第19話 賊をぶっ倒します

 この領地のご息女である、フィオナ・フォン・テイラーさま。


 彼女をねらった誘拐事件がおこり、偶然ですが私たちで救いだしました。


 ですが本人は呑気にしています。

 顔見知りと話をできて、機嫌よくされていますね。


 このまま町まで行けば助かるのですが、そう簡単にはいきません。


「待て、キサマらどこへ行く!」


 振り返ると3人の魔法が解けて、起きあがる所でした。

 姫様に被害が出ないよう、カーラは手加減したのでこれは仕方のないことです。


「アニキ、あいつら手強いですぜ」


「バカやろう、金貨千枚の報酬だぞ。多少の危険は覚悟しろ。それにまだ胸さえ揉んでねえ。ここで逃がすのはもったいないだろ」


「そ、そうですね。エルフの初物ってなかなか味わえないですからね、ジュルッ」


「ぐひひひ、ありゃ揉み甲斐があるぞぅ。ということでオッサンよ。姫さん残して死んでくれや!」


 同じおっさんのクセに失礼ですね。

 それにナイフをベロベロと舐めたいますよ、うッぷ。

 これは見るに耐えられません。


 黙らせるため、賊めがけ足元にあるマキを蹴りあげます。

 みごと土手どてぱらにきまり、二人を撃沈できました。


「な、な、なんだと!」


「これ以上の争いは無駄です。大人しく自首することをお勧めしますよ」


 賊のいる位置ですと、出口はとおく逃げ場はありません。


 この状況に賊はテンパっていますね。

 戦うことを諦め、袋のなかをひっかき回しはじめました。


 すると目的の物をみつけたのか、さっきよりも下品な笑いを爆発させてきました。


「げへへへへ、まさかコレを使うとはな。これでオメーらの勝ちは失くなった!」


 黒い水晶のような物を、賊は得意気に掲げています。

 何かしりませんが、漏れ出る魔力の質がハンパないですな。


「あれは魔物召還石。トクマロ殿、お気をつけください」


 おおあお、姫様がカワイイ声で忠告してくれました。


 それに魔物召還石ですか。聞いたことはありますよ。実物を見れるなんて幸せです。


 あれは支配したモンスターを封じ込め、自在に使役させる夢のアイテムです。

 いつか欲しいと思っていましたから、感激もひとしおですな。


「師匠、あれはヤバいって聞きました。ここは一旦ひきましょう」


「げへへへ、逃げるだと? 底辺のクズ冒険者などひと捻りだぜ。せいぜいテメーらの運のなさを嘆くんだな」


 わざとらしい大きなアクションと下卑げびた笑い。

 ジリジリと間合いをつめてきます。


「げへへへへ、人が泣く姿はサイコーだな。いいぞ、もっと見せてみろ。今なら褒美をやるからよ。絶望という、とびっきりの褒美だがな。げへへ、でよダーク・アークエンジェル、我の敵をうち滅ぼせ!」


 賊が得意気になるのも分かります。

 ダーク・アークエンジェルといえば、Bランクのモンスターです。

 人類が扱える最上の天使族ですよ。


 硬い外骨格は物理的だけでなく魔法防御にも優れています。

 それに向こうからの直接攻撃には魔力をのせてくるので、これもまた物理、魔法ともにダメージをうけてしまいます。


 そんな強力なモンスターが空間を引き裂き、完全に外界へと出てきました。


「泣けわめけ、そして足掻いてみろ。もしかしたら奇跡がおきるかもな」


「カーラ、ふたりの警護を頼みますよ。私は前にでます」


「師匠と弟子は一心同体。私も一緒に戦います」


「ありがとう。でもね、私はできるオッサンですよ。任せてくださいな」


 と言ってもカーラはまだ心配そうです。

 Bランク相手に、格下Dランクの武器ではムリだと叫んでいます。


 その通り、私の見立てでも同じです。

 一つ上のCランクならまだしも、2つも上となると心配です。


 しかもアレの防御力は同クラスでも上位、戦えばただでは済まないでしょう。


「げへへへへ、ナイト気取りかよ。でも残念だな、クズは急には強くならねえぞ」


「ナイトではないですが、皆を守ること位はできますよ」


「あー、いまのムカつくぜ。女が見てるからイキりやがってよ。こっちはBランクの天使族だぞ。お前が逃げきれる相手じゃねえ!」


「言われる通りですね」


「だーはっはっはっ、自分の無能さをよく分かっているじゃねえか。なんなら命乞いしたっていいんだぜ。まっ、助けねえがな、げへへへへへへへへ」


 今までにも格上と対峙する場面はありました。


 その時にとる手段はひとつ。

 スタコラサッサと逃げ出すのです。


 だって戦えば武器は壊れますからね。

 倒したとしても、素材の買い取りはないですし、何の得にもなりませんでした。


 でも後ろに3人がいるこの状況では、その手は使えませんよ。誰かは必ず死んでしまいます。


「観念したようだなエロおやじ。ウサミミ姉ちゃんなど連れているから天罰が当たったんだよ。いい気味だ。どうせ毎晩、毎晩うらやましい事をしているんだろ。俺なんか彼女もいなく寂しいのによ。それをウハウハしやがって。あーーー、ムカつくぜ。その大罪は許さんぞ、極刑をもって罪を償いやがれ!」


 完全に言いがかりですよ。

 でも相手は目を血走らせ興奮しています。


 これにカーラは、真っ赤になりながらも反論します。


「ち、ちがいます。私達はまだそんな関係ではありません」


「まだって、やる気マンマンじゃねえか。ムカつくーーー。絶対に死刑、また裂き死刑、アレを潰してさらして死刑だよ!」


 ……長いです、そしてうるさいです。


 足元のマキを蹴りあげて土手っ腹に。


「グエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」


 静かにはなりませんでしたが、暴言は失くなりました。

 ふぅ、これでやっと戦えますよ。

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