第16話 当然ながら圧勝です

 人を踏み台にして、ギルドランクを上げようと息巻いている坊っちゃん。

 それと支部長は、冒険者イジメを楽しもうとしています。


 この馬鹿らしい状況を、よくもまあ作り出したものですよ。


 仕方ないですが、対策をしなくては後が大変ですものね。


「師匠、なぜそんな手のこんだ事をするのか分からないです。単にお金をギルドに入れるだけじゃないですか?」


「いえ、約束はとりつけましたし、何があってもクエストだと言いきれます。単なる私闘ですと後々困りますからね」


 襲ってくる相手は貴族です。

 仮に事故がおきたら、自己防衛だとしてもとがめられてしまいます。


 この手続きは、その時に巻き込まれないための対策ですよ。


 そもそも向こうは完全に違法ですからね。

 約束と法を盾にたたかえますよ。


「 こちらは準備オッケーです。いつでもかかってきて下さい」


 手まねきすると4人の目の色が変わりました。

 怒気をはらみ、戦闘態勢をとってきます。


「クソ平民が偉そうに。俺を待たせた罪で、もう片方の手も落としてやるから覚悟しろ!」


 坊っちゃんは、ここでやっと抜刀です。

 この人は置いておき、うしろの3人へと目をやります。


 見るに一人は杖持ちの魔道師で、他の二人は剣士です。


 陣形もさまになっていて、坊っちゃんとの質の差が目立ちますね。


「師匠、わたしも手伝います」


「ありがとう、カーラ。でもこれは私のクエストです。ひとりで圧勝してみせますよ」


 優しく耳を含めて頭を撫でまする。ビクンとするのが可愛いですな。

 うなずくカーラは満面の笑みです。

 応援をしながら、うしろにさがってくれました。


「ということで、三人さんからイカせてもらいますよ」


 向こうはグッと構えますが遅いです。


 縮地で距離をつめ、魔道師の前にたちます。


「なっ!」


 と発した時には、すでに喉を潰したあとです。

 魔法は唱えさせません。


「は、はやいぞ……」


 そんな感想をいう暇があれば、かかってくればいいのに呑気なものですよ。


 残り二人の背後にまわり、膝と利き手をへし折りました。


「な、なんだーーーー!」

「ぎぃやーーーーー」


 悲鳴までに間がありましたね。

 きっとやられた事を、痛みでしか認識できなかったみたいですね。


「なんたる強者。かなう訳がない」


 実力の差をまの当たりにし、あきらめましたか。

 これで取り巻きの排除はおわりです。


 残るはボッチャン・フレイムだけですな。


「きさまぁ、いったい何をした。こいつらはBランクの猛者だぞ」


「ええ、Bランク装備をつけていますからねぇ。それはちゃんと分かりますよ」


 SやAランクなど滅多にいないですからね。

 この町でもBランクが最高位。嫌が上でも目立ちますよ。


「違うだろ、クズがかなわないからBランクなのだ。それを倒すとは、卑怯な手を使いおったな!」


「いえいえ、残念ながら実力です」


「ふざけるなーーーーーーーー!」


 そこが理解できないこそ、私に挑んできたのでしょう。


 いや、分かっていてもなお取り巻きたちは、主人であるボッチャンのムチャ振りに応えたのかもしれません。


 そう考えると、この人たちはおとこです。


「あなた達、よーく頑張りましたね。偉いですよ」


 呆気にとられる三人さん。

 何か言いたげですが坊っちゃんが邪魔をします。


「この役立たずめ。この俺に恥をかかせるな!」


「す、すみません、お許しを」


 手足が折れて動けない相手を足蹴にしています。

 三人は避けようともしません。


「このこのこのー。お前らのせいで何度も昇格に失敗するし、その度に俺は肩身のせまいおもいをしておるのだ。いい加減に役に立て!」


「申し訳ございません」


「口先だけの反省はいらん。その身をもってつぐなうがいい」


 坊っちゃんは上段に剣をかかげ、躊躇ためらいもなく振り下ろしました。


 取り巻きは微動だにしていません。あえて受けるつもりですな。


「ちょいお待ちを」


 デコピンを坊っちゃんの鼻におみまいします。

 止めるにしても、これ位の手加減をしないと、大変なことになりますからね。


「ぐあーーー、おれのハナが、ハナがーーーー」


「うるさいですねー。もう一発、ソレ!」


「ギャーーーーーーーー!」


 鼻血をたらし、うずくまっています。ようやく止まってくれて良かったです。


「坊っちゃん、まだ続けますか。すこし話をしましょうよ?」


「ヒィーーーーーーッ」


 暴れなくなったのは良いですが、ショックが強すぎたのか、そのあとの会話が通じません。


 何をいっても泣いたりわめいたり。

 やり過ぎてしまいました、すこし反省です。


 困っていると、取り巻きの一人が坊っちゃんの代わりを買って出てくれました。


「主人になり代わり、この勝負はこちらの負けを宣言させてもらいます。つきましては、これ以上の手出しを控えていただきたい。い、いかがでしょうか?」


 話のわかる人でよかったです。

 坊っちゃんはまだ錯乱していますし、任せてよいでしょう


「はいな、手打ちにいたしましょう。もうポーションを使っていいですよ」


「か、かたじけない」


 一礼をして、回復を最低限で終わらせています。


 やはり、そこら辺は心得ている人たちですね。

 回復イコールまだ続けるの意思表示です。

 そうなったら、行動不能にするしかないですもの、良かった、良かった。


 そして坊っちゃんの肩を担ぎ退場していきました。これで一件落着ですな。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 坊っちゃんたちが出ていくと、背後からの歓声がおそってきました。

 窓ガラスが震えるほどの音量ですよ。


「まろさん、すげえええええ!」

「やったー、Fランクの下克上だ」

「スッキリしたー、まろさん格好いいぜーーー!」


 壁にへばりついていた人達が、一斉によってきます。

 みなさん熱っぽく語られ、握手やハグをしてきます。


 誉められるのは嬉しいですよ。

 でも、ちょっと待って下さいな。おじさん率が高すぎやしませんか?

 いや、おじさんのみと言っていいでしょう。


 可愛い子やケモ耳さんなら大歓迎なのに、これでは拷問とかわりません。


 神様はチートを授ける前に、そういったサービスを考えるべきですよ。

 これではテンションが上がりませぬ。


 若い子といえばカーラくらいです。得点が高いとはいえ、一人ではなんとも。


「師匠、やりましたね!」


「ヒィヤッ!」


 また心を読まれたかとビクつきましたが、その表情から取り越し苦労だと分かります。


「カーラ、ちょうど良い所に来てくれました。みなさんにしずまるよう言って下さい」


「それは無理ですよ。だってFランクが格上を倒すだなんて奇跡ですもの。やっぱ師匠はすごい人だーーーーーーーーーーー!」


 ため息しか出てきません。


 いつもなら素直にきいてくれるのに、この時ばかりは皆と大騒ぎをしています。


 他のみなさんも、全然おさまる気配がありません。


「オレ、この事を町のみんなに伝えてくるわ。ギルド側の完全敗北だあ!」

「おおお、いいね。詐欺に暴力だもんな、みんなブッ飛ぶぜ」

「いそげーーーーーーー!」


 見事なはしゃぎっぷりです。

 みなさん、わんぱく小僧のように走りだします。


「あわわわ、お前ら待て、待つのだ。た、た、頼むからやめてくれえええええええええ!」


 必死な支部長ですが、誰も聞いちゃいないです。

 邪魔だと突飛ばされ、ここまで転がってきましたよ。


「お、おわり……だ。ワシの全てが、とほほほほ」


 ヘタリこみ脱け殻のようになっていますね。

 一応だめ押しをしておきますか。


「支部長、これでクエスト完了です。約束は守ってくださいね」


 力なくコクンとうなずいています。

 だいぶ遅くなりましたが、これでやっと狩りに行けますよ。


 ようやく楽しい一日をスタートできますね。


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