第17話 直にクエストを受けますよ?

 昨日は貴族の坊っちゃんを蹴散らして、ギルド支部長の言いがかりをねじ伏せました。


 実に忙しい一日でした。

 色々とありすぎて、当分はギルドに行きたくないですな。


「師匠、それなのにナゼ今日も来ているのですか?」


「単なる忘れ物ですよ、はい」


 昨日は早く狩りに行きたい一心で、クエストの完了手続きをしていなかったのです。


 書類上ですがいつまでも放っておくと、人に迷惑がかかります。


 でも支部長と顔をあわすのも面倒ですので、見つからないよう静かに中へ入ります。


「き、きさま何をしに来おった!」


 入った瞬間に支部長と目があいののしられました。

 こんなに早く再開するなんてツイてないですよ。


「完了手続きに来ただけです。終わったらすぐに行きますよ」


 そう伝えても、しつこく食い下がってくるのです。


「Fランクが偉そうに。お前のせいで領主様から呼び出しをくらったのだぞ。それに依頼は少なくなるし、来ても貧乏人ばかり。お前はとんだ疫病神だ。この落とし前をどうつけてくれるのだ!」


 反省などしていないのですね。

 それどころか、私自身の護衛クエストの報酬を辞退しろと言いだしました。


「えっと、辞退はしませんよ。元々わたくしのお金ですし」


「なんて利己的なヤツだ。貴様には社会に貢献しようとする心がないのか!」


 付き合いきれないですな。


 ですが支部長は諦めが悪く、しつこいのなんの。

 何度も同じ話を繰り返すし、なんだか暗示をかけられているようです。


 カーラもうんざりしていますね。


「師匠、この人をぶっ飛ばしてもいいですかねえ?」


 すでに詠唱モーションに入っています。やる気マンマンですね。

 その気持ちは分かりますが、それは流石にめておきました。


 でも止まらないのは支部長ですね。

 これは相手を無視をするか、一日をつぶす覚悟で言い負かすか、どちらかしか無さそうですよ。


 その決断をしかけた時、小さな子が声をかけてきました。


「ギルドのおじさん、おねがい。もう一度だけはなしを聞いて!」


 見れば10才位の男の子で、泣きながらの訴えです。

 キチンと洗濯をしてありますが、つぎはぎだらけの服装です。

 貧しい家の子のようですね。


「またお前か、どっから入った。痛い目にあわせるぞ!」


「でも、もうここしか頼る所がないの。どうかお姉ちゃんを、優しいお姉ちゃんを助けて!」


「知るかーー。そういうのはキチンと金を持ってきてから言いやがれ!」


 懇願する少年に鬼畜の支部長。

 あまりの冷酷さに驚かされます。


「今はこれだけだけど、後で必ず持ってくるよ。あんな所じゃあ危ないし、急がないと大変なことになっちゃうの」


 少年の手には、銅貨2枚と数個の木の実が乗っています。

 取ってくれと差し出しますが、支部長は見向きもしません。


「さっきも言っただろ。これの百万倍は必要だ。この銅貨にもお前の姉にもその価値はないんだよ!」


「そんなあ、おねがいだから力を貸してよぉ!」


 支部長は足にしがみついてくる少年を、無理やり引き剥がそうとしています。


「ダメだと言っているのにその耳は飾りか。聞き分けのないヤツめ、その耳をむしりとってやる!」


「いたいのーーーーっ!」


 な、なんて事ですか。

 今まで我慢をしていましたが、もうダメです。


 支部長が手にかけているのは、私の好きなネコミミさんなのですよ。


 深みのある青い毛色で、すこし影のあるネコミミの男の子。

 それだけでも尊いのに、それを害そうなど言語道断、許せません。


 これはいつぞや以来の一大事です。

 人類の宝が危機にさらされています。


 支部長の腕をひねり上げちゃいます。


「ちょいとお待ちを!」


「いたたたっ、き、貴様には関係ないぞ。邪魔をするな」


「支部長、あなたには言ってませんよ」


 この人に聞いても話が噛み合いません。

 それよりもこのネコミミくんが、切羽つまっている様子です。


「私でよければ聞かせてください。場合によっては助けられるかもしれませんよ」


「う、うわーん。あ、あ、ありがとうございますーー」


 泣きじゃくるこの子から、あつめた話をまとめると、大変な事がわかりました。


 この子は孤児院に暮らしており、名前はタッパくん。短パンが似合う男の子です。

 今朝、孤児院に男達がおし入ってきて、散々暴れまくったそうです。


 そして最後には、一番年上の女の子をさらっていったのです。


「お姉ちゃんは僕らを逃がすため、1人だけで犠牲になったんだ。なのに、なのに、誰も助けてくれなくて……うっう」


「衛兵さんには相談しましたか?」


「ううん。怖いし、それにお姉ちゃんが嫌がるの」


 子供らしい発想ですが、幼い子が他に頼れるあてはありません。


 方々ほうぼうで断られ、最後にここ冒険者ギルドへとたどり着いたのです。


 そんな話をきいてさえも、支部長は門前払いをしたのですよ。


「受けるメリットはないし、ワシは忙しいのだ、帰れ帰れ。それとワシは獣臭いのが大嫌いなのだ」


 その表情は晴れ晴れとしています。なんの迷いもないのでしょう。


 これではどこまで粘っても無理な話です。ケモミミ嫌いに良い人なんていませんよ。


「支部長、このクエストを本当に受けないのですね?」


「あーたーりーまえーーー♪。わざわざ聞くなー」


「でしたら私がじかに受けても問題ないですよね?」


 一度は裏に引っ込もうとしていたのに、二度見をしてきました。


「ププププッ、ど、銅貨2枚だぞ。底辺は計算もできないのかよ!」


「いいえ。でも、これだけで十分ですよ」


 木の実をひとつつまみ、タッパくんの目を見ます。


「ほ、本当に?」


「ええ、君さえ良ければね」


 このお金は、この子が頑張った証です。タッパくんの全財産です。

 それを巻きあげるなんてトンでもない。


「がーーーーはっはっは、報酬が木の実とはな。前代未聞、Fランクより下のくずクエスト、Gランククエストの誕生だな。そんなに格を落としたいのなら、勝手に受けるがいい。ワシなら絶対にやらんがな、がはははは!」


 この人の許可を欲しかったのではないですが、これで後腐れはないでしょう。


「信じていいの?」


「泣いている時間はありませんよ。まずは案内をしてくれますか?」


「うん」


 口をへの字にして踏んばるタッパくん。

 人混みのなかを、『お姉ちゃん待っててね』と呟きながら走りだしました。


 その想いは決して無駄にはさませんよ。


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