第7話 ウサミミを堪能す

 私のチートスキル打出の小槌を、カーラに披露してみました。


 カーラの驚きようったら。

 目玉をまん丸にして、ひょっとこ口やら大口やらとせわしなく動かしています。


 それと連動するウサミミの可愛いこと。ピンと伸びるのも色々とバージョンがありますよ。


 私の時以上に楽しい反応してくれて、見ていて飽きません。


「し、師匠って神様なのですか?」


「いいえ、これは単なるスキルです。使い始めたばかりで検証が必要ですがね」


「で、でもそんな大事な事を、初対面の私になぜ教えたのですか? マジでヤバい案件ですよ」


「えっ、だって君は女将さんの姪っ子でしょ?」


「いやいやいや、そんなの理由にならないですよ。これは世界がひっくり返りますよ!」


「いやいやいや、女将さんを信用しているんですから、私がカーラを信用するのは当たり前ですよ」


 おかしな事をいう子です。

 信用していないなら、始めから受けておりません。


 受けるなら最後まで面倒をみますし、最短でやってあげたいです。


「それでも安易に教えていい事じゃないですよ。師匠の身に危険がおよびます」


「でも、カーラにはお金が必要でしょ?」


「そうですが~」


 半泣きになっているカーラ。

 善かれと思ってしたことなので、この反応には焦ります。


 落ち着かせるため、頭をなでなでしておきまする。


「むほっ、こ、これは気持きんもちいい~~~!」


 意図せずしてウサミミを触れてしまいました。

 少し固さもあり、短い毛の弾力としなやかさに心を奪われます。


 たまに摘まんだりと至福のひとときですな。


「はう~……はっ、いけません。こんな事をしている場合ではありませんでしたね」


 この子の問題は金銭面のみ。

 私のスキルならそれを解決してあげれます。


 狩りはレベリングもできますし、ガンガンいけば一挙両得です。


「師匠」


「は、はい?!」


「師匠を失いたくないですから、この秘密は誰にも絶対に言いません。墓場まで持っていきます」


 焦りました~、てっきりウサミミの事で怒られるのかと。


 素直なよい子で助かりました。


「で、ではカーラ、改めて頑張りましょう」


「はい、師匠」


 このあと金策をかねて、色々と検証することになりました。


 まずは〝他人が狩った獲物でも換金できるのか〞です。


 先ほどカーラがたおしたゴブリンで試します。


 結果は無理でした。


 きっと所有権の問題なのでしょう。

 元よりハイエナ戦法をするつもりはありませんが、心のつっかえがとれました。


 それよりも次のほうがもっと重大です。

 今後の活動方針にも関わってきます。


「ふむ、ではカーラ。パーティー申請しましたので受けて下さいな」


「はい、組めました」


 ステータス画面を開きパーティーに誘うと、すぐさまオッケーが返ってきました。


 と、ここまでは良いです。

 あとは同パーティー内で、ちゃんと換金できるのかです。


 私が倒した獲物のみが有効では、手間が倍増しますからね。


 緊張しますとも。

 カーラもきちんと理解しているようで、芋虫キャタピラーをみつけ討ち取り、準備を済ませてくれます。


「ではいきますよ。小槌よ、その力を見せておくれ!」


「ドキドキですね」


 待たずしてブワンと光りだし、きちんと銀貨2枚を入手できました。


「おおおお、成功ですぞおおお!」


「はい師匠、私もうれしいです」


 このあと色々と試してよく分かりましたよ。

 横取り厳禁。

 自ら動け。

 ただし譲渡された獲物はよしとする。

 それと討ったあとだいぶ時間が経とうとも、所有権は消えません。


 もう知れば知るほど楽しくて、時がたつのも忘れてしまいます。


「そこですーーー!」


「師匠、かっこいいーーー。あっ、待ってくださいよーー」


「ふはははは、早くしないと置いていきますよー」


 獲物をもとめ、奥へ奥へと進んでいきます。

 楽しくてしょうがありません。

 討てば貯まる銀貨と経験値です。


 2人ですしスピードも上々。

 懐はうるおいまくり、予備の財布もパンパンですよ。


 ただ少し調子にのり過ぎたようで、D級モンスターが出る区域にまで来てしまいました。


 金策にはもってこいですが、さすがにカーラには手に余る相手です。

 F級だけでとどめるべきですね。


 それに木々が邪魔して、日が頂点に来るのに気づきませんでした。

 夜営をするつもりはありませんので、ここらで引き返しますか。


「戦果は十分です、そろそろ帰りましょう」


「師匠のスキルは凄いですね、でも、いったい幾ら稼げたのでしょうかね?」


「では数えてみますか?」


「いいのですか、えへっ」


 道すがら数えながら帰ります。

 なんだか守銭奴になって気分ですね。


 100枚の区切りの度に、これが金貨になるのかとため息がでます。

 ですがチャリンと鈍い音が嬉しいですよ。


「ふむふむ、合わせると銀貨392枚と銅貨450枚。初日にしてはやりましたね」


「ですが、師匠。やはりこの事を他人に知られる訳にいきませんよ」


「おや、嬉しくないのですか?」


「いや、実感が湧かないってのが本当ですね。モンスターがお金って、理解が難しいですよ」


「あははは、それは私も同じです」


 検証しながらとはいえ、半日でこの稼ぎです。

 理解するより、笑って流したほうが楽ですよ。


「師匠ってピュアなんですね。惚れ惚れしちゃいます」


「いえ、只のおじさんです。それよりも今後の話をしましょうか」


「といいますと?」


「ほら魔法学院への入学ですよ。大金が必要なのでしょ?」


「し、師匠~」


 答えるよりも先に、居ずまいを正してきました。

 銀貨をみつめ、目を見開き覚悟をきめたようです。


「入学にはもろもろ金貨300枚は必要です。だから、師匠。……そのお金を私に、私に、貸してもらえませんか?」


「貸すですか?」


 カーラは思いきりましたね。

 金貨300枚といえばひと財産。家が買える金額です。

 いえ、元よりそれを貯める覚悟で村を出たはず。


 私の方が軽く考えていたのかもです。

 ならば私も真摯しんしに答えねばなりません。


「ダメ、ですか?」


「はい、ダメです。絶対に貸しません!」


「ありがとうござ……えっ、ダ、ダメなんですか?」


「はいな。貸すだなんてとんでもない!」


 この答えに、ウサミミがしゅんと小さく畳まれています。

 髪の毛に埋もれるくらいにです。


 この際です、カーラにはキチンと自覚してもらわないといけません。

 いかに自分が大変な道を進もうとしているのかを。


「そ、そうですよね。す、すみません、わたし勘違いしていました……グスン」


「ええ、君は借りるのではなく、きちんと自分の力で稼ぐのです。君が倒したモンスターの換金はしてあげます。つまりそのお金は君のものです。それを手に堂々と魔法学院へお行きなさい。そして誰にも決して気おくれしないこと、いいですね?」


「そ、そういう事なのですね。ううううう、もう師匠たら~~~~~、どこまでかっこ良いんですか!」


 無条件であげるつもりでした。

 ですがカーラの覚悟を無下にはできません。

 これがギリギリのラインですかね。

 私も誠心誠意で向きあいます。


 それに自分の武器も揃えないといけません。


「さあ、明日からもっと忙しくなりますよ。なにせ金貨300枚ですからね」


「はい!」


 前払いのウサミミなでなでをもらいましたし、本気で頑張ってみますかね。

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