第14話 支部長、そうきますか?

 出ましたよ。


 ジャイアント・トードのレア種から、アイテムが出ましたよ。


 今度はなんと装飾品です。


【反魔の指輪:日に一度だけ悪意のある魔法をはねかえす】


 ランクはレアではありませんでしたか。

 ですが、なかなかの優秀な性能です。


 魔法防御力の高いカーラには、必要なさそうなので私がつけることしました。


 ちゃんと言い聞かせたつもりですが、なぜかジト目でみてきます。


「いいなあ、マジックアイテム。私も欲しいですよぉ」


「物理防御のあがる物が出ましたら、次はカーラにあげますよ」


「本当ですね、約束ですよ!」


 カーラは魔法に関するものに目がないですな。

 将来、魔道を極めようとするのですから、これは良いことだといたしましょう。


 ただここだけの話、実はこの指輪だと私にも必要ありません。


 というのもここ最近、敵からの攻撃を受けたことがないからです。

 レベルアップの恩恵と、戦い慣れのおかげですな。


 とは言っても、全てのアイテムを渡していたら、カーラの為にはなりません。

 ほどほどにと、今回は渡すのをやめたのです。


 こんな順調な日々のなか、町の中で不意に呼び止められました。


「Fランクのトクマロ・オオイズミだな。冒険者ギルドで支部長がお待ちだ。即刻ギルドまで参上しろ!」


 ギルド職員さんからの一方的な通知です。

 怒気をはらんでいて、とても友好的とはいえません。


 何事かと考えていると、他の職員さんも集まってきて、有無も言わさず連れていかれました。


「トクマロ、よくもクエストをブッチしたな。絶対に許さんからなああああああああ!」


 玄関ドアを開けるとすぐソコに支部長が立っています。

 私が来るのを待ちかねていたようですね。


 お偉いさんなのですから、奥でデンと構えていればいいのに。

 小者感丸出しで、これでは底が知れてしまいますよ。


 でも怒っている内容をきくと、以前にいわれた薬草クエストの納品がまだだとの事でした。


「薬草ならここにあります。確認してください」


 おやっとは思いますが、取り貯めた一袋をわたします。

 ですが支部長さんはそれを払い、受け取ろうとしません。


「今更なんだ。1ヶ月はたつのだぞ。お前はワシを舐めているのか!」


 即日に持ってこなかったと責めてきます。


 しかし薬草クエストは常時依頼のモノですし、いつ納品しても構わない案件ですよ。


 特に期限を言われていませんでしたしね。

 それよりも狩りが楽しくて、ギルドどころじゃなかったですよ。


「お急ぎでしたら、そう言ってくだされば」


「底辺が偉そうに! ワシが命令したならすぐにやれ。言われる前にやっておけ。それがお前らの存在意義だ。ギルドに生かされているのを忘れるな!」


 怒りを吐き出し、ひと呼吸。

 まだまだ支部長さんのたけりは止まりません。


「よってお前には罰をあたえる。まずは違約金として、金貨20枚を払うがいい」


「な、何ですか、その法外な値段は?」


「がははっ、ビビりおって。内訳はこうだ。まずクエスト受注金が銀貨20枚。サボった1ヶ月分を掛け、そこに違反として1.5倍、延滞をしたので更に1.5倍だ」


 私だけでなく、周囲の冒険者たちもびっくりです。

 不安でどよめきが起きていますが、支部長は気づいていません。


「だが、どうせ支払う事などできんだろうし、やさしいワシから提案だ。この先ずーっと薬草の納品をつづけろ。一日も休まずやれば違約金はゆるしてやる」


「それじゃあ、まるで奴隷ですよ」


 金貨など、少ない報酬の私たちが普通に払える金額ではありません。

 あったら冒険者などしていませんよ。


 それが分かっているのに選択だなんて、意地が悪いですな。


「それともうひとつ、見せしめといこうか。二度と逆らうことのないように、利き手をつぶしてやる。なあーに、武器を握れなくても、薬草は摘める。ワシの優しさに感謝しろよ」


 めちゃくちゃですな。馬鹿馬鹿しいにもほどがありますよ。

 手をふり払い、拒絶の意思を伝えます。


「な、な、なんだと底辺が。ワシが誰で自分が何者なのかを考えろよ。この町で暮らしていけなくなるぞ」


 完全に目がイってますね。


 この人がここのギルドのトップです。

 権限とともに、責任が発生する大変なお仕事ですよ。


 ですが支部長は、地位の意味をはき違えしていますね。


 ギルド内であれば、ギルドなりのルールを作ることもできるでしょう。


 ですが、そこまでです。

 その枠を越えるなら、国が黙っていません。

 特にここテイラー伯爵領では、越権行為をしでかすと、きつい仕置きがまっています。


「あのー、それって普通に犯罪ですよね? 危険を犯してまでやる意味があるのですか?」


「な、な、な、なにがだーー!」


「いや、ありもしない違約金をさも有るように言ってますし、あと金額にしてもボッタクリもいいとこです。それと私刑リンチだなんて、一発で刑務所送りになりますよ。大きな組織のトップがやることじゃあないですね」


「うぐぐぐぐっ!」


 子供でも分かりそうなので、改めて言われると恥ずかしいみたいですね。

 でも調子にのられては困ります。

 ここはちゃんと釘を刺しておかないとね。


「それと計算が間違っていましたよ。金貨13枚と銀貨50枚が正解です。苦手なら他の人に任せなさいな。無理に背伸びしなくていいですよ、ねっ?」


「キイイイイイイイイイ!」


 半狂乱になり、言葉にならない叫び声をあげてきます。

 どうやら、触れてはいけない部分でしたか。


「それはさておき、馬鹿げた事はやめた方が得ですよ。伯爵は本当に厳しいですからね。ほら、支部長だって公開刑をみたことあるでしょ?」


 ムチ打ちだけでなく、くすぐりやソフト三角木馬など、痛いだけの刑罰ではないのです。


 恥ずかしいものや苦しいものと、二度と犯罪を犯したくないと心に刻ませるのです。


 何度も言うようですが、ここの伯爵は治安を乱す者を許しません。

 民や富がこの地に定着するためなら、あらゆる手段をつくしています。


 それは領地を発展させるため。それを邪魔するものなど許すはずがないのです。


 優しく諭したつもりですが、支部長は改めるつもりがなさそうです。


 目つきが鋭くなり、どす黒いオーラを全開させておりますな。


「くっそー。……だ、だがな、それは外に漏れたときのみだ。誰も証言しなければ闇のなかだ」


 支部長はひらめいたと、にちゃりと糸をひくような笑いをしています。

 職員はもちろんギルドメンバーにも、圧力をかけるよう見渡します。


「おい、この中でギルドに見放されたい奴はいるか? 冒険者は自由だろ。ほれ、みんな好きにするがいい。ワシは一向にかまわんぞ。逆にワシに従うなら目をかけてやろう。どっちが良いかよく考えろ」


 水を打ったかのような沈黙です。

 誰も動こうとはしません。


 仕事を斡旋してくれるギルドです。

 彼らなくしては、私たちの生活は成り立ちません。


 痛いところをついてきます。


「がははは、いないようだな。これが現実だ。……って、きさまどこに行く!」


「えっ、外ですよ。その時点で今回のことが世間に知れわたりますもの」


「ま、待たんか、コラーーーー!」


 そうはいきません。

 これ以上のゴタゴタはごめんです。

 さっさとカタをつけてしまいますよ、はい。




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