第10話 引っ越し=同棲?

 働けばちゃんとふところが潤うようになった毎日ですが、ひとつ問題が出てきました。

 ここ最近は、それに悩まされ続けているのです。


 狩りは問題なく終わります。

 でもそのあとの換金がうまくいかないのですよ。


「小槌よ、お前のちからを……」


「おーい、マロさ~ん。こ~んにちは~」


「ひっ、え、は、はい?」


 何故だか換金時にかぎって、よく声をかけられるのです。

 慌てて止めて、素知らぬ顔でごまかしますとも。


 チートなこのスキルを、絶対に知られる訳にはいきませんからね。


「金にならないのにモンスター駆除かい、精が出るねぇ」


「い、いえ、そちらこそ頑張ってくださいな」


 愛想笑いで手をふり、相手が遠ざかるのを待ちます。

 それでも気を抜けません。


 だって注意していても、何かと人がよってきます。

 通りかかったりとか、クエストだったりと。知り合いが多いのも考えものですね。


「師匠、街道沿いだとウチのスタイルに合いませんね」


「ええ、困ったものですよ」


 そうなんですよ。狩り場を独占なんて出来ませんから、どこかには人目があるのです。


 だから換金するにも緊張の連続です。

 タイミングが合わないと、そのままお持ち帰りなんてよくありますよ。


 それに持って帰ったとしても、他人に見られずに小鎚をふるう場所もないですし、どんどん貯まる一方で困っています。


 これは何とかしなくてはなりません。


 なので今日は狩りをやめ、お部屋を借りるため不動産屋さんに来ております。


 これを機に宿を出る決意をしました。

 10年お世話になっているので、寂しい気はします。

 でもね、最近ものが増えてきて、少々手狭になっているのです。


 私はおっさんですし、オシャレな間取りとかはいりませんが、少し広めの所に住みたいですな。


 予算は月に銀貨50~80枚で。まぁ、それでイケたら嬉しいですね。

 もっと出せますが、キリがありませんのでこれ位にしておきます。


 条件を一通りつたえると、なぜか不動産屋さんは困り顔になっていますな。何がいけなかったのでしょう。


「お客さん、ドラゴンが入る広さなら、その4~50倍の予算はいりますよ。あんた世の中を舐めてんの?」


「えっ!」


「倉庫ならまだしも、部屋となったら大豪邸ですよ。銀貨って? ムリムリ。せめて金貨で用意をしてくださいよ」


 言われれば、日本でもそんな大きな物件はないですな。

 ても住むことを考えなければ、候補はあるってことですよ。


 急遽きゅうきょ住む所ではなく、事務所てきな物件を探すことになりました。


 河川での運送が盛んな都市です。

 朝な夕なに沢山の荷物が運ばれてきます。

 当然それを管理する倉庫もワンサカですよ。


 一画がまるまる倉庫の地域があり、空いている物件もありました。


 ですが人目がないのが希望です。人通りが多かったりと、なかなか希望に沿うのが見つかりません。


「う~ん、もっとさびれた場所のはないですか?」


「珍しいお客さんだね。ある事はあるけど、いわく付きだよ?」


「師匠、わたしお化け屋敷とかは嫌ですよ」


 カーラのうさ耳が倒れしぼんでいます。

 可愛らしいですが、怖さが勝っているみたいです。


「お客さん、馬鹿言わないでくれ。ウチはまともな商売をしているよ。ただ、立地が悪すぎて、店をかまえてもすぐ潰れてしまうんだよ。商売に向いていない、そういういわく付きですよ」


 街中でアンデッドが発生するはずありませんからね。その点は信用して大丈夫でしょう。


「いいですね、そこを一度見せてくださいな」


「お客さん話を聞いていました? 下町で陽当たりは悪いし、入り口も分かりづらい建物です。ぜんぜん商売に向いていないですよ」


「おおお、人が来ないって事ですか。益々ますますいいではないですか」


「えっ。でも窓もないですし、天井が高すぎて照明をきかせるにも大変ですよ?」


「ふむふむ、それだと覗かれる心配もないですな。これは期待できますね」


「か、鴨がねぎを。いや、なんて良いお客様なんだ。ただいま案内いたします」


 最初に止めただけあって、中心地から離れた塀沿いにありました。

 高い塀が太陽を、朝から夕方までさえぎっていますね。

 陽当たりは、一番といっていいほどの悪条件ですな。


 それに入り口も分かりにくいどころか、日替わりで場所が移るそうで、開けるのに苦労しています。


「あれれ、ここではなくて。えっとー、ここでもない。しょ、少々お待ちください」


 一見どこも同じに見えますね。

 おやっ、あそこは他とは違和感がありますね。

 もしやと思い触ると、すっとドアが開きました。


「えっ、空いてら。お、お客さんやるねー」


 なかなか面白い造りです。他にも何かありそうですね。


「どうぞ、お入りください」


「おおお、ひろーーーーーーい!」


 魔道具の光で照らしだされた空間。

 体育館くらいの広さがあり、作業するには申し分ないですな。


「師匠、窓がないのに風が通っていますね」


 不思議ですね、どこから来ているのでしょう。


 さっきの入り口といい、見えない通風口といい、意外とちゃんと設計されていますね。


 それと小部屋が三つに、水回りもちゃんとしています。

 これなら住居としてもイケますよ。


 そして何より決め手になったのが、目と鼻の先に泊まっている宿屋の丸いしっぽ亭があるのです。


 だって食事は丸いしっぽ亭でとりたいですもの。

 あそこは味もさることながら、女将さんたちの笑顔が暖かいですからね。


 それに最近の無茶むちゃな注文にも、応えてくれているのがありがたいです。

 私は他のお客では出ない高いメニューを頼んでしまいます。

 仕入れが大変だとおもい、前金をタンと渡しておきました。とうぶん先までの献立は決まっているんですよ。


 宿に近くて、この広さがある物件とはかなりの優良物件ですな。


 そして提示された家賃は、破格の銀貨30枚でした。


 借り手がつかない十年間が、この価格になったそうです。


「家賃3ヶ月分の先払い、どうぞ確かめてくださいな」


 即決に不動産屋さんは大喜びです。鍵をうけとり契約完了しました。


 今日はまだ泊まることはできませんが、消耗品だけでも揃えることにしました。

 それと多少の衣類と家具に食器もです。


「なんだか新婚みたいでドキドキしますね」


「カーラ、なぜ君も私物を運んでいるのですか?」


「だってパーティーメンバーは一心同体。苦楽は共にすべきですよ」


 はあ?と聞き返すも、荷物は積み上げれていき、部屋割りまでも何故かカーラが決めていきます。


 ひとつはキッチンなどの水回り、ひとつはリビングとして整いました。


「あと寝室は……一緒ですね。ポッ」


「あわわわ、ベッドはひとつしか置きませんよ。それは流石にマズイです。女将さんに怒られますよ」


 これは完全に同棲ですよ。

 もちろん憧れのフレーズですよ。


 ですが相手は10代の少女です。倫理観がうすい世界とはいえ、後ろ指をさされます。


「え~~~、問題ないですよ~~」


「おっさんの家に転がりこむなんて、もっての他です。危ない目にあいますよ」


「師匠が相手なら、わたしは構わないんだけどなあ~」


「えっ!」


「ベッドが一つでもダブルにすれば問題ないです。あっ、逆に2人で狭いのを楽しみたいので?」


「えええええええええええ!」


 絶叫をし固まる私をみて、カーラはニヒヒと笑ってきます。


 でもね、頬とウサミミが赤くなっているんですよ。カーラも緊張しているって事ですか?


 そんな私の視線を感じたカーラは、上目遣うわめづいで今度はクスリと笑います。


 い、意味深です。

 まどわされておりますな。


 からかい上手のカーラさんですよ、はい。


 こんなおっさんに慣れてくれたのは嬉しいですが、これでは私の身がもちません。

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