第8話 冒険者ギルドなんて理不尽なものですよ

 次の日、2人で冒険者ギルドへ向かいました。


 その目的は、カーラのギルドカードを作るためです。

 手数料に銀貨10枚がいりますが、今後の通行税の節約になる便利ものなのです。


 チリも積もればなんとやら。手に入れるに越したことはありません。


「街に入る税って銀貨一枚でしたよね。師匠って案外ケチですね」


「これは節約です。同じにされては困ります」


「節約ですか~、じゃあ昨晩の豪勢な食事はなんですか?」


 歩みを止めてしまいました。

 今までの極貧生活の反動で、昨晩も大盤振る舞いをしてしまいました。


 いいじゃないですか、私だって人間ですもの。羽目を外したい時もありますよ。


 ですがカーラの鋭い質問への答えは、慎重にしないといけません。

 師匠として、今後の立場に大きく影響してしまいます。


「いいえ、あれは君や私の血となり、肉となり、活力になります。決して無駄遣いではない有意義なものですよ」


「エールもですか?」


 す、するどい洞察力です。

 この子は将来すんごい魔法使いになりますよ。


「……さてと。ギルドが見えてきました、行きましょう」


「あっ、にげた」


 急いで中に入っても、カーラの冷たい視線が続いています。


 それを振りほどくため、登録用紙への記入を書かせます。

 それが功を奏したか、さっきのやり取りをもう忘れているはしゃぎっぷりですよ。


 そして窓口に並んでいると、すぐに順番がまわってきました。


「おい、次ーーー!」


「はーい、登録申請をお願いし……ます」


 元気一杯なカーラ。


 ですが職員さんのぶっきらぼうな態度にはばまれてしまいました。

 さすがのカーラも意気消沈、分厚いカベにたじろいでいますね。


 ギルドがいつも重たい雰囲気なのは、このせいなのです。職員さんに笑顔が全くないのです。


 職員さんは用紙を手に取ると、無言で機械を取り出してきました。


 そしてカーラを黙って見つめています。

 これは助け船が要りますね。


「カーラ、機械に手を置いてくださいな。それで診査されますから」


「は、はい」


 初めて来る人が、ギルドのルールなど知るはずもありません。

 しかし職員さんは素知らぬ顔。


 今度は出来上がったカードと冊子を左手にし、右手をグイッと出してきます。

 またですよ。沈黙が流れるまえに教えないと。


「手数料の銀貨10枚と交換ですよ」


 カーラは恐る恐るお金を差し出します。

 まるで噛みつかれるのかと、心配したいるようですね。

 それもあながち間違いではありませんがね。


 それとついでに、2人のパーティー申請もしておきました。

 面倒くさそうにひと睨みをされますが、私は気にしません。


 用件がおわり、あとは森へいくだけです。


「おい、トクマロ・オオイズミ。薬草クエストをまだ受けてないぞ!」


 立ち去ろうとすると、ムンズと手を鷲づかみにされました。

 離してくれそうにないので、説明をしておきます。


「実はこの子の教育があるので、当面は休もうかと思っているのですよ」


「はあ、勝手を言うな。そんなままが通じると思うなよ」


「ですが、自由が基本の冒険者ですよ?」


「バカめ、おめーら底辺に自由はねえ。薬草集めは義務だよ、義務。あんまり聞き分けがないならボコッちまうぞ!」


 向こうは引きそうにない様子です。

 これ以上は時間のむだですね。


「うーん、仕方ありませんねえ」


「ふん、分かりゃあいいだよ。おらよっ!」


 ようやく手を離してもらい外に出ます。

 と、それまで我慢していたカーラが、一気に爆発しました。


「師匠に対して、なんなのあの態度。何様のつもりよ!」


「まあまあ、どこの街でも同じようなものらしいですよ」


「それにしても上司はいったい何をしているのかしら。しっかり教育すべきですよ」


「ははは、教育もなにも、あの人がここのトップの支部長ですよ」


 怒りと呆れで真っ赤になるカーラ。

 それと態度以上に、クエストの件は納得がいかないようです。


「師匠はあれでいいのですか? 私は悔しいです」


「ギルドは冒険者に対して強気ですからねえ。ほら、クエストの受注と報酬のバランスもおかしいでしょ?」


 何が?という驚きの顔。

 どうやら知らないようなので、この際ですから教えておきますか。


「薬草クエストの報酬は、銀貨3枚と銅貨20枚ですが、依頼金額は銀貨20枚なんですよ」


「えっ、それって?」


 ギルドは80%もの手数料を取っていきます。

 かなりの強突張りですよ。


 経費や保険やらの名目ですが、みんな怪しいと噂しています。

 私にクエストを強要したのも、手数料ほしさからです。


「それだと二割しか残らないじゃないですか」


「いえいえ、税金を引かれますから、残るは一割六分ですよ。ホント悲しくなりますよね」


 この事実を伝えられ、ショックで棒立ちになっています。

 誰もが味わういきどおり。

 この子には少し早かったですかね。


 私に出来ることは優しく語りかけるだけです。


「こんなのって……師匠は納得しているのですか?」


「仕方ないですよ。ただ明日はギルドに行かないですがね。行かなきゃクエストを受ける事もありません」


「えっ、それってブッチですか?」


「はいなー」


 冒険者は自由です。

 今日はたまたまギルドカードが欲しくて寄っただけです。


 ギルドに顔を出す義務はありませんからね。

 しかも薬草集めは常時募集していて、納品もいつでも良いのです。


 だから君子危うきに近寄らずですよ。


 カーラは機嫌がよくなり、それを知った時の支部長の顔が見てみたいとニヤケています。


 会わない事が前提なのに、この子は分かっていないですね。


「それよりもカーラ、今日の目的を忘れてはいませんか?」


「えっと、なんでしたっけ?」


「もう、昨日より格上ですがEランクの火喰い鳥の討伐でしょ?」


「ああ、そうでした。一匹だけでしたけど、めっちゃ金額が高かったですものね」


 そうなんです。

 今までのFランクの獲物とは桁違いの、銀貨10枚も出たんです。


 生息地をちょうど知っていますし、行く前から楽しみですよ。

 カーラの力も通じましたし、いっぱいいっぱい稼ぎますよー。


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