第9話 スキルの成長、ひぃやー
やって来ました森の奥。
山に近い平原です。
先日たまたま狩れた火喰い鳥のドロップ金額が決め手です。
Fランクにはない、銀貨10枚の魅力には勝てません。
しかも数が多いはずなので、小鎚の経験値もウハウハです。
「あのー、師匠。その火喰い鳥ですが、狩るのは無理じゃないですか。沢山い過ぎですよ?」
平原を埋めつくすほどの火喰い鳥。
千や二千ではききません、万を越える大群です。
「ええ、繁殖期ですからね。でもご安心を。年に4回は卵を産みますから、狩りすぎてもすぐ増えますよ」
ヒナも充分に育っていますし、ハントの対象には事欠きません。
むしろ駆除してくれたと感謝されるでしょう。
「ですが師匠、密集していて狩りにくいですよ。あれじゃあ、私ら袋叩きにあっちゃいます」
「それも心配無用です。彼らに仲間意識なんてありません。たとえ真横で殺っても襲ってきませんよ」
火喰い鳥は、身内での縄張り意識がつよいモンスターです。
もし隣がいなくなれば、陣地が増えたと喜ぶだけです。
逆に好意的な視線を向けてくるほどで、アレにはちょっとヒキますね。
もらえる経験値が高く、レベリングには最適ですが、これがあるため脅威としてはEランクに分類されるのですよ。
「では始めますよーー」
「は、はい」
ライバルになる他の冒険者は少なくて、楽しくやれそうですな。
というのも、この火喰い鳥は独特な鳴きかたをするので、あんまり人気がないんですよねぇ。
「風の刃よ駆け抜けろ、ウインドカッター」
カーラの攻撃がクリティカルヒット。大きく肉を切り裂きます。
その痛みで火喰い鳥が叫びます。
「きゃっ、い、いやーー、すけべーーー!」
これです、これ。この独特な鳴き声が冒険者を遠ざける原因なのです。
人語を理解しているのではなく、単にそう聞こえるだけです。
しかし知らない人から見たら、
マジでこんな鳴き声をされては
いくら経験値がうまくても、そりゃ皆さん嫌がりますよね。
とはいえお金はお金です。私はそんなの無視してやっちゃいますけどね。
カーラが倒した火喰い鳥に小槌をふり、自分の獲物もお金に変えていきます。
忙しいですがあとは楽。
なんせ自動回収してくれますから、いちいち拾う手間がありません。
小槌をふる度に、10枚の花びらがほころびます。
ですが、始めて早々ハプニングが起きました。
それはまだまだと思っていた、打出の小槌の経験値が貯まったのです。
不意にアナウンスが聞こえてきましたよ。
流れがあるので、小槌をふる手は止まりません。
〈ピロリロリーン、スキル・打出の小槌が第二位階へと成長したよ。成長項目は、ずばり【アイテムドロップ(確率変動)】だ〉
「アイテムですとーーー!」
成長と聞いていましたから、金額が増えるのかと思っていました。
まさか別ルートの枝が生えるとは、思わずうれしい悲鳴です。
同じくカーラの悲鳴がおこり、それで現実だと証明されました。
「し、師匠、あそこを見てください!」
光の粒が具現化し、地面には銀貨とともに小さな瓶が転がっていました。
中身は魔力をたっぷり含んだ青い液体が入っています。
魔力の循環がとても清らかで、中できれいに渦を巻いています。
まさかと鑑定をかけます。
「……ポ、ポーション。しかも上物ですよ!」
「き、奇跡ですー!」
ポーション自体が高級品です。
しかも上物だと金貨1枚はくだりません。
その理由は簡単です。
ポーションは市場に数は出回りますが、作る過程でどんどんと手間賃がかさむのです。
それでも材料費の何十倍になるのは、はっきり言って詐欺ですよ。
元はあの薬草クエストから生まれるアイテムですから、銀貨10枚が妥当かと思いますね。
それはさておき、アイテムドロップという異常現象です。
私もカーラと同様に呆けて、整理がつかないです。
ですが、なんとか言葉をつなぎ合わせます。
アナウンスにあった詳細をカーラにつたえ、自分自身にも言い聞かせるのです。
すると私自身も段々と理解できてきます。興奮が押し寄せてきました。
「お金の次はアイテムだなんて。あの神様は、いったいどこまでワクワクさせてくれるのですかね。異世界を楽しめる要素が満載ですよ」
地球では味わえない興奮に、つい転生のことをポロリ。
ですがカーラは気づいていません。それどころじゃないようですな。
「キャー、やっぱり師匠は神様です。賢者や王様でも、こんな奇跡は起こせません。あーもう、頭の中がパニックですーーーー!」
「ははは、こんなくたびれた神様はいませんよ」
「それでもモンスターからアイテムを得るなんて、師匠だけの特権です。神に愛された神様ですよ」
「照れ臭いですよ。……でもそう言われると、案外気持ちいいモノですね」
ウサミミをピンと立たせ、抱きついてくるカーラには癒されます。
そして私がしっかりしなくてはいけません。
「カーラ、これは検証する価値がありますよ」
「師匠ならそう言うと思いましたよ。突き詰めるのが好きですものね」
目先のお金も大事ですよ。
でもね、小槌がもたらす副産物がどれ程なのか、見極めねばなりません。
その為に倒すべき火喰い鳥の数は、10や20では足らないでしょう。
百、いや千はサンプルを取りたいです。
ですが確認しながらなので、一日かけて合計89匹しか狩れませんでした。
これではちょっと不十分ですね。
「いやいや、師匠。銀貨890枚ですよ。たったこれだけ?って感覚が狂っていますよ!」
言われてみれば数日前まで、クエスト報酬の銀貨3~4枚(3~4千円)での生活でした。
食べるだけで精一杯。
娯楽など楽しむ余裕はありませんでしたね。
ですが、知識欲には勝てませんよ。
火喰い鳥を89匹倒した結果、五つのポーションが手に入りました。
ドロップ率は約6%。
これが高いか低いかは、他を見るまで分かりません。
とりあえずサンプルデータとして保存ですね。
「疲れましたが成果は大きいですね」
「じゃあ、もしかして今夜も?」
「はいな、思う存分パーッといきましょう!」
意気揚々と宿屋へ帰り、たらふく食べて飲みました。
何か忘れている気もしますが、素晴らしい一日でしたよ。
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