第20話 一撃というか二撃でした

 賊はゲロを吐きたおれています。

 さてと、これで戦いに集中できますね。


 操縦者への攻撃により、ダーク・アークエンジェルは戦闘体勢に入りました。


 ブンブンとパンチを繰り出してきます。

 雑ですが威力は十分。空振りした攻撃が、床や壁を壊していきます。


 足場も悪くなりますし、後手にまわるのは良くないですな。


 試しに軽く一撃を、いつもの黒鉄製の剣でやってみます。


「ぬおっ、刃が欠けてしまいましたよぅ」


 分かっていてもショックです。

 所詮はDランク武器ですよ。Bランク相手にはダメですね。


 ならば他の手でいきますか。

 へそに力をこめスキルを発動させます。


「身体強化、竜闘気ドラゴニックモード!」


 竜神変化りゅうじんへんげの初歩でもある竜の闘気をまとい、一時的に身体能力を爆あげする方法です。


 作戦としては簡単です。

 力のゴリ押しでやっちゃいますよ。


 よく柔らかい紙で指を切るとかありますね。

 それと同じ原理で、あり得ない力とスピードでぶった斬るのです。


 ぶっちゃけ力業ちからわざですが、道具に頼らない良い方法ですよ。


 それとこの技の良いところは、金色のオーラを身にまとうのですよ。

 キラキラと光るエフェクトは、カッコいいのひと言ですな。


「師匠スゴいです。さすが神様、カッコいい」

「えっ、トクマロさんは神様なんですか?」

「タッパくん、それは例えよ。でも桁違いの迫力ですわ」


「おしゃべりもいいですが、警戒を怠らないでくださいよ」


「「「はーーーーい」」」


 期待されるのが心地良いですね。


 こういう技は見られてナンボ。


 周りが騒げばやる気がでます。こめる魔力も増えるものですよ。

 するとより一層キラキラ感が増すのです。(強化には特に影響なし)


 それとカーラがいると助かりますな。ひと言ふた言で話が通じます。

 いまも賊が起きてこないか、見てくれています。

 こういう意思の疎通がとれるから、カーラとの連携は楽なのですよ。


 後ろの憂いはありません。遊びは無しでいきまする。


「喰らいなさい、十文字斬り!」


 武器と一体化した竜の闘気がやいばとなります。

 いとも簡単に、ダーク・アークエンジェルの体をきり裂きました。


「ぴっ?」


 向こうの攻撃などさせません。

 四分割にすれば、何処どこも動かせないですよ。

 しばらくピクピクしていましたが、完全に活動停止です。


 後ろの3人も驚き喜んでいます。


「嘘でしょ、いったい何が起こりましたの?」

「どうですか、うちの師匠はすごいでしょ?」

「うん、ぼく鳥肌がたっちゃった。オーラがビィヨーンでズババババってさ」

「ええ、まるで物語のようですわ」


「いえいえ、大した事はないですよ」


 恥ずかしくなるほど誉められます。


 普段はカーラに喜んでもらっていますが、今日は三人ですから嬉しさも三倍です。


 謙遜すると更にきてくれて、深く心に刺さります。


 嗚呼、幸せです。

 竜闘気をやって正解でした。


 私は誉めて伸びるタイプなのです。

 夏のアサガオのごとく、嫌がられてもグングンと伸びちゃいます。


 特にお姫さまは言葉巧みで、聞いていて楽しいですな。


「おだてないで下さい。所詮はF級冒険者ですから」


「そんな事はありませんわ。武器を犠牲にしたとしたも、格差をうめるその腕前は尋常ではありませんわ」


 ……えっ?


 怖いセリフが聞こえてきました。

 恐る恐る右手を見ると、そこにあったのは変わり果てた黒鉄の剣の姿でした。


「いやあああああああああ!」


 十文字斬り。


 二回振りきったせいで、グッニャグニャです。無惨としか言いようがありません。


 素人目でも修復不可能だとわかります。


 嗚呼、2本目を買う余裕などありませんよ。どうするのですか、こんなになって。

 これはもしかして、F級の鉄剣に逆戻り?


「師匠、大丈夫ですか?」


「し、しばらく放心させてくださいな、グスン」


 カーラは私の痛みを汲み取ってくれます。

 それが唯一の救いです。


 何ならウサミミを、撫で撫でさせてくれませんかねえ。

 あと半歩で届きそう。

 来てよと、必死に心のなかで念じます。


 あと少し、もう少し、私に癒しをお与えくださいな。


 ですが世間は無情でした。

 私に癒しの時間など与えてはくれません。


 タッパくんが外の異変をしらせてきたのです。


「あ、あれ、誰か来ます。まっすぐこちらへ……間違いないです。数は四人、かなり速いスピードです」


 賊の仲間でしょう。

 私が落ち込んでいる時に来るなんて。


「ふふふふふ、運の悪い人達ですよ」


「師匠、なんか悪いことを企んでいるでしょ?」


「そ、そんなことありませんよ。ははは、はは、はは」


 そうですとも、八つ当たりはいけませんよ。

 自分の感情のはけ口に他人を利用してはいけません。


 もちろん私もそんな事はしませんよ。


 ただし、相手は凶悪犯です。

 手加減するにも限界があります。

 もしかしたら、ぐちゃぐちゃになり、彼らにとって一生消えないトラウマ級の経験をするかもしれません。


 そうだとしてもそれは偶然、たまたまです。


「急いで準備をしますよ」


「やけに嬉しそうですね」


 カーラは無視して、玄関先の賊を中に入れ、全員縛りあげておきます。


 見張りがいないと、応援部隊に気づかれますが、途中参戦されるよりはマシですからね。


 さあ、ギッタギタにしてやりますか。

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