素敵にみえますよ。


 助かりましたし、お礼をしなくてはいけません。


「お疲れさまです。これ少ないですがどうぞ」


「えっ、こんなにも!」


 ギルドのクエストで稼ぐよりは、だんぜん多く渡しておきました。

 もちろんこれには理由があります。


 明日も来てもらいからですよ。

 こんな大事な戦力を逃すなどできません。


「チャーチルさん、相談ですが明日もお願いし……」


「来る、くる、絶対にくるぜ。剣よりも性にあっているしよ。何より稼ぎが段違いだぜ」


 釣れました、大物ゲットです。


 カーラたちもうれしそうですし、奮発した甲斐がありましたね。

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