第18話 この人がお姉ちゃん?
街にある小さな孤児院。
日常の平穏が、賊の侵入で台無しになってしまいました。
奴隷として売るのでしょうか、賊は女の子をさらっていきました。
非力な少年は機会をうかがい、後を追うことしか出来ませんでした。
もうこれ以上うごかないと判断し、町までもどり助けを求めたのは懸命な判断でしたね。
姉を助けたいその想いに、私の心は動かされましたよ。
ですが勢いだっとはいえ、カーラにひと言相談すればよかったですかね。
「すみませんね、勝手に決めちゃって」
「いいえ、師匠らしくカッコよかったです。すっごく惚れなおしました」
またまた不意打ちをくらいました。恥ずかしくて視線を外します。
「そ、それにしても人が多くて進みづらいですね」
「もう、話をそらさないで下さいよ」
いえいえ本当です。
外の森をめざしていますが、門にすらたどり着けていません。
タッパくんも焦っていて、苦しそうにしています。
「ふたりとも、僕にかまわず走って」
「でも君と離れたら行き先が分かりませんよ?」
「ううん、僕はスキルを使うから大丈夫。……で、でも、そのうー」
「どうしましたか?」
「えっと、僕のことを気味悪がらないでくれる?」
変な質問ですが、バカにはできません。この子にとって大切なのでしょう。
「ははは、心配無用ですよ。おっさんは少々のことでは驚きませんよ」
まだ不安そうでしたが、タッパくんはうなずきスキルを発動させました。
「あらららら、姿が見えなくなりましたよ!」
「おーい、こっちだよーーー」
ずいぶんと先に行ってます。
あんな人混みのなかを、よくもまあ進みましたよ。
どうやら単なる不可視のスキルではないようですな。
「えっとね、これは隠密のスキルなの。今回は気配とかを消してすり抜けたんだ。他には遠くの音を聞いたりと。……ごめんなさい、こんな卑劣なスキルで」
「凄いじゃないですか、タッパくん。気味悪がるなんてありえませんよ」
「でもね、ぼくはそれで捨てられたんだ。……筒抜けなのが嫌なんだってさ」
その寂しそうな笑顔にドキッとします。
スキルをつかえば、気配をけし近づくなど容易です。他人の秘め事を独り占めなんてことも。
でもタッパくんは、誓って悪用はしなかったと悔しそうに話します。
「でも信じてくれる人はいなくて、気づけば独りぼっちになっちゃったの」
きついのは、親さえも覗きは悪だとののしってきたこと。
親といえど、一度うたがえば信じられなくなるのでしょうか。
もしかしたら、知られたくない闇を抱えていたのかも知れませんね。
そしてその言葉がこの子に刺さるのですから、スキル発動にためらうのですな。
「でもタッパくん。今はそれがお姉さんの命綱です。思う存分やりなさいな」
「う、うん」
暗くなりかけていましたが、すこし元気になってくれましたね。
自信をもった走りは、追跡のスピードをあげてくれます。
あっという間に森にはいりました。
普段いかない谷の方へと向かっています。
「こんな奥地に連れてこられたのですか?」
「うん、ここで馬を捨てて、向こうへ歩いていったよ」
そちらは道という道がない密林。
出現するモンスターは、ランクがCへとあがる危険地帯です。
モンスターの間引きなどされていません。
半ば放置の地域には、クエストでもない限り誰も行きませんよ。
かたや誘拐犯は四人組の男たち。
少人数でここを踏破するのですから、腕が立つようですな。
「あれだよ、あれがお姉ちゃんのいる小屋だよ」
見張りが玄関に立っています。
窓を締め切られていて、中の様子がわかりませんな。
「良かったあ、まだ無事みたい!」
「えっ、タッパくんは中の様子が分かるので?」
「うん、スキルのサーチと空間把握で、隅々までバッチリなの」
この子は優秀ですよ。
気配をけして追跡し、戦力の把握も完ぺきです。
まだ幼いので非力ですが、それを差し引いても大したものですよ。
「タッパくんは最高です。君のおかげでだんぜん優位に立てますよ」
「そ、そうかなぁ……」
耳も恥ずかしそうにうつむいておりますぞ。
かわいい、可愛すぎまする。
あまり誉められるのに慣れていない、そのスレてなさにキュンですよ、キュン。
思わず頭をなでると、嬉しそうに寄ってくるではないですか。ネコミミありがとうございます。
こ、これは仲良くなれるチャンスです。
一歩ふみこんで、スーハースーハーを許してくれるでしょうか。
「か、嗅いでみたい」
細かく動く耳に心うばわれます。
ですが完全なハラスメント。
踏み出す勇気はでませんな。
「師匠?」
「ヒィッ、ち、ち、ち、違います。
「ヤルなら言ってくださいよ。あっという間に倒すからビックリしました」
「へっ?」
足元には見張りの男が、泡をふいて倒れています。
どうやら考えこんでいる間に倒したのですね。
無意識で私を動かすとは、ネコミミ恐るべしですよ。
「中の残りの3人は、ドアの近くにいるお姉ちゃんと離れています」
スキルの便利さに呆れます。
索敵でも配置などは分かりますが、敵味方となると特級ですよ。
タッパくんが教えてくれたこのチャンスを逃しません。
「はいな、一気に制圧しちゃいましょう。カーラは眠りの呪文をおねがいします」
「任せてください」
ドアの隙間から、エイッと呪文をとなえて飛ばしています。
中が見えない私でも、倒れる音とその後の静寂で成功したのが分かりました。
素早く中へと入ると、右にはイビキをかく男たち。
左には縛られた女の子がいました。
タッパくんは駆けより、即座に縄を解いています。
でも私は動けませんでした。
想像していたのと違いすぎますもの。
チラチラと見える家紋と
「タッパくん、どうしてここに!」
「この人達のおかげなの。困っていたら助けるよって言ってくれたんだ」
「まあ、すてき。私はテイラー伯爵家のフィオナ・フォン・テイラーと申します。あなた方の助力に感謝いたします」
「は、はいー、私はトクマロ・オオイズミです」
「カ、カーラです」
こんなの不意打ちですよ。
私はてっきり恵まれない孤児が、不運にも人買いの手におちたと思っていました。
そこを
格好つけようとしていたのに、これじゃあ計画が台無しです。
だって目の前にいるのはエルフのお姫様ですよ。もし、気づかずにやっていたら確実にスベっていましたよ。
しかもメチャクチャ綺麗な方ですもの。
エルフというだけでも十分なのに、姫というボーナスまで乗っているのですよ。
それに孤児のタッパくんと仲良さげです。
私の脳みそでは処理しきれません。
種族や身分が違いますから、ふたりが姉弟って事はありません。
そこら辺を聞いてみると、どうやらお姫さまが、孤児院に慈善活動に来て知り合ったようなのです。
「お姉ちゃんはね、いつもみんなを心配して、食べ物とかを持ってきてくれるんだ。あとお話を聞かせてくれるし、みんなお姉ちゃんの事が大好きなんだよ」
「みんななの?」
「あっ、もちろん一番は僕だよ」
「まあ、嬉しい」
実に仲がよさそうですね。
だからこそ、お姉ちゃんと呼べるのですね。
「では帰りましょうか。トクマロ殿、後はお任せしてもよろしくて?」
「は、はい、こちらこそ、このような所にお招き頂き恐縮です。つ、つ、つ、つきましては、脱出のため我らに同行をいただけますか?」
「師匠、言葉自体が変ですよ」
あわわわ、姫さま相手につつくだなんて、下品なセリフを言ってしまいました。
でも姫さまは微笑んでいます。
意外とイケるクチかもしれません。
美人でお姫さまなのに、下ネタもオッケーだなんて、ストライクゾーンが広すぎますぞ。
やっぱ異世界はサイコーですです。
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