第15話 バカがふたりで?

 ムチャな違約金と体罰をさけるため、ギルド建物からの脱出です。


 追いかけてくる職員さんを振り切り、カーラと二人で出口へと向かいます。


 ですがあと少しのところで、数人の男たちに邪魔されました。


「クククッ、貧乏人め。ここはボッチャン・フレイムが通さんぞ」


「うわ、あの時の!」


 それは豪華な装備で、嫌なかんじの目立つ人。

 門で横入りをしてきた、あの貴族さんですよ。


 めんどくさい人が現れました。

 緊急事態とはいえ、貴族をボコる訳にはいきません。


 職員さんを牽制しつつ、坊っちゃんを説得するしかありませんよ。


「外にいきたいのですが、ちょっとだけ退いてくれませんか?」


「残念だったな。なにせお前の討伐クエストが発生しているのだ。カスのお前にはお似合いだ。さあ、大人しく観念しろ!」


「と、討伐クエスト?」


 なんですか、それは!

 人をモンスター扱いするなんて、失礼にもほどがあります。


 こんなひどいことをする人は、 一人しかいませんね。

 現に目の前で支部長はニヤついています。


「フレイム卿には、ギルドランクBへの昇格クエストとして、お前の確保および処罰をまかせてある。これでお前は正式にハントの対象だ」


 人間狩り、もしくは襲撃のクエストだなんて、それはもう裏社会の仕事です。

 日陰に生きる者じゃあるまいし、足を突っ込んだら抜け出せませんよ。


 このお二人さん、実にヤバいですな。

 特に坊っちゃんは、やろうとしている事の重大さに気づいていません。でも本当にそうなのか、一応確かめておきますか。


「あのー、それの意味するところを、キチンと理解されているのですか?」


「もちろんだ。クズのFランク冒険者を、高貴な俺が教育する。めんどうだが務めではあるし、お前みたいな者にとってもまたとない幸運だろ」


 恩着せがましいのではなく、坊っちゃんは心の底から言っているのです。

 だから、この人に理屈を説いても、バカにされるのがオチですね。


 そんな面倒なところに、支部長ものってきました。


「フレイム卿。教育も良いが、身のほどを分からせるのを忘れるなよ」


 坊っちゃんはまだ爵位を相続をしていないです。

 それなのに卿と呼ばれるのですから、嬉しさを隠していません。


「ああ、任せろ。それと利き手は切り落としておくぞ。下手に回復されてもめんどうだ」


「オッケーオッケー、実に頼もしいですなぁー」


 お二人ともタガがはずれて言いたい放題です。


 私が逃げだすことによって、冷静になってくれるかと期待しました。

 でも狂気のふたりが揃っては、無理な話です。


 今さら法を説いたとしても、聞き入れてはくれないでしょう。


 仕方ないですね、ここは実力行使でいきまする。


「ちなみに坊っちゃん、私に勝てる算段はついたのですか? どうも用意をしているようには見えないのですが」


「Fランクのクズが偉そうに。いいか、3つもあるランクの開きでは、力の差は天と地ほどだ。どう足掻いてもその差は埋まらん。力があるからこそ評価され、弱いから上に上がれないのだよ。つまり、10秒。それだけあれば、お前を倒せるぞ」


 いいえ、違いますね。

 ランクの差は武器の差です。


 武器の上限が力の上限。


 それを把握せず、勘違いする方がおおいのです。

 低級の武器を見られて、何度絡まれたことやら。

 まあ、色々と思うことはあります。


 ただ、まずはやるべき事を済ませるため、ギルドカウンターへ向かう事にしました。


 この場にそぐわない行動ですから、みなさんキョトンとされていますね。


「し、師匠、何をされるのですか?」


「はいな、クエストの発注ですよ。参考になりますから見ていなさい」


 用紙に必要事項をササッとかき、職員さんにわたします。


「こ、これは護衛クエスト!」


 驚く職員さんは、坊っちゃんへ目配せをし、どうしたら良いのかうかがっています。


「なんだと貸してみろ。……馬鹿め、この期に及んで助っ人を募集だと?」


「はいな、期間は私への討伐クエストが失敗するまでです」


「ふはははは、俺と敵対する酔狂がどこにいる。単なる浅知恵で終わったな」


 職員一同にも大笑いされました。

 支部長と坊っちゃんが一番ウケていますな。


「まあ良い。支部長、うけてやれ。ただし金額は金貨20枚だ。貧乏人には到底ムリな金額だがな、ふはははは」


 この人にそんな権限があるはずないのに、なぜか話が進みます。


 それにしても、また無茶な要求ですね。

 用意するには困難な金額な上に、それに含まれる意味が怖いです。


 他の冒険者へのメッセージとして、高額クエストの重さと、ギルドの敵になるのだと表しています。


 ですがここが正念場、しっかりと確認をとらないといけません。


「支部長、このクエストが成功したら、ギルドの方は失敗だと認識してよいですね?」


「その通りだが、そんな事は絶対に起きん!」


「では、もし失敗したら二度と同じクエストを発生させないでください。私もいちいち対応するのが面倒ですからね」


「大きくでたな。よーし、その条件をのんでやろう。ただし、うける者がいたらの話だ。おっと、その前に金がムリか」


 坊っちゃんと勝ちほこっていますが、付き合ってはいられません。


 黙らせるため、カウンターの上に財布をドンと出しまする。

 いかにも重量感のある音に、みなさん驚いておりますよ。


「き、金貨だと!」


 職員さんのかぞえる手に、二人の視線はくぎ付けです。

 20枚をそろえると、怒りだしました。


「どんなインチキをしおった。底辺の平民が持っていい金額ではないぞ。さては我ら貴族から盗んだな」


「そうだ、冒険者ギルドとしても見過ごせないぞ!」


「いえいえ、真っ当なお金ですし、もう支払いは終わりましたよ」


「「何をしているかーーーーーー!」」


 職員さんを責めますが後の祭りです。あとはクエストの受注だけです。


「そ、そうだ、受け手がおらんぞ。いくらギルドとて強制はできんし、ましてや失敗確定クエストなど人気はないぞ」


「支部長よ、この際だ。あと1分で締めきってやれ。どうせ待つだけムダ、無駄、むだーー!」


 支部長は周りをギロリ。

 さんざん脅しておいて、周りを臆病者だとののしり笑っています。


 みなさんは下をむき悔しそうです。それは仕方ないですよ。


 でもカーラだけは違いました。

 小さな体で前に出ていきます。


「お願いです、誰か師匠を助けてください。ねっ、お兄さん……こっちのお姉さんは? こ、このままじゃあ師匠が死んじゃうよ!」


 かろうじて口を動かしてくれる人もいます。

 ですが、みなさん受けてはくれません。


「あーはっはっはっー、残念だったな小娘。これが現実、これがお前らの住む世界なのだ」


「いいえ、そんな事はないわ。だって師匠ほどいい人はいないもん。誰か助けてくれるはずです!」


 支部長の勝利宣言があっても、カーラはまだくじけません。

 その姿に感動しました。


「カーラ泣かないで下さいな。そのクエストは私自身がうけるので、他の人に頼らなくてもいいのですよ」


「「なにーーーーーーー!」」


 カーラに言っているのに、二人の方が過剰に反応してきます。

 どこまでもうるさい人たちですね。


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