第6話 秘密ですよ?
ウサミミ少女と再会しました。
「改めまして、さっきはありがとうございました。わたしカーラっていいます」
「いえいえ、お気になさらずに」
ウサミミのカーラは、宿屋の女将さんの姪っ子ちゃん。
女将さんに似て、かなりの美人さんですね。
子沢山の農家の子で、成人に達したため家を出たらしいのです。
彼女のスキルは属性魔法(A)。
最高のSランクには届かなかったものの、それでもトップクラスの才能です。
村の司祭さまにも認められ、進学を勧められたそうです。
本人もその気になり、夢を叶えるためこの街に出てきたらしいのですよ。
「王都にある魔法学院に入りたいのですが、まずはその為にお金を貯めたいのです」
「それで冒険者を始めようとしているのですね?」
「はい、勉強しながらだと、他に受け入れてくれる所がありませんから」
屈託のない元気な笑顔ですね。
ゆくゆくは王宮つき魔導師になりたいそうです。
明るい将来を信じて疑っていませんね。
私は笑顔のまま、女将さんの方を見ます。
貧しい農村では仕事はなく、長男以外は他で見つけなくてはなりません。
ですが運の良いことにカーラには、魔法があります。選べる道があるのです。
そしてその才能を磨くため、魔法学院で学べば、将来は引く手あまたでしょう。
そのまま学院で研究をつづけたり、王立魔術師団や各貴族でも歓迎されます。
仕事にあぶれる心配は全くありません。
ですが、物事はそう簡単にはいかないのですよ。
だってそれは、学院を卒業すればの話なのです。
最大の関門として、入学する際に莫大なお金が必要なのですよ。
どんなに才能にあふれていても、貧しい者には縁のない場所なのです。
「女将さん、冒険者の内情は知っていますよね。入学金だなんて稼げませんよ?」
カーラから少しはなれ、女将さんに確認します。
「ええ、他の仕事でも似たり寄ったりさ。あんな大金、庶民には手が届かないよ」
想像していたのと違う答えです。
てっきりSランク冒険者に育てほしい、そんな事を言われるのだとばかり思っていました。
先を
「ええ、本来ならもろ手を上げて応援してあげたいよ。だってあの子は天才だもん。でも、ウチらは貧乏だし、そこから抜け出すのは大変さ。夢ばかりみてたら10~20年なんてあっという間だよ。しかも結果的に、無駄な20年になったりしたら目も当てられない。だからね、あの子には酷だけど、着実な他の道を見つけてほしいのさ」
才能をいかす事と、生きていく事とを同時に出来ない時もあります。
ですがそんなのつまんないですよ。
「じゃあ逆に、お金が貯まればいいんですよね?」
「もうマロさんたら、それが出来ないからみんな苦しんでいるんだろ。……ま、まさか出来るのかい?」
「まあまあ、任せてくださいな。おーい、姪っ子ちゃーーーん」
女将さんには笑顔でこたえ、カーラの元に戻ります。
カーラは少し不安そうです。
私が受けるかどうか迷っているのだと心配していますね。
夢があるとはいえ、10代の少女です。
頼れる人がなく、ひとり世間に出るのは厳しいですからね。
ましてや荒くれ者が集まる業界です。
小さな少女が、カモにされるのは目に見えていますよ。
その自分の立ち位置をよく分かっているからこそ、この話が大事だと理解しているみたいですね。
そんなカーラが気に入りました。
「カーラ、君が一人立ちするまでですが、一緒に頑張りましょう。秘策を用意したあるので心配はいりませんよ」
「あっ、あっ、よ、よろしくお願いいたします!」
「では明日は7時に集合です。遅れないようにして下さいね」
「はい!」
部屋に戻るため階段を登っていくと、カーラのはじける声が聞こえてきました。
私の姿が見えなくなるのを待ったのでしょう。
女将さんに何度も礼をいい、すごく張りきっています。
なんとも心地よい騒がしさです。
私も元気をもらいましたし、明日にそなえますか。
◯◯◯
次の朝、カーラは私よりも早く来ていました。見えるウサミミで緊張しているのが分かりますよ。
装備はトンガリ帽子にローブと樫の杖。
一見ジミですが、初心者には似つかわしくない良い装備です。
どれも使いこなされた物で、誰かの贈り物なのでしょう。
「おはようございます、師匠」
「ははは、マロでいいですよ。硬くならないで」
「はい、師匠!」
ほぐれるには時間がかかりそうですね。
まずは荷物の確認です。
「水や食糧に薬など、基本的なものは揃っていますね」
「はい、よく森には入っていましたので、ぬかりはないです」
さすが田舎育ちです。
準備はよいので森へと向うと告げると、カーラはあれれと驚いています。
「あの~、ギルドでクエストを受けなくていいのですか?」
「いい質問ですね。それの答え合わせを現地でしますね」
「おおお、熟練の知恵ですね」
ヴァルハラの北に広がる〝帰らずの森〞。
ここにはF級からB級までのモンスターが巣くっています。
といっても広すぎて、強いモンスターは街のほうにはやって来ません。
私たちが相手をするのは、せいぜいD級までですね。
進んでいくと早速ゴブリンを発見です。
ここまでのカーラの動きもいいですし、一匹だけなので一人で戦ってもらいます。
「い、いきますね。……風の刃よ駆け抜けろ、ウインドカッター」
カーラが呪文をとなえると風の音が弾け、簡単に首をおとしました。
初級魔法とはいえ、なかなかの威力ですよ。
カーラはどうだとニヤケています。
魔力の伝達速度はまだまだですが、放出してからの操作性はバツグンでした。
あとは魔力消費を抑えれば完璧ですね。
本当に才能は高いようで安心しました。
これで心置きなくカーラを助けてあげれます。
「カーラ、今から起こる事を秘密にできますか? もし出来るなら、君の夢を手助けしてあげますよ」
「えっ、秘密ですか?」
私の神妙な態度にピクリとなっていますね。
そして無言でうなずいてきます。
私も了解したと返します。
ゴブリンをもう一匹みつけ、素早く討ち取りました。
「すごっ、速すぎて目で追えませんよ」
でも単なる袈裟斬りですので、カーラは『今のが秘密?』といった面持ちです。
「いえいえ、ここからです。そこで見ていて下さいな」
右手に意識を集中させ、打出の小槌を取り出します。
「き、きれい」
金や朱色などで彩られた小槌。
形もこの世界にないもので、カーラには何か宝物に映っているようです。
私は小鎚をゆったりとゴブリンに一振します。
「小槌よ、小槌。お前の力を見せておくれ!」
ゴブリンは光となり、カーラは眩しそうですが、見逃すものかと凝視しています。
そして光は集約して落下します。
「えっ、えっ、え!」
それを覗きこみ、落ちた銀貨に驚いています。
そのままカーラは、かたまってしまいました。
「これが私の秘密です。これで自分の将来がみえましたか?」
口をパクパクとさせ、私と銀貨を交互に見ています。
かなり信じられないようですな。
ウサミミがぺたりと垂れ下がっていて、警戒心を隠せていませんよ。
何か言いたげのようですし、おさまるまで時間がかかりそう。
ゆっくりと回復を待ちますか。
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