第3話 バカな貴族の相手は疲れます

 お昼もだいぶ過ぎた時間帯、無事に街の門へとたどり着きました。


 ここでいつも検閲の列に並びます。

 市民かよそ者かの選別ですね。


 よそ者や商人は入街税として、銀貨1枚が必要です。

 対して私たち冒険者は、ギルドカードを見せるだけで通れます。


 賄賂の要求や、変ないざこざは起きません。


 と言うのも、ただでさえ身元が怪しい冒険者です。

 銀貨が払えなく、城外にスラムでも作り出したら最悪です。


 だから管理をするため、あえて無料にしているのだそうです。


「今日は人が多いですねぇ」


 だいぶ時間が掛かりそうなので、並びながらちょっと今後の計画をたてますか。


 まずはDランク黒鉄製の武器を手にいれたいですね。

 それだと相場は金貨80枚以上。日本円にしたら800万円オーバー。


 今日の稼ぎがつづくなら、決して遠い金額ではありません。

 日々の経費がありますし、無理せず貯めていきしょう。

 まあそれでも2~3ヵ月で手が届きますか。


 そう考えると興奮してきましたよ。


 夢にまでみた武器が、現実に自分のものになるのですよ。

 それにより更に高みに登れ、一気に見える世界が変わるかもです。


 ですがCランクより先は未経験。

 稼ぐ金額さえも分かりません。

 ふふふ、3ヵ月後の楽しみですね。


 気づくと列はずいぶんと進み、あと数人で番がまわってきそうです。


 ですがスムーズにはいかなさそう。

 前の方でなにやら揉めている様子ですね。


 トンガリ帽子をかぶった女の子が、大人相手に注意をしています。


「ちょっとあなた達、割り込みはヤメなさいよ!」


「はあ、もしかして俺に並べと言っているのか?」


「当たり前でしょ。社会にはルールってものがあるの。みんなきちんと守っているのよ!」


「アホらしい。だったらお前が後ろへ行け。それでバランスがとれるだろ」


 会話の内容は幼稚ですが、言い合っている構図が良くありません。


 先に並んでいた女の子に対して、ズルする大人は4人です。


 たった一人の少女を屈強な男たちがとり囲む。周りの人も眉をひそめています。


 でも女の子の方は肝がすわっていて、ゆずらないわよと頑張っています。


「子供も見ているでしょ。ほら、並びなおしなさいよ」


「うるさいコバエだな。邪魔だわーーーーー!」


「キャッ!」


 男は突如キレて、女の子を投げ飛ばしました。

 手加減をしているようには見えません。

 女の子は城壁へとぶつかりそうです。


「こ、これは!」


 脱げた帽子の下から、なんと白いウサミミがコンニチハをしているではありませんか。


 一大事でごさいます。ダッシュです。


「おっとっと、だ、大丈夫ですか?」


「えっ、何。この人かっこいい」


「えっ、そ、それは……はぅ」


 間一髪で受けとめましたが、思わぬ反撃をウサミミさんから受けました。


 かっこいいだなんて、生まれて初めて言われましたとも。しかもこんなカワイイ子からですよ。

 こちらでは見かけない黒い髪と瞳のせいでしょうかね。

 ちょっと気取ってしまいます。


 ほうけるウサミミさんをゆっくりとおろし、離れるよう笑顔で伝えます。

 正しい対応かは分かりませんが、これが私の精一杯です。


 それにしても、この大人たちは許せませんね。


 勢いがありましたし、危うく人類の宝珠が傷つくところでしたよ。


「無茶をするものですねぇ」


「おいおい、なにを勝手に助けていやがる!」


「勝手じゃないです。この子が死ぬところでしたよ!」


「はん、そのつもりだ。何も間違ってはおらんぞ?」


 まーーーいけしゃーしゃーと言ってくれますよ。


 でも乱暴者のこの態度で、私はようやく自分の不注意に気づきました。


 よくよく見ると吠えているのは、高そうな装備をまとった20歳まえの青年です。

 金髪碧眼でソバカスと尖った鼻のせいか、自尊心が高そうに見えますね。


 そして後ろには3人の熟練冒険者がいます。

 なのに青年をリーダーとして扱っているのですよ。


 これはどう考えても、何処かの坊っちゃんとその護衛でしかありません。


 しかも怒っているのはその坊っちゃん。完全にタゲが私に向いています。

 これはトラブルの予感しかしませんが、ウサミミちゃんの為ですから仕方ありませんね。


「坊っちゃん、俺らがヤリましょうか?」


「余計な口を出すな。俺はフレイム伯爵家の嫡男だぞ。馬鹿な平民をしつけるのが仕事。お前らはそこで見ていろ!」


「はっ!」


 あっ、貴族でしたか、余計についていませんね。


 その坊っちゃんは私の事を、上から下へと舐めるように見てきます。

 そして最後に鼻で笑われました。


「ふん、貧乏人めが!」


「うっ」


 辛辣しんらつなひとことに何も返せません。

 そして侮蔑ぶべつの言葉が続きます。


「平民としても、冒険者としても底辺だな。それでよく俺の前に出てこれたものだ」


 ハンカチを鼻にあてるだなんて、私は汚物ですか。


「まあいい、本来ならボコって終わりだが、あいにく時間がない。謝罪だけで許してやろう。ありがたく地面に額をこすりつけろ」


 左足を前に出し、つま先を動かしています。

 靴に接吻キッスをご所望しょもうのようです。


 実感する機会が多いですが、この世界では貴族の力は絶大です。


 何でも好きなようにできるのです。

 徳で民を治めようが、圧政で全てを吸い上げようが勝手です。


 将来どうなるかは別にして、上に立つのは彼らなのですから。


「あの~、本当に並ばないのですか?」


 念のため確認をしておきます。


「なんと愚鈍な。仕方ない、無知なお前でも分かるよう説明してやろう。そもそもお前らと私とでは、時間の価値が違うのだ。私にはやることが山ほどあり、かつ重要。飯のことしか考えていないお前とは違うのだ。だから、優先されるのは俺。これがこの世のルールなのだ!」


「ルールですか?」


 デンとかまえる坊っちゃんです。

 貴族としての重みを漂わせています。


「さあ決断しろ。いやしくいつくばるのか、それともありもしないプライドをかかげ死ぬのかを」


 とりつく島もありません。かなり本気のようですね。

 ただ気になることがありますので、ちょっと聞いてみる事にします。


「あの~、あそこにある貴族専用の入り口を、お使いにはなられないのですか?」


「え、あ、うぐっ……そ、それは」

 

 指さす方向から視線をそらす坊っちゃん。

 顔を真っ赤にしています。


 それは怒っているからではありません。

 恥ずかしいからなのです。


 聞いた甲斐がありました。

 これでなんとか解決出来そうですね。


 

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