第21話 プラスマイナス、ゼロ?

 賊の応援部隊がやってきます。


 一時的にここで迎え撃ちますよ。そして撃退したのちに、姫様を町まで送り届けたいですな。


 壊れた剣のかわりにマキを使います。これでも無いよりはマシですからね。


 あとカーラのMPは十分ですね。

 阻害魔法で足どめをしたら、私が一気に制圧します。


 大まかな作戦を伝え物陰にかくれていると、タッパくんが待ったをかけてきました。


「あれれ、鎧の音……お姉ちゃんを心配している声だよ」


「まさかの救援隊ですか?」


 でも何故なぜこの場所を特定できたのでしょう。

 気になっていると、姫様があっと思い出したと笑います。


「忘れていましたわ。追尾機能のアイテムを持っていましたの」


 それを頼りに追ってきたようです。

 念のため確かめると、姫様の側近騎士たちでした。


「ランスロット、私はここです」


「ひ、姫様よくぞご無事で!」


 歓喜の声をあげるも、側にいる私達をみて警戒しています。


 ここは姫様に説明をしてもらうしかありません。

 少し話してもらうと、それで疑いは晴れました。


「トクマロ殿、感謝いたします。しかし今は姫様の安全が第一。礼は城に戻ったら改めてさせてもらいます」


「いえいえ、お構いなく」


「いえ、そうはいきません。必ずや城までお越しくだされ。それとタッパ殿もお手柄じゃ。トクマロ殿と同行されよ」


「あ、あ、えっと」


「タッパくん、どうしたの。私の騎士だから怖くないわよ?」


「お、お姉ちゃんは本当にお姫さまなの?」


「いまさら何よー……姫はイヤ?」


「ううん、いつも一人で来ていたからさ、普通の人だと思っていて」


「そ、そう」


 なるほど、一般人だから気軽に話せていたのですね。

 でも、本物なら話は別です。


 この差は大きいですものな。

 したった人は、はるか雲の上の人だとしたら、淡い恋など届くはずありません。


 それにしてもこのお姫さまは、町中とはいえ独り歩きをしていたのですね。

 そりゃ拐われるのもうなずけます。


 ふつうなら護衛は必須の身分ですよ。

 誘拐されるなんて、おかしいと思っていたんですよね。


 これを機に反省をしてもらいたいですな。


 と、話はここまで。

 姫様はひと足先に城へと戻られました。


 そして私達ふたりは、賊の送還を頼まれました。


 これにはこころよく返事します。

 だって賊は人類の至宝であるエルフ姫を害なす輩。

 そんなわが敵はトコトンらしめてもらいたいですからね。


 賊を数珠つなぎにして、一切の自由をうばいます。

 これなら小さな子供でも楽に扱えますよ。


「カーラ、タッパくんと外で待っていてもらえますか? 忘れ物がないか確認してきます」


 カーラに目配せをすると、タッパくんの手をひき小屋から出ていってくれました。


 すかさずモンスターの死骸をインベントリに収納します。


 どうしても光りますから、いまここで打出の小槌は使えません。

 言い訳するのも不自然ですし、こっそりと持ち帰ることにしました。

 お楽しみは帰ってからに致します。


「いててっ、手加減しろ。くそ野郎!」


「ははは、もっと歩幅を大きくー、元気よくー。もっとピッチをあげますよー」


 反省しない賊たちに、ささやかな罰を与えるのも責務ですよね?

 私としては気がひけますが仕方ありません。とことんやってあげますよ。


「いーやーーーーーーーーーー!」


 楽しみがあると歩く速度もはやくなりますな。

 賊はギャーギャーと騒いでいましたが、構わず町まで突っ走りました。


 そして町につくと、待ち構えていた衛兵さんに、賊を渡して任務完了です。

 もう少し楽しみたかったのにね。


 明日のあさ、城で落ち合うと約束し、タッパくんとはここでお別れです。


 私達は倉庫兼自宅へと向かいます。


「ふう、疲れましたねー」


「でも師匠、今から換金するんですよね? 初めてのBランクですし、いくらになるか楽しみですよ」


「ふわぁわぁわー、そうですかあ? まあ、放っておいても仕方ないですし、……やっちゃいますか?」


 もったいつけますが、実は私の方が待ちきれないです。

 広間にダーク・アークエンジェルを取り出します。


 これを狩るための犠牲は大きかったです。

 少しは買い替えの足しになって欲しいです。いや、なってもらわないと困りまする。


 だってここに帰る前に、鍛治屋で武器の残骸を見せたところ、とんでもない買い取り価格を言われました。


『き、き、き、き、金貨一枚ですって! そんなのアコギすぎですよ』


『お客さん落ちつきなよ。元値はそれぐらいなものさ。他の素材や税金。それに鍛冶ギルドの認証付与とか色々かかるのさ。オレの儲けだって微々たるものさ。恨むなら社会のシステムをうらみなよ』


『マ、マジですか、とほほほほ』


 と言うことで、あと金貨79枚いるのです。

 念をこめ未来をたくし、いざ打出の小槌といきまする。


「おおお、これはどっちでしょう?」


 小槌をふると、光は3つの塊になりました。

 金貨か銀貨、結果がどちらになるかで大きくかわります。


 金貨だと信じたいです。

 だって腐ってもBランクですよ。

 それが銀貨三枚だなんてあり得ないですもの。


 緊張しながら待ちますよ。


「おおお、き、金貨とはナイスです!」


「良かったですね、師匠。今後の計画が立て易くなりますね」


 ええ、これで上の武器を狙いやすくなりました。

 あと何百枚、何千枚と必要ですが、届かない高みではありません。


 夢をまた追いかける事ができますよ。


「ありゃま、金貨が二枚しかないですな。……えっと、もう一枚はと。むむむ、落ちていないし、インベントリにもないですな。はて?」


「し、し、師匠ちがいます。まだ光が残っています!」


「へっ!」


 顔を上げるとちゅうに光の塊がただよっています。

 しかも段々と大きくなっていき、目まぐるしく色を変えているのです。

 ただ各色がバランスがとれて、片寄りそうにありません。


「きゃー、これは私にくれた炎鳥の杖の時と同じですよ。Bランクのレアだなんて、絶対にスゴいに決まってます!」


「ああああ!」


 キテます、キテます、波が来ています。とんでもない事がおきてます。


 私の期待に呼応するかのように、最後の発光が終わると、形を変えて地面へ落ちました。


 重さのある金属の音でした。

 見えるは黒光りの重厚感のある剣ですよ。


【黒鉄のつるぎ:古来より受け継げられし製法で鍛えられた平凡な黒鉄製の剣】


「へ、平凡ですと?」


 鑑定にうつる文字にツッコミます。


 いや、代わりを買わなくていいですから有難いですよ。

 でもさーー、そこは違うんじゃないですかねえ。


 普通はレアが出て、俺tueeeの流れでしょ。

 それで妖精女王や女神さまやらが祝福にかけつけ、なんやかんやでハーレムでしょに。


 あー、やってられません、信じられません。

 これは詐欺です。

 期待はずれもいいとこです。


「や、やりましたね師匠。金貨80枚分のアイテムだなんて、大当たりじゃないですか!」


「そ、そうだね?」


「やっぱ、師匠は神ですよおおおおおおおおおおおお!」


 なんでしょう、この温度差は。

 これが普通の反応なのですか?

 私がズレている?


 あああ、今日は祝杯と称してやけ酒になりそうです。


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